皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2813件 |
No.2173 | 5点 | 奈良「ささやきの小道」殺人- 本岡類 | 2019/10/16 21:41 |
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(ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説で、「著書のことば」によればトラベル・ミステリーであると同時に「その地でなければ成立しない」大仕掛けなトリックに挑戦した作品だそうです。それが奈良公園で鹿恐怖症の老人を鹿の群れが取り囲み、老人がショック死するという前代未聞の事件の謎解きです(老人がわざわざ奈良公園に行く理由はちゃんと用意してあります)。私が思いついた鹿せんべいトリックは第2章であっさり却下されました(笑)。トリックが成立しても死ぬかどうかの確実性に乏しいとか突っ込みどころもありそうですが、成立するか実験までしたという作者の努力は評価したいです。 |
No.2172 | 3点 | ラム君、奮闘す- A・A・フェア | 2019/10/16 21:25 |
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(ネタバレなしです) 1940年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラム シリーズ第2作のハードボイルドです。素姓の知れぬ人物が登場して行方不明の女性を探して欲しいと依頼しますが、それでいて捜査のための情報をほとんど提供しないというあまりにも難解なプロットです。依頼人の正体や依頼の背景が明らかになるのは7章あたりですが、この時点では殺人は起きているし人間関係はややこしいし組織的妨害もあったりとまだまだ複雑な状況です。ラムの推理は途切れ途切れ気味で、しかも解決にすっきり感がありません。英語原題は「Turn on the Heat」で辞書を調べると「奮闘」と訳しても的外れではなさそうですが他のシリーズ作品でもラムは奮闘しているのですから、この日本語タイトルはもう一工夫欲しかった気がします。 |
No.2171 | 5点 | にごりえ殺人事件- 加納一朗 | 2019/10/16 21:10 |
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(ネタバレなしです) 明治時代を背景にジャーナリストの前沢天風を主人公にした開花帖シリーズは全5作が書かれましたがその第1作が1984年発表の本書です。但し最終章の後日談を読むと当初はシリーズ化を意識していなかったのではと思いましたが。この後日談には実に驚かされるのですが、それにはそこに至るまでをしっかり読むことが肝要です。作中時代は明治20年(1887年)、経済の活況策のないまま庶民生活の犠牲の上に近代国家の道を歩む日本社会が巧みに描かれています。犯人探しではありますが扱っている事件が連続娼婦殺人事件のためか一般的な本格派推理小説のように動機のありそうな容疑者たちが最初から顔を揃えているわけではありません。浮かび上がった容疑者の容疑を晴らしてはまた新たな容疑者を探すという展開で、読者が推理に参加する余地があまりありません。天風の推理も論理的ではなく、容疑者の人柄を評してこの人物の犯行とは思えないと判断したりしています(とはいえ無実の裏づけはとってます)。最後は容疑が晴れない容疑者をおとり捜査的に真犯人と特定しているので本格派というよりスリラー小説と個人的には分類します。 |
No.2170 | 5点 | 水戸・日立ビジネス特急誘拐事件- 浅川純 | 2019/10/07 23:15 |
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(ネタバレなしです) 初出は「スーパーひたち3号96分の罠」というタイトルだった1990年発表の本格派推理小説です。商談のために出張中の男が特急列車から消えてしまいます。会社の私立探偵ならぬ社立探偵が事件の謎解きに挑むプロットです。会社員経験のある作者は講談社文庫版の作者あとがきで「カイシャイン」がミステリーの探偵役になることに違和感を覚えたことが社立探偵の創立につながったと解説していますが、確かに一介の会社員が犯罪の謎解きで活躍するのは非現実的ではあるでしょうけど会社組織に社立探偵がいるという設定だってリアリティがあるとは思えません(古くはクリストファ・ブッシュの「完全殺人事件」(1929年)にも登場してますが)。犯人当ての謎もありますがそれよりもどうやって走行中の列車からの誘拐を実現したのかというハウダニットに重きを置いたようなプロットで、複数のトリックを組み合わせていますが理系トリックについては既に時代の古さを感じさせているように思います。動機にもかなりの独創性を感じさせてはいますが、あれだけの工数をかけた犯罪計画には見合わないような気もします。 |
No.2169 | 6点 | 突然に死が- ハロルド・Q・マスル | 2019/10/07 22:57 |
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(ネタバレなしです) デビュー長編のスカット・ジョーダンシリーズ第1作「わたしを深く埋めて」(1947年)がミリオンセラーとなる大ヒットとなった作者のシリーズ第2作が1949年発表の本書です。ジョーダンのアパートを突然訪れた見知らぬ男がその場で倒れて死んでしまいます。男は何の用事でジョーダンを訪れたのか、一体誰が何のために殺したのかという謎解きですがプロット展開は前作以上にハードボイルド風で、ジョーダンは自分は弁護士で私立探偵ではないと言いますがほとんど弁護士らしくありません。はったりと脅迫で容疑者たちと対峙する場面が多いです。同時代のE・S・ガードナーのペリー・メイスンシリーズとの違いを出そうとした結果なのかもしれませんが。本格派好きの私には肌が合わないなと思いながら読み進めましたが終盤に至るとジョーダンは本格派の名探偵と化し、謎解き伏線を次々に回収しながらの推理で犯人を追い詰めます。ここの本格度は「わたしを深く埋めて」を上回ると思います。とはいえ事件の決着は典型的なハードボイルド流の締めくくりになってますが。 |
No.2168 | 4点 | 遅すぎた殺人事件- 若山三郎 | 2019/09/30 21:23 |
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(ネタバレなしです) 1984年発表のユーモア本格派推理小説で、タイトル通り殺人事件の発生は物語の後半です。前半は間違い誘拐事件の謎解きを中心に進み、間違えて誘拐された(そして早々と解放された)浪人学生の梶田裕一と彼が惚れ込んでいる探偵好きの女子大生の町野由香が主人公です。裕一の思いつきレベルの推理を由香が修正していく展開はホームズ&ワトソンスタイルの典型と言えるでしょうが、困ったことに由香の推理だって実のところは思いつきレベルです。十分な証拠の検証もなく感覚的にこうであるはずと決めつけているだけで(それが正解という結果になるのですが)、推理好き読者が納得できる説明とは思いませんでした。 |
No.2167 | 5点 | ヴァイオリン職人の探求と推理- ポール・アダム | 2019/09/30 21:10 |
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(ネタバレなしです) 1993年のデビュー以来、大人向け作品と子供向け作品と両方を書き分けている英国のポール・アダム(1958年生まれ)が「Cremona Mysteries」という新シリーズを開始しました。2004年発表の本書がシリーズ第1作で、ヴァイオリン生産で世界的に有名なイタリアのクレモナのヴァイオリン職人のジャンニ・カスティリョーネ(本書では63歳)を主人公にしています(ちなみに作者自身、イタリア在住経験があるそうです)。親友の同業者が殺され、彼が幻のヴァイオリンを追い求めていたことが判って犯人探しとヴァイオリンの行方を追及するプロットです。手掛かりを求めてクレモナだけでなくイタリアのあちこち、果ては英国まで足を伸ばすトラベル・ミステリーでもあります。後者の謎解きの部分が圧倒的に多く、ヴァイオリンの描写、ヴァイオリンにまつわる歴史、ヴァイオリンを巡っての人間模様とヴァイオリンに関心が低いであろう読者が飽きないようにあの手この手を使っているのがひしひしと伝わってきます。一方で殺人事件の方は20章でジャンニ自身が認めているように「ただのカン」で解決しているようにしか感じられず犯人当て本格派推理小説としては不満の残る出来栄えです。ヴァイオリンへの情熱を殺人の謎解きの方にも費やしてほしかったですね(笑)。 |
No.2166 | 5点 | 「A寝台」殺人事件- 関口甫四郎 | 2019/09/30 20:49 |
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(ネタバレなしです) 1988年発表の天童一馬シリーズ第2作の本格派推理小説です。取材旅行で山梨や静岡を訪れたいた天童がそこで知り合った女性は天童と別れた後、密室状態の寝台列車で毒死します。死ぬ前の彼女の足どりを天童が調べていく地味な展開で、人間関係もどんどん複雑になっていきます。作者は密室のトリックと蘇生のトリックで読者に挑戦しているようですが、前者はともかく後者はトリックを見破る謎解きとは違うように思います。そもそも蘇生の謎ってどれのことなのかが三流読者の私にはよく理解できませんでした。解くべく謎が上手く伝わってこないのでせっかくの謎解き説明も空回りしているように感じます。 |
No.2165 | 6点 | 八人の招待客- パトリック・クェンティン | 2019/09/20 22:04 |
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(ネタバレなしです) 本国アメリカでも雑誌掲載したきりで単行本化されなかった中編「八人の招待客」(1936年)と中編「八人の中の一人」(1937年)を山口雅也が翻訳して1冊の単行本として2019年に国内出版しました。ちなみに国内紹介されたのはそれが初めてではなく、半世紀以上前の1950年代に前者は「ダイヤモンドのジャック」、後者は「大晦日の殺人」という日本語タイトルで雑誌掲載されています。どちらがどちらだか混乱しそうな新タイトルよりも英語原題の「The Jack of the Diamonds」と「Murder of New Year's Eve」に忠実な旧タイトルの方を個人的には支持したいですが。どちらもクローズド・サークル内での殺人を扱った本格派推理小説で、「八人の中の一人」はマンハッタンの高層ビルを舞台にして株主総会が終わった後に総会メンバーが殺される事件というのが珍しく、当時のミステリーとしては結構モダンです。閉じ込められた人々の中に犯人がいる(はず)という設定がサスペンスを盛り上げます。「八人の招待客」は脅迫された被害者たちが一堂に会するというのがアントニー・ギルバートの「黒い死」(1953年)を連想させますがプロットは全くの別物。脅迫者を始末しようと画策しますが予期せぬ展開を見せます。むき出しの殺意がサスペンスを盛り上げます。「グリンドルの悪夢」(1935年)に劣らぬサスペンスは一級ですけど解決が駆け足気味になったのが少々惜しいと思います。謎解きはじっくりと味わえさせてほしかったですが、これが中編の限界でしょうか? |
No.2164 | 5点 | H殺人事件- 清水義範 | 2019/09/20 21:26 |
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(ネタバレなしです) 清水義範(1947年生まれ)はパスティーシュ小説の第一人者として知られ、作品ジャンルは極めて多岐に渡りますがミステリーについては1985年発表の本書を皮切りとする躁鬱探偵コンビシリーズ(躁鬱を「でこぼこ」と読ませてます)とやっとかめ探偵団シリーズが代表作でしょうか。ユーモア本格派推理小説である本書ではシリーズ主人公の1人である不破太平の住んでいるアパートで殺人事件が起き、太平はアリバイを主張して容疑を晴らします。そのアリバイ証人がもう1人のシリーズ主人公の朱雀秀介で、初登場場面では被害者の死亡時刻を推理しますがこれがなかなかの切れ味で印象的、こちらが名探偵役であることを早々と読者にアピールしています。しかし肝心の最終章での犯人との対決場面では「証拠はありません。でも僕はそう思うのです」とかなりの部分を想像で補った推理になっていてご都合主義に感じられてしまうのが残念。通俗色はありますがそれほどくどくなく、思っていたよりは謎解きに集中しています。 |
No.2163 | 6点 | キャッスルフォード- J・J・コニントン | 2019/09/20 21:06 |
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(ネタバレなしです) 1932年発表のドリフィールド卿シリーズ第10作の本格派推理小説です。裕福な女主人が遺言書を変更すると発表しますが変更前に殺されてしまうという、よくある設定の事件の謎解きです。古い方の遺言書の破棄は達成しているので遺言書なしで死亡したことになり、利害関係がややこしくなりそうですがそこを深く追求するストーリーにならないのがちょっともったいない気もします。人物描写が上手くない作家と評価されているようですが本書では結構頑張っており、第2章「政略結婚」で語られる家族ドラマは読者の心に訴えるインパクトがあると思います。地道で重箱の隅をつつくような捜査が続くし、ドリフィールド卿の出番は後半になってからですがドリフィールド卿に助けを求めながら嘘や隠し事する容疑者など謎を盛り上げる工夫をしています。しぶとく抵抗する犯人を追い詰める、微に入り細に入りのドリフィールド卿の推理説明も読ませどころです。 |
No.2162 | 6点 | 八月の消えた花嫁- 野村正樹 | 2019/09/16 20:33 |
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(ネタバレなしです) 1989年発表の「殺意のバカンス」シリーズ第2作の本格派推理小説です。今回の舞台はタヒチで(但し後半は東京に舞台が移ります)、雑誌の読者特派記者に応募して当選した村上加奈子(速水敏彦は行けないのでちょっと不満げです(笑))が現地で事件に巻き込まれます。軽薄な観光ミステリーかと思ってあまり期待しないで読んだのですが、確かに観光要素もあって緩さを感じる場面もありますが謎解きプロットは意外とがっちりしてました。舞台設定は決してお飾りではなく、タヒチを選んだ理由がきちんとしていますし巧妙な手掛かりに基づく推理が光っています。なお集英社文庫版の巻末解説は犯人の名前こそ明かしていないものの、中盤の事件の被害者や後半に判明する秘密をばらしてしまっているので先には読まないことを勧めます。 |
No.2161 | 5点 | 魔女の不在証明- エリザベス・フェラーズ | 2019/09/16 20:13 |
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(ネタバレなしです) 1952年発表の本格派推理小説です。同じ被害者の死体が別々の場所で発見されたらしいという奇妙な事件で幕開けし、あやふやな証言にあやふやなアリバイと、ある作中人物が述べているように「何を考えるべきかも、どうしたらいいかもわからない」状態が続きます。下手な書き方だと退屈極まりなくなるのですが、主人公の混乱を上手くサスペンスに絡めているのがよい工夫です。これで複雑な真相説明をすっきり着地できていればかなりの傑作と評価できるのですが、どうも一部の謎が放ったらかしになってしまった印象を受けました。本当の被害者でない方の死体の身元については「警察は(中略)自分たちで推理するはずだ」で片づけてしまっているし、第2の事件についてはほとんど推理されてません。さらに終盤の第21章の終りで起きた悲劇に至っては尻切れトンボではないでしょうか。 |
No.2160 | 6点 | パリに消えた花嫁- 長井彬 | 2019/09/11 21:19 |
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(ネタバレなしです) 1989年発表の本格派推理小説です。結婚式間近だというのに婚約者の男性へ何も告げずに女性はヨーロッパへ旅立ちます。男性は当然不満を抱くのですが調べていくと旅行を企画手配した会社は架空の存在だったことが判り、女性への不信と同時に不安が芽生えます。ミステリーのテーマとして盛り上げるのが難しい失踪事件を扱っていますが、読者に対してのみ「女性からの届かなかった手紙」を随所で提示しているのがちょっとした工夫になってます。使われたアリバイトリックを「地球規模の密室」と表現しているのにはどう突っ込めばよいのか困ってしまいますし(笑)、謎解き伏線を前もって提示しているとはいえ犯人がアリバイを主張した瞬間に待ってましたとばかりに探偵役がトリック説明を開始する電撃的解決もいやはや何ともです(笑)。 |
No.2159 | 5点 | 瓜二つの娘- E・S・ガードナー | 2019/09/11 21:08 |
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(ネタバレなしです) 1960年発表のペリー・メイスンシリーズ第62作の本格派推理小説です。父親から朝食のお代わりを頼まれた娘が台所から食堂へ戻ってきた時には父親の姿は消えています。残っていたのは床の上に落ちていた新聞、手つかずのコーヒー、煙が立ち上るシガレットが置かれたままの灰皿、そして仕事カバン。カバンの中には「緊急事態が生じた場合は、ペリー・メイスン弁護士に、即刻電話すべし」とのメッセージがありました。さらに庭の離れの建物の床には大量の100ドル札がばらまかれ、血のような赤い液体が溜まっています(現場見取り図が欲しいところです)。謎に満ち溢れた導入部、そして劇的な展開と前半部は非常に充実してますが後半は失速気味。後出し感の強い証言に頼り切った解決はお世辞にも切れ味が鋭いとは言えず、家族ドラマは中途半端な状態で放り出されています。 |
No.2158 | 5点 | 潤みと翳り- ジェイン・ハーパー | 2019/09/04 22:41 |
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(ネタバレなしです) 5人の女性が企業主催の合宿研修に参加するが、遭難に合って山中から戻ってきたのは4人のみ。一体何が起きたのか、戻らない1人はどうなったのかの謎を読者に突きつける2017年発表のアーロン・フォークシリーズ第2作ですが、「渇きと偽り」(2016年)と比べると本格派推理小説要素は大きく後退し、代わりにサスペンス小説要素が強くなってます。合宿シーンとアーロンの捜査シーンを交互に描く構成ですが、前者のサスペンスは秀逸です。一方でアーロンが事件発生前から失踪者と何らかの関わりがあったことが示唆されていますが、その経緯をアーロンがなかなか説明しないなど謎解きはどうにも回りくどいです。真相解明につながる伏線はあるのですが、伏線が証拠に転じるのはかなり終盤近くであっけない解決です。本格派好きの私にはシリーズ前作ほどの充実感は得られませんでした。 |
No.2157 | 5点 | 61年目の謀殺- 日下圭介 | 2019/09/04 22:15 |
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(ネタバレなしです) 1990年に雑誌連載され1991年に単行本化された倉原真樹シリーズ第4作の本格派推理小説です。61年前の1929年に実際に起こった佐分利貞夫怪死事件を調べていたノンフィクション作家が殺されます。彼と口論していた同業作家が疑われ、そのアリバイ証人が真樹だったいう偶然はまだ目をつぶりますけど真樹までが佐分利事件に高い関心を持っていた理由はもっと明確にしてほしかったですね。現代の事件よりも61年前の事件の謎解きにやや重きを置いた感じですが、何しろ昔の事件ですからなかなか捗りません。おまけに佐分利事件の関係者と思われる人物が次々に謎の死を遂げていることが判ってきて、大がかりな事件の様相を呈しているのですが展開が地味過ぎてむしろ小ぢんまりした印象を与えてしまっています。しかし終盤近くになって新たな事件が起きると一気に劇的な展開となったかと思うと一気呵成に解決です。 |
No.2156 | 5点 | 神々の殺人- 篠田秀幸 | 2019/08/25 18:41 |
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(ネタバレなしです) 2006年発表の弥生原公彦シリーズ第10作の本格派推理小説で、ここまでのシリーズ作品全てに「読者への挑戦状」を挿入したことは見事だと個人的には評価したいと思います。「稗田阿礼こと、もと捜査官」と名乗る犯人から「国辱の記念日に」「聖地で」「国賊を抹殺していく」という殺人予告状が送られてきたことから犯人は警察官あるいは警察関係者ではという疑惑が膨れ上がり、古代史の謎解き、警察小説要素、さらには社会派推理小説要素まで贅沢に盛られてます。作者が「非常に危ない小説」と自己評価しているのはおそらく近代現代の政治思想の批判にまで踏み込んでいるからでしょう。自説を強調するあまり他説に対して攻撃的に過ぎる批判が散見されるのも好き嫌いが分かれそうです。ハルキ・ノベルス版巻末の「作者ノート」で作者が本書のことを「作家人生の中締め」と位置づけていることからまだまだ創作意欲はあったと思いますが、出版不況の波に翻弄されたのでしょうか本書以降は次作を発表する機会を与えられないままのようです(もう一つの職業である教職の方に専念しているのかもしれません)。 |
No.2155 | 6点 | 二人の妻をもつ男- パトリック・クェンティン | 2019/08/18 15:15 |
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(ネタバレなしです) 昔の創元推理文庫は本格派推理小説なら顔に「?」が描かれた男のマーク、サスペンス小説なら黒猫マーク、ハードボイルドなら拳銃マークとどんなミステリージャンルかを読者に示すサービスがあって私にはありがたかったのですが、本書については少々戸惑いました。なぜなら本のカバーには本格派マークが付いていたのですが、巻末の文庫目録ではサスペンスの項目に分類されていたからです。まあそんなんで困るのはジャンルの好みが片寄り過ぎている私ぐらいでしょうけど。文庫の紹介文が凄い。「1955年に発表されるや、英米両国のあらゆる批評家から最大級の賛辞」とか「新しき古典として推理小説史上に早くも不動の位置を占めたベストテン級の傑作」とか。ジャンルは気にしつつも(しつこい)、期待を高めて読みましたが、ありゃ凄くない(笑)。主人公が不幸な境遇の前妻に(今の家族には内緒で)同情したのがあだとなってどんどん状況が悪化するという、謎解きよりも人間ドラマ重視のサスペンス小説的プロットで、ダルース夫妻シリーズの「女郎蜘蛛」(1952年)を連想させます。打つ手がなくなった主人公が窮地を打開するには真犯人を見つけるしかないとアマチュア探偵として活動する終盤の展開がようやく本格派風、しかし主人公にしろトラント警部にしろ鮮やかな推理を披露して解決するわけではありません。地味にいい作品ですけど、派手な演出も気の利いた手掛かりも工夫をこらしたトリックもなく、創元推理文庫版の宣伝文句だけ妙にハイテンション(笑)。 |
No.2154 | 6点 | ストラング先生の謎解き講義- ウィリアム・ブリテン | 2019/08/14 20:35 |
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(ネタバレなしです) 作者を代表するミステリー作品といえば「読んだ男」シリーズとストラング先生シリーズ、どちらも作者の生前には本国アメリカでは短編集が出版されず、ようやく2018年になって「The Man Who Read Mysteies」という短編集が前者を全11作と後者を7作収めて出版されました。ちなみに日本ではこれよりも早くストラング先生シリーズを14作収めてぎりぎり作者が亡くなる前の2010年に論創社版の本書が出版されています。全32作の短編が短編集に収められることを祈念します。作風はエドワード・ホックの諸短編とアイザック・アシモフの黒後家蜘蛛シリーズの中間風の本格派推理小説で、凶悪犯罪が少ないことと往々にして犯人当て要素が軽視されています。他愛もない謎解きが多いですが本書の中では推理説明が丁寧な「ストラング先生の初講義」と異色の怪死事件の謎解きの異様な展開の「ストラング先生の熊退治」が印象に残りました。 |