皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2865件 |
No.2225 | 4点 | 妖奇切断譜- 貫井徳郎 | 2020/03/25 20:48 |
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(ネタバレなしです) 1999年発表の本書は明治ならぬ明詞という架空の時代を舞台にした本格派推理小説の「鬼流殺生祭」(1998年)の続編にあたります。「鬼流殺生祭」のネタバレはありませんし、あちらを読んでいなくても大きな問題はありません。錦絵のモデルになった女性ばかりが次々と猟奇的殺人の犠牲となります。しかも身体の一部を持ち去られるという設定が島田荘司の「占星術殺人事件」(1981年)を髣髴させますが、「読者への挑戦状」まで挿入したガチガチの本格派推理小説の島田作品と比べると本書はスリラー、いやホラー傾向が強い作品です。特に中盤あたりの描写のきつさは個人的には合いませんでした。探偵役の朱芳が容疑者を個人的に知っていたというのは(そして読者は知りようもない)推理でも何でもなく、最後に明かされる真相も説明不十分で本格派の謎解きとしては残念レベルです。中盤まではグロテスクな直接描写で、終盤では人間の醜い内面を強調とあの手この手で読者を不快な気分にさせます。 |
No.2224 | 5点 | ビッグ・マネー- ハロルド・Q・マスル | 2020/03/16 22:34 |
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(ネタバレなしです) いかにもハードボイルドを予感させるタイトルの本書は1954年発表のスカット・ジョーダンシリーズ第5作です。ジョーダンが事務所へ電話するとジョーダンを名乗る男が応答するという驚きの幕開けです。ジョーダンを訪れた依頼人は大事な証拠を偽のジョーダンに渡してしまっただけでなく本物のジョーダンを警戒する始末です。おまけにジョーダンが手がけている投資詐欺事件の関係者でもありました。投資詐欺というと話が難しそうだと敬遠したくなる読者もいるでしょうが本書は全く心配なし、実に要領よく説明されて明快です。ジョーダンの捜査は時にはったり時に脅かし、アクションシーンもありとハードボイルドの私立探偵風ですが過度なエログロや痛々しい暴力は描かれません。ハヤカワポケットブック版の巻末解説で誉めている「清潔」かどうかはともかく、不快な読後感はありません。解決はかなり唐突感がありますがちゃんと推理説明していますので本格派推理小説好き読者の鑑賞にも堪えられます。 |
No.2223 | 5点 | 「新説邪馬台国の謎」殺人事件- 荒巻義雄 | 2020/03/16 22:17 |
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(ネタバレなしです) 1989年発表の埋宝伝説シリーズ第4作の本格派推理小説で、当初のタイトルは「「マ」の邪馬台国殺紀行」でした。本書からは新しいシリーズ探偵役として荒尾十郎が登場します。もっとも次作の「「能登モーゼ伝説」殺人事件」(1990年)でシリーズは終焉なのですが。北海道で発見された画家の死体がどこか別の場所で殺されたらしいこと、彼が生前に邪馬台国を調べていたらしいことから彼の足取りを追うことが邪馬台国の謎解きにつながるプロットです。二本立ての謎解きは往々にして片寄ることが多いのですが本書の場合も歴史の謎解きには力が入っていて、高木彬光の「邪馬台国の秘密」(1972年)にまで触れている一方で安易にネタバレしない配慮を見せているのは先人作品のネタバレがマナー違反を感じさせた「黄河遺宝の謎を追え!」(1986年)からの進歩を感じさせます。しかしそれに比べて現実の殺人の謎解きは粗過ぎで、真相自体も魅力に欠けてしまっています。 |
No.2222 | 5点 | ギャンビット- レックス・スタウト | 2020/03/10 20:22 |
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(ネタバレなしです) 1962年発表のネロ・ウルフシリーズ第25作で、国内では雑誌「EQ」の87号(1992年5月号)と88号(1992年7月号)に連載されました。タイトルに使われている「ギャンビット」とはチェスの戦術だそうで、エラリー・クイーンの「盤面の敵」(1963年)の章のタイトルに使われていましたね。動機がスタウトの作品では珍しく(といっても私はスタウト作品に精通しているとはとても言えませんけど)、どちらかといえばアガサ・クリスティーの作品でよくありそうだったのが印象的でした。それはいいのですがプロットもスタウトらしくなかったのが気になります。このシリーズはウルフの助手のアーチーが手掛かりや証言をかき集め、最後にウルフが犯人を突き止めるというのが定番パターンですが、本書ではアーチーが先に真相にたどり着いたという印象が強くてウルフが精彩を欠いているように感じました。 |
No.2221 | 5点 | 学園街の<幽霊>殺人事件- 司凍季 | 2020/03/10 20:06 |
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(ネタバレなしです) 1998年の一尺屋遥シリーズ第6作の本格派推理小説です。高校生時代の一尺屋が登場し、友人の今御堂蘭と一緒に山道で立て続けに起きた3件の交通事故(3人死亡、1人重傷)の謎解きに挑みます。不思議な交通事故というと高田崇史の「QED 竹取伝説」(2003年)が思い浮かびますが、本書でも事故当時に爆発音を聞いたとか人魂を見たとかの不思議な証言が相次いでなかなか魅力的な謎です。しかしこの謎でプロットを支える自信がなかったのか(まあトリックはユニークですがあれを何度も実行したというのが無茶苦茶です)、13年前に起きた少年の怪死と生き返り(?)、各章(8章まであります)のタイトルは「なぜ」で始まる謎、登場人物たちの複雑な関係や秘密と謎の乱れ打ちで、まとまりを無視して突き進みます。一尺屋の推理は論理的でないだけでなく、間違いを犯人に訂正してもらっている始末ですっきり感がありません。作者は本書以降はあまり目立った活動をしていないようですが、それもやむなしかなと思います。それにしてもハル(遥)やラン(蘭)という人物名で男性、美聖学園という校名で男子校って...いやあまり考えないようにしましょう(笑)。 |
No.2220 | 5点 | 黄- 雷均 | 2020/03/10 19:44 |
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(ネタバレなしです) 中国の雷均(レイジュン)が2015年に発表した本格派推理小説です。ドイツの裕福な家庭の養子となった盲目の中国人青年を主人公にし、中国で起こった少年の両眼をくり抜くという悲惨な事件(生命は助かります)の謎解きに挑むというプロットです。非常に構成に技巧を凝らしていることが感じられます。例えば第1章は主人公が興奮で手が震えている場面で終わり、第2章は主人公の興奮が全身に広まっている描写で始まります。ところがこの2つの章は作中時代が異なっていて実は連続性がないのです。他にもある村で犬がいないことを不思議がる場面で章を終わらせたかと思うと次の章ではいきなり犬が吠えかかる場面で開始する、やはりこの2つの章も作中時代が違っています。過去と現在を交互に描く構成は他にも例はありますがこういう技巧で読者を煙に巻くというのは私は初体験です。もっとも私がそれを理解するのには時間がかかり、何かちぐはぐで読みにくいなと思いながら読み進めました。犯人当て謎解きとは別に主人公の意外な秘密を明かすのも効果としては印象的でしたが、どこか目指すゴールをずらされたような気分にもさせられます。 |
No.2219 | 5点 | 黒い花束- 島田一男 | 2020/03/02 20:38 |
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(ネタバレなしです) 作品によって本格派推理小説と軽ハードボイルド小説に分かれるとされる南郷弁護士シリーズにあって、1959年発表のシリーズ第6作の本書は前者に属します。南郷の助手の金丸京子に山で遭難死したはずの友人からダンス・パーティーへの招待状が届きます。南郷と京子が友人宅を訪問するとそこには様々な来客がいますが、その中の1人が不可思議な状況下で行方不明になります。その後も失踪事件が相次ぐという展開が早見江堂の怪作「本格ミステリ館消失」(2007年)を連想させます。犯罪性がはっきりしない失踪事件だとミステリーとして退屈になりやすいのですが、本書には当てはまりません。犯人と思われる三本指の男(横溝正史の某作品を意識したのでしょうか?)によって南郷が何度も裏をかかれるなど盛り上げるためのサービスには事欠かず、後年の阿井渉介の列車シリーズのごとく風呂敷を広げまくります。推理はかなり強引で、広げた風呂敷を上手く畳めたかというと微妙な気もしますがまずまず楽しめました。 |
No.2218 | 6点 | 薔薇の輪- クリスチアナ・ブランド | 2020/03/02 20:19 |
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(ネタバレなしです) 「はなれわざ」(1955年)までのブランドは一流の本格派推理小説の書き手としての名声を確立していましたが、その後は非ミステリー作品を発表したりと作風の幅を広げました。別名義で発表することもあり、1977年発表の本書も初版はメアリ・アン・アッシュ名義でした。序盤はややごちゃごちゃした感じもありますが第4章の終わりで三重事件が発生し、チャッキー警部が登場すると謎解きプロットが盛り上がります。特に第7章からのどんでん返しの連続はブランドならではです。解決がやや駆け足気味ですっきり感が弱いのが残念で、E-BANKERさんがご講評で論じられているように1940年代から1950年代にかけての傑作群には及ばないものの、「暗闇の薔薇」(1979年)とともに1970年代の本格派の代表作だと思います。ちなみにどちらもタイトルに「薔薇」が使われていますが作品間の相互関連はありません。 |
No.2217 | 6点 | 探偵さえいなければ- 東川篤哉 | 2020/03/02 20:03 |
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(ネタバレなしです) 2013年から2016年にかけて発表された短編を5作収めた、2017年出版の烏賊川市シリーズ第3短編集です。本書に至るまでに長編5作と短編集2作が発表されたためか、烏賊川市がすっかり「犯罪都市」として定着してしまいましたね(笑)。それでもユーモア本格派推理小説であることにはぶれがなく、気楽に楽しめる作品です。特に「ゆるキャラはなぜ殺される」と「博士とロボットの不在証明」の会話ははじけ飛んでいて滅法楽しかったです。しかし最も印象に残ったのは「とある密室の始まりと終わり」です。何と扱われた犯罪は猟奇的殺人事件で使われたトリックも実に猟奇的、これをユーモア本格派に仕立てた豪腕が凄い。流平君、トラウマにならないんだろうか?この内容を江戸川乱歩とか二階堂黎人とか猟奇描写を気味悪く描くのが上手い作者が書いたなら...、いやあんまり想像したくないです(笑)。 |
No.2216 | 6点 | ネロ・ウルフの災難 女難編- レックス・スタウト | 2020/02/27 22:07 |
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(ネタバレなしです) ネロ・ウルフシリーズ第11中短編集(1960年)、第12短編集(1962年)、第13短編集(1964年)から1作ずつ選出して国内独自編集版として2019年に出版されました(国内単行本としては4冊目です)。最も女難らしい作品は「トウモロコシとコロシ」(1962年)で女難に遭ったのはアーチーですが、アーチーのトラブルはウルフにとってもトラブルです。愛憎ドラマ風のプロットがこのシリーズとしては珍しく、強引なところもありますが推理もまずまずです。「殺人規則その三」(1960年)では何とウルフを面と向かって罵倒する女性が登場、これには思わず笑ってしまいました。ウルフがアーチーの助手となる逆転設定はあまり効果を上げてないし、推理も強引かつ唐突ですが楽しく読める作品です。「悪魔の死」(1961年)はオカルト要素はなく、女難らしさも希薄、推理が弱くてはったりのみでの解決にしか感じられず3作の中では1番印象に残りませんでした。 |
No.2215 | 6点 | 人形式モナリザ- 森博嗣 | 2020/02/27 21:43 |
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(ネタバレなしです) 1999年発表のVシリーズ第2作の本格派推理小説です。女性のみによって人形を操る乙女文楽が演じられている最中の殺人事件の謎解きですが、むしろシリーズキャラクターである紅子たちの複雑な人間ドラマの方にウエイトを置いた作品のように感じました。それはそれで謎めいてはいるのですけど。殺人の謎解きとは別に意外な真相が明かされるのが印象的ですが、これを殺人捜査のミスリーディングに使っているのは少々あざといように思います。 |
No.2214 | 6点 | 亀は死を招く- エリザベス・フェラーズ | 2020/02/27 21:34 |
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(ネタバレなしです) 1950年発表の本格派推理小説で舞台は地中海沿岸のフランスの港町、第二次世界大戦の傷跡が人々の心や生活に残っています。ホテルに集まった様々な国籍の人々が多彩に描かれ、やがて悲劇が起きます。地味な展開ながらも揺れ動く人間ドラマが退屈をぎりぎりで回避しており、サスペンスがじっくりと醸成されます。解決がかなり唐突感があるのと(ネタバレなしで説明しにくいですが)殺害トリックに感心できなかったです(確かピーター・ラヴゼイも使っていたような)。 |
No.2213 | 5点 | マスカレード・ホテル- 東野圭吾 | 2020/02/27 21:24 |
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(ネタバレなしです) 2011年発表のマスカレードシリーズ第1作です。無差別連続殺人の次の犯行現場が一流ホテルのホテルコルシア東京と予測した警察が刑事たちをホテルスタッフに変装して張り込ませることになります。野心あふれる新田刑事と彼の教育係となるフロントクラークの山岸尚美が主人公です。何らかの秘密を抱えているらしい宿泊客たちと新田や山岸が織り成す人間ドラマが魅力的です。ホテルの舞台裏を描いたミステリーでは、作家になる前はホテル勤務だった森村誠一の社会派犯罪小説の「銀の虚城」(1968年)が知られていますが本書もよく描けていると思います。本格派推理小説、サスペンス小説、そして警察小説の要素が入り混じったジャンルミックス型ですが、巧妙に張られた伏線が活きる展開は感心しますが誰が犯人で誰を次に狙ったのかという肝心な謎についてはほとんどが自白頼りで明らかになるのが残念でした。その代わりサスペンス豊かな締めくくりになってますが。 |
No.2212 | 5点 | シュロック・ホームズの冒険- ロバート・L・フィッシュ | 2020/02/27 20:59 |
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(ネタバレなしです) コナン・ドイルが生み出したシャーロック・ホームズシリーズのパロディ作品、パスティ-シュ作品が多く書かれましたがアメリカのロバート・L・フィッシュ(1912-1981)によって32短編が書かれたシュロック・ホームズシリーズはそれらの中でも優秀なパロディ作品と評価されています。作者の生前には2つの短編集が発表されましたが、1960年から1964年にかけて発表された12編を収めて1966年に出版された第1短編集が本書です。このシリーズの特徴はシュロックが次から次へとそれらしい(?)推理を披露してワトソン役のワトニイは感心し、依頼人も満足という結末が多いのですが実は推理は的を外していて肝心な問題は解決していなかったりしているのです。ただその肝心な問題の真相がはっきりと説明されず示唆に留まってしまうことが多いので、軽妙なテンポと明快な文章にも関わらず理解しづらいという欠点があり、そこが評価の分かれ目になると思います。ハヤカワ・ミステリ文庫版の巻末解説では英語の微妙なニュアンスを補足してくれていて理解するのに役に立ちました。個人的なお気に入りは「赤毛の巨人」と「誘拐された王子」です。 |
No.2211 | 5点 | どもりの主教- E・S・ガードナー | 2020/02/17 22:10 |
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(ネタバレなしです) 1936年発表のペリー・メイスンシリーズ第9作の本格派推理小説で、複雑なプロットとスピーディーな展開の組み合わせは初期作品ならではですが、個人的には拙速気味に感じました。マロリイ主教と名乗る人物がメイスンの依頼人になりますが何度も話の途中でどもることからメイスンは弁護士や主教はどもりの人間には務まらないはずだと若干疑います。他にも本物なのか偽者なのか怪しい人物が登場するなど事態はどんどん錯綜します。終盤は一気に解決するのですが、推理説明が不十分に感じられ、例えばある人物の行方が明らかになる場面はあまりにも唐突な印象があります。最後に次回作の予告がされますが、なぜかハヤカワ文庫版ではシリーズ第10作の「危険な未亡人」(1937年)でなく第11作の「カナリヤの爪」(1937年)の予告でした(弾十六さんのご講評では米国初版ではちゃんと「危険な未亡人」が予告されていたらしいです)。またハヤカワ文庫版の巻末解説ではアガサ・クリスティーの「スタイルズの怪事件」(1920年)の犯人名とトリックが堂々とネタバレされてますのでまだ未読の人は注意下さい。 |
No.2210 | 4点 | 武蔵野殺人√4の密室- 水野泰治 | 2020/02/17 21:45 |
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(ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説で、大富豪の女性が密室で殺され容疑者の大半がその一族という古典的な設定です。中盤に意外な展開があるのですが私の読んだ講談社文庫版では裏表紙の粗筋紹介でネタバレされているのでせっかくの意外性が台無しです(もったいない)。プロットにもトリックにも凝った仕掛けが用意してあり、手がかりのカモフラージュにも技巧を見せるなど謎解きに関してはなかなか力が入った作品です。とはいえいきなりベッドシーンで物語が開始したり、下品きわまりないせりふが挿入されたりと通俗色が濃厚すぎる作風は私には合いませんでした。 |
No.2209 | 5点 | ドロシーとアガサ- ゲイロード・ラーセン | 2020/02/17 21:25 |
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(ネタバレなしです) アメリカのゲイロード・ラーセン(1932年生まれ)については私は勉強不足でよく知らないのですが、彼のミステリー代表作と評価されているのが1990年発表の本格派推理小説である本書です。イギリスの本格派黄金時代を牽引したドロシー・L・セイヤーズとアガサ・クリスティーを主人公にしたという設定が興味を引きます。他にも同時代のミステリー作家たちが多数登場していますがこちらは完全に脇役、もっと活躍させたらと思わないでもありませんが。意外だったのが前半の展開で、事件に巻き込まれたドロシーが助けになろうとするアガサ達を拒絶して雰囲気がやや険悪になりかけます。しかし後半になると関係は修復され、2人がタッグを組んで謎解きに挑戦するという期待通りの展開になります。巻末解説で若竹七海が指摘しているように当時のミステリーに関する記述ミスが散見され、それを突っ込むのも読者のお楽しみかもしれませんがおっさんさんのご講評でも触れられているように、謎解きに絡んでいる知識に誤りがあるのはいただけません。 |
No.2208 | 7点 | 探偵事務所 巨大密室- 鳥羽亮 | 2020/02/14 22:15 |
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(ネタバレなしです) 1996年発表の探偵事務所シリーズ第4作の本格派推理小説です。室生を訪れた依頼人は6年前の同窓会の服装でビルの屋上から飛び降り自殺したらしい友人の調査を依頼します。死亡当時の屋上は人の出入りが不可能な「屋根のない密室」状態で、遺書も残されていたことから警察は自殺と判断しています。ところが室生が調査を開始して間もなく、依頼人までもが6年前の同窓会の服装でビルの屋上から墜落死します。「巨大」の演出が弱いながらも謎がどんどん深まる展開は読み応えがたっぷりで、同じような屋上密室事件が続くのですが後になるほど密室としての完成度が高くなるなど実に芸が細かいです。最終章に至ってようやく室生がたどり着いた真相はルース・レンデルの某作品を連想させますが、非常に手の込んだ犯人の細工が印象的でした。新たな探偵助手(?)も加わってアイワ探偵事務所の益々の発展を期待させるような締めくくりになりますが残念ながら本書がシリーズ最終作、それどころか作者はミステリーから離れて時代小説家としての道を歩んでいくことになります。 |
No.2207 | 5点 | 死体をどうぞ- シャルル・エクスブライヤ | 2020/02/14 21:58 |
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(ネタバレなしです) 1961年発表の本書はミステリー要素がとても希薄です。殺人が起きて犯人の正体は終盤まで伏せられていて、強いて言うなら本格派推理小説なのでしょうが犯人探しのプロット展開にならないのです。作中時代は第二次世界大戦下のイタリアの小さな村で、時々砲声が響き渡ります。ファシスト派と反ファシスト派に分かれて対立する村人たちが描かれていますが、政治思想などほとんど持ち合わせていませんのでそれほど深刻な雰囲気にはなりません。ファシスト派の人間も嫌われ者として描かれているのはほんのわずかで、ある人物が「貧乏なのにのん気で、不幸なのに笑いや叫びや歌声が絶えないイタリア」を再発見していくドラマが印象的です。村人たちが死体を隠し、死体を探す人間がそれを見つけると村人たちがまた別の場所へ隠すという展開が繰り返され、クレイグ・ライスほどの派手などたばた感はないもののユーモアにあふれています。犯人を示す手掛かりが読者に対してほとんど提示されず、これでは誰が犯人でもよかったようにしか思えないのは不満ですが。 |
No.2206 | 6点 | 黒龍荘の惨劇- 岡田秀文 | 2020/02/10 21:45 |
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(ネタバレなしです) 2014年発表の月輪龍太郎シリーズ第2作の本格派推理小説です。いわくありげな一族にわらべ唄をなぞったような見立て連続殺人と横溝正史を連想させるようなプロットですが良く言えば洗練、悪く言えば淡白な筋運びです。万人向けタイプではありますが、例えば綾辻行人の「時計館の殺人」(1991年)の強烈なサスペンスを堪能した読者には物足りなく映るかもしれません。またいくら作中時代が明治でもこの犯行計画は実行に無理があり過ぎのようにしか感じられません。とはいえ(無理矢理感はあるにしろ)大胆きわまる真相とすさまじいまでの悪意のインパクトの前に多少の不満を吹っ飛ばされるでしょう。発表当時結構な話題になったというのも納得です。 |