皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2877件 |
No.357 | 7点 | 謎解きはディナーのあとで- 東川篤哉 | 2014/01/12 20:57 |
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(ネタバレなしです) 大富豪の令嬢刑事と丁寧な口調の毒舌執事(こちらが名探偵です)の活躍する6作から成る(小学館文庫版ではショート・ショート1作を追加)2010年発表の短編集で、(おそらく)史上初の年間ベストセラーのトップに輝いたミステリーです。楽々と100万部を突破し、とにかく「売れた」の一言に尽きます。作者自身もなぜこれだけ売れたのかわからないというのは本心でしょう。本格派推理小説の短編集として水準は問題なくクリアしていますが他の東川作品と比べて傑出しているかと問われれば多分ノー、「案外普通の作品だった」という感想が多いかもしれません。でも大人も子供も楽しめるという普遍性は狙っても案外難しいもの。その中から将来「本書を読んでミステリー作家を目指しました」というミステリー作家が生まれてくれば、それこそ本書に対する最大限の賛辞となるでしょう。 |
No.356 | 6点 | 命取りの追伸- ドロシー・ボワーズ | 2014/01/12 20:43 |
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(ネタバレなしです) 結核に倒れてわずか5作品しか残せませんでしたが、そのどれもが好評だった英国のドロシー・ボワーズ(1902-1948)が1938年に発表したデビュー作の本格派推理小説です。緻密すぎるぐらいの捜査描写が時に退屈ぎりぎりになってしまいますが、登場人物や自然描写など随所に光るものがあります。インパクトのある手掛かりはほとんどありませんがそれでも推理は丁寧です。パードウ警部の最後のせりふも印象的です。 |
No.355 | 4点 | 殺しはノンカロリー- コリン・ホルト・ソーヤー | 2014/01/12 20:36 |
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(ネタバレなしです) 1994年発表の「海の上のカムデン」シリーズ第5作ではあるのですが「海の上のカムデン」が舞台になっておらず、アンジェラとキャレドニア以外の住人も登場しません。とはいえこの2人がいれば面白さは十分、ダイエットプログラム積極派と消極派に分かれての対比が楽しいです。しかし謎解きは問題ありで、立ち聞きがきっかけで解決になだれ込むという展開は本格派推理小説好き読者としてはあまり感心できませんでした。 |
No.354 | 6点 | 監獄島- 加賀美雅之 | 2014/01/12 20:20 |
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(ネタバレなしです) 2004年発表のシャルル・ベルトランシリーズ第2作の本格派推理小説です。「綾辻行人の『「時計館の殺人』(1991年)と二階堂黎人の『人狼城の恐怖』(1998年)へのレスペクト作品」として書かれただけあって、光文社文庫版で上下巻合わせて1300ページを超す大分量と惜しげもなく注ぎ込んだアイデアの数々が圧巻です。これだけ謎解きのサービスされると気に入らない謎解きが少しぐらいあってもそれ以上に満足度の方が上回ります。バラバラ死体に火だるま死体など猟奇的な事件もありますが、グロテスク描写を極力排しているのも(そこが二階堂黎人とは大きく違う)個人的には好感度高いです。 |
No.353 | 4点 | アレン警部登場- ナイオ・マーシュ | 2013/10/28 01:00 |
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(ネタバレなしです) ニュージーランドのナイオ・マーシュ(1895-1982)はクリスティー、セイヤーズ、アリンガムと共に本格派黄金時代の女性作家ビッグ4と評される存在です。30冊以上書いた長編ミステリーが全てロデリック・アレンシリーズで非シリーズ作品なしというのが珍しいです(短編には非シリーズ作品もあります)。本書は1934年に発表したデビュー作です。シンプル過ぎるぐらいのプロットに子供だまし的なトリック、物語としての深みも求めようもなく、気軽の読めることぐらいしか取柄のない本格派推理小説です。熱心なシリーズファン読者以外には勧めにくいです。 |
No.352 | 6点 | ムーンズエンド荘の殺人- エリック・キース | 2013/07/03 13:11 |
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(ネタバレなしです) 創元推理文庫版の「雪の山荘版『そして誰もいなくなった』」という宣伝文句が強烈な(笑)、米国のエリック・キースによる2011年発表のデビュー作の本格派推理小説です。登場人物の過去を振り返る部分が多いのが諸刃の剣になっており、謎解きプロットを複雑にする一方でサスペンスを犠牲にしている点は否定できません。とはいえ後半はどきどきの連続になるし、最終章は畳み掛けるような推理説明が圧巻です。 |
No.351 | 5点 | 指はよく見る- ベイナード・ケンドリック | 2013/06/23 23:03 |
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(ネタバレなしです) 1945年発表のダンカン・マクレーンシリーズ第6作で彼の盲人設定を活かした描写もありますが、何といってもプロットのユニークさが光る本格派推理小説です。前半をマーシャを主人公にした犯罪小説、後半を本格派推理小説という構成は、ニコラス・ブレイクの「野獣死すべし」(1938年)や法月綸太郎の「頼子が死んだ」(1990年)を連想するかもしれませんが、後半も主役を依然としてマーシャにしているところはむしろパット・マガーの「探偵を捜せ!」(1948年)に近いかもしれません。読ませどころは一杯なのですが、終盤明らかになるマクレーンの「策略」はやり過ぎでしょう。これは意外性よりもアンフェアなやり方の方が目だってしまったような気がします。 |
No.350 | 5点 | 密室の妻- 島久平 | 2013/05/26 18:04 |
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(ネタバレなしです) 1962年発表の伝法義太郎シリーズ第2作ですがシリーズ前作の「硝子の家」(1950年)と比べるとハードボイルド要素が増えた、というよりずばりハードボイルド小説と言ってもいいかもしれません。過激ではないけど暴力の直接描写があり、探偵役の伝法のアクション場面も見られます。本格派推理小説としての推理による謎解きもありますが書かれた時代が本格派に逆風が吹いていた時期なので純然たる謎解きに徹した作品は発表しにくかったのかも。結末の伝法と犯人のやり取りは笠井潔の矢吹駆シリーズに見られる思想対決にも通じる重苦しいサスペンスに満ち溢れており、強烈な読後感を残します。 |
No.349 | 5点 | 銀河列車の悲しみ- 阿井渉介 | 2013/05/12 10:33 |
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(ネタバレなしです) 1992年発表の列車シリーズ第8作で島田荘司大絶賛というのもわかります。線路のない雪原に出現した列車という謎はいかにも絵になりそうで魅力的です。さらにゴジラ、宇宙、恐竜、塗り壁、烏天狗の目撃談とサービス過剰は相変わらずですがさすがにこの目撃談はあまりにも強引で、都合よく解釈しているとしか言えません。一方でいかに大木に列車をからみつかせるかのトリックは実現の難易度はともかくアイデアとしては優れていると思います。 |
No.348 | 4点 | QED 〜ventus〜 鎌倉の闇- 高田崇史 | 2013/05/12 10:19 |
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(ネタバレなしです) 2004年発表の桑原崇シリーズ第8作の本格派推理小説です。現代の謎解きの方は一応不可能性の高い謎(変わった状況下の人間消失)が提示されているものの、ページ数が少ない扱いの上にあまりにも後先を考えていない動機(というか計画)と腰砕けの真相には愕然としました。ページの大半を鎌倉と鎌倉時代の謎解きに費やしているのは歴史の苦手な私が見ても正解だったと思います。もっともこれも謎が前もって与えられているわけではなく、世間で認知されている歴史の常識に対して別の解釈を披露しているプロットなので、読者は自分が謎解きに参加しているという感覚はあまり味わえないと思います。20を超す寺社紹介はなじめませんでしたが、時代の勝利者だったはずの源頼朝の(少なくとも私にとっては)意外な一面の説明はそれなりの面白さがありましたが。 |
No.347 | 6点 | 蒸気機関車と血染めの外套- アランナ・ナイト | 2013/05/12 09:59 |
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(ネタバレなしです) 1989年発表のジェレミー・ファロシリーズ第3作です。シリーズ第1作が本格派推理小説、第2作がスリラー小説だったので本書は果たしてどちらに転ぶかと興味深く読みましたが、本格派推理小説でした。もっとも動機説明が事件解決後だったシリーズ第1作の「修道院の第二の殺人」(1988年)とも異なっていて、本書では事件関係者(特に最有力容疑者)の心理描写にとても力が入っています。あまりにも状況証拠が明快で謎解きがわかりやす過ぎる(手応えがなさ過ぎる)ところはあるものの、人間ドラマとしてはなかなか読ませる作品です。 |
No.346 | 5点 | ぼくらの時代- 栗本薫 | 2013/02/12 21:29 |
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(ネタバレなしです) 100冊を超すファンタジー小説の金字塔グイン・サーガシリーズを筆頭に400冊もの作品(評論やミュジカル脚本もある)を残した栗本薫(1953-2009)の小説部門第1号が1978年発表の本書です。小峰元の青春推理小説に影響を強く受けており、飄々とした若者描写が時に軽妙な雰囲気を演出しますが、謎解きは結構複雑に考えられており気を抜くと混乱します。とはいえ本格派推理小説としてはこの真相はお気に召さない読者もいるかもしれません(実は私もちょっと...)。動機の説明に力を入れており、この動機は色々と考えさせられます。 |
No.345 | 6点 | ケープコッドの悲劇- P・A・テイラー | 2013/02/03 14:02 |
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(ネタバレなしです) アメリカ本格派推理小説の黄金時代に活躍した女性作家のフィービ・アトウッド・テイラー(1909-1976)は20作ほどのアゼイ・メイヨシリーズを残したことで知られています(1951年以降は作品を発表しなかったのは本格派推理小説の人気凋落と重なったからでしょうか?)。デビュー作にして代表作とされる、1931年発表の本書はアガサ・クリスティーと同様、いやそれ以上に会話を重視し、捜査を含めて動きの描写の少ないプロットの本格派推理小説です。時に単調にもなりますがほとんどの登場人物の証言がどこか怪しく、容疑は転々とします。推理があまり論理的でないのが少々惜しいですが、当時のアメリカ本格派推理小説を代表するヴァン・ダインやエラリー・クイーンとは異なる個性を感じさせる作品です。 |
No.344 | 5点 | 感謝祭は邪魔だらけ- クリスタ・デイヴィス | 2012/12/25 21:47 |
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(ネタバレなしです) アメリカの女性作家クリスタ・デイヴィスが2008年に発表した、イベント・プランナーのソフィ・ウィンストンを主人公にした作品で、本国では「Domestic Diva」シリーズと呼ばれているそうです。推理で解決されていないところが少々不満ですが、コージー派のミステリ-としてはかなり謎解きに集中した作品だと思います。多彩な人物が織り成す人間関係が予想以上に複雑で、漫然と読むと結構手こずるかもしれません。デビュー作のためか詰め込み過ぎの感もありますが、プロットに起伏があってサスペンスはそこそこあります。 |
No.343 | 6点 | 修道女フィデルマの叡智- ピーター・トレメイン | 2012/12/25 21:37 |
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(ネタバレなしです) 「From Hemlock at Vespers」というタイトルで15の短編を収めて上下巻で2000年に出版されたのが本国オリジナルです。その中の5作品を選んで日本独自編集で出版したのが本書で、作者了解をちゃんと取ってはいたそうですがわずか5作品しか紹介しなかったことに当時の私は結構憤慨してました(笑)。その後「修道女フィデルマの洞察」、「修道女フィデルマの探求」で5作品ずつ小出し紹介して結局全作品が読めるようになったのでほっとしましたが。長編だと謎解き以外に時代描写や冒険小説要素などが織り込まれていますが、短編では謎解きに絞り込んでおり作風は少し違いますがアガサ・クリスティーに匹敵するほど引き締まったプロットだと思います。どんでん返しの印象度で「ホロフェルネスの幕舎」と「大王の剣」がお勧めですが、他の作品も甲乙つけがたいレベルだと思います。 |
No.342 | 6点 | 聖なる死の塔- 黒崎緑 | 2012/12/25 21:16 |
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(ネタバレなしです) 二階堂黎人の二階堂蘭子シリーズを薄味にしたような1989年発表の高梨洋子シリーズ第1作の本格派推理小説です。不可能犯罪やオカルト要素がありますが演出はあっさり目です。光文社文庫版の登場人物リストは全員女性ですが華やかさはなく全般的な雰囲気はむしろ暗い作品ですが、過度に重苦しくはありません。二階堂蘭子シリーズの演出が過剰過ぎて肌に合わないと感じる読者なら本書は受け容れやすいのでは。その代わり物足りなく感じる読者もいるかもしれません。謎解き後の結末のつけ方は賛否が分かれそうです。 |
No.341 | 5点 | 黒十字架連続殺人事件- 草野唯雄 | 2012/11/01 18:18 |
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(ネタバレなしです) 1981年発表の尾高一幸シリーズ第2作で、シリーズ前作の「支笏湖殺人事件」(1980年)は本格派推理小説でしたが本書はサスペンス小説だと思います。序盤で被害者の素性を尾高が推理しているあたりは本格派らしさもありますが、中盤以降は推理要素はほとんどありません。舞台が東京の勝鬨橋(かちどきばし)、新潟のスキー場、そして何とブラジルと移り変わります。犯人探しもさることながら動機の探求に力を入れており、そこには犯人側への同情を誘うようなところもありますが被害者の中には恨みを買うような理由のない者もいるので個人的には犯人に共感できません。そのためか終盤で尾高が犯人に肩入れするような行動を取っていますが、それが正当とは到底思えませんでした。 |
No.340 | 5点 | 少年探偵ロビンの冒険- F・W・クロフツ | 2012/11/01 17:19 |
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(ネタバレなしです) お堅いイメージのクロフツが1947年に子供向けミステリー(冒険スリラー系です)を書いていたとは驚きでした。しかも既存作品のアレンジではなくオリジナル作品です。この種の作品だと土壇場まで子供たちだけで奮闘するものが多いのですが、本書ではロビンもジャックも早い段階から大人に相談して助言を仰いでいます。大人視点だと聞き分けのいい子供で結構なんですが、もう少し羽目をはずさせてもいいのでは(笑)。シリーズ探偵のフレンチも登場しますがここでは脇役です。子供向け作品でも地味で手堅いプロットなのがこの作者らしいのですが、その代わりどきどき感もあまり味わえませんでした。大人でも難解な鉄道用語がたくさん散りばめられており、鉄道ファンを育てようとするもくろみが見え隠れしているような...。 |
No.339 | 5点 | 総理大臣秘書- 佐賀潜 | 2012/10/16 11:54 |
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(ネタバレなしです) 弁護士だった佐賀潜(1909-1970)は作家デビューしたのが1960年のため作家人生は晩年のわずか10年のみですが、社会派全盛期の時代の潮流に乗って政界、財界、産業界の影の部分を描いた作品を次々に発表し、「商法入門」(1967年)を始めとする法律入門書も好評、テレビ出演も果たすなどその10年は非常に充実したものでした。1967年発表の本書は1966年から1967年にかけて松本清張が責任編集した「新本格推理小説全集」10冊の一つですが...。確かに最終章では犯人当ての推理が披露され、謎解き伏線も紹介されています。しかし本格派推理小説らしさを感じさせたのはここだけで、他の章では政治と金、それをめぐる人間のどろどろした面と、その中で自分の主張を曲げずに奮闘する主人公の対比描写で占められており、典型的な社会派推理小説だと思います。これはこれでよくできていると思うのですが(苦味を含んだ結末が印象的です)、本格のレッテルを無理につけない方がよかったのでは。 |
No.338 | 6点 | 看護婦への墓碑銘- アン・ホッキング | 2012/10/09 18:55 |
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(ネタバレなしです) 1930年にデビューした英国の女性作家アン・ホッキング(1890-1966)は当初はサスペンス小説家として活動しましたがやがてオーステン警部シリーズ(1958年発表の本書では警視です)の本格派推理小説が創作の中心を占めるようになり、最終的に40冊近いミステリーを残したそうです。なかなか事件が起きないプロットですが脅迫者に転身する看護婦、患者やその家族などが上手に描き分けられて退屈しません。脅迫を扱いながらも陰湿さを感じさせない文章は心地よく、ぎりぎりまで犯人の正体を隠してじわじわとサスペンスを盛り上げます。本格派推理小説としては謎解きの難易度は高くないと思いますが幅広い読者に受け容れられる作品ではないでしょうか。 |