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E-BANKERさん
平均点: 6.01点 書評数: 1809件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1409 7点 風の墓碑銘- 乃南アサ 2018/01/03 11:09
2019年。そして平成最後の年となる30年。明けましておめでとうございます。
今年最初の書評ですが、実際に読了したのは昨年末ということで、新年一発目は未読の状態・・・(どうでもいいことですが)。では、今年もよろしくお願いします。

“女刑事 音道貴子シリーズ”の長編。
「凍える牙」以来になる、滝沢刑事との“迷”コンビが復活!
2006年の発表。文庫版で上下分冊の大作。

~貸家だった木造民家の解体現場から白骨死体が発見された。音道貴子は家主の今川篤行から店子の話を聞こうとするが、認知症で要領を得ず収穫のない日々が過ぎていく。そんな矢先、その今川が殺害される・・・。唯一の鍵が消えた。捜査本部が置かれ、刑事たちが召集される。音道の相棒は滝沢保だった! 『凍える牙』の名コンビが再び、謎が謎を呼ぶ難事件に挑む傑作長編ミステリー~

またまた音道貴子である。
葉村晶も好きだが、音道貴子はもっと好きなのだ。
なぜだろう?
健気だからかな?
ついに三十六歳になった貴子。でも寒い冬の日も、暑い夏の日も、靴底をすり減らして歩き回る毎日。
今回は信頼していた先輩にも裏切られ、ついに恋人にまでも・・・
『頑張れ!!』って思うではないか!!

でも、やっぱり女は強いしかなわない。
男ってどこか割り切れないもんだけど、割り切った女ほど強いものはない。
本作でも、並み居る刑事たちを差し置いて、貴子の推理&直感が冴えまくる。
そして、ついに姿を現す鬼畜のような真犯人!
コイツは実にふてぇ野郎だ!!
終章の取調室で、彼女の怒りが爆発する場面こそ、本作の白眉かもしれない。
そして、薄日が差すかのようなラスト・・・
『よかったなぁ・・・』と肩を撫でてやりたいような気分にさせられた。

分かりましたか? 本作の内容?
分からないでしょうねぇ・・・
(本作以来続編が発表されていない! 何とか続編をお願いできないものか! 切に願う)

No.1408 7点 暗い越流- 若竹七海 2017/12/21 23:02
雑誌掲載の三編に書き下ろしの二編を加えて単行本化された短篇集。
2014年発表。
表題作で第66回日本推理作家協会賞短篇部門も受賞。

①「蠅男」=これは葉村晶シリーズで、彼女はまだ三十代という設定。というわけで割とアクティブに活動するわけだが、例によって“予想外の不幸”に遭遇することとなる。しかも「蠅男」である。いやだいやだ! こんな目に遭うなんて自分なら絶対に嫌だ!・・・って思った。
②「暗い越流」=凶悪な死刑囚に届いたファンレターという魅力的な冒頭部から始まる表題作。事件はやがてあらぬ方向へ・・・っていうことになるんだけど、探偵役の「私」の境遇と徐々にシンクロしてきて・・・。作者の旨さが光る一編。
③「幸せの家」=これも読者の引き込み方が旨い。大方のケリがついたあとで更にもうひと捻り・・・っていうのがなかなか。個人的にはこれがベストかも。
④「狂酔」=ある男の独白だけで構成された作品。男が過去に巻き込まれた事件、そして現在進行形の事件。ふたつが徐々にシンクロしてきて・・・ラストに突如訪れる衝撃!
⑤「道楽者の金庫」=これも葉村晶シリーズなのだが、①よりも時代は進み、彼女も四十代に突入して・・・っていう設定。四十歳を超えても相変わらず不幸に遭遇してしまう彼女。今回の相手は何と「こけし」だ!(新日本プロレスのレスラーじゃないよ!)

以上5編。
葉村晶シリーズはもう安定感たっぷり。安心して楽しめる。
最近、人気に拍車がかかってきた感があるから出版側からの要望も強いかもしれないけど、あまり乱発させないで大事に続けて欲しいシリーズだと思う。

ノンシリーズの作品もなかなか上質。
それほどトリッキーとか斬新なアイデアが盛り込まれているわけではないけど、脂の十分のった作者の腕前が楽しめる作品。
推理作家協会賞の受賞も頷ける。
ということで高評価。

No.1407 5点 絞首台の謎- ジョン・ディクスン・カー 2017/12/21 23:01
「夜歩く」に続いて発表されたアンリ・バンコランを探偵役とするシリーズ二作目。
原題“The Lost Gallows”。1931年発表。
今般、約六十年振りの新訳版で読了。

~怪しげな人々が集うロンドンの会員制クラブを訪れたパリの予審判事アンリ・バンコラン。そこに届く不気味な絞首台の模型に端を発して霧深い街でつぎつぎと怪事件が起こる。死者を運転席に乗せて疾駆するリムジン、実在した絞首刑吏を名乗る人物からの殺人予告、そして地図にない幻の<破滅街(ルイネーション)>・・・横溢する怪奇趣味と鮮烈な幕切れが忘れがたい余韻を残す、カー初期の長編推理~

「夜歩く」の書評でも書いた気がするけど、初期のアンリ・バンコランシリーズは、どうしても「習作」っていう感覚が拭えない。
四作目の「蝋人形館の謎」辺りまでくると、だいぶ“こなれてきた”印象になるんだけど、本作はどうにもプロットの未整理が目について、読みにくいこと甚だしい。
途中までは、一体どういう事件が起きて、事件の背景はどうなっていて、容疑者(として考えられるのは)どんな奴で、っていう基本的な事項がなかなか頭に入ってこない。
(新訳版でこれだから、旧約版では更に・・・って感じだったんだろうね)

もちろん紹介文のとおり、「喉をかき切られた死者が運転する自動車」や「無人の部屋に突然出現する置物」など、カーお得意のオカルト&不可能趣味は登場するし、バンコランの造形も相まって、独特の作品世界を醸し出しているところは他の方も触れているとおり。
フーダニットはさすがにカーっていう感じで、まずまずのサプライズ感を味わうこともできる。
などと書いてると、それなりのレベルなんじゃないって思われそうだけど・・・

やっぱり・・・高い評価はできないなぁー
トリックにしても腰砕けっていうか、「そんなこと!」っていうツッコミが入りそうなもんだしね。
こういう雰囲気が好きな人向け、っていうだけの作品ということかな。
ちょっと辛口かもしれんが・・・

No.1406 6点 少女Aの殺人- 今邑彩 2017/12/21 22:59
1995年発表の長編。
作者あとがきを読んでいると、文庫化に当たってノベルズ版から大幅に手を加えたとのことだが・・・

~『養父に身体を触られるのが、嫌でイヤでたまりません。このままでは自殺するか、養父を殺してしまうかも・・・』。深夜放送の人気DJのもとに届いたのは、「F女学院の少女A」という女子高生からのショッキングな手紙だった。家庭環境から当てはまる生徒三名の養父は、物理教師、開業医、そして刑事。直後、そのうちのひとりが自宅で刺殺され・・・~

この作者の作品って、やっぱり平均値高いよなぁー
って思った。
よくできていると思う。
何て言えばいいのか、読者を作品世界に引き摺り込む術に長けているのだ。
“養父と娘の二人暮らし”っていう特殊環境の生徒が偶然にも同じ高校に三人もいて、しかも三人の養父が徐々に繋がってきて・・・
そこに人気DJと高校教師が絡まってきて・・・
って感じで、読者はついつい頁をめくらされてしまう。
探偵役となる中年刑事のキャラも程よく、真犯人も程よく魅力的。
実にまとまってると思う。

確かに「分かりやすい」「察しやすい」という批判は首肯できる。
「少女A」=(イコール)『あの人』だろう、と多くの方は終盤前には気付いてしまうかもしれない。
それがバレると、ドミノ倒しのように事件の構図が読めてしまう。
確かに・・・

やっぱり私が単純なのだろうか?
「多分こうなんだろうなぁー」って思いながらも、興味は減じることなく読了してしまった。
これはもう作者とのフィーリングの良さっていうことかな。
(返す返すも作者の死去が惜しまれる)

No.1405 4点 風の証言- 鮎川哲也 2017/12/11 22:47
鬼貫警部/丹那刑事。安定感抜群のコンビが登場するシリーズ長編。
長編とはいっても、もともとは「城と塔」という中編を引き伸ばしたもの(とのこと。もちろん悪い意味ではなく)。
1971年発表。

~井之頭公園に隣接する植物園で音響メーカーの技師とバレエダンサーが死体となって見つかった。技師が同僚に「うちの研究がライバル会社に盗まれた件だが、スパイの正体をこの目で見届けたよ」と告げていたことから、疑惑を糾す矢先に消されたと判明。当局は色めき立つ。しかし最有力容疑者である男は、堅牢なアリバイを楯に犯行を否認。調べれば調べるほど膠着状態に陥る難局に挑む丹那刑事は、ある日歯科医院で思いがけない大発見をするのだが・・・~

1971年というと後期の作品ということかな。
個人的には作者も、鬼貫警部シリーズも大好きなんだけど、本作はどうにも評価できない。
作家としての峠を越えてしまったせいかのか、マンネリなのか、中編を引き伸ばしたせいなのか、そこのところはよく分からないけど、傑作をつぎつぎと送り出していた全盛期と比べるべくもない・・・っていう感じだ。

鬼貫警部シリーズというともちろん「アリバイトリック」なのだが、本作は「時刻表」はいっさい登場せず、二つの「写真」に関するトリックがメインテーマとなる。
ただ、これがどうにもピンとこないのだ。
他の作品でも写真がアリバイトリックに使われたケースがあったけど、これでは鬼貫警部の存在価値が半減すると思うのは私だけだろうか・・・
作品としてのランクが一枚も二枚も下のように感じてしまう。
あと「双子トリック」・・・これもちょっと酷くて、トリックとは呼べないレベル。
唯一、タイトルの意味が浮かび上がる終章だけが作者のセンスを味わうことができた。(なるほど、だからこのタイトルね)

ということで、否定的なコメントばかりとなった本作。
でもまぁ正直なところ、本シリーズ中では今のところ最低ランクの作品だと思う。
もちろん、他に面白い作品が多数あるからということではあるけど・・・
(結局、最初のオメガ電機のくだりは何だったのか??)

No.1404 5点 ロウフィールド館の惨劇- ルース・レンデル 2017/12/11 22:46
1977年発表の長編。
「館」と名はつくものの、いわゆる日本の「館もの」とは一線を画すようで・・・

~ユーニス・バーチマンがカヴァディル一家四人を惨殺したのは、確かに彼女が文字が読めなかったからである。ユーニスは有能な召使だった。家事を万端完璧にこなし、広壮なロウフィールド館をチリひとつなく磨き上げた。ただ、何事にも彼女は無感動だったが・・・。その沈黙の裏でユーニスは死ぬほど怯えていたのだ。自分の秘密が暴露されることを。一家の善意がついにその秘密を暴いたとき、すべての歯車が惨劇に向けて回転を始めた・・・~

ということで、本作は本格ミステリーではなく、サスペンスに分類される作品。
で、何といってもユーニス・バーチマンである。
コイツがなかなかのキャラクターなのだ。
そしてもうひとりの悪女ジョーン・スミス。こいつも結構ヒドイ。
悪女ふたりが奇跡的に出会い、融合してしまう刹那。こんな恐ろしい結末が待っていようとは・・・

他の方も触れているように、冒頭の一文。
それだけで、読者を作中世界に引き込むことに成功した作者の作戦勝ちだろう。
読者はユーニスの発言や行動を知るごとに、彼女に薄ら寒い感情を抱き始める・・・
もちろん「文盲」に対する劣等感あってこそなんだけど、それ以上にあらゆる物事に感情を示さないことへの恐怖。
ロウフィールド家の人々も徐々に彼女の冷え切った心の中に気付き始めるんだけど、時すでに遅し、ってことになる。

評価としてはどうかなぁ・・・
個人的にあまり好みのタイプとは言えなかったなぁ。
結末に向けて徐々に盛り上がってくるサスペンス感は確かにあったんだけど、今ひとつ興に乗らなかったというか、角度が若干ズレてるっていうのか・・・
理由はよく分かりません。

No.1403 3点 屋上の名探偵- 市川哲也 2017/12/11 22:44
~東京から来た黒縁メガネにおさげ髪の転校生、蜜柑花子という変わった名前のおとなしめの少女。普段は無口な彼女だが、鮮やかな推理で瞬く間に事件の犯人の名前を挙げる・・・~
というわけで、「名探偵の証明」シリーズの外伝的位置付けの連作短篇集(とのこと)。

①「みずぎロジック」=愛する「姉」のスクール水着が消えた!という重大な事件が発生。現場に残された学校シューズと掃除用具が入ったロッカーという物証をもとに花子の推理が冴える。
②「人体パニッシュ」=喫煙していた生徒を捕まえようとする教師。追い詰めたと思いきや、くだんの生徒は煙のように消えていた・・・。ということで大げさにいえば「人間消失」の謎に挑む第二編。ただ・・・このトリックはかなりショボイ。
③「卒業間際のセンチメンタル」=分刻みのアリバイがテーマとなる第三編なのだが、花子の推理はとてもではないが「鮮やか」とは言い難い。
④「ダイイングみたいなメッセージのパズル」=タイトルどおり“ダイイングメッセージ”がテーマとなる最終譚(死んではないんだけどね)。途中、ダイイングメッセージの分類を試みるなど(先例があるのかな?)、本作中では最もミステリー色の強い作品。ただ、中身のレベルは??

以上4編。
「なんで、こんなの手に取ったんだろ??」って思わざるを得なかった。
どうにもこうにも褒めるべきところがなかったというのが偽らざる感想。
ロジックとかトリックもそうなんだけど、まずは「読み物」として失格ではないかと思う。
途中、飛ばし読みした箇所多数。
それでも大筋理解できたということで、本作のレベルが分かろうというものかな。

本作はシリーズ外伝というべき作品みたいなんで、もしかしたら長編はまともなのかもしれないけど(鮎川哲也賞だしね)、うーん。
読まないだろうね。
キャラクターも結構ヒドイと思う(かなりイタイ)。

No.1402 6点 悪魔の報酬- エラリイ・クイーン 2017/11/29 21:11
「ハートの4」「悪の起源」へと続く“ハリウッド・シリーズ”の一作目に当たる本作。
1938年の発表。
原題“The Devil to Pay”(創元版では「悪魔の報復」だが、「報酬」の方が正しいように思える・・・)

~倒産した発電会社の社長ソリー・スペイスがハリウッドの別荘で殺された。彼は倒産にも関わらず狡猾な手段で私腹を肥やし、欺かれた共同経営者や一般投資家から恨みをかっていた。そして、正義感の強い彼の息子もまた父を憎んでいた。警察は直ちに共同経営者を逮捕したが、E.クイーンにはこの事件がそれほど単純でないことを見抜いたのだ・・・~

これって、年代順でいえば「日本樫鳥の謎」の次に発表された作品なんだね。
何となくかなり後期の作品かなぁっていう感覚だったんだけど、国名シリーズのすぐ後に書かれたというのが意外だった。
(ファンの方にとっては当たり前のことでしょうが)
それはともかく、前評判の低さよりは「まずまず楽しめる」レベルのように感じたのだが・・・

確かに作品全体に“浮ついた感”みたいなものが漂ってる。
これはハリウッドの成せる技なのか、はたまた作風の転換を図っていたためなのか・・・
主役級の男女ふたりのやり取りがどうにも“イタい”印象はあって、これに馴染めないという方も多いのだろう。
これを最後の最後まで引っ張る当たり、小説家としての(ミステリー作家としてではなく)クイーンの才能にやや疑問符すら感じてしまう。

ただ、終章でみせるエラリーの真相解明場面は一定のキレっていうか、「あぁやっぱりクイーンだね」という満足感は覚えさせてもらった。
物証なんかは後出しというか、読者が推理できるほどの伏線になっていないようには思えるんだけど、冷静に考えれば真犯人には行き着くよう配慮がなされている。
第三者が“余計な手出しをする”というプロットもマズマズ機能しているのではないか?
ということで、そこそこor水準級の評価はしたい。
でも、他の佳作と比べちゃうと、どうしてもねぇ・・・っていう感じにはなる。
(エラリーの変装は絶対気付くと思うんだけど・・・)

No.1401 6点 眼球堂の殺人~The Book~- 周木律 2017/11/29 21:10
2013年発表。
第47回のメフィスト賞受賞作であり、当然ながら作者のデビュー作。(もう40回以上も続いているということが驚き!)
その後に続く「~堂シリーズ」の第一作目でもある。

~神の書、“The Book”を探し求める者、放浪の数学者・十和田只人が記者の陸奥藍子と訪れたのは、狂気の天才建築学者・驫木煬(とどろきよう)の巨大にして奇怪な邸宅・「眼球堂」だった。ふたりと共に招かれた各界の天才たちをつぎつぎと事件と謎が見舞う。密室、館。メフィスト賞受賞作にして「堂」シリーズ第一作となった傑作ミステリー~

序盤に挿入された「眼球堂」の平面図&立面図。
これを見ただけで、本格ファンならば大凡のトリックに気付くのではないか?
斯く言う私はどうか?
ここでは気付かなかったが、さすがに中盤に差し掛かる頃には気付いた!
気付いて以降、なぜ“天才数学者”と称される探偵役・十和田がこのトリックに気付かないのか、それにイライラさせられた。

どうみても、島田荘司や綾辻、はたまた森博嗣の影響を存分に受けた二番煎じ・・・って誰かにこき下ろされる・・・
って思ってた矢先。
この作品はエピローグ以降が肝だったんだね。
これもまぁ想定内っていう手練の読者も恐らくいるのだろうが、ここまでアイデアを盛り込んできたことは素直に評価したい。
さすがにメフィスト賞受賞は伊達ではないということかな。

どうしても好き嫌いがはっきり分かれそうな作品なのは間違いなし。
リアリテイの欠片もない(?)トリックを“バカミス“と捉える方もいるだろうし、無機質でハリボテのような登場人物に後ろを向く方もいるだろう。
要はメフィスト賞作品が好きかどうか。嫌いと言うなら本作は手を出さない方がいいのでは・・・
私はというと・・・続編も読むと思います。

No.1400 5点 御手洗潔の追憶- 島田荘司 2017/11/29 21:09
~「ちょっとヘルシンキへ行くので留守を頼む・・・」。そんな置き手紙を残し、御手洗潔は日本を去った。石岡和巳を横浜に残して。その後、彼は何を考え、どこで暮らし、どんな事件に遭遇していたのか。活躍の場を世界へと広げた御手洗の足跡をたどり、追憶の中の名探偵に触れる番外作品集~
2016年発表。

①「御手洗潔、その時代の幻」=LA在住の“あの方”が何と御手洗にインタビュー。
②「天使の名前」=この作品こそ本作の白眉。御手洗の父親が戦前・戦中に遭遇した数奇な運命。そして御手洗の出生の秘密とは? というわけで、そこまで神秘的にしなくても、っていう気はした。
③「石岡先生の執筆メモから」=犬吠里美がけっこうウザイ。
④「石岡氏への手紙」=レオナから石岡への手紙という形態。
⑤「石岡先生、ロング・ロングインタビュー」=永遠の小市民キャラ・石岡和巳へのインタビュー。インタビュアは①と同様、アノ方。
⑥「ジアルヴィ」=??
⑦「ミタライ・カフェ」=北欧の街・ウプサラ市。スウェーデン第四の都市であり、ノーベル賞受賞者を四人も輩出したウプサラ大学が著名な美しい古都・・・。行ってみてぇー

以上7編。
「追憶のカシュガル」と同様、ノン・ミステリーの連作集であり、御手洗潔及び石岡和巳のファンブックである。
よって、ファンでない方はスルーしても全く問題なし。
ファンという方も特段手に取る必要はない。その程度の作品。

ただし、②だけは別。「追憶のカシュガル」でも戦時中が舞台となる作品(「戻り橋と彼岸花」)があったが、今回はスケールアップし、日米開戦を何とか阻止せんとする気鋭の外交官として御手洗の父親が初めて(?)登場することとなる。
既視感のあるプロットではあるけど、やはりそこは島田荘司。行間からは何と言えない圧というか、エネルギーが迸るようだった。
この熱量がある限り、例えどんな批判があろうとも、島田荘司は永遠に不滅だと思う。
(願わくは吉敷竹史も復活させてはくれまいか、と切に願う私・・・)

No.1399 7点 殺人鬼- 浜尾四郎 2017/11/18 10:56
前から読もう読もうとしていた作品。(最近こういう書き方をしているケースが多いような気がする・・・)
ちょうど1,400冊目の書評に当たっていたため、今回本作を手に取ることにした次第。
創元文庫の「浜尾四郎集」収録版にて読了。1931(昭和6)年、名古屋新聞にて連載開始、翌1932年に単行本化された作者畢生の大作。

~ヴァン・ダインの『グリーン家殺人事件』に触発され、製紙王・秋川一家にまつわる連続殺人事件をテーマにして描かれた「殺人鬼」は、戦前日本探偵小説中、随一と言っていい本格物の一大収穫である。また、真の探偵小説は理論的推理による真犯人の暴露でなければならない、との持論を実践した作品でもある~

これは・・・実に重厚、実にクラシカルな一大本格探偵小説だな。
文庫版で500頁超。とにかく作者の探偵小説に対する熱量というか、「熱い想い」をビシバシ感じながらの読書となった。
ただし、「熱い」と言っても、決して冷静さを欠いているわけではない。
本作がヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」の本歌取りを志向した作品なのは著名だけど、「グリーン家」の模倣で終わることなく、その弱点を補い、違う角度から探偵小説を組み上げていこうという実験的&理論的な作品に仕上がっている。
フーダニットについては、中盤には大凡の察しがついてしまったけど、それは21世紀の今の読者目線での話であって、当時の人々にとっては斬新なプロットと写ったに違いない。
探偵役を務める藤枝真太郎についても、多少傲慢さは窺えるものの、ファイロ・ヴァンスの衒学趣味に比べればまぁ可愛いもんだろう。

もちろん難癖を付ける気になれば、枚挙に暇はない。
例えばアリバイに関する考察。
これは一応の注意を払われているものの、綱渡りのような動きが何回も成功していること自体、精緻なトリックとは言い難い。
あと、「なぜ真犯人は、容疑者が絞り込まれやすいCC設定に持ち込んだのか?」という根本的な疑問。
作者は、殺人に至る背景と“ある偶然のタイミング”をその解答として用意しているわけだが、読者としてはどうにも釈然としない。
などなど・・・
でもまぁそれは詮無き粗探しだろう。
戦前の日本でも、こんな正調で格式高い探偵小説が書かれていたことに対しては素直に敬意を払うべきではないか?
最近「鉄鎖殺人事件」も文庫で復刊されたらしいので、機会があれば手に取る(かもね)。
(とにかく謎解きパートのボリュームがすごい! 萎えるほど・・・)

No.1398 6点 アイネクライネナハトムジーク- 伊坂幸太郎 2017/11/18 10:54
~情けなくも愛おしい登場人物たちが仕掛ける、不器用な駆け引きの数々。明日がきっと楽しくなる、魔法のような連作短篇集~
ということで、本作もやはり「伊坂らしい」作品に仕上がっております!
2014年の発表。

①「アイネクライネ」=ミュージシャン斉藤和義の依頼がきっかけとなり書かれた第一編であるとともに、本作が生まれるきっかけとなった作品。誰もがうらやむ美女とくっつく男って案外こういう奴が多いのはフィクションの中だけのような気がする。現実はそうはいかない!
②「ライトヘビー」=本作の鍵となる人物~“小野”が登場する第二編。途中でオチは想像がついたんだけど・・・
③「ドクメンタ」=突如最愛の妻に別れを告げられた不幸な男・藤間。お気の毒に・・・。でも通帳をこんなことに使わないで欲しい!
④「ルックスライク」=顔がオヤジにそっくりって、そんなに嫌かなぁ? まっ、確かに嫌だよね。
⑤「メイクアップ」=昔いじめられた相手に今さら遭遇してしまう! そんな偶然絶対に嫌だ!
⑥「ナハトムジーク」=すべてがつながる最終譚。時代設定がつぎつぎ入れ替わるので頭の整理がたいへん。

以上6編。
今回は作者には珍しく「恋愛小説」比率の高い作品。
織田一真など、いかにも伊坂っていうキャラクターは登場するけど、殺し屋や泥棒、超能力者などといったトリッキーな方々は出てこない。
それが新鮮でもあり、物足りなくもありといったところ。

前にも書いたような気がするけど、作品の平均値高いよなぁー、伊坂は。
今回は多少毛色が違うとはいえ、やっぱりいつもの伊坂らしさは十分に備えた作品なんだけど、飽きないんだよねぇ・・・
評論家的にその理由を考えるなんてことはしないんだけど、何となく思うのは、“緩さの中の芯”っていうのか、とにかくいつも間にか伊坂ワールドに引き込まれ、あれやこれや接待を受けるうちに何となく契約させられる気弱な人間になったようなっていうのか・・・
多分、次作も手に取らされ、また接待を受けていい気分にさせられるんだろうね
実に床上手な作家ということかな。
(意味不明な書評)

No.1397 5点 赤い右手- ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ 2017/11/18 10:53
1945年発表。
国書刊行会から発表されたものを創元文庫にて先般復刊。今回は当然この復刻版にて読了。

~エリナ・ダリーは縁あって裕福な実業家イニス・セントエーメと婚約し、車を駆ってハネムーンに出発した。ところが希望にあふれた旅路は、死んだ猫を抱えたヒッチハイカーとの遭遇を境に変容を余儀なくされる。幸福の青写真は引き裂かれ、婚約者と車を失ったエリナは命からがら逃げ惑うハメに。彼女を救ったリドル医師は、悪夢の一夜に起こった連続殺人の真相に迫ろうとするが・・・~

よく分からん!
読了後すぐの感想はどうしてもこうなる。(多くの読者がそうじゃないだろうか?)
巻末の訳者あとがきを読んでると、某法月綸太郎氏が『どこまでが作者の計算で、どこからが筆の勢いなのか判然としない、八方破れの語り口が結果的に成功を収めた・・・』と本作を評しているとのこと。
成功を収めたかどうかは別にして、後の部分は「なるほど・・・」である。

他の方も書かれているけど、とにかくフワフワした感覚とでも表現したらいいのだろうか。
確かに終盤ではミステリー的な解決が提示されるし、「そういう意味だったのね」ということも多かったのは事実。
でもなぁーいきなりアイツが実は○○で、アイツも実は××で・・・
などと書かれたら、もはやファンタジーみたいなもので、リアリテイの欠片も感じなくなってしまう。
そういう小説なんだと言われればそれまでなんだけど、これを「本格ミステリー」と呼称するのは何とも違和感がある。
時間軸の行ったり来たりについては、読んでてもはや混乱の極みだったし・・・
(これって、わざとかな)

ということで、どうにもストレスの残る読書となった感のある今回。
こういう作品が好きっていう人もいるんだろうか? いるんだろうなぁー
いわゆる“玄人受け”っていうことなのか? だとすると、素人の私にとってはハードルの高い作品だったのかもしれない。
機会があれば読み返しても・・・いや、読み返さないな、きっと。

No.1396 6点 江神二郎の洞察- 有栖川有栖 2017/11/07 22:23
~英都大学に入学したばかりの1988年4月、すれ違いざまにぶつかって落ちた一冊・・・中井英夫『虚無への供物』。この本と江神部長との出会いが僕、有栖川有栖の英都大学推理小説研究会入部のきっかけだった・・・~
というわけで、“学生アリス”シリーズのエピソード・ゼロ的位置づけの作品集をようやく読了。
2012年の発表。

①「瑠璃荘事件」=何てことないアリバイトリックなんだけど、学生アパートのむさ苦しい様子が行間から漂ってくるようだった・・・
②「ハードロック・ラバーズ・オンリー」=“ラストの一撃が炸裂”って感じの一編で本作1、2の良作。道尾秀介の某短編を思い出した。
③「やけた線路の上の死体」=実質的な作者のデビュー作ということで、実に瑞々しい作品(いい意味でも悪い意味でも)。「くろしお」かぁー・・・、それ聞いた段階でトリックは想像できてしまう自分。
④「桜川のオフィーリア」=「女王国の城」へとつながる作品なのだが、特段どうということはない。
⑤「四分間では短すぎる」=“推理クイズ”としては面白い試み。「点と線」のくだりは「確かにそうだけど、別にここまで書かなくても・・・」という感想。
⑥「開かずの間の怪」=“若書き”感の残る作品。現場の描写がよく呑み込めなかった。
⑦「二十世紀的誘拐」=京都タワーか・・・。そう言えば登ったことないなぁー
⑧「除夜を歩く」=江神部長とアリスの会話が何とも瑞々しい。これを齢五十を超えた作者が書いてるかと思うと、どこか微笑ましい・・・
⑨「蕩尽に関する一考察」=マリアとの出会いが描かれた最終作。「蕩尽」=財産を使い果たすこと・・・って始めて知った! ひとつ勉強になりました。

以上9編。
『大学生に戻りてぇ・・・』っていうのがこれを読んでて最初に浮かんだ感想。
モラトリアムでも無為でもいいから・・・。でもあの自由で気ままだった時代にはもう二度と戻れないんだねぇ・・・

ある意味、EMCの四人ってかなりストイックだよな。
これって、つまり有栖川氏自身がストイックだったってことか・・・
京都の街も何かいいよなぁー。隣の芝が青く見えるだけなのかもしれんけど、アリスたちが羨ましく思えた。
で、本筋の評価は?って、もうどうでもいい感じ。
ファンなら必読の作品だし、ファンでなければ別にスルーしてもいい作品でしょう。
私は・・・とにかく微笑ましい作品という評価です。(意味不明)

No.1395 4点 怪しいスライス- アーロン&シャーロット・エルキンズ 2017/11/07 22:21
“スケルトン探偵シリーズ”で著名なA.エルギンス。
その作者が妻のシャーロットと共作したその名も「プロゴルファー・リーの事件スコア」シリーズ。
記念すべき第一作目が本作。1989年の発表。

~プロ一年目の女子プロゴルファー・リー=オフステッド。あらゆる経費を切り詰める金欠なプロ生活を送る彼女は、出場した試合でスター選手ケイトの撲殺死体に遭遇する。捜査を担当するグレアム=シェルダン警部補がゴルフをまったく知らないとあって、リーも黙って見てはいられない。試合で知り合ったアマチュアゴルファーのペグと真相究明に乗り出すけれど・・・~

最近どうもねぇー、アイアンが全然ダメなんだよね。
以前悩まされたドライバーのスライスはかなり改善できたんだけど、その代わりにアイアンのトップorシャンクが止まらない・・・
アプローチも下手くそだから、そうなるとスコアにならないんだよなぁ・・・
って、自分のゴルフの話はどうでもいい!!
(ついつい自分に重ね合わせて読んでしまうもので・・・)

本作をひとことで言い表すならば、“アメリカ版二時間サスペンス”っていう感じかな。
それも二流どころの俳優陣が出てくるやつ(某テレビ○京でやってるような)。
一応殺人事件が起きて、素人&玄人探偵が捜査して、ラスト前に主人公がピンチに陥って、最後には何となく真犯人が指摘されてThe end!
お手軽なミステリーがいっちょ上がり! ってとこだろう。
エルギンスも簡単だったんじゃないかな?
きっと、豪邸の書斎かどこかで優雅にゴルフ番組でも見て、鼻歌でも歌いながら書いたに違いない!
そんな軽~い作品です。

でも次作以降シリーズ化されたということは、一定のファンがついたということなのかな?
どんな奴が読むんだろう? 女子プロ好きかな?
(確かに最近可愛い女子プロ多いしね。)

No.1394 3点 崇徳院を追いかけて- 鯨統一郎 2017/11/07 22:20
宮田六郎と早乙女静香のコンビを主役とするシリーズ作品。
「邪馬台国はどこですか」「新・世界の七不思議」「新・日本の七不思議」に続く四作目にして初の長編。
2016年の発表。

~星城大学の研究者・早乙女静香はバー<スリーバレー>でライターの宮田六郎と知り合った。歴史談義で角突き合わせるだけの関係だったが、どうしたわけか共に京都を旅する成り行きに。ところが、観光と洒落込む間もなく彼らの知人がつぎつぎと奇禍に遭い、被害者との接点に注目した警察はふたりを追及しはじめる。事件を解明すべく奔走する宮田と静香。歴史上の謎につうじるその真相とは?~

これは・・・駄作だな。
特に盛り上がる箇所もなく、作者が何がやりたかったのか分からないまま終了した感じだ。
本シリーズのファンは結構多そうなんだけど、これは読まなくても全然OKだと思う。

タイトルにもなってる“崇徳院”(崇徳天皇or上皇)が史上最強の怨霊っていうのは有名だし、当然本作はそれに新解釈を加えるのだろうという視点で読み進めてきた。
確かに、最終章では宮田の口から新解釈っぽい説が披露されるんだけど、これが相当眉唾っていうか、上滑りしてる。
新興宗教の設定も既視感たっぷりで食傷気味。

やっぱり、短篇ならともかく、小ネタひとつで長編を引っ張るのは無理だったんだろう。
本シリーズは、短篇しかもアームチェアディテクティブでこそ、
ということで、次作以降続けていただきたい。

宮田と早乙女のラブストーリーもいるかなぁー??
個人的には全然なくていい。(表現も拙すぎるし・・・)

No.1393 6点 オデッサ・ファイル- フレデリック・フォーサイス 2017/10/29 21:39
1972年発表のポリティカル・スリラー長編。
“オデッサ”とは、南シベリアの都市名ではなく、”Organisation Der Ehemaligen SS-Augehorigen”(ドイツ語!)の略。

~“オデッサ”とは、ナチス親衛隊(SS)のメンバーの救済を目的とする秘密組織のことである。ルポライター、ペーター=ミラーをオデッサと結び付けたのは、老ユダヤ人が遺した一冊の日記だった。それによれば、リガの殺人鬼と恐れられたナチ収容所長、ロシュマンは今もドイツ国内に生きているという。日記のある箇所がミラーの注意を惹いた。彼は憑かれたようにロシュマンの追跡を始めた。だが、組織の手は次第にミラーの身辺に及び始めた・・・~

フォーサイス節炸裂!である。
処女長編であり代表作でもある「ジャッカルの日」でもそうだったけど、「追う者」と「追われる者」の追跡劇が今回もプロットの軸に据えられている。
テーマはずばり「ナチス・ドイツ」。若き主人公ミラーは、歴史の闇に潜む謎を追ってドイツ・オーストリアを駆け回ることになる。
ナチスの蛮行についてはいろいろと読んできたので今さら・・・という感がなくもないけど、SS達の犯した殺戮劇が尋常ではないことを改めて知ることとなった。

読者としては、作中、ミラーが命の危険を犯してまでロシュマンを追い続ける理由が謎のままなのが気になる展開になっている。
このWhyについては最終盤に判明するんだけど、ちょっと「いかにも」すぎて、ここまで引っ張るほどじゃないだろ・・・って思ってしまった。
その辺りは捻りがもうひとつという評価になるのかもしれない。
(ノンフィクションじゃなくて、あくまでエンタメだからね・・・)

あとは追跡劇もなぁー
追う側は殺し屋まで登場するんだけど、ちょっとマヌケすぎるんじゃないか?
別段警戒してない主人公なのに、勝手にズッこけてるのは作者のお遊びなのか、狙いなのか・・・
緊張感やサスペンス性が薄れてる感がどうにも目に付いてしまった。
ということで、「ジャッカル-」よりは一枚も二枚も落ちるかなという評価。
面白くないというわけではないんだけどね。

No.1392 6点 群青のタンデム- 長岡弘樹 2017/10/29 21:38
~警察学校での成績が同点一位だった戸柏耕史と陶山史香。彼らは交番勤務に配されてからも手柄争いを続けていた・・・。驚愕のラストを知ったとき、物語の表と裏がひとつになる・・・。
ということで、作者得意の警察小説+連作短篇集という体裁の本作。2014年の発表。

①「声色」=連作の冒頭部となる第一編。紹介文のとおり、耕史と史香は手柄の象徴である「点数」争いを続けていた。そんな中、っ交番に現れる闖入者と意外な真犯人・・・って、いきなりこんな“手”でくるとはねぇー。
②「符丁」=連続ストーカー事件の犯人を追って、デパートの張り込みを連日続ける史香。史香に不審感を抱くデパート警備員に気を取られるうちに、手柄は耕史の手に・・・。
③「伏線」=①でも登場した“闖入者”・・・元警察官で耕史の祖父。痴呆症の祖父の世話に手を焼く耕史と施設の嫌われ者の管理者。そして真相は突然に判明するが、一体なにが「伏線」だったのか?
④「同房」=物語はいきなり時代を重ねて、耕史は四十代の警察学校教師となっていた!(突然?)。その警察学校内で起こる銃弾消失事件が本編のテーマ。もうひとりの主要登場人物“薫”の行動もどこか変。
⑤「投薬」=出世を重ねた史香は、市長の肝いりで市の特命役に就くことに。そして部下の男は何と・・・。そして発生する大きな事件!
⑥「予兆」=物語はさらに時を重ねて・・・。で、ここですげぇ急展開! 一体なんの「予兆」なのか? 
⑦「残心」=いよいよ最終章。耕史と史香は何と六十代。舞台は警察ではなく、なんと託児所って、なぜ? そしてエピローグ・・・サプライズが待っている!

以上7編で構成。
企みに満ちた連作集。触れてきたように、耕史と史香というふたりの主役は、ストーリー展開とともに年を重ねていくところが斬新。(この手の作品ではあまりお目にかかったことがないように思う)
それもこれも、ラストのサプライズのための伏線だったのか・・・

あまり書くとハードルを上げちゃうし、ネタバレにつながるのでこれ以上は触れない。
でもなぁー・・・何か不自然っていうか、理解不能な箇所が多いんだよねぇ。
ノドに引っ掛かるような感覚。これが作者の狙いなら嵌ってることになるのだが・・・

No.1391 6点 母性- 湊かなえ 2017/10/29 21:37
2012年発表のノンシリーズ長編作品。
地上波ドラマ化など、相変わらず作者の作品はもてはやされていますが・・・

~女子高生が自宅の中庭で倒れているのが発見された。母親は言葉を詰まらせる。「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて」。世間は騒ぐ。これは事故か、自殺か。・・・遡ること十一年前の台風の日、彼女たちを包んだ幸福は、突如奪い去られていた。母の手記と娘の回想が交錯し、浮かび上がる真相。これは事故かそれとも・・・。圧倒的に新しい「母と娘」をめぐる物語~

これは・・・“ザ・湊かなえ”とでも呼びたくなる作品。
これまで何度も接してきた気がするのは錯覚だろうか?
それでも最後まで飽きることなく読まされてしまう。これはやはり、作者の「腕」若しくは「計算」ということだろう。

本作は、ある「母」と「娘」そして「母の母(娘にとっては祖母)」の物語。(そして、時々「父」って感じだ)
血の繋がった母娘なのに、すれ違う想い、どこかねじ曲がった家族関係。
それは全てある台風の日の出来事が原因だった・・・
プロットの主軸は「手記」と「回想」というのが、何ともあやふやで読者を不安にさせる。
悲劇に向かって徐々に不穏な空気が生まれ、まとわりついてくる感覚。
ひとりひとりの登場人物が、それぞれどこかに「嫌な」部分を持っていて、それが読者の心に引っ掛かり、何とも言えないざらざらした感覚を与えていく・・・

まぁ旨いですわ。売れるはずです!
ミステリーとしては当然薄味ですけど、これは敢えての薄味っていうか、人間の心をこうでもかっていうくらい抉られると、嫌だ嫌だと思いながらもついつい頁をめくってしまう。
まさに作者の術中にハマってしまう。そんな作品。

他の方も触れているとおり、確かに最終章はいらないというか、ここまでイヤミス風味だったんだから、最後までそれを貫いて欲しかったというのが本音。
激辛なのは分かってるんだけど、敢えて「30倍激辛カレー」を注文したい!みたいな感覚かな・・・

No.1390 7点 狂人の部屋- ポール・アルテ 2017/10/18 22:41
1990年に発表された作者五番目の作品。
アラン・ツイスト博士シリーズとしては、「カーテンの陰の死」に続く四作目ということになる。
今回も、“フランスのディクスン・カー”に相応しい本格ミステリーなのかどうか?

~ハットン荘のその部屋には忌まわしい過去があった。百年ほど前、部屋に引きこもっていた文学青年が怪死したのだ。死因はまったくの不明。奇怪なことに部屋の絨毯は水でぐっしょりと濡れていた・・・。以来、あかずの間となっていた部屋を現在の当主ハリスが開いた途端に怪事が屋敷に襲いかかった。ハリスが不可解な状況の下で部屋の窓から墜落死し、その直後に部屋の中を見た彼の妻が卒倒したのだ。しかも、部屋の絨毯は百年前と同じように濡れていた。果たして部屋で何が起きたのか?~

シリーズ四作目にして、ミステリーとしてのアイデアは最上位に評価できる作品に思えた。
(前作が酷かったということもあるが・・・)
作品全体にオカルト趣味を漂わせながら、その殆どを合理的に解決することには一応成功している。
(「全て」ではなく「殆ど」というところがミソ。過去の怪事件のことは結局置き去りのままだしね)
中盤までのモヤモヤした展開を、力技とはいえ最終段階でスパッと解決させた手腕は評価できるだろう。

最も感心したのは、作中でも一、二の謎として取り上げられている「予言」について。
単に作品世界を盛り上げる小道具としてではなく、トリックの軸としてうまい具合に処理されている。
本家カーの作品でもオカルティックな小道具は頻出するけど、ここまで有機的に使われている例は浮かんでこなかった。
後は、紹介文でも触れられている「ぐっしょり濡れた・・・」謎。
言われてみれば「そんなこと!」なのだが、伏線としてはあからさまなだけに、逆に効果的な演出だろうと思う。

瑕疵はまぁいろいろあるんだけど・・・
動機の是非は許すとして(ある意味禁忌だよね)、墜落死の場面の無理矢理感はかなり酷い。
アリバイに関しては読者には推理不可能なレベルだし、○体をそこまで簡単に○○できんだろう!
などなど、指摘すれば枚挙にいとまはない。
(ツイスト博士もラストで「(あまりの)偶然の連続」を嘆いてますから・・・)

でも、楽しめたかどうかということなら、「結構楽しめた」ということに落ち着く。
本格好きなら手にとって損はないんじゃないかな?

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