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nukkamさん
平均点: 5.45点 書評数: 2753件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.78 6点 ストリップ・ガールの馬- E・S・ガードナー 2024/01/06 16:23
(ネタバレなしです) 1947年発表のペリイ・メイスンシリーズ第29作で、英語原題は「The Case of the Fan-Dancer's Horse」です。ハヤカワポケットブック版で扇ダンサーがストリッパーであることが補足説明されているので日本語タイトルは間違っていないしストリップ場面もありますが、エログロ演出に関心の低い作者ですのでお色気に期待してはいけません。砂漠地帯をドライブしていたメイスンが交通事故を目撃します。事故車の中から一対の扇と一足のダンス靴を発見したメイスンは拾得物の広告を掲載しますが、扇ダンサーと思われる人物から私の馬ですとの意外な連絡が届くプロットです。同じ名前を使っている2人のダンサーを登場させて謎を深めたり、第10章では時間表を駆使して殺人現場に出入りした容疑者たちの動向をチェックしたりと本格派推理小説として充実した作品です。

No.77 6点 カナリヤの爪- E・S・ガードナー 2023/10/09 21:17
(ネタバレなしです) 1937年発表のペリイ・メイスンシリーズ第11作の本格派推理小説ですが、「餌のついた釣針」(1940年)のハヤカワ文庫版の巻末解説によると「メイスンが永久に退場する作品に書きかえようとしました」と紹介されていてびっくりです。弾十六さんのご講評によると出版社に出版を断られたとあってそれも影響したのかもしれませんね。別の出版社が出版してくれてシリーズ存続になってよかったです。離婚訴訟に発展しそうな相談事にメイスンは関心のない態度を隠しませんが、すぐに殺人事件が起きます。ハヤカワ文庫版で250ページに満たない作品ですが、交通事故を絡めてなかなか複雑で大胆な謎解きを用意しています(現場見取り図がほしかったです)。空さんのご講評で紹介の風変わりなタイムリミットは印象的で、もしもシリーズ最終作になっていたらこの幕切れはもっとロマンティックに締めくくられたかもしれませんね。

No.76 5点 忘れられた殺人- E・S・ガードナー 2023/08/28 23:13
(ネタバレなしです) ガードナーが(理由はわかりませんけど)カールトン・ケンドレイク名義で1935年に発表した本格派推理小説です。ブレード新聞といえば検事ダグラス・セルビイシリーズでセルビイを失脚させんとセルビイの落ち度を探しまくる、敵対的立場のメディアでしたが本書のブレ-ド新聞と同じなんでしょうか?犯罪学者シドニー・C・グリッフが登場するまではブレード新聞の新聞記者が探偵役だし、探偵役がグリッフに交代してからもグリッフをサポートして本書での印象は悪くありません。ちなみにダグラス・セルビイシリーズ第1作の「検事他殺を主張する」は1937年発表です。その間にブレード新聞を敵役に変更する理由が何かあったんでしょうか、気になります。ハヤカワポケットブック版にはちゃんと登場人物リストが載っていますが、第17章である人物がぼやいているように別の名前を名乗る人物が多くて本名は何なのか、誰が誰なのかややこしくなる複雑なプロットです。第20章での犯人判明場面の劇的演出はガードナーとしては珍しいですね(ジョン・ディクスン・カー風です)。事件が解決されてめでたしめでたしのはずなのに説明できないことがあるのが不満なところは犯罪学者らしいですが、主人公としては地味過ぎと考えたのか作者はグリッフ登場作を2度と書きませんでした。

No.75 5点 消えた看護婦- E・S・ガードナー 2023/05/06 00:15
(ネタバレなしです) 1954年発表のペリイ・メイスンシリーズ第43作の本書は本格派推理小説としてはかなりの異色作です。飛行機事故で死んだと思われる男が殺されたらしいという事件に発展するのですがその正体を巡って二転三転、犯人探しだけでなく被害者探しでもあります。しかしこの大胆な真相、自力で謎解きしようとする読者はアンフェアに過ぎる謎解きだと納得できないかもしれません。色々な人たちが逃げたたままで終わる結末のすっきり感のなさも好き嫌いが分かれそうな気がします。

No.74 6点 けむるランプ- E・S・ガードナー 2023/02/22 07:35
(ネタバレなしです) 1943年発表のウィギンズじいさんシリーズ第2作の本格派推理小説です。ハヤカワポケットブック版の裏表紙では最初からウィギンズが登場するかのように粗筋紹介されていますが、序盤は石油採掘権で大儲けを狙って隠密裏に動いている人物を中心にしたドラマが展開され、ウィギンズが登場するのは12章からです。地方検事のフランク・デュリエとその妻でウィギンズの孫娘のミルレッドとの3人でお芝居風に犯行再現する15章の場面がなかなか面白いです。しかし後半になってフランクとウィギンズの関係が思わぬ方向に流れていきユーモアは後退します。緊張感漂う中でウィギンズのしっかりした謎解き推理で事件は解決しますが、フランクとの関係が修復されたのか曖昧なままの幕切れはどことなく哀愁が漂います。結局このシリーズは2作で終了しました。

No.73 5点 埋められた時計- E・S・ガードナー 2022/09/28 06:55
(ネタバレなしです) 1943年発表のペリイ・メイスンシリーズ第22作の本格派推理小説です。埋められた時計の発見シーンで幕開けし、最後までこの時計の役割が謎としてつきまとう展開でこのタイトル以上のタイトルはありえないでしょう。「十件のうち九件までは有罪にしてしまう」裁判成績をもつ若手のマックネア地方検事の強敵ぶりもなかなかです。空さんや弾十六さんのご講評で紹介されているように戦場から帰還した青年を主人公にした章を挿入していますが、被害者でも容疑者でも探偵役でもなく証人の役割に留めているのであまり効果的ではなかったように思います。2人の被告が告発されたりメイスンが違法な捜査したりと他にもユニークな試みを織り込んだ力作ですが、複雑な真相の説明はそれなりに丁寧ながらあまり論理的な推理でないので強引な解決の感がしてすっきりできませんでした。

No.72 7点 消えた目撃者- E・S・ガードナー 2022/07/11 06:56
(ネタバレなしです) E・S・ガードナー(1889-1970)のペリー・メイスンシリーズは長編が82作も書かれた割には中短編は非常に少ないです。本書は1970年に日本独自編集でシリーズ中編を3作収めた本格派推理小説の中編集で、私は角川文庫版(1976年)を読みましたが1949年に発表されたと紹介されている「消えた目撃者」が弾十六さんのご講評でガードナー作かどうか疑わしいと指摘されているのに驚きました。慧眼の弾十六さんは英語版の原書情報が見つからないだけでなく文体がガードナーらしくないことまで見抜かれておりますが、恥ずかしながら私は全くそんな疑問を抱かず法廷での見事な逆転劇を堪能しました(偽作なら日本で誰かが創作したのでしょうけどなぜでしょう?)。「叫ぶ燕」(1948年)と「緋の接吻」(1948年)はどちらもシリーズ第34作長編の「用心深い浮気女」(1949年)に一緒に収められて本国で単行本化されており、さすがに真作でしょう。前者のメイスンは弁護士というより私立探偵みたいで、法廷場面もないですし殺人犯の正体は警察が突き止めているのが異色ですが、メイスンもしっかり裏でいい仕事しています。後者は事後従犯者による工作が読者にあらかじめ知らされる倒叙風な展開が印象的で、これでどうやって真犯人にたどり着けるのだろうと思わせますが劇的な法廷場面で鮮やかに決着します。「消えた目撃者」が偽作だとしても良作揃いの中編集だと思います。

No.71 5点 放浪処女事件- E・S・ガードナー 2022/04/17 20:11
(ネタバレなしです) 1948年発表のペリイ・メイスンシリーズ第32作の本格派推理小説です。複雑な人間関係に複雑な真相の謎解きなんですが、プロット整理があまり上手くなくてわかりにくいです。殺人以外の悪だくみの謎解きの方がメインにさえ感じられ、肝心の殺人の謎解きはかなり乱暴な推理を自白に助けてもらっている始末です。英語原題が「The Case of Vagabond Virgin」ですので日本語タイトルを「放浪処女事件」としているのは誤訳とは言えませんけどなんかしっくりきません。ハミルトン・バーガー検事が使った「無垢」という表現の方がまだ合っているように思いました。それにしても当時の米国では18歳はそれなりに保護される年齢だったのですね。

No.70 5点 怯えるタイピスト- E・S・ガードナー 2022/01/26 01:07
(ネタバレなしです) 1956年発表のペリイ・メイスンシリーズ第49作の本格派推理小説で、シリーズ屈指の怪作だと思います。弁護依頼を受けたのが逮捕後と後手に回っているだけでなく非協力的な態度の依頼人、失踪中の容疑者は捕まらない、別の容疑者の尾行は失敗とまともな準備もできずに法廷場面に突入です。この法廷場面の第18章で他のシリーズ作品にはなかった展開に驚かされます(他のシリーズ作品をいくつか先に読んでおくことを勧めます)。もちろんメイスンならではの逆転劇は用意されているのですが、複雑な真相説明にもう一歩丁寧さが欲しかったですね。ハミルトン・バーガー地方検事の「弁護人は争点を混乱させようと計っているのです」というコメントは他の作品でもあったような気がしますが今回は共感しました。ある人物が(身を滅ぼしかねないのに)最後まで偽りを続けた理由が私にはわからず、釈然としませんでした。

No.69 5点 無軌道な人形- E・S・ガードナー 2021/06/11 06:51
(ネタバレなしです) ペリイ・メイスンシリーズに「瓜二つの娘」(「The Case of the Duplicate Daughter」)(1960年)というタイトルの作品がありますが、1963年発表のシリーズ第69作の本書はDaughterの代わりにWomanを付けた「瓜二つの女」というタイトルでもよかったような本格派推理小説です(紛らわしくなるのでそうもいかんでしょうけど)。「無軌道な人形」というタイトルも的外れではありませんが「無軌道な」という邦訳がちょっとぎごちないですね。これまでの作品でも怪しい依頼人、無礼な依頼人、不注意な依頼人、身勝手な依頼人などメイスンを困らせる依頼人は数多く登場してますがそれでもしっかりフォローするのがメイスンです。しかし本書の第9章での対応は結構意外でした。あと依頼人に包み隠さず全てを話すように説得するのが普通なのに本書では真逆の行動に走ったのも意外です(もちろん理由はあったのですが)。思い切ったどんでん返しの真相にも意表を突かれましたが、犯人の証言はまあ「嘘」で片付くけど他の証言はどうなんだろと釈然としませんでした。依頼人の不思議かつ複雑な行動は無用に大芝居過ぎないかとこちらも釈然としません。被害者の扱いも随分と雑な気がします。

No.68 5点 怒りっぽい女- E・S・ガードナー 2021/03/02 21:28
(ネタバレなしです) 1933年発表のペリー・メイスンシリーズ第2作の本格派推理小説で初めて法廷場面が描かれた作品でもあります(シリーズ前作の「ビロードの爪」(1933年)には法廷場面はありません)。メイスンは全82作品を通じて年をとらないキャラクターとして認識されていますが、本書では説得の通じない相手に怒りを隠せないなど若さを感じさせますね。単に真相を見破るだけでは成功とは言えず、いかに法廷で証明できるかがこのシリーズでのハイライトですが本書では実に深遠な法廷戦略をとっていて印象的でした。もっともそれはメイスンが説明して初めて私はわかったのであって、それまでは実に地味に立ち回っており盛り上がりに欠ける展開という気もします。なお「ビロードの爪」の締め括りで次回作(つまり本書)を予告した演出がありましたがそれは本書でも採用されており、シリーズ第3作の「幸運の脚の娘」(1934年)へ続くようになっています。しかしそれが読めるのは創元推理文庫版のみで、角川文庫版とハヤカワ・ミステリ文庫版では(本筋には影響ないとはいえ)この演出部分が削除されているのは残念です。

No.67 5点 長い脚のモデル- E・S・ガードナー 2020/11/02 22:19
(ネタバレなしです) 1958年発表のペリイ・メイスンシリーズ第55作の本格派推理小説です。メイスンが証拠に細工するのは本書が最初でも最後でもありませんが、秘書のデラまでもが(しかもメイスンに内緒で)加担しています。親子が同じ名前なのを利用して(シニアとジュニアで区別されますが)警察をどちらのことなのか混乱させようとしますし、法廷では検察側に散々証言させておいて「証言を全面的に削除を提案」してかき回す、それでも不利な局面を察知して(禁じ手に近い)被告の証言を画策したりといつにも増して芝居ががかってます。締めくくりは唐突で推理説明が物足りないのが残念ですが途中までは実にめまぐるしい展開です。そうそう、トラッグ警部が味方のはずのハミルトン・バーガー検事に「わからずや!」と毒舌吐いているのも貴重です(笑)。

No.66 5点 すばらしいペテン- E・S・ガードナー 2020/07/09 22:11
(ネタバレなしです) 1969年発表のペリー・メイスンシリーズ第80作の本書がE・S・ガードナー(1889-1970)が生前に発表したシリーズ最後の作品です(死後に更に2作が出版されますけど)。残念ですが出来栄えは良くないです。あの証拠が犯人特定に結びつくのが法廷場面も大詰めの17章でようやくでは、本格派推理小説のプロットとしてはいただけません。しかもこの証拠にしたっていくらでも他の人を替わりの犯人に仕立てられる程度のものなのです。中盤でメイスンが入手したメモも何の目的で書かれたのかはっきりしませんし。作者の持ち味であるテンポのよさと読みやすさは最後まで健在ですが。

No.65 5点 どもりの主教- E・S・ガードナー 2020/02/17 22:10
(ネタバレなしです) 1936年発表のペリー・メイスンシリーズ第9作の本格派推理小説で、複雑なプロットとスピーディーな展開の組み合わせは初期作品ならではですが、個人的には拙速気味に感じました。マロリイ主教と名乗る人物がメイスンの依頼人になりますが何度も話の途中でどもることからメイスンは弁護士や主教はどもりの人間には務まらないはずだと若干疑います。他にも本物なのか偽者なのか怪しい人物が登場するなど事態はどんどん錯綜します。終盤は一気に解決するのですが、推理説明が不十分に感じられ、例えばある人物の行方が明らかになる場面はあまりにも唐突な印象があります。最後に次回作の予告がされますが、なぜかハヤカワ文庫版ではシリーズ第10作の「危険な未亡人」(1937年)でなく第11作の「カナリヤの爪」(1937年)の予告でした(弾十六さんのご講評では米国初版ではちゃんと「危険な未亡人」が予告されていたらしいです)。またハヤカワ文庫版の巻末解説ではアガサ・クリスティーの「スタイルズの怪事件」(1920年)の犯人名とトリックが堂々とネタバレされてますのでまだ未読の人は注意下さい。

No.64 4点 餌のついた釣針- E・S・ガードナー 2019/12/06 21:53
(ネタバレなしです) 1940年発表のペリー・メイスンシリーズ第16作の本格派推理小説です。ハヤカワ文庫版の巻末解説で類型からの脱却を図った意欲作と評価していますが、私にとって異色に感じたのはこのシリーズはとにかく鮮やかな逆転劇が特色で、そのためにはメイスンはどちらかと言えば最初は受け身の立場、或いは様子見の立場になりやすいのですが本書のメイスンはむしろ攻撃的です。はったりや脅迫に近い手法の強引な捜査が目立ち、さすがに暴力的手段は使わないもののハードボイルド小説の私立探偵みたいです。仮面をかぶった謎の女性の登場という、発表当時でさえも古さを感じさせそうな演出があり、その一方で信託資金の不正運用疑惑という現代的かつ難解な謎もあったり、さらには法廷場面なしで解決に持っていくなど確かにこれは異色作です。でもあまりにも変化を織り込みすぎてシリーズ愛読者は困惑するかもしれませんね。

No.63 5点 瓜二つの娘- E・S・ガードナー 2019/09/11 21:08
(ネタバレなしです) 1960年発表のペリー・メイスンシリーズ第62作の本格派推理小説です。父親から朝食のお代わりを頼まれた娘が台所から食堂へ戻ってきた時には父親の姿は消えています。残っていたのは床の上に落ちていた新聞、手つかずのコーヒー、煙が立ち上るシガレットが置かれたままの灰皿、そして仕事カバン。カバンの中には「緊急事態が生じた場合は、ペリー・メイスン弁護士に、即刻電話すべし」とのメッセージがありました。さらに庭の離れの建物の床には大量の100ドル札がばらまかれ、血のような赤い液体が溜まっています(現場見取り図が欲しいところです)。謎に満ち溢れた導入部、そして劇的な展開と前半部は非常に充実してますが後半は失速気味。後出し感の強い証言に頼り切った解決はお世辞にも切れ味が鋭いとは言えず、家族ドラマは中途半端な状態で放り出されています。

No.62 5点 囲いのなかの女- E・S・ガードナー 2019/07/30 21:38
(ネタバレなしです) E・S・ガードナー(1889-1970)が亡くなった後にいくつかの作品が遺作として出版されましたが、その中にペリー・メイスンシリーズ第81作となる本書と第82作の「延期された殺人」(1973年)があります。アガサ・クリスティーのように死後発表用として計画していたわけではなさそうですが、いずれにしろファン読者にとっては嬉しい贈り物だったでしょう。1972年の出版となった本書の幕開けはなかなか印象的です。依頼人が旅行から帰ってくると自宅が鉄条網で二つに寸断されていて、半分を見知らぬ女性に占有されているのですから。依頼人の意外な秘密や「日光浴者の日記」(1955年)を彷彿させるどんでん返し(ちょっと偶然の要素が強過ぎか?)など読ませどころが沢山です。真相を見抜く手がかりが後出し気味なのが残念ですけど。

No.61 5点 重婚した夫- E・S・ガードナー 2019/04/11 20:46
(ネタバレなしです) 1961年発表のペリー・メイスンシリーズ第65作の本格派推理小説です。タイトル通り重婚した夫が登場して殺されるのですが2人の妻の登場場面があまりにも少なく、いくら家族ドラマを深く掘り下げる作風でないにしてもこれでは盛り上がりに欠けますね。子供もいるのですがこちらは登場人物リストにさえ載りません。13章に至っても依頼人がなぜ不利なのかがメイスンにもわかっていないなど謎の魅力も足りません。そのためどんでん返しのインパクトも弱く、このシリーズとしては淡々と進み淡々と終わってしまったような印象です(というか印象に残りにくい作品です)。

No.60 5点 検事卵を割る- E・S・ガードナー 2019/02/08 22:58
(ネタバレなしです) 1949年発表の検事ダグラス・セルビイシリーズ第9作の本格派推理小説です。公園で発見された女性の死体事件に宝石泥棒や交通事故が絡む複雑なプロットです。またしても宿敵A・B・カーに翻弄されます。セルビイは「A・B・C老」などと呼んでいますが、本書のカーはセルビイに遜色ないフットワークの軽さが光ります。第8章で驚きの展開があってセルビイの捜査は暗礁に乗り上げ、彼の失脚を狙うメディアから批判記事の攻勢を受けてしまいます。残念ながらここからの逆転劇はペリイ・メイスンシリーズほどの鮮やかさがなく、非合法まがいの逮捕で強引に解決というのが物足りません。本書がシリーズ最終作(特に最終作らしい演出はなし)となってシリーズ打ち切りになったのもやむなしかなと思います。

No.59 6点 義眼殺人事件- E・S・ガードナー 2018/12/19 21:51
(ネタバレなしです) 全作品が「The Case of」で始まるペリイ・メイスンシリーズの日本語タイトルはいちいち「事件」を付けていませんが、英語原題が「The Case of the Counterfeit Eye」である1935年発表のシリーズ第6作の本格派推理小説である本書はなぜか「義眼殺人事件」というタイトルがまかり通っていて微妙に不思議(笑)。拳銃や毒薬などの凶器になりそうな物ならともかく、義眼を盗まれた依頼者が殺人現場にその義眼を残されたらと心配するのが不自然な気もしましたが、殺人事件が起きてからの展開があまりにドラマチックでいつの間にか違和感を忘れてしまいました(笑)。ライヴァルと呼ぶには力量不足の感もありますがハミルトン・バーガー検事の初登場作品です。メイスンが法廷で「検事の行為は、スタンド・プレーの域を出ないものと申せましょう」とコメントしますが、「あんたがそれを言うのか!」と突っ込みたくてうずうずします(笑)。ところでシリーズ初期作品では結末で次回作の予告が挿入される趣向がありますが本書の角川文庫版では「管理人の飼猫」(1935年)が、ハヤカワポケットブック版と創元推理文庫版では「奇妙な花嫁」(1934年)が予告されています。どちらが正しいか自信がないのかハヤカワミステリ文庫版では予告が削除されてしまっています(おまけに巻末解説でアガサ・クリスティーの「スタイルズの怪事件」(1920年)の犯人名ネタバレをしています)。個人的には出版順を考えると角川文庫版が正しい気がしますが。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.45点   採点数: 2753件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)