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メルカトルさん
平均点: 6.02点 書評数: 1759件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.239 6点 タイムカプセル- 折原一 2012/11/03 21:51
栗橋北中3年A組の有志で卒業式の日に埋められたタイムカプセル。
その中には誰も会ったことのない不登校の不破勇の小説も入れられた。
そして10年後、謎の郵便配達人から「選ばれ死君たち」宛の不気味な案内状がメンバー達に次々に届く。
そこから様々な出来事を経てついにタイムカプセルが開かれるのだが・・・。
タイムカプセルが開かれるシーンは例によって袋とじになっており、興奮を盛り上げるのに一役買っているが、これはあってもなくてもどちらでも良かったような気がする。
全体的にスピード感は感じられないものの、サスペンスはそこそこ効いており、最後まで飽きることなく読めるように工夫されている。
メイン・トリックは手垢塗れのものだが、まんまと騙された。このトリックは注意深く読んでいれば、比較的簡単に見破れると思う。
ジュブナイルだが、大人の読者でも普通に楽しめる作品ではないだろうか。

No.238 7点 - 麻耶雄嵩 2012/10/29 21:33
再読です。
みなさんの書評を拝読して、自分はこの小説の表層しか読み取れていないのではないかという危惧を感じた。
淡々と物語が進行していく中、結構なペースで殺人が発生したり過去の事件が絡んでくるが、それに相応しい緊迫感が全くないのはどうにも。
しかし、忘れた頃に登場するメルカトルがやけに格好良い。
本当に久しぶりに読んだわけだが、真相を含めて全く憶えていなかった自分が情けなかったりもしたが、新作を読んだかのような感覚はなんだか得した気分にもなったりして。
トリックに関しては新味はないかもしれないが、演出が上手いので、思わず唸らされる。
とにかく、まったりとしたストーリーと裏腹に、真相が暴かれるシーンはいきなり緊迫の度合いを高め、再読して本当によかったと思わせてくれ、大きな収穫であった。

No.237 7点 こどもの一生- 中島らも 2012/10/22 21:37
11月にパルコ劇場他で舞台公演されるということで、9年ぶりくらいに再読。
やはり面白い、これはB級ホラーの傑作である。
瀬戸内海の孤島に集められた5人の男女。年齢も性別もバラバラの彼らは精神科の治療を受けるため、はるばるこの地を訪れたのである。
彼らは催眠療法と薬剤により、10歳の子供に精神年齢が退化していく。子供になった彼らは無邪気に振舞いながら、様々な出来事や事件に遭遇していき、そしてついに・・・。
といったストーリーで、前半から中盤にかけてはまったりとした感じで進行していきながらも、笑いのツボは外さない。
しかし後半は一転、サバイバル・ゲームの様相を呈していく。
一気に加速するので、同じ小説とは思えないほどの急展開である。
しかも、かなりエグイシーンもありながら、尚も笑わせる辺りは凄いというか、作者の力量を認めざるを得ない。
意外と知られていないようだが、一読の価値ありと言わせていただこう。

No.236 6点 赤いべべ着せよ…- 今邑彩 2012/10/18 21:53
良くも悪くも今邑女史らしい作品。
本格ミステリと言うより、サスペンス色の濃い仕上がりになっている。それにホラーがちょっぴり味付け程度に色をつけている感じ。
全体として悪くはない出来だとは思うが、確かに突出したものが感じられないので、強烈な印象は残らない。
今邑女史は長編より短編集のほうが楽しめるような気がするね。
それと一つ気になったのは、謎が謎のまま残されて置き去りにされているところがある点。
一応本筋に関係しているものなので、ちょっとどうかと思う。

No.235 7点 電氣人閒の虞- 詠坂雄二 2012/10/12 23:00
これは問題作だろうね。
かなり好き嫌いがはっきり分かれるタイプの作品だし、最終章では賛否両論を呼びそうな気が大いにする。
個人的には評価の通り、全然アリだと思う、逆にこの衝撃がなければ単なる凡作に終わった可能性が高いだろう。
読み終えた後もしばらく呆然として、何も手に付かなかった。それほどラストの破壊力は凄まじいものがあるということ。
しかし、読後、本書を壁に叩きつけたくなる人の気持ちも分からないでもない。
だが、これもミステリのカタチのひとつだと解釈することはできないだろうか。
生真面目な読者ほど腹が立つのかもしれないが、ここはひとつ唖然とさせられる流れに身をまかせて、余韻を味わおうではないか。
それにしてもこのタイトル・・・虞か、なるほどねえ。

No.234 5点 萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こよみ- 吉永南央 2012/10/07 22:35
この作品は果たしてミステリと呼べるのだろうか、私の感覚では文芸作品のような気がするが。
小粋な下町のお婆ちゃんが安楽椅子探偵よろしく、日常の謎を鮮やかに解き明かす、みたいに思っていたら大いに肩透かしを喰らう。
確かに事件は起こるのだが、このお婆ちゃん探偵は自らの足を使って、まるでハードボイルドの探偵のように多分に危ない橋を渡りながら、最後には解決に導いていく、みたいな感じである。
自らの年齢から来る苦難や、苦労などを的確に描く作者の姿勢は容赦ない。
しかし、だからこそリアルな70歳を超える女性像を確実に捉える事に成功しているのではないだろうか。
文章もしっかりしているし、ミステリとしてよりも文学作品として読めばなかなかの良作なのかもしれない。

No.233 6点 浜村渚の計算ノート- 青柳碧人 2012/10/02 21:33
日本はある事情により、数学を学校教育から排斥した。
その事実を憤りテロリストとして暗躍する天才数学者、そのテロリスト集団に対抗するため、警視庁が招聘したのは中学二年生の天才数学少女だった。
というのが、ストーリーの中軸をなしている。
この少女が特別美少女扱いされている訳ではないが、どことなく憎めない、愛嬌のある性格として描かれているのは好感が持てるし、なかなか細かい点まで描写されていて等身大の中学生らしさを感じさせる。
数学をテーマにしているため、小難しい定理や公式が横溢しているかと思いきや、そんなことはなく、思った以上に読やすい。
0個のりんごを4人で割ると1人分は0個、では4個のりんごを0人で割ると1人何個?
答えは読んでのお楽しみ。

No.232 6点 先生と僕- 坂木司 2012/09/24 21:31
ゆるーい感じの日常の謎系連作短編集。
大学生の僕は秀才の中学生男子から声を掛けられ、彼の家庭教師を形の上だけ引き受けることになる。
つまり大学生の僕はあくまでワトソン役で、先生は中学生の彼、隼人であり、探偵役でもある。
彼ら二人はナイスなコンビネーションで、日常の謎を紆余曲折を経て解いていく。
とは言っても、それほどインパクトのある事件はあまりないので、どの物語もさして印象に残らない。
しかし、第四話だけは私の心に深く刻み込まれている。
どこか切なく、ちょっとほろ苦い、なんとも言えない余韻を残す佳作である。
これがなければ5点だったが、プラス1点とした。

No.231 6点 六つの手掛り- 乾くるみ 2012/09/19 21:41
意外に評価が高いですね、読み手のレベルの高さが偲ばれます。
これは徹底的にロジックに拘った、本格ミステリの短編集である。
しかし、やや小難しく細部にまで神経を行き届かせないと、展開についていくのがやっとで、理解に苦しむ事になるケースも考えられる。
なので、ミステリ本来の楽しさを味わおうとする小説ではないと思う。
真剣に頭を使って読まないと、理解しづらいことは事前に覚悟しておいたほうがいいだろう。

No.230 6点 悪の教典- 貴志祐介 2012/09/11 21:35
前半はなかなか緻密で丁寧に書かれているが、後半がなあー。
別に倫理的にどうこう言うつもりは毛頭ないが、どうにも荒削りな印象が否めない。
蓮実くらいの切れ者なら、別にクラスの生徒全員皆殺しにする必然性は全くなく、自らの手を汚さずとも他に方法はいくらでもあるのではないかと思うのだが。
それとひとつ気になったのが、ある生徒の不可解な行動である。冷静に考えれば、それはないだろうと。
ある意味後半はあの『バトル・ロワイアル』に類似しているが、残念ながら遥かに及ばないと言わざるを得ないね。
それでも全体的には、読みやすく好感は持てる。
しかし、後味がスッキリしないのはマイナス要因であろう。

No.229 6点 蒼林堂古書店へようこそ- 乾くるみ 2012/08/24 21:35
ほのぼのとした雰囲気が実に心地良い、それにさりげない季節感を時折漂わせている点も評価できる。
ただ、ミステリとしてはいかにも弱いところや、解決に強引さが感じられるケースが多々見られるのは少々残念。
それでも私はこの物語が好きだ、それはもう理屈抜きに。
そしてラストのサプライズも好ましい結末と言えよう。
それぞれの登場人物が生き生きと描かれているのも素晴らしく、紅一点のしのぶがまた魅力的である。
後味も良い。

No.228 5点 交渉人・爆弾魔- 五十嵐貴久 2012/08/17 21:17
この手の作品は一気に読んでしまったほうがより楽しめるね。
内容としては所々に見せ場が用意されているが、その他のシーンは平板な印象を受ける。
登場人物も結構多いが、感情移入できるような人物造形がなされていないのは残念であった。
また、タイトルは「交渉人」となっているが、犯人側との交渉シーンは全くないので、期待外れの感は否めない。
前作と比較するとやはり数段落ちると思うのは自分だけではないだろう。

No.227 6点 煙突の上にハイヒール- 小川一水 2012/08/05 21:47
近未来の世界を描いたSF&ファンタジー。
ミステリ度は薄いが、敢えて登録したのは、最終話の衝撃度が強烈だった為。
失恋して半分ヤケ気味になったOLは、少なくない預金を解約してあるものをすべてつぎ込んで購入するが・・・。
ペットの猫が最近太り気味になっているのを気にして、首輪にカメラを埋め込んで猫の動向を探ると、意外なシーンが映っていた・・・。
など、少し変わったシチュエーションが楽しめる、5編の短編から成る作品集である。
だがなんと言っても、特筆すべきは最終話、これだけでも一読の価値があると言っても言い過ぎではないと思う。

No.226 6点 奇談蒐集家- 太田忠司 2012/07/16 21:17
奇談と言うわりには驚くようなものはあまり見当たらない、どちらかというと地味な連作短編集。
どの短編も奇談が語られた直後は、ちょっぴり不可思議な、或いは幻想味を帯びた余韻を残すが、蒐集家の助手?が一刀両断の下にオチを付けていく過程は、現実の味気なさにがっかりさせられるパターンが多い。
ちょっと意外な結末の短編も含まれているが、全体的に「ああ、なるほど」程度にしか感じられないのが少々残念。
でも、まずまず楽しめる。
最終話はもう少しまとまりのある結末が欲しかったかな。

No.225 6点 中途半端な密室- 東川篤哉 2012/07/06 21:49
何だろう、この読み心地の良さは。
どの作品も臨場感があり、脳裏に情景が浮かんでくる辺りは、さすが売れっ子作家だと感心させられる。
突出した短編はこれといって見当たらないものの、どれも及第点をクリアしていると言って良いのではないだろうか。
まだ本格的にデビューする前の作品のわりには、なかなかの完成度の高さを誇っているし、肩の凝らない程よいユーモアも保たれていて、非常に読みやすい。
これは評価されるべき点であろう。
これだけ褒めておいて、この点数は低すぎるかもしれないが、全体的にやや物足りなさを感じるのは否定できないからやむを得まい。

No.224 6点 死なない生徒殺人事件- 野崎まど 2012/07/01 21:43
永遠の命をもった生徒が存在する、という密かな噂がある名門私立藤凰学院(女子高)に新しく赴任した、生物教師の伊藤。
彼は後日、その「死なない生徒」だという女生徒に声を掛けられるが、彼女はその後しばらくして頭部を切断された死体となって発見される。
犯人はいったい誰なのか、なぜ頭部を切断されたのか?
といったストーリー展開で、この事件は連続殺人に発展する。
少しミステリを齧った読者なら、容易に犯人は予想できるはずだし、首を切った理由も想像がつくだろう。
しかし、問題は勿論それだけに留まらない。
つまり、死なないはずの生徒がなぜ殺されたのか、という究極の命題が残されている。
ライトノベルでありながら、新たなミステリの形を提唱しており、“不死”の定義付けという難しいテーマに挑戦する姿勢は立派だと思う。
ただし、最終的な解決は首肯できかねる部分もあり、若干不満が残るが、なかなか面白く読ませてもらったのも事実ではある。

No.223 7点 神様ゲーム- 麻耶雄嵩 2012/06/27 21:31
これは少なくとも子供向けの読み物ではないね。
特に前半の連続野良猫殺害事件は、本件には殆ど関連性がなく、神様である鈴木君の存在を際立たせるために書かれたとしか思えない。
とは言え、これが全く必然性がないとも言い切れないところもある為、一連の流れとして捉えた場合、不自然さは感じさせない。
それにしても、この捻れたラストは一体何なのだろう。
さすがに麻耶雄嵩氏、一筋縄ではいかない。
もう一度最初から読み直しても、私には本当の真相を見抜く自信がない、誰かネタバレ覚悟で私にこの結末の意味を教えていただけないだろうか。

No.222 7点 小説家の作り方- 野崎まど 2012/06/22 22:14
この世で一番面白い小説のアイデアを閃いてしまったので、小説の書き方を教えてほしい、という旨のファンレターをもらった駆け出しの作家、物実。
彼はその後、ファンレターの相手と直接会い、彼女に小説の書き方を初歩からレクチャーする事になる。
ここまで読んで、ちょっぴり恋愛風味で味付けされたファンタジーなのかと思っていたが、突然現れる謎の女性が登場してからとんでもない展開に発展していく。
無論、ミステリ好きには願ってもない展開なのだが・・・
これ以上は、これから本作を読もうとする人の興を削ぐ事になるので書けないが、期待していた以上に面白い。
中盤まではまったりと進行していくが、後半は見違えるようにテンポが良くなり、一気に読み進められる。
いわゆるライト・ノベルだが、正直これはお薦めの一作なのは間違いないだろう。

No.221 6点 星を継ぐもの- ジェイムズ・P・ホーガン 2012/06/17 21:44
あまりの高評価につい読んでみたが、私の弱い頭ではストーリーに付いていくのがやっとで、楽しむ余裕はなかった。
だが、私の苦手な翻訳物ではあるが、読みづらいとは思わなかった。
ただ、専門用語が多すぎて、理解不能な部分が結構あり、本来のめり込めるはずの作中が右から左へ流れるように去っていくのを、ただただ目で追っていくのが精一杯であった。
しかしながら、終盤は俄然面白くなったのは事実であり、最後の種明かしもなるほどと思えたのは、僅かな収穫ではなかったろうか。
それにしても感心するのは、みなさんの鋭い読解力であり、本サイトのレベルの高さだ。
本作を順当に評価しての平均点の高さは、私には納得できるものではないが、現実を受け入れようと努力はしたいと思う。

No.220 6点 ぼくと、ぼくらの夏- 樋口有介 2012/06/07 22:06
ミステリよりも青春小説の色が濃い。
何よりも素晴らしいのは、小粋な台詞回しにある。
高校生が主役なのだが、まるでハードボイルドそのものの雰囲気とセリフ、こうしたミステリもたまにはいいだろう。
ただ、プロット、ストーリーがいかにも平板で、起伏が足りないのはマイナス点だと思う。
せっかくこのタイトルなのだから、もっと夏を感じさせるような、強烈な描写ももう少し欲しかった気がする。
しかし、全体としてはまずまずの作品ではないだろうか。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 他多数
採点傾向
平均点: 6.02点   採点数: 1759件
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