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[ 本格 ]
閉じられた棺
エルキュール・ポアロシリーズ
ソフィー・ハナ 出版月: 2017年06月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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早川書房
2017年06月

No.2 5点 nukkam 2019/08/14 20:09
(ネタバレなしです) アガサ・クリスティー遺族団体公認による新エルキュール・ポアロシリーズ第1作の「モノグラム殺人事件」(2014年)が大ヒットしたことで自信をつけたか、2016年にシリーズ第2作である本書が発表されました。エキセントリックな容疑者たち、被害者の意外な秘密など謎を盛り上げる工夫たっぷりの本格派推理小説なのですが、肝心のポアロの推理説明が中盤あたりまではともかく終盤になっても回りくど過ぎてキレを感じさせません。風変わりな動機も説得力を欠いているように思います。クリスティーと比較されてどうだこうだと批評されるのはこのシリーズを書く以上作者も覚悟していると思いますけど、クリスティーの謎解きプロットの巧さが際立ったような印象です。

No.1 7点 人並由真 2017/11/25 10:40
(ネタバレなし)
1929年10月。「私」ことスコットランドヤードの刑事エドワード・キャッチプールは、高名な児童向けミステリ作家レディ・アセリンダ・プレイフォードの屋敷に招かれる。そこには過日の「モノグラム殺人事件」でともに捜査にあたった名探偵ポアロも招待されていた。やがて未亡人のレディは家族と関係者の前で、自分の莫大な遺産の相続相手を子供たちではなく、秘書の青年ジョセフ・スコッチャーにすると表明した。だが当のスコッチャーは不治の腎臓病ゆえにレディの支援のもと末期治療を受けており、遺産を受け取っても使い道などない身の上だった。スコッチャー当人をふくめて一同がレディの思惑に困惑するなか、やがて邸内では予期せぬ殺人事件が……!

 前作『モノグラム殺人事件』に続く、ポアロの公式パスティーシュ長編第二弾。正直言って前作は作者(ソフィー・ハナ)の独自色が出過ぎた印象で(まあハナ自身の作品はいずれも未訳なので、当然筆者はまだ一冊も読んでないのだが)うーん、ミステリとしてはそこそこ楽しめるものの、クリスティーの作風とは文体も物語の流れもキャラクター描写もかなり違う、という感じだった。
 しかし今回は作者がパスティーシュのコツを覚えたのか、偽クリスティーとしてかなりサマになっている。登場人物たちの余裕のある書き方(自分なりの人生観を創作術に秘めるレディの思いや、警察の対面を考えてやたら現場を仕切りたがるコンリー警部とマジメなその部下オドワイヤー刑事との対比など)も窺えてなかなかいい。終盤の<名探偵、みなを集めてさてといい>パターンを、作者風にカリカチュアした物語の進め方もニヤリとさせられる。
 プロットの割に物語が長めといった弱点があり、文体もまだちょっと生煮え(というかクリスティーっぽい雰囲気と作者ハナ本人の折り合い?)の感が拭いきれたわけではないが、個人的には十分、新生ポアロとして及第点をあげられる出来だ。

 ちなみにミステリ的には、最後に明かされる<なぜ殺したか>の動機の真相が鮮烈。すでにwebやミステリファンサークル・SRの会の会誌(SRマンスリー)のレビューなどで話題になっており、筆者自身もその興味を踏まえて本書を手に取ったが、ああ…と思わされた。そのホワイダニットの解明と同時にタイトルの意味が明かされる趣向も悪くない。ラストのクロージングもちょっと天然な感じはあるが余韻があって良い。これは次作にも期待。

 あと版権的に遺族が承認しないのか、それとも作者ハナ自身の矜持か知らないが、クリスティーの原典からの登場人物がメインのポアロだけというのは寂しいので、できましたらほかのお馴染みキャラクターも登場させてくれませんか。ちょっとだけ名前がいきなり出てくるアンリ・バンコランやシッド・ハレー、明智小五郎や神津恭介みたいなパターンでもいいので。


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ソフィー・ハナ
2017年06月
閉じられた棺
平均:6.00 / 書評数:2
2016年09月
モノグラム殺人事件
平均:5.00 / 書評数:2