皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.1474 | 5点 | 夜の静寂に- ジル・チャーチル | 2016/07/21 12:20 |
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(ネタバレなしです) 2000年発表のグレイス&フェイヴァーシリーズ第2作です。時代描写(1930年代のアメリカ)に優れており、特に印象的だったのが第一次世界大戦の悲惨さが語られる場面でした。無論コージー派の作品なのでいつまでも重苦しさを引きずることはなく、随所にユーモラスな場面が用意されています。謎解きとしては動機の説得力がいまひとつ弱いように思えます。 |
No.1473 | 4点 | 死がお待ちかね- ベゴーニャ・ロペス | 2016/07/21 12:03 |
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(ネタバレなしです) ベゴーニャ・ロペス(1923-1989)はキューバの心理学者でミステリー作品は本書がデビュー作なのですが、1989年の出版直前に逝去したため遺作でもあります。私にとって初めてのキューバ作家の作品ですが別に共産主義を意識しているような場面はなく観光描写もありません。マリブラン家と近隣住民の人間関係の描写が大半で、その中で起こった殺人事件の謎解きを扱った本格派推理小説です。人物描写に力を入れてはいるのですがこれがとてもわかりづらく、アドリアーナ・マリブランの1人称になったり、(正体が伏せられている)犯人視点になったりと変化をつけていますがそれもあまり効果的とは思えず、物語のメリハリが感じられません。最後は何と警察の電話盗聴から事件解決です。どうやって犯人の目星をつけていたかの説明がないのも不満です。 |
No.1472 | 6点 | 流れる星- パトリシア・モイーズ | 2016/07/20 05:09 |
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(ネタバレなしです) 前作「殺人ア・ラ・モード」(1963年)ではファッション業界という特別な業界と業界人を緻密に描いていましたが、1964年発表のヘンリ・ティベットシリーズ第5作の本書では映画業界が描かれています。登場人物のエキセントリックさが前作以上に強調されており、このあくの強さが受け入れられるかどうかで本書が面白く読めるかは左右されるでしょう。ユーモアも従来のモイーズ作品が持つ明るさよりはブラックで皮肉な面が目立ちます。但し本格派推理小説としての謎解き部分は真面目にしっかりと書かれています。 |
No.1471 | 6点 | 「エルサレム」亭の静かな対決- マーサ・グライムズ | 2016/07/20 04:56 |
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(ネタバレなしです) 1984年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第5作の本格派推理小説です。ピエール・ヴェリーの「サンタクロース殺人事件」(1934年)でも田舎風なクリスマスが描かれていますが、本書もそれ以上に素朴でしみじみとしたクリスマスが描写されています。終盤のメルローズ・プラントの贈り物も(多少メロドラマじみてはいますが)演出効果抜群です。ミスリーディングが効果的な謎解きもまずまずの出来栄えですが、これから読む人にはぜひ作品全体が醸し出す叙情的な雰囲気を堪能してほしいです。 |
No.1470 | 5点 | イングリッシュ・ブレックファスト倶楽部- ローラ・チャイルズ | 2016/07/20 04:51 |
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(ネタバレなしです) 「お茶と探偵」シリーズも2003年発表の本書でシリーズ4作目になりますが作品の質という点では過去3作品と同じレベルで安定しており、シリーズファンなら安心して読めると思います。この作者の優雅な文章表現は個人的に大好きな部類に入るのですが謎解きが相変わらずなし崩し的解決に終わってしまうのはもう少し何とかならないかなあ。犯人が誰でもよかったように思ったのは私だけでしょうか(笑)。 |
No.1469 | 5点 | 疑惑の影- ジョン・ディクスン・カー | 2016/07/20 04:49 |
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(ネタバレなしです) 1949年発表のフェル博士シリーズ第18作ですが従来のシリーズ作品とはかなり趣を変えた作品です。本格派推理小説としての謎解き場面はちゃんとあるのですが弁護士のパトリック・バトラーを主人公にした冒険スリラー小説の要素が非常に強く、ジャンルミックスタイプのミステリーと言えそうです。「盲目の理髪師」(1934年)やカーター・ディクスン名義の「一角獣殺人事件」(1935年)のようにカーはこれまでにもアクションシーン豊富な本格派をいくつか書いていますがそれらとも異なるのは、ある組織の存在が事件の背後に見え隠れしていることです。これは本格派ファン読者にとって好き嫌いが分かれるでしょう。 |
No.1468 | 6点 | ドーヴァー2- ジョイス・ポーター | 2016/07/19 21:55 |
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(ネタバレなしです) 長編10作(短編も同じぐらい書かれました)のドーヴァーシリーズの中で最も世評の高い作品といえば「切断」(1967年)、次いで「ドーヴァー 1」(1964年)あたりでしょう。確かにこの2作品は大変独創的ではあるもののその「ブラック」ぶりも半端ではなく、いきなりここから読むと拒否反応を起こす人がいるかもしれません。となると無難な入門書としては1965年出版のシリーズ第2作である本書あたりがお勧め。ドーヴァーの無茶苦茶ぶりもしっかり描かれてますが前述の2作品よりは口当たりがいいです。できれば8ヶ月前の事件の現場地図があれば謎解き好き読者としてはもっとよかったですが。 |
No.1467 | 6点 | 孤独な女相続人- E・S・ガードナー | 2016/07/18 20:45 |
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(ネタバレなしです) 1948年発表のペリイ・メイスンシリーズ第31作となる本書には容姿端麗な女相続人が登場しますが性格描写が意外とあっさりしているため読者が共感するほどのキャラクターになれていないのが惜しいです。でもマリリン・マーローという名前は当時人気絶頂だった女優マリリン・モンロー(1926-1962)に由来しているんでしょうね。物語としては切れ味があり、特に第11章や第17章でのやり取り場面や法廷でのトラッグ警部への反対尋問場面などは強い印象を与えます。 |
No.1466 | 7点 | 悪魔はすぐそこに- D・M・ディヴァイン | 2016/07/18 20:26 |
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(ネタバレなしです) 1966年に発表されたミステリー第5作となる本格派推理小説です。ディヴァイン自身大学の事務員だったということもあってか大学を舞台にした本書はかなりの力作です。登場人物が多過ぎで関係も複雑な感がありますがその割りには読みやすいです。謎解きに関してはミスディレクションも巧妙で結構難易度が高く事件発生前の伏線なんかはまず見落とすでしょう。物語のエンディングもきれいに締めくくっています。 |
No.1465 | 4点 | ハルイン修道士の告白- エリス・ピーターズ | 2016/07/18 19:04 |
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(ネタバレなしです) 時は1142年12月、事故で重傷を負って死を覚悟したハルイン修道士がラドルファス院長とカドフェルにかつて人を死に追いやった罪を語り始めることから物語が始まる、1988年発表の修道士カドフェルシリーズ第15作です。このシリーズは単なる謎解き小説ではなく人間ドラマとして読ませることにも力を入れていますが本書の場合は特にその傾向が強く、前半は完全に非ミステリー作品のプロットになっています。後半になるとようやくミステリーらしくなってきますがこの締めくくり方ではミステリーとしては不満を覚える読者も多いのではないでしょうか(だから私は厳しい採点にします)。しかしある登場人物が言うように「神のお導きにより」としか思えないような展開が充実の読み応えを感じさせる人間ドラマを成立させています。 |
No.1464 | 7点 | 名門校 殺人のルール- エリザベス・ジョージ | 2016/07/18 18:43 |
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(ネタバレなしです) 全寮制の名門校から新入生が1人行方不明になったことに端を発する1990年発表のリンリー警部シリーズ第3作です。これはどう転んでも「痛々しい」結末しかありえないだろうという雰囲気が前半から漂っています。私は身構えて読んでしまったので結末の衝撃という点では「大いなる救い」(1988年)には一歩譲るように感じましたが本書も相当なものです。重厚さと読みやすさが両立するストーリー展開が見事だし、犯人探しの謎解きもきちんとやっています。サイドストーリーも本筋を邪魔しない範囲内で充実しており、特にハヴァーズ部長刑事は「逆境に負けるな」と応援したくなります。ドラマとして出来過ぎていて、これから子供を寮や寄宿舎に預けようかと検討している親にはちょっと勧めにくいかも。 |
No.1463 | 6点 | 爬虫類館の殺人- カーター・ディクスン | 2016/07/18 18:33 |
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(ネタバレなしです) 1944年発表のH・M卿シリーズ第15作は単に施錠されているだけでなくドアや窓の隙間に目張りまでされているという、とんでもない密室の謎が提供されます。この謎についてはクレイトン・ロースンとアイデア競争があったという裏話があり、ロースンは短編「この世の外から」で謎解きしてますので本書と比較するのも一興でしょう(両者にトリックの共通点はほとんどありません)。戦時色濃厚な作品ですが単なる雰囲気づくりだけでなくプロットに活かしているところが巧妙です。完全に余談ですがプロットに若い男女のロマンス描写を織り込むのも恒例ではあるのですが本書の場合は冒頭の出会いの場面の印象が(個人的に)悪く、ロマンスを応援する気になれませんでした。 |
No.1462 | 5点 | 百万に一つの偶然 - ロイ・ヴィカーズ | 2016/07/18 03:26 |
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(ネタバレなしです) 短編倒叙推理小説の書き手としてはおそらくフリーマン、クロフツと並ぶ存在のヴィカーズですが、この迷宮課シリーズの大きな特色は犯人の失敗というよりも偶然の要素が解決につながることが多いところでしょう。9作を収めて1950年に出版されたシリーズ第2短編集である本書に収められている「百万に一つの偶然」はその典型で、決め手としては完全ではありませんがこの手掛かりは実に印象的です(私は何かのネタバレで読む前に知っていてあまり驚けなかったのが残念)。「ワニ革の化粧ケース」は手掛かりに基づく推理が丁寧なところに好感を持てます。中には何で殺人に至ったのかよくわからないプロットの作品もありますが「相場に賭ける男」や「9ポンドの殺人」などは犯人と被害者の関係をきっちり描いて物語としても十分に読ませます。余談ですがこの短編集、英語原題が「Murder Will Out」ということわざでした(興味ある方は英語辞書を参照下さい)。 |
No.1461 | 5点 | アパルトマンから消えた死体- キャサリン・ホール・ペイジ | 2016/07/18 00:43 |
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(ネタバレなしです) 1992年発表のフェイス・フェアチャイルドシリーズ第4作はフランスを舞台にしています。本書でのフェイスはこれまでの作品に比べると探偵能力が結構上がったようなところがあり、少なくとも中盤までは警察よりも真相に迫っているように感じられました。但し探偵小説らしい展開は物語の3分の2ぐらいまでで、残り3分の1は冒険スリラー小説風に流れていきます。決して後半部の出来が悪いわけではありませんが本格派推理小説好きの私としてはちょっと残念でした。まあこのシリーズは謎解きにそれほど重きを置いていないのが過去3作品を読んでいてわかってはいましたのでそれほど落ち込みもしませんが(笑)。 |
No.1460 | 7点 | 転がるダイス- E・S・ガードナー | 2016/07/18 00:30 |
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(ネタバレなしです) 一族のもてあまし者扱いされていたオルデン・リーズは今や大金持ち。その彼が謎の人物宛てに2万ドルの小切手を振り出した。もしもこれが詐欺や脅迫絡みなら、意地悪な親戚がオルデンを禁治産者に仕立てて財産を処理できないようにしかねないという相談をペリイ・メイスンが受けるプロットの1939年発表のペリイ・メイスンシリーズ第19作です。敵対する側は無論ですがオルデン側にも一筋縄ではいかない人物を配するなど複雑な人物模様にメイスンもなかなか大変ですが、しかしそこを見事に切り開くのがやはりメイスンならでは。本格派推理小説としての謎解きも充実しており、なかなか印象的なトリックが使われています。 |
No.1459 | 7点 | 大鴉の啼く冬- アン・クリーヴス | 2016/07/18 00:18 |
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(ネタバレなしです) 日本では1980年代に「新本格派」と呼ばれる作家が登場して本格派推理小説の一時代を築き上げましたが、海外でもこの時期はポール・アルテ、エリザベス・ジョージ、ポール・ドハティ、ジル・マゴーン、ジェニファー・ロウなど本格派の実力者が次々にデビューしています。1986年デビューの英国の女性作家アン・クリーヴス(1954年生まれ)もその一人です。2006年発表の本書はCWAの最優秀長編賞を獲得した作品で「シェトランド島四重奏」の第1作となる本格派推理小説です。文章表現は地味で、後半の祭りの場面なんかはもっと賑やかに盛り上げてもいいのではと思わなくもありませんが単調で退屈というわけではなく、しみじみと読者の心に訴える語り口が何とも心地よいです。謎解きプロットもしっかりしていますが小説としても丁寧に作られているので、ミステリーを読まず嫌いの読者にも試しに読んでみたらと勧められるような作品です。 |
No.1458 | 5点 | 月夜のかかしと宝探し- シャロン・フィファー | 2016/07/18 00:06 |
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(ネタバレなしです) 2004年発表のジェーン・ウィールシリーズ第4作です。やはりこのシリーズはコージー派ミステリーとしては明るさが楽しさは少ないです。第13章で主人公のジェーンが自己を振り返っているように過剰反応、曲解、自己防衛、そして自信喪失と読者の共感を得にくい描写が少なくないのも一つの理由だと思います。謎解きも論理的な説明でありません。本書の1番の読ませどころはジェーンの昔なじみの老夫婦(容疑者でもあるのですが)の抱える問題描写で、コージー派どころか読んでて辛くなるような重苦しい人間ドラマを生み出しています。 |
No.1457 | 5点 | ぶち猫 コックリル警部の事件簿- クリスチアナ・ブランド | 2016/07/16 01:37 |
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(ネタバレなしです) コックリル警部の事件簿とも言うべき本書はブランドの死後の2002年に発表されており、コックリル警部の人物像を紹介したエッセイやショート・ショートまで幅広く収容されています。三幕構成の戯曲「ぶち猫」がなかなかの力作です(上演されたのかなあ)。第二幕で登場人物の動きに「ここは観客に見えなくていい」とか細かく指定しているのが緻密なブランドらしいですね。コックリルが精彩を欠いているのが物足りませんが第三幕のどんでん返しの連続は圧巻です。ショート・ショートの「アレバイ」も切れ味鮮やかです。残念ながら論創社版は英国オリジナル版から4作品が除外されています。その4作品とは「招かれざる客たちのビュッフェ」(1983年)(創元推理文庫版)に収められたコックリル警部シリーズ4短編で、重複しないよう配慮したのでしょうけど名作中の名作「婚前飛翔」だけでも残すべきではなかったでしょうか。これでは論創社版はマニア読者向けではあってもビギナー読者向けとは言えなくなってしまったように思います。 |
No.1456 | 6点 | 荒野のホームズ、西へ行く- スティーヴ・ホッケンスミス | 2016/07/16 01:15 |
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(ネタバレなしです) 2007年発表のアムリングマイヤー兄弟シリーズ第2作はハヤカワポケットブック版の巻末解説の通り、映像化をねらったかのような派手なシーンが満載で特に終盤の盛り上がり方は半端ではありません。推理があっさり過ぎに感じられましたがこれだけ勢いのある展開に押し流されると不思議と不満に感じません。謎解き伏線は再読時に改めて回収することにしましょう(笑)。 |
No.1455 | 6点 | シャーロック・ホームズのドキュメント- ジューン・トムスン | 2016/07/16 01:06 |
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(ネタバレなしです) シャーロック・ホームズが兄マイクロフトの依頼でフランスの暗殺者と対決する「並木通りの暗殺者」、主人の命が危険にさらされていると家政婦が訴える「ウィンブルドンの惨劇」など、ホームズが公表の許可を与えなかった7つの事件記録を収めた第4短編集で1997年に出版されました。失敗談あり(但しホームズは満足しています)、命がけの仕事ありと多彩な作品が読めますがそれでいてドイル原作の雰囲気を壊すことはありません。人情談的要素のある「フェラーズ文書事件」や、犯人逮捕で終わらずホームズが事件の凶悪性を長々と説明しているのが珍しい「ウィンブルドンの惨劇」が印象に残りました。 |