皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2865件 |
No.2105 | 6点 | 炎の証言- シェリー・ルーベン | 2019/03/01 08:37 |
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(ネタバレなしです) 米国の女性作家シェリー・ルーベンが1994年に発表したミステリー第2作です。火災調査専門の私立探偵ワイリー・ノーランと正義にこだわる弁護士マックス・ブランブルのコンビを主人公にして、炎上した車中の死体の謎解きに挑む本格派推理小説です。前半の13章あたりまではマックスの語りによる説明が単調過ぎていささか退屈ですが、会話が積極的に挿入されるようになってからは物語にメリハリが付きました。ワイリーの火災調査の描写が非常に丁寧で、素人の私にもわかりやすくて説得力のある推理説明です。それに比べると犯人調査の方は完全に後回しで、おまけに推理も粗く感じられるのが少々惜しいところです。 |
No.2104 | 6点 | バラ迷宮- 二階堂黎人 | 2019/02/21 22:48 |
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(ネタバレなしです) 1997年発表の二階堂蘭子シリーズ第2短編集です。「ユリ迷宮」(1995年)は200ページを超す作品を収めているため3作から成りますが本書は6作が収められ、短編集としてはこちらの方が多彩に楽しめると思います。臣さんやE-BANKERさんのご講評で評価されているように短編であっても大時代的な雰囲気が漂っているのが作品個性となっており、謎解きの面白さもたっぷりです。トリック重視の作品が多いのもこの作者ならではですが、毒殺トリックの謎解きの「薔薇の家の殺人」はページが多いこともあってプロットにも力を入れてます。作中でエラリー・クイーンの「フォックス家の殺人」(1945年)が引用されてますが、使われているトリックは異なりますけどちょっと似ているところがありますね。トリックが印象的なのはグロテスクな犯罪にふさわしい凄惨な真相の「喰顔鬼」です。 |
No.2103 | 6点 | ニュー・イン三十一番の謎- R・オースティン・フリーマン | 2019/02/21 22:20 |
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(ネタバレなしです) 1912年発表のソーンダイク博士シリーズ第3作の本格派推理小説です。ワトソン役のジャーヴァスが謎の家で謎の住人と謎の患者に出会う物語、そしてソーンダイク博士が不自然な経緯で改訂された遺言状について相談を受ける物語、この2つの物語が交錯しながら展開するプロットです。もともと中編作品だったのを長編化したらしいので、それがこのような構成になった理由かもしれません。真相に意外性はありませんが前作の「オシリスの眼」(1911年)と同じくソーンダイク博士の細部に渡る推理が印象的で、あまりの細かさにもっと簡潔に説明できないのかとわがままな注文をつけたくなります(笑)。 |
No.2102 | 5点 | 燔祭の丘- 篠田真由美 | 2019/02/21 22:09 |
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(ネタバレなしです) 2011年発表の桜井京介シリーズ第15作でシリーズ最終作の冒険スリラーです。冒険スリラーといっても展開は遅いしアクション場面も少ないのですが講談社文庫版で700ページを超す厚さが気にならない文章力はさすがです。過去のシリーズ作品のネタが随所で紹介されていますが記憶力が落第生レベルの私はほとんど思い出せませんでした(笑)。とはいえ少なくとも第三部の5作は発表順に読むことを勧めます。これまでのシリーズ作品で蒼、深春、神代教授の人生に大きな影響を与える物語があったので最後が京介の順番になることはまあ想定内でしたが、その割には京介の登場場面は意外と少なく、他のレギュラーキャラクターに十分以上のページを与えています。虫暮部さんのご講評でも触れられてますが、パズル色は薄いものの端正で爽やかな本格派推理小説でスタートしたこのシリーズが暗く重苦しい心理描写のスリラー路線へと切り替わり、しかも過去作品を読んでないと展開についていくのが困難な大河小説風になったのはどう評価されるのでしょう?本格派ばかり求める偏屈読者の私は当然アウト判定なのですけど(笑)。後期の作品ではもはや建築探偵ものではなくなってしまったし。 |
No.2101 | 4点 | 村で噂のミス・シートン- ヘロン・カーヴィック | 2019/02/21 21:52 |
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(ネタバレシリーズ) ミス・シートンシリーズは英国の男性作家ヘロン・カーヴィック(1913-1980)によって1975年までに全5作書かれましたが、彼の死後に米国で再販本がヒットしたのを機に1990年代になって英国の男性作家ハンプトン・チャールズ(1931-2014)がシリーズ続編を3作書き、さらに英国の女性作家ハミルトン・クレーン(1949年生まれ)によって書き継がれています。1968年発表の本書はカーヴィックによるシリーズ第1作です。コージー派ミステリーに分類されているようですが本書を読む限りでは本格派推理小説としての謎解き要素はほとんどなく、巻き込まれ型サスペンス風です。ミス・シートンが女性が男性に襲われている場面に遭遇し犯人は逃亡、被害者は死亡します。犯人の正体は程なく明らかになりますがそこには推理は全くありません(名前は登場人物リストに載りません)。これがきっかけで有名人となったミス・シートンの周囲で色々な出来事が起き、ミス・シートンの描く絵が事件解決の糸口になるようですが、肝心のミス・シートンが絵の意味をまるで理解していないのがまどろっこしいです。締めくくりがまだ何か嫌なことが起きそうな雰囲気になっているのが珍しいです。 |
No.2100 | 6点 | T型フォード殺人事件- 広瀬正 | 2019/02/08 23:45 |
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(ネタバレなしです) SF作家として注目を浴び、これからの飛躍が期待されたところで路上を歩いている最中に突然の心臓発作で亡くなってしまった広瀬正(1924-1972)、その遺作の1つとして1972年に発表されたのが本書です。日本にわずか数台しかないT型フォードが披露され、その車にまつわる46年前の殺人事件が語られ、それに続く謎解き議論と意外な展開が楽しめる本格派推理小説です。他の方々のご講評にもあるように当時としては斬新であったろうアイデアが光る作品です。現代ミステリーに馴染んだ読者には荒削りの作品に感じられるかもしれませんけど。それよりも発表当時はSF作品でなかったことに面食らった読者が多かったそうですが。 |
No.2099 | 5点 | 奥方は名探偵- アシュリー・ウィーヴァー | 2019/02/08 23:29 |
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(ネタバレなしです) 英国の女性作家アシュリー・ウィーヴァーの2014年発表のエイモリー・エイムズシリーズ第1作のコージ-派ミステリーです。本格派推理小説黄金時代であった1930年代英国を作品舞台にしていますが時代描写はあまりありません。エイモリーの衣装描写には凝っていて、もしかしたら当時の流行ファッションかもしれませんが。夫のマイロが遊び人で不在がちなことに振り回されるところは同情の余地があるものの、それにしたって昔の恋人の誘いに簡単に応じてしまうとは(浮気とか不倫とかは全く考えていないにしろ)エイモリーも浅はかとしか言いようがないですね。まあこれがプロットにメリハリをつけていてロマンチック・サスペンス風な展開になってはいますが。人物個性はきちんと描けているしミステリーの雰囲気も程々ありますが、ほぼ運任せの解決になってしまうのが(悪い意味で)コージー派らしく、日本語タイトルの「名探偵」らしさが感じられませんでした(ちなみに英語原題は「Murder at the Brightwell」です)。 |
No.2098 | 5点 | 模型人形殺人事件- 楠田匡介 | 2019/02/08 23:12 |
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(ネタバレなしです) 戦前の1930年代に執筆開始していますが本格的な活動は戦後になってからの楠田匡介(くすだきょうすけ)(1903-1966)はトリックメーカーとして知られ、特に脱獄を扱ったユニークな短編ミステリーは高く評価されています。1949年発表の本書は初の長編作品の本格派推理小説です。開始わずか2ページで起こった殺人事件の現場は準密室状態で、死体をマネキン人形が見つめているだけでなく凶器と思われるピストルにはその人形の指紋が付いているという異常な事件です。その後も人形の首が盗まれたり、人形そっくりの謎の女性が登場したりとプロットは変化に富みますが展開が急過ぎて読みづらい一面もあります。トリックメーカーらしくトリックを沢山用意してはいますが、こちらの説明も駆け足気味で整理不十分に感じてしまいました。名探偵役かと思われた田名網警部は犯人の正体はつかんでいたようですが主人公らしさに欠けており、真相の大半を語る別の人物に「負け」を意識する有様です。 |
No.2097 | 5点 | 検事卵を割る- E・S・ガードナー | 2019/02/08 22:58 |
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(ネタバレなしです) 1949年発表の検事ダグラス・セルビイシリーズ第9作の本格派推理小説です。公園で発見された女性の死体事件に宝石泥棒や交通事故が絡む複雑なプロットです。またしても宿敵A・B・カーに翻弄されます。セルビイは「A・B・C老」などと呼んでいますが、本書のカーはセルビイに遜色ないフットワークの軽さが光ります。第8章で驚きの展開があってセルビイの捜査は暗礁に乗り上げ、彼の失脚を狙うメディアから批判記事の攻勢を受けてしまいます。残念ながらここからの逆転劇はペリイ・メイスンシリーズほどの鮮やかさがなく、非合法まがいの逮捕で強引に解決というのが物足りません。本書がシリーズ最終作(特に最終作らしい演出はなし)となってシリーズ打ち切りになったのもやむなしかなと思います。 |
No.2096 | 5点 | 壷中美人- 横溝正史 | 2019/02/08 22:43 |
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(ネタバレなしです) 「壺の中の女」(1957年)という金田一耕助シリーズ短編を改訂長編化して1960年に発表したシリーズ第22作の本格派推理小説です(短編版は短編集の「金田一耕助の帰還」(1996年)で読めます)。少女が身体をくねらせながら小さな壺の中に収まる壺中美人という芸が紹介され、それをテレビ鑑賞していた金田一が後の事件解決につながるヒントに気づくという序盤(等々力警部は気づきません)、そして殺人現場でこの芸を試みる少女が目撃されるという不思議な謎(見られていることに気づいて芸を中断して逃亡します)という展開はなかなか魅力的ですが中盤以降は地味過ぎてだれてしまいます。動機がかなり後出し気味ですし、何よりもなぜわざわざあの芸をしようとしたのかという説明がきちんとされていません。 |
No.2095 | 5点 | 「酔いどれ家鴨」亭のかくも長き煩悶- マーサ・グライムズ | 2019/01/29 22:40 |
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(ネタバレなしです) 1984年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第4作の本格派推理小説です。文豪シェイクスピアの故郷ストラトフォードを観光中のアメリカ人ツアーで連続殺人事件と少年の失踪事件が起きます。個人個人の描写はよく描けていますが、人同士の結びつきはあまり描かれずドラマとして散漫な印象を受けます。集団行動どころか一同が顔を合わせる場面さえないのでツアーの雰囲気がまるで感じられません。終盤近くになっての唐突な展開と唐突な解決、推理の説得力が十分とは思えません。一番意外だったのは少年がどこにどうやって連れ去られたかでしたが(生きていることは随所で読者に知らされます)、こちらについても説明があっさり過ぎて実現性には疑問が増すばかりです。 |
No.2094 | 5点 | 「能登モーゼ伝説」殺人事件- 荒巻義雄 | 2019/01/29 22:28 |
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(ネタバレなしです) 1990年発表の埋宝伝説シリーズ第5作の本格派推理小説ですが、財宝探し的な趣向はありません。北海道の巨大迷路で発見された角のある男の死体の事件はやがて能登のモーゼ伝説の謎に発展し、最後は探偵役の荒尾十郎がフランスにまで乗り込みます。アリバイ崩しに力を入れていて第7章では荒尾が見破った時刻表トリックの解答は巻末にありますという、ちょっと変わった「読者への挑戦状」があります。もっとも肝心の時刻表(1989年9月号)が掲載されておらず、現代の読者はこの謎解きに挑戦できないのですが。まあ載っていたとしても時刻表を見ると頭痛が起きる私は敬遠しちゃうんですけどね(笑)。講談社文庫版の作者あとがきでは、現代社会におけるミステリーの在り方について色々と思い悩んでいるような記述がありますが方向性を見つけられなかったのか結局本書が作者最後のミステリー作品になりました。この後の作者は架空戦記小説の艦隊シリーズで大成功するのですからミステリーから離れたのは正解ということになるのでしょう。 |
No.2093 | 6点 | 素性を明かさぬ死- マイルズ・バートン | 2019/01/29 22:12 |
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(ネタバレなしです) 犯罪研究家のデズモンド・メリオンとアーノルド警部のコンビが活躍するシリーズを中心に63作もの長編を残した英国作家のマイルズ・バートンの正体がジョン・ロード(1884-1964)であることが判明したのは作者の死後だったそうです。ロード名義でも70作以上の長編があるのですから大変な多作家です。1939年発表の本書はシリーズ第19作の本格派推理小説ですが、異色なのはメリオンは登場せずアーノルド単独で事件を解決しています(第7章でメリオンが流感でダウンしていることが説明されます)。全61作のシリーズでアーノルド単独作品が4作、メリオン単独作品が1作あるようです。異色作にもかかわらず本書がシリーズ代表作として高く評価されているのはミスディレクションの巧妙さが光るからではないでしょうか。密室の怪死事件の謎解きはトリックメーカーとして知られるこの作者らしいですが、殺人トリックが明かされた後のどんでん返しこそが本書の白眉でしょう。個人的にはロード名義の「見えない凶器」(1938年)に匹敵する作品だと思います。その代わり「見えない凶器」がお気に召さない読者には本書も勧めにくいのですけど。 |
No.2092 | 6点 | 名探偵の証明- 市川哲也 | 2019/01/29 21:57 |
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(ネタバレなしです) 鮎川哲也に私淑して漢字1字違いのペンネームで登場した市川哲也(1985年生まれ)の2013年発表のデビュー作である本格派推理小説です。往年の名探偵である屋敷啓次郎と今をときめく名探偵である蜜柑花子の謎解き競演を描いています。屋敷は高齢化による探偵能力の喪失をかなり意識していますが、私の読んだ創元推理文庫版の表紙イラストは結構若く見えるぞ(笑)。そして蜜柑花子の描写は思ったよりも控え目です。事件の謎解きが意外と早く終結し、後日談がかなり長いです。もっとも後日談もミステリー要素はあるのでマーサ・グライムズの「『乗ってきた馬』亭の再会」(1996年)の後日談のように無駄に長いとは感じません。ただこの後日談があった方がよかったのかは微妙だと思います。名探偵の生きざま、名探偵を取り巻く人々の名探偵への思い、そして名探偵を意識している犯人と様々な角度で名探偵の存在を描いているのですが、もっと謎の魅力と謎解きの面白さの方に傾注してほしかったと思うのは身勝手な感想でしょうか? |
No.2091 | 6点 | 探偵サミュエル・ジョンソン博士- リリアン・デ・ラ・トーレ | 2019/01/15 22:57 |
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(ネタバレなしです) アメリカの女性作家リリアン・デ・ラ・トーレ(1902-1993)は作品数は多くはありませんが歴史ミステリーのパイオニアの1人として高く評価されている存在です。3作書かれた長編作品はいずれも史実の事件を扱っており、短編作品では英国文学者のサミュエル・ジョンソン博士を探偵役、彼の伝記作家のジェームズ・ボズウェルをワトソン役にした本格派推理小説で知られています。後者については4つの短編集が出版されましたが、論創社版の本書は第1短編集(1946年)から5作、第2短編集(1960年)から3作、第3短編集(1985年)から1作の計9作を収めた国内独自編集版です。長編作品の「消えたエリザベス」(1945年)は小説というより研究レポート調で、かなり読者を選びそうですが本書はちゃんと小説になっていてもっと一般受けすると思います。短編ながら時代描写が実に丁寧で、おっさんさんのご講評で説明されているように謎解きとしてはそれほど凝った作品はありませんが読み重ねていくほど作品世界にのめりこんでいきます。謎解きとして劇的な「消えたシェイクスピア原稿」が個人的なお気に入りですが、(本格派ではありませんが)植民地だった米国の独立を支援する女性との知恵比べがコナン・ドイルの「ボヘミアンの醜聞」を連想させる「博士と女密偵」も印象的です。結末はこの作者が米国人女性であることを再認識させられます。 |
No.2090 | 6点 | 探偵の秋あるいは猥の悲劇- 岩崎正吾 | 2019/01/15 22:39 |
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(ネタバレなしです) 1990年発表の探偵の四季シリーズ第2作の本格派推理小説です。シリーズと言いながら登場人物はシリーズ第1作の「探偵の夏あるいは悪魔の子守唄」(1987年)とは総入れ替えで、探偵役まで別人になっているのが意外です。もっと意外だったのは前作が横溝正史作品のパロディーとして書かれたのに対して本書は海外ミステリーのエラリー・クイーン作品のパロディーを狙っていたこと。舞台も登場人物も和風でそこは全くクイーン風ではありませんが、謎解きプロットにはあちこちでクイーン作品を連想させる場面があります(クイーン作品を読んだことのない読者でも楽しめますが、読んでいた方がいいと思います)。本格派として充実した内容ですが、乱れた人間関係やよこしまな性格の描写が時にくど過ぎるところはクイーン風というよりは横溝正史風で、そこは好き嫌いが分かれるかもしれません。 |
No.2089 | 5点 | サンダルウッドは死の香り- ジョナサン・ラティマー | 2019/01/15 22:27 |
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(ネタバレなしです) 1938年発表のビル・クレインシリーズ第4作である軽ハードボイルドです。クレインの推理で殺人犯が指摘される場面もありますが複数犯による誘拐事件はアクションシーンが豊富、これはこれで読み応え十分ですが本格派推理小説を期待している読者に受けるかは微妙かもしれません。とはいえ退屈させない展開で読みやすく、舞台となる南国の楽園の雰囲気がカラフルに描写されています。論創社版の登場人物リストは重要人物が何人も抜けているのが不満です。 |
No.2088 | 7点 | 赤い指- 東野圭吾 | 2019/01/15 22:18 |
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(ネタバレなしです) 2006年発表の加賀恭一郎シリーズ第6作です。前半は犯罪小説で犯人が誰かも読者にすぐ伝えられます。犯罪小説といっても犯人描写は少なく、事後従犯者となった犯人の家族たちが右往左往する場面が連続します。犯人には同情の余地はありませんし、家族も身勝手で読んでて気分が悪くなります。でも自分が仮に当事者だったら正義を貫けるのかと自問すると自信がありません。自分もゲス野郎の資格十分なことに気づかされてますます気分が悪いです(笑)。後半になると加賀の鋭い推理が印象的な倒叙本格派推理小説になりますが、家族ドラマの行く末のほうが気になるプロットです。講談社文庫版で300ページ少々の分量ですがとても重くて暗い作品、もしこれで被害者側の不幸描写をもっと丁寧に描かれていたらつらくて読了できなかったかも。 |
No.2087 | 6点 | 解かれた結び目- バロネス・オルツィ | 2019/01/15 22:08 |
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(ネタバレなしです) 1925年発表の隅の老人シリーズ第3短編集で、最後に収められた「荒地の悲劇」では再会を期待させるような場面がありますが結局シリーズ最終作になりました。発表された時期は本格派推理小説の黄金時代で、過去の「ミス・エリオット事件」(1905年)や「隅の老人」(1909年)と内容的に大差ないのでは時代遅れと評価されてしまうのも仕方ないのかもしれませんが、このシリーズはこれでよいような気もします。推理の説得力の高い「メイダ・ヴェールの守銭奴」が個人的なお気に入りです。それにしても語り手の婦人記者がテーブルの上に投げ出した紐に喜々として飛びつくとは、「あんたはおもちゃを与えられた子犬ですかっ」と突っ込みたくなります(笑)。 |
No.2086 | 5点 | 螺旋階段- M・R・ラインハート | 2019/01/07 21:58 |
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(ネタバレなしです) 米国の女性作家メアリ・ロバーツ・ラインハート(1876-1958)は借金苦の家計を助けるために作家業に手を染めましたがこれが大当たり、何作もベストセラー作品になりました。非ミステリー作品もありますがロマンチック・サスペンスの先駆者であり、また「もしも知っていたら(HIBK)」派の始祖として名高いです。1908年発表の長編第2作である本書は最初の成功作で、戯曲版が書かれたり映画化されたりと最も有名です。もっとも主人公は50歳前後の女性でロマンスの中心人物でないところから本書はロマンチック・サスペンスとは言えないでしょう。またHIBK(「Had I But Known」)の手法もそれほど目立っていないようですが、これは多用するとプロットの水増しと批判されるらしいので本書の場合は適量レベルかと思います。主人公をスーパーヒロインタイプでなく、さりとて怖がってばかりの弱者でもない設定にしていること、執事、家政婦、メイド、庭師などにも重要な役割を与えていること、ゴシック・スリラー風ながら過度に暗く重くしていないところなど個性を感じさせます。21章で主人公が14の疑問点を整理するなど本格派推理小説的な要素もあります(推理で解決されるわけではありませんが)。誰もが怪しい行動をとるところは不自然で古臭さもありますが、書かれた時代を考えると洗練されたサスペンス小説だと思います。 |