皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.1274 | 3点 | 太陽黒点- 森村誠一 | 2016/06/03 17:52 |
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(ネタバレなしです) 「新本格推理三部作」の第1作として1980年に発表されましたが、一体何が「新」で何が「本格推理」なのか私にはよくわかりませんでした。殺人事件とその犯人探しはあるのですが捜査描写は断片的で、しかも不満の残る解決のため推理物としてはほとんど面白さを見出せませんでした。経済犯罪の描写などはさすが森村と感心するところもあり、本格派ではなく社会派推理小説として一般認知されているようです。復讐物語要素もありますが初期作品に見られた執念のようなものが希薄になったように思います(まあ初期作品の描写がくど過ぎたとも言えますが)。なお山田風太郎の「太陽黒点」(1963年)との共通性はありません。 |
No.1273 | 6点 | 奇想、天を動かす- 島田荘司 | 2016/06/03 17:45 |
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(ネタバレなしです) 1989年発表の吉敷竹史シリーズ第10作です。社会派推理小説要素の強いこのシリーズは王道的な本格派推理小説の御手洗潔シリーズがあまり売れなかった時代の打開策的に書かれたと理解しています。しかし新本格派の全盛時代になっても作者は本格派ばかり書かれることは決して好ましいことではないと思っていたうようで(心境複雑ですね)、このシリーズは打ち切られずに精力的に書き続けられました。本書はいきなり犯人が現行犯で逮捕され、その後は犯人や被害者の過去を調べていく地味な展開で、ここは狭義の(犯人当て)本格派好きの私には少々辛かったですが後半になると様相が一変、首なし死体が歩いたり(結構恐いよ~)、走行中の列車の車両が突然空中に浮かんだり、天を衝くような巨人が目撃されたりと、派手な謎のオンパレードが謎解き好き読者にはたまりません。社会派と本格派のジャンルミックス型として高く評価されているのも納得です。 |
No.1272 | 5点 | 姑獲鳥の夏- 京極夏彦 | 2016/06/03 17:33 |
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(ネタバレなしです) 綾辻行人の「十角館の殺人」(1987年)に端を発した本格派推理小説の大流行の中、数多くの作家が登場しましたが1990年代で最も注目を浴びた存在の1人が1994年発表の本書でデビューした京極夏彦(1963年生まれ)でしょう。もっとも必ずしも一般受けしないのはまず著書の分厚さで、百鬼夜行シリーズ(京極堂シリーズとも呼ばれますが作者はその呼称を気に入っていないそうです)第1作でもある本書は講談社文庫版で600ページもありますが実はこれでも薄い部類で、1000ページを超す作品が珍しくないのです。また一部で「妖怪ミステリ」と紹介されているのも読まず嫌いを誘発していると思います。本書の謎解きは極めて合理的なもので本当に妖怪が容疑者になったりするするものではありません。とはいえ妖怪に関する知識や情報は半端ではなく、単なる物語の添え物でもありませんが。文章は明快で探偵役の京極堂も意外と気さくな面を見せていますが、むしろワトソン役である関口巽(せきぐちたつみ)の方が結構問題でした。非常に不安定な心理状態の上に、時に観察者としての信頼性を欠くことがあるので結局読みにくい作品になっています。この厚さで事件性がなかなか見えてこないプロットもミステリーとして冗長な印象を与えています。終盤はなかなか盛り上っていますけど。 |
No.1271 | 6点 | 寅申の刻- ロバート・ファン・ヒューリック | 2016/06/03 16:03 |
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(ネタバレなしです) 猿が落としていった指輪が犯罪解決の手掛かりとなる「通臂猿の朝」、水害で孤立状態となった田舎屋敷で黄金紛失と怪死事件を調べる「飛虎の夜」の2つの中編作品を収めた、1965年発表のディー判事シリーズ中編集です。英語原題は「The Monkey and the Tiger」という、十二支の動物に由来したシンプルなもので、もしヒューリック(1910-1967)がもっと長命を得ていたなら残りの動物タイトルの作品も書いてくれたのではと惜しまれます。どちらもハヤカワポケットブック版で100ページに満たない作品ながら内容は充実しており、「通臂猿の朝」は複雑な謎解きプロットが楽しめるし、「飛虎の夜」はそれに加えて賊徒の来襲の危機を絡めてサスペンスを盛り上げた贅沢な逸品です。 |
No.1270 | 5点 | <未亡人の小径>殺人事件- レズリー・G・アダムソン | 2016/06/03 15:38 |
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(ネタバレなしです) ジャーナリスト出身の英国の女性作家レズリー・グラント・アダムソン(1942年生まれ)の1985年発表のデビュー作で、レイン・モーガンシリーズ第1作の本格派推理小説です。P・D・ジェイムズ絶賛とのことだったのでジェイムズ風に重厚で難解な作品でないかと心配しましたが、軽妙な会話をバランスよく織り交ぜており、プロットもストレートに謎解きに取り組んでいます。とはいえ全体的に地味過ぎて印象に残りにくい物語です。この内容なら舞台となる村の地図も欲しかったです。 |
No.1269 | 4点 | 桟橋で読書する女- マーサ・グライムズ | 2016/06/02 17:30 |
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(ネタバレなしです) 1992年に発表された本書はシリーズ探偵の登場しないミステリーです。文春文庫版の巻末解説でも「幻想」という言葉が使われていますが、確かに蜃気楼のようにゆらゆらした雰囲気に終始しています。本来なら派手なシリアル・キラー(連続殺人)ものなのに意図的にサスペンスを封じ込めたかのようなゆったりとした展開です。一応本格派推理小説に分類しますが謎解き要素が希薄で推理もほとんどありません。会話はちぐはぐで理解しにくいし、登場人物リストに載っていない人物が多くて頭の中を整理しきれませんでした。読解力が平均点未満の私には難解過ぎました。 |
No.1268 | 6点 | 毒殺は公開録画で- サイモン・ブレット | 2016/06/02 17:20 |
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(ネタバレなしです) 1985年発表のチャールズ・パリスシリーズ第11作はテレビ局を舞台にした本格派推理小説です。この種の作品だとウィリアム・L・デアンドリアのマット・コブシリーズを思い出す読者もいるでしょうが、ブレットの方が番組制作現場の雰囲気がよく描かれているように感じます(まあマット・コブは撮影現場の人間でないのでその点では不利にならざるを得ないのですが)。プロットもしっかりしていてチャールズの探偵活動がいつになくストレートに伝わってくるのもいいですね。ただ最後は推理でなく犯人に仕掛けた罠で真相が明らかになるのは、本格派の謎解きとしてはちょっと物足りないです(なかなか巧妙な罠ではありますが)。 |
No.1267 | 6点 | 論理は右手に- フレッド・ヴァルガス | 2016/06/02 17:13 |
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(ネタバレなしです) 木の根元の格子蓋の上の白っぽいものに興味を惹かれたルイ・ケルヴェールはそれが人間の骨だと推測し、歴史学者マルク・ヴァンドスレールの助けを借りて骨の主を探すというプロットの1996年発表の三聖人シリーズ第2作の本格派推理小説です。三聖人ことマルク、マティアス、リュシアンにしろマルクの伯父アルマンにしろ脇役扱いで、特にリュシアンとアルマンは実質出番がありません。まだシリーズ2作目にして配役バランスが崩壊しています。でも本書のルイも主役にふさわしい個性を発揮しています。最初の3章あたりまではとっつきにくかったものの、それ以降はすらすらと読めました。緊迫感に満ちた終盤の謎解きが印象的です。余談ですが最初にルイが訪れた警察署には「青チョークの男」(1996年)のアダムスベルグがいたんですね。でも残念、彼は異動してしまったようです(本書で警視と表記されているのは署長でなくなったから?)。いつかは三聖人とアダムスベルグが共同捜査(または探偵対決)する日が来るのでしょうか? |
No.1266 | 5点 | 案外まともな殺人- ジョイス・ポーター | 2016/06/02 17:05 |
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(ネタバレなしです) ドーヴァー主任警部シリーズで有名なジョイス・ポーター(1924-1990)が新しいシリーズ探偵を創造しました。それが1970年発表の本書に登場するホン・コンという女性で、なぜホン・コンと呼ばれるかも本書で説明されています(ちなみに中国の香港とは全く関係ありません)。ドーヴァーの女性版ですが、違いはアマチュア探偵であることと行動型であることです。推理というよりほとんど勝手な思い込みで猪突猛進しながら犯人探ししています。このいきあたりばったりな探偵方法はある意味、後年の米国コージー派ミステリーのアマチュア探偵にも通じるところがあります。ただ雰囲気がコージー派と程遠くなっている理由は品位のかけらもないホン・コンの言動です。本書は推理はちょっと物足りませんが、犯人の殺人トリックがなかなかユニークです。 |
No.1265 | 5点 | ココナッツ殺人- パトリシア・モイーズ | 2016/06/02 16:39 |
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(ネタバレなしです) 1977年発表のヘンリ・ティベットシリーズ第13作は本格派推理小説でなく犯罪スリラー系統の作品ですが、非常に巧妙な謎解きも織り込まれています。カリブ海に浮かぶセント・マシューズ島が舞台で、過去作品に登場しているタンピカが近代化が進むのと対照にのんびりした土地ですがここでアメリカの上院議員が殺され、原住民が逮捕される事件が起きてティベット主任警視が早期解決のために呼ばれます。人種問題が取り上げられ中盤には悲惨な出来事も起きますが、雰囲気が暗くならず他の作品同様軽い読み物に仕上がっているのはモイーズならです。考えようによってはモイーズの作風には似合わないテーマとも言えるかもしれませんが所詮フィクションと割り切るべきでしょう。これまでの作品で存在感のなかったレナルズ部長刑事が頑張っているのも特徴です。 |
No.1264 | 5点 | ゴーテ警部罠にかかる- H・R・F・キーティング | 2016/06/01 11:37 |
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(ネタバレなしです) 1967年発表のゴーテ警部シリーズ第3作は最後にちょっと推理しているとはいえ本格派推理小説でなく冒険スリラーに分類される作品です。このシリーズ、自分の思うように事が進まずゴーテ警部がきりきり舞いするパターンがよく見られますが、冒険スリラーの方がこのパターンを使いやすいと作者は考えたのかもしれません。相変わらずインドという舞台を上手く利用しています。余談ですが作中で核問題に触れていますがその後のインドが1974年、1998年と核実験を行ったという史実を考えると(内容的にはフィクションとはいえ)どこか暗示めいたものを感じるといったら考えすぎでしょうか? |
No.1263 | 5点 | ヴァレンタイン・デイの殺人- キャロリン・G・ハート | 2016/06/01 11:27 |
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(ネタバレなしです) 1990年発表のデス・オン・ディマンドシリーズ第6作です。前作「ミステリ講座の殺人」(1989年)ではその行動が好きになれなかったローレルですが、本書では結構見直しました。その分アニーの方が神経質過ぎるようにも感じてしまいましたけれど。誰もが犯人らしく見えるようにするというのは本格派推理小説としての常套手段ではありますが今回はアニーの推理が余りにも粗く、真相を知ってもなお誰が犯人でも同じだったのではという思いが残ってしまいました。 |
No.1262 | 5点 | フレンチ警部と漂う死体- F・W・クロフツ | 2016/06/01 11:20 |
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(ネタバレなしです) 1937年発表のフレンチシリーズ第16作です。前半は登場人物間の関係を中心に描き、中盤でメインの事件を起こし、後半は船上での探偵活動というプロットが同年に発表されたアガサ・クリスティーの名作「ナイルに死す」と同じなのは興味深いところです。もっとも舞台背景や人物の個性といった外面的要素で比較すると地味な作風のクロフツの不利は避けられないところです。第10章「幕間」では船や船員の様子が丁寧に描写されていますが、これがちっとも面白くないのがクロフツらしいです(笑)。まあフレンチとフレンチ夫人の会話なんかではユーモアを交えたりと頑張ってはいますけど。本格派推理小説としてはうまく伏線を張っているところもありますが、論創社版の巻末解説で紹介されているように謎解き手掛かりが解決前に十分提示しきれていないのは残念です。 |
No.1261 | 5点 | 光る指先- E・S・ガードナー | 2016/06/01 11:12 |
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(ネタバレなしです) 1951年発表のペリイ・メイスンシリーズ第37作です。今回のメイスンはかなり慎重な態度で対応しているのですがそれにも関わらずどんどん不利になっていく展開がサスペンス豊かで、宿敵ハミルトン・バーガーもこれまでにないほど自信満々です。そこまではいいのですがここでいつものように法廷で見事な逆転劇が見られるかと思いきや、意外にも決着は法廷外へとなだれ込みます。推理も若干はしていますがかなり強引な手法で解決へと導いており、しかも後味の悪い結果が気になります。デラの、「結局この方がよかったかもしれない」発言には個人的には賛同できません。 |
No.1260 | 5点 | バンガローの事件- キャロリン・キーン | 2016/06/01 11:04 |
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(ネタバレなしです) 1930年発表のナンシー・ドルーシリーズ第3作ですが、このシリーズの生みの親の1人ともいえるエドワード・ストラッテメイヤー(1862-1930)が製作に関わった最後の作品でもあります。本書はかなり冒険色が強くてスリリングです。ただこういう書き方すると考えが古いとか差別的だと批判されるかもしれませんが、少女探偵もので主人公が痛い目に会う場面を用意してあるのは個人的にはあまり好きではないですね。まあそこからのナンシーは頭脳の冴えも行動力も快調で、すっきりできるのですが。 |
No.1259 | 5点 | 芝居がかった死- ロバート・バーナード | 2016/05/31 18:26 |
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(ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説で、探偵役は「不肖の息子」(1978年)以来10年ぶりの登場となるメレディス主任警部ですがシリーズ探偵と紹介するのがためらわれるほど個性の乏しいキャラクターです。kanamoriさんやminiさんのご講評の通りだと思います。バーナードはクリスティーの影響を引き合いに出されますが、なるほど本書の真相は確かにクリスティーのいくつかの作品と共通しているところがあります。ただ残念ながらクリスティーと比べると謎の盛り上げ方はうまくありません(本格派でこれは大事なポイントだと思います)。そのためそれなりに意外性はあると思うのですが、うまく騙されたという気分が味わえませんでした。 |
No.1258 | 5点 | 眺めのいいヘマ- ジル・チャーチル | 2016/05/31 17:36 |
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(ネタバレなしです) E・M・フォスターの「眺めのいい部屋」(1908年)のタイトルを借用した1999年発表のジェーン・ジェフリイシリーズ第11作です。今回は結婚式の準備という舞台背景ですが(ジェーンが結婚するわけではありませんよ)、意外と祝祭的な雰囲気はなくこのシリーズとしてはユーモアも低調です。ではサスペンス豊かかといえばそうでもなく、第16章でジェーンがコメントしているように「ちゃんとした動機のある容疑者」が絞り込めない状況が長々と続くので謎解きプロットもどこかもやもや感を伴っています。最後は大胆などんでん返しがありますけど、驚きよりは唐突感の方が強かったです。 |
No.1257 | 5点 | グルメ探偵と幻のスパイス- ピーター・キング | 2016/05/31 17:33 |
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(ネタバレなしです) 何百年も前に絶滅したとされるスパイス(と主人公は確信します)の盗難、続いて起きる殺人事件を扱った1997年発表のグルメ探偵シリーズ第2作です。謎解きプロットは、登場人物が次々に増えてはそれほど強力な根拠もないのにいつの間にか容疑者になっているという印象を受けました。一応犯人を特定する手掛かりもあるのですが解決前にフェアに読者に提示されてるわけではないのも本格派好き読者としては不満点です。魅力的なの何といっても料理描写で、世界各国の料理が登場します(残念ながら日本料理はほとんど出番なし)。しかも欧米料理や中華料理以上に南米やアフリカの料理の描写に力がこもっているのがユニークで、まさにグルメ探偵にふさわしい雰囲気が楽しめます。 |
No.1256 | 7点 | 人形遣いと絞首台- アラン・ブラッドリー | 2016/05/31 17:13 |
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(ネタバレなしです) 2010年発表のフレーヴィア・ド・ルースシリーズ第2作です。どうも私には主人公のフレーヴィアがまだ理解できず、冒頭でなぜ墓地で死んで(?)いたのか最後までわかりませんでした。家族関係も相変わらず良好とはほど遠いですし。ただキャラクター描写に終始した感のある前作と比べて謎解きは格段に進歩しており、フレーヴィアの推理説明が多少強引に感じられる部分はあるものの、良質の本格派推理小説を堪能したという満足感を得ることができました。 |
No.1255 | 6点 | メリー殺しマス- コリン・ホルト・ソーヤー | 2016/05/31 17:10 |
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(ネタバレなしです) 1995年発表の「海の上のカムデン」シリーズ第6作のコージー派の本格派推理小説です。登場人物が非常に多く、このシリーズを読み慣れた読者なら誰がシリーズ準レギュラーで(当然犯人ではない)、誰が容疑者なのかを区分けするのもそう大変ではないでしょうけど、もしこのシリーズを本書で初めて読んだならかなり雑然とした印象を受けると思います。前半は人物整理だけで手一杯の感じですが中盤以降は調子が上向きになり、最後は1930年代の某アメリカ本格派推理小説の傑作を髣髴させる珍しい真相と、クリスマスらしい決着で締めくくられます。 |