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nukkamさん
平均点: 5.45点 書評数: 2753件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.24 5点 青銅ランプの呪- カーター・ディクスン 2023/11/07 12:34
(ネタバレなしです) 1945年発表のヘンリー・メリヴェール卿シリーズ第16作の本格派推理小説で、あのエラリー・クイーンに献呈されています。そのためでしょうかエジプトで発掘された青銅ランプの呪いで人が消えてしまうというトリックに挑戦した本書は創元推理文庫版で400ページを超す分量で、この作者としては大作の部類です。しかしやはり消失の謎は短編向きだと思います。二階堂黎人が「事件が小粒なわりにだらだらと長い」と評価したそうですけど私も同調します。トリックはまあ妥当なところですが目新しいアイデアに欠けているように感じました。後に短編「妖魔の森の家」(1947年)という消失事件の謎解きで超弩級の名作を書けたのは本書の経験があったからと思いたいです。

No.23 6点 仮面荘の怪事件- カーター・ディクスン 2016/09/25 02:05
(ネタバレなしです) カー(カーター・ディクスン名義も含む)は自作の短編からアイデアやトリックを長篇に転用していることがいくつかあり、読者にその転用がすぐばれないように上手く加工しているのもありますが1942年発表のH・M卿シリーズ第13作の本書の場合は「なぜ自分の家に泥棒に入ったのか」というあまりにも特異な謎のため、短編を読んだ人にはトリックも犯人もすぐ見抜けるでしょう。私も短編の方を先に読んでいたので真相はすぐにわかりましたがそれでも十分に楽しめました。カー得意のオカルト雰囲気や不可能犯罪要素はほとんどありませんが、読者に対して手がかりや伏線がきちんと用意されている正統派の犯人当て本格派推理小説として十分水準に達している作品だと思います。

No.22 5点 弓弦城殺人事件- カーター・ディクスン 2016/09/17 00:59
(ネタバレなしです) ジョン・ディクスン・カーにはカーター・ディクスンという別のペンネームがあり、1933年に発表した本書がその名義での第1作です(正確には初版はカー・ディクスン名義だったそうですが)。作者得意の密室殺人事件を扱っていますが本書のトリックはかなり無茶です。あんなトリックを実行したら痕跡が残ってすぐにばれるはずだと思います。そして実際に残っているのですが、にもかかわらず探偵役のジョン・ゴーントが最後に説明するまでずっと謎のまま引っ張っているところに無理筋を感じます。怪奇小説的な暗い雰囲気づくりに成功しており、甲冑の不気味さなんかはなかなかいい味出しています。カー名義の「絞首台の謎」(1931年)が好きな読者なら本書も受け容れやすいかもしれません。

No.21 6点 第三の銃弾<完全版>- カーター・ディクスン 2016/09/12 01:40
(ネタバレなしです) 探偵役に本書のみ登場のマーキス大佐を配した1937年発表の本格派推理小説です。もともとはEQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン)に投稿されましたがその際には約20%がカットされたそうです(原作者の了解済みです)。ハヤカワ文庫版はカットされる前の完全版でこれから読む人にはこちらがお勧めです。完全版でもかなり短めの長編ですが謎解きの密度は大変濃く、新事実が発見されるたびにかえって謎が深まっていく展開はさすがこの作者ならではです。ただ読者の謎解き参加意欲をかきたてる作品だけに登場人物リストから事件の鍵を握る重要人物(犯人ではありません)の名前が欠落していたのはちょっと残念な気がしました。

No.20 5点 騎士の盃- カーター・ディクスン 2016/09/08 00:50
(ネタバレなしです) 1953年発表の本書はH・M卿シリーズ第22作で最後の作品でもあります。最後の作品といっても特にお別れを象徴するような演出はなく、お笑いやどたばたを混ぜながらしっかり謎解きもしているファルス本格派に仕上がっています。何者かが密室状態の部屋に入り込んでは家宝の「騎士の盃」を動かしているという犯罪ともいたずらとも特定しにくい行動の裏にある動機はなかなか見抜けにくいと思います。密室トリックは感心できませんが最後にH・M卿が犯人に与える「罰」がいかにもファルス(笑劇)ならではです。あと作中で「青銅ランプの呪」(1945年)のネタバレがありますのでそちらを未読の人は注意して下さい。

No.19 5点 赤い鎧戸のかげで- カーター・ディクスン 2016/08/26 08:21
(ネタバレなしです) 1952年発表のH・M卿シリーズ第21作の本書では何とモロッコのタンジールを舞台にしています。珍しくも殺人事件ではなく神出鬼没の怪盗をテーマにしていますが本格派推理小説の謎解きとしては手抜きなし、豊富な手掛かりに基づく推理が楽しめます。但し非常に残念なことが2つあって、第4章の最後で紹介された不可能犯罪がその後は詳細に検討されることもなく風呂敷を広げただけで終わってしまったような印象を残していることと、第15章でのH・M卿の行動があまりにも彼のキャラクターにそぐわず、大幅なイメージダウンになってしまっていることです。

No.18 6点 魔女が笑う夜- カーター・ディクスン 2016/08/24 09:54
(ネタバレなしです) 1950年発表のH・M卿シリーズ第20作にあたる本格派推理小説で、色々な書評でトリックの無茶苦茶ぶりが取り上げられています。面白いことに本書と同年発表の某女性作家の作品でも類似のトリックが使われているのですが、そちらはその作家の代表作として高評価を得ています(無論トリックが誉められているのではありませんが)。トリックメーカーとして評価されている作家は辛いですね(笑)。トリック以外にもファルス(笑劇)ミステリーとしてのどたばたぶりや匿名者の中傷の手紙についての心理分析など読ませるポイントは結構多い作品だと私は思っていますが。

No.17 6点 時計の中の骸骨- カーター・ディクスン 2016/08/22 00:21
(ネタバレなしです) 1948年発表のH・M卿シリーズ第18作の本書は空さんのご講評で的確に説明されているようにこの作者の様々な持ち味がバランスよく発揮された本格派推理小説です。中でも強烈なのはユーモアで、H・M卿と堂々と渡り合える人物を登場させてどたばたに拍車をかけています。夜中の監獄での肝試しイベントでのスリル感の演出や(トリックはちょっと拍子抜けながら)お約束の不可能犯罪やべたべたに甘いロマンスと至れり尽せりです。真相にはぞっとするような要素もあるのですがさほど深刻に扱わずに後味のいい読後感を優先させているのもこの作者らしいです。

No.16 5点 白い僧院の殺人- カーター・ディクスン 2016/08/18 19:01
(ネタバレなしです) 1934年発表のH・M卿シリーズ第2作の本書は「足跡のない殺人」の古典作品として大変有名な本格派推理小説です。2度に渡って登場人物(容疑者でもあります)が足跡トリックに挑戦していますが単なる思いつきでなくちゃんと手掛かりに基づく推理を披露しています。H・M卿の謎解き説明でも「おお、そんなところに伏線が!」と結構「やられた感」を味わえました。というわけで相当力の入った作品だとは思いますが残念なのはかなり読みにくいです。人物関係の整理があまりできていない(個性もない)、場面転換が唐突で混乱しやすい、現場見取り図も付いていないなどでせっかくのどんでん返しも効果半減になってしまったように感じます。

No.15 5点 五つの箱の死- カーター・ディクスン 2016/08/13 05:58
(ネタバレなしです) 1938年出版のH・M卿シリーズ第8作の本格派推理小説です。同年には名作「ユダの窓」も発表されていますがまるで違うタイプの作品になっており、作者が好調期だったことをうかがわせます。異様な犯罪現場の雰囲気、不思議な品物の数々、奇妙な証言と序盤の謎づくりに関しては全作品中でもかなりの出来映えではないでしょうか。それなりに有名なトリックが使われていますしユーモアにも事欠きません。多くの読者や批評家から指摘されているように着地に失敗した感はありますが全体としてはまずまず楽しめました。

No.14 6点 九人と死で十人だ- カーター・ディクスン 2016/08/07 09:57
(ネタバレなしです) 1940年発表のヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)シリーズの第11作にあたる本書は戦時色濃厚なのが特徴で、H・M卿も含めて登場人物がある種の緊張感をたたえているのがとても自然に描かれています。さて本格派推理小説で犯人の残した指紋で犯人が判るというのでは推理の楽しみのないつまらない謎解きに感じるでしょう。それを逆手にとったのが本書です。何と登場人物の誰の指紋とも合わない指紋が出現するのです。そのトリックを巡ってH・M卿が指紋の偽造は(すぐにばれるので)不可能であることを丁寧に説明していますが、それを強調すればするほどあのシンプルな真相トリックはどうして通用したのだろうかという疑問が拭えませんでした。ただどうしてこのトリックが使われたのかという理由はよく考えられているし他の謎解きもしっかりしています。

No.13 6点 墓場貸します- カーター・ディクスン 2016/08/06 16:57
(ネタバレなしです) 米国の作家ながらカー名義のフェル博士とディクスン名義のH・M卿の2大探偵シリーズは英国を舞台にした作品が多いのですが1949年発表のH・M卿シリーズ第19作である本書は珍しくも米国を舞台にしているだけでなく、米国人気質(かたぎ)を語らせたり野球シーンを織り込んだりと随分米国を意識しています。プールからの人間消失というヴァン・ダインの「ドラゴン殺人事件」(1933年)を連想させる魅力的な謎が提示されており、それでいてお手軽過ぎに感じるぐらいのトリックが使われているのがこの作者らしいです。でもkanamoriさんのご講評にもあるように、一番鮮やかな印象を残したのは地下鉄で大パニックを引き起こしたトリックの方かも。ユーモアも豊かです。なお本書は不可能犯罪のエキスパートであるクレイトン・ロースンに献呈されています。

No.12 6点 爬虫類館の殺人- カーター・ディクスン 2016/07/18 18:33
(ネタバレなしです) 1944年発表のH・M卿シリーズ第15作は単に施錠されているだけでなくドアや窓の隙間に目張りまでされているという、とんでもない密室の謎が提供されます。この謎についてはクレイトン・ロースンとアイデア競争があったという裏話があり、ロースンは短編「この世の外から」で謎解きしてますので本書と比較するのも一興でしょう(両者にトリックの共通点はほとんどありません)。戦時色濃厚な作品ですが単なる雰囲気づくりだけでなくプロットに活かしているところが巧妙です。完全に余談ですがプロットに若い男女のロマンス描写を織り込むのも恒例ではあるのですが本書の場合は冒頭の出会いの場面の印象が(個人的に)悪く、ロマンスを応援する気になれませんでした。

No.11 4点 かくして殺人へ- カーター・ディクスン 2016/05/24 16:49
(ネタバレなしです) 1940年発表のヘンリー・メリヴェール卿シリーズ第10作となる本格派推理小説です。何度も未遂事件を起こしてじわじわとサスペンスを高めていくプロットを狙ったようですがあまり効果は上がっていないように感じます。映画業界という一見派手そうな舞台ですが全体的に地味ですし、トリックも小粒なものです。ミスディレクションをいくつも用意しているところはさすがに巨匠らしいと言えなくもありませんが、大方のファン読者は本書程度の謎解きでは特徴の少ない凡作にしか感じないのでは。

No.10 9点 赤後家の殺人- カーター・ディクスン 2016/05/17 19:19
(ネタバレなしです) 1935年発表のH・M卿シリーズ第3作の本格派推理小説です。ちなみに「赤後家」(The Red Widow)というのはギロチン(断頭台)の意味だそうです。この作者得意の不可能犯罪を扱っていますが、単に密閉された部屋での殺人というだけでなく死んでいるはずの被害者が部屋の外からの呼びかけに答えていたという状況設定は絶妙な謎づくりです。第9章で語られる、部屋にまつわる伝説も物語の雰囲気を盛り上げて効果抜群だし中盤では過去の事件のトリックがH・M卿によって明らかになりますが、しかしそのトリックは現在の殺人では使えないという展開もまた謎を更に深めていきます。無茶な点、不自然な点、都合よすぎる点など問題点もないわけではありませんが、冒頭の「いったい部屋が人を殺せるもんかね」というせりふだけで私はもう十分に「ごちそうさま」でした(笑)。

No.9 8点 プレーグ・コートの殺人- カーター・ディクスン 2016/05/11 19:42
(ネタバレなしです) 1934年発表のヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)シリーズ第1作の本格派推理小説です。カー名義のフェル博士シリーズと並ぶ名探偵シリーズですが、どちらかといえばユーモア・ミステリー色が濃いのが特長です。しかし本書はその点では例外的でユーモアは見られず、重苦しくてオカルト色も強いです(横溝正史への影響大です)。プロットは詰め込み過ぎの上に回りくどく、名探偵のH・M卿はまだしもマスターズ警部が質問に対してまともに答えずはぐらかしてばかりなのにはちょっといらいらしました。特に殺人が起きるまでの序盤の展開はとても難解で読者は集中力が必要です。とはいえトリックの豊富さは全作品中でも屈指の多さで、足跡トリックなんかはお粗末ですが凄さを感じさせるトリック(トリックネタバレ本でもよく紹介されています)には素直に驚きました。

No.8 10点 ユダの窓- カーター・ディクスン 2016/05/08 04:21
(ネタバレなしです) ドアも窓も施錠された部屋で被害者と一緒だった唯一人の容疑者。普通ならこの人が犯人でしょうが、そうでないならこれは密室殺人事件ということになるという、1938年発表のH・M卿シリーズ第7作です。物語のかなりの部分を裁判シーンが占める異色の本格派推理小説ですが、実に見事な出来映えです。H・M卿が弁護士の資格を持っていることは過去の作品でも紹介されていますが、実際に法廷で活躍しているのは本書ぐらいです。密室トリックはトリック紹介本などでネタバラシされるぐらい有名ですが決してトリックだけに頼った作品でなく、法廷シーンがとにかくスリリングで面白いです。法廷で次々に出てくる爆弾証言にある時はハラハラし、ある時は思わず喝采したくなります。密室の謎解きだけでなく、アリバイ表を使った分析などもあってこれぞまさに本格派の謎解きの見本と言える作品です。

No.7 4点 読者よ欺かるるなかれ- カーター・ディクスン 2016/01/22 09:59
(ネタバレなしです) 1939年発表のヘンリー・メリヴェール卿(H・M卿)シリーズ第9作で、超能力(思念力)による殺人(に見える事件)という怪奇風というより科学的なテーマを扱っているのがこの作者としては異色に感じます。英語原題は「The Reader is Warned」ですがこの日本語タイトルは本格派推理小説好き読者へのアピ-ル度抜群ですね。ただ謎解き内容に関しては少々タイトル負けかなという気がします。メイントリックは短編作品の焼き直しですが、プロットが全く別物になってるので先に短編を読んだ読者でもなかなか気づかないと思います。ただこのプロットが結構問題で、第一の事件と第二の事件の関連性といい、事件解決の鍵を握る重要人物(登場人物リストにも載っていない)を終盤に唐突に登場させたことといい、ややアンフェアではないでしょうか。私の読んだハヤカワ文庫版の巻末解説では「いたずらっぽいはぐらかし」と弁護していますけど、個人的にはタイトルで期待が大きかった分、不満の方が強かったです。

No.6 5点 殺人者と恐喝者- カーター・ディクスン 2015/08/22 06:17
(ネタバレなしです。但し作者によるネタバレの紹介をしています)  1941年発表のH・M卿シリーズ第12作の本格派推理小説で、H・M卿の半生に関する記述があったりしてシリーズファンには見落とせない作品です。但し要注意なのは作中で過去作品の犯人名をばらすという反則をやってしまっていること。これはアガサ・クリスティーやF・W・クロフツもやっているし、ナイオ・マーシュなんか何度もやっているのですがやはり好ましくありません。ネタバレされた作品は「黒死荘の殺人」(1934年)、「孔雀の羽根」(1937年)、「読者よ欺かるるなかれ」(1939年)で、これらを未読の方は本書を後回しにすることを勧めます。さて肝心の謎解きの方ですが名評論家であるアントニー・バウチャーがアンフェアだと噛み付いたらしく、ぎりぎり微妙ですが私もバウチャー支持票を投じたいところです(それよりも前述の過去作品ネタバレの方がショックでしたが)。無理矢理不可能犯罪に仕立てたのがこの作者らしく、使われたトリックには意表を突かれました(これもかなり賛否が分かれそうですが)。

No.5 6点 青ひげの花嫁- カーター・ディクスン 2015/08/12 12:20
(ネタバレなしです) 1946年発表のH・M卿シリーズ第16作の本格派推理小説で、お笑いの場面もありますが全般的には暗くて不気味な雰囲気濃厚な作品になっており、これでオカルト要素を織り込んでいたら初期作品といっても通用したかもしれません。サスペンス濃厚な展開はとても読み応えがありますが、新たな犠牲者になりそうな女性の描写が精彩を欠いているのと謎解きがこの作者にしては平凡過ぎるのが惜しいです。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.45点   採点数: 2753件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)