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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2755件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.335 5点 七人の迷える騎士- 関田涙 2012/10/09 01:09
(ネタバレなしです) 私がハードボイルドやサスペンス小説に関心を持たないのはそれらが残酷さ、気味悪さ、怖さ、汚らしさなどを過剰に表現しているのではないか、そういう作品はあまり読みたくないなというのが主な理由です。さて2003年発表のヴィッキーシリーズ第2作の本書は「読者への挑戦状」(正確には「ヴィッキーからの挑戦状」)が解決章の前に挿入されているし、暗号に密室、見立て風殺人など謎はたっぷり用意されていることからも王道的な本格派推理小説であることは間違いありません。犯人の計画が細かすぎて犯行の成功が好都合に感じられますが、謎解きもよく考え抜かれています。しかし23章以降の、犯人の動機に関わる部分(ネタバレ防止のために詳しく書けませんが)を長々と説明し過ぎたのは意外性よりも後味の悪さを残してしまったような気がします。犯罪の悲劇性を演出するという意味では成功したと言えなくもありませんが、個人的にはそこまで踏み込まなくてもと言いたいです。

No.334 7点 死のランデブー- ピエール・ボアロー 2012/09/18 19:11
(ネタバレなしです) ボアローはサスペンス小説家トーマ・ナルスジャックと親交を結び、やがてコンビ作家ボアロー&ナルスジャックとして「悪魔のような女」(1952年)を皮切りに20作以上の作品を発表することになるのですが、1950年発表の本書は単独執筆作品としてはおそらく最後と思われる、アンドレ・ブリュネルシリーズ第7作です。本書のフランス長編ミステリー傑作集版を読む場合には、まず巻末に置かれた「はしがき」を読むことを勧めます(フランスの原書では冒頭に置かれているようです)。ネタバレ防止のために詳しく書けないのですが、「謎は『誰が』でも『なぜ』でも『いかにして』でもないが、でも本格派推理小説である」という「はしがき」には嘘も誇張も感じられません。風変わりではありますが確かに本格派推理小説として楽しめる作品でした。登場人物の心理描写をたっぷり描いて不安を増長させているところはトーマ・ナルスジャックの影響を既に受けているかもしれません。

No.333 5点 虚空アカシャの殺人- 谷恒生 2012/09/18 18:51
(ネタバレなしです) 1984年発表の本格派推理小説です(当初は「血文字『アカシア』の惨劇」というタイトルでした)。「船に消えた女」(後に「横浜港殺人事件」に改題」(1981年)と同じく、文章はハードボイルド風で通俗色が濃く(中盤には官能描写もあり)、好き嫌いは分かれそうです。しかし前半の船員酒場の情景などはさすが海洋冒険小説を得意とした作家ならではの描写力が光ります。爆弾による殺人、血文字のダイイング・メッセージ、密室などの派手な要素はありますが作者が最も力を入れたのは人間心理の不可思議性の追求で、ページの大半を事件の背後にある複雑な人間関係を解きほぐすことに費やしているのが意外といえば意外でした。

No.332 6点 オシリスの眼- R・オースティン・フリーマン 2012/09/18 18:28
(ネタバレなしです) 1911年発表のソーンダイク博士シリーズ第2作です。1910年代の海外ミステリー作品はそれほど多く日本に紹介されていないので比較するのも難しいのですが、当時の水準を上回る本格派推理小説ではないでしょうか。事件性の曖昧な失踪事件を扱い、ようやく死体が登場してもそれが失踪者と同一人物なのか終盤まではっきりしないという展開が少々退屈ではあるものの、ソーンダイクの真相説明は予想以上に論理的で、一つ一つの推理は粗いのですがこれだけ丁寧に積み重ねられるとそれなりの説得力があります。随所でエジプト考古学に関する知識が披露されていますが、これは後のヴァン・ダインの「カブト虫殺人事件」(1930年)に影響を与えたかもしれません。

No.331 7点 壁-旅芝居殺人事件- 皆川博子 2012/09/12 17:32
(ネタバレなしです) 1984年発表の本格派推理小説で、サブタイトルだった「旅芝居殺人事件」が後年の出版ではメインタイトルに昇格しています。幻想的作風と本格派推理小説の謎解きの融合は非常に難しいのですが、本書はもやもやした雰囲気と謎解きのすっきり感の両立に成功したと言えると思います。推理説明は決して論理的ではありませんが説得力は強く、ほとんどの謎が解き明かされてから最後はまたもやもや感が強まって終わってしまうのですが、本書の場合はそれもありかなと納得しました。

No.330 7点 もの憂げな恋人- E・S・ガードナー 2012/09/12 16:41
(ネタバレなしです) 1947年発表のペリイ・メイスンシリーズ第30作でなかなかの会心作の本格派推理小説だと思います(私の読んだハヤカワポケットブック版では1954年と誤記されてましたけど)。前半はなかなかつかまらない関係者の追跡がスリリングに描かれ、ようやく会えたと思ったらこれがとんでもない曲者という始末。ここで見せ場を築いたのが「ころがるダイス」(1939年)でも活躍していた受付係のガーティで、第12章のユーモラスな展開は思わず笑ってしまいました。さらに後半では現場見取り図を駆使しての緻密な謎解きまで堪能できて至れり尽くせりです。

No.329 6点 魍魎の匣- 京極夏彦 2012/08/30 10:21
(ネタバレなしです) 1995年発表の百鬼夜行シリーズ第2作で、講談社文庫版で1000ページを超える分量に圧倒されました。それでも前作の「姑獲鳥の夏」(1994年)より読みやすく感じたのは関口が真っ当な(?)ワトソン役になっていることに拠ると思います。前半は回りくどいストーリー展開に悩まされるし、レキュラーキャラクター以外の登場人物(つまり容疑者たち)が意外と直接描写されていないのも本格派推理小説のプロットとしてはどうかなと思わないでもありません。真相の衝撃は相当なもので、本書がシリーズ屈指の傑作と評価されるのも納得できますが、謎解きの意外性よりは事件の異様性を強調したものとなっているので好き嫌いは分かれるかと思います。

No.328 6点 古時計の秘密- キャロリン・キーン 2012/08/16 13:35
(ネタバレなしです) キャロリン・キーンは特定の作家ではなく、複数作家による合同ペンネームです。米国作家のエドワード・ストラッテメイヤー(1862-1930)が少年少女向けミステリーを専門に発表する出版社兼作家団体のストラッテメイヤー・シンジケートを1906年に設立し、合同作業で書かれた膨大なシリーズ作品を世に送り出しましたがその最大のヒット作が世界で1番有名な少女探偵ナンシー・ドルーのシリーズです。ストラッテメイヤー・シンジケートは他の出版社に買収されてもう存在しませんが、このシリーズは今なおキーン名義で書き続けられています。本書は記念すべきシリーズ第1作で1930年に発表されています。起伏に富む展開、勧善懲悪の徹底、わかりやすい謎解きと子供向けミステリーの王道路線を行ってます。ナンシーは探偵能力以外は等身大の少女かと勝手に思っていましたが、車を運転したりモーターボートを操船したりと結構かっこよさをアピールしていたのが意外でしたね。いくらアメリカでもこの時代に車を運転する18歳の少女は珍しかったのでは。あと単に解決するのが目的でなく、弱者への思いやりを見せているのがよかったです。

No.327 4点 ヘア・デザイナー殺人事件- 山村美紗 2012/08/16 11:32
(ネタバレなしです) 山村美紗が量産作家になったのは長編5冊と短編集4冊を発表した1984年頃からだと思いますが、1985年発表のキャサリン・ターナーシリーズ第5作の本書は量産作家の宿命か、それまでのシリーズ作品と比べるとお手軽に書かれたような印象を与えています。消えた凶器の謎や2つの密室などそれなりの謎を用意してあるのですが、トリックが小手先トリック中心なのは一概に弱点とは思いませんけど説明があっさり過ぎて即興感が拭えません。どうやってその解決に至ったかをもっと丁寧に書いてほしかったです。まあ手軽に読めるというのはそれはそれで作品としての魅力にはなっているのですけど。

No.326 5点 孔雀の羽根- カーター・ディクスン 2012/08/16 10:43
(ネタバレなしです) 1937年発表のH・M卿シリーズ第6作の本格派推理小説で、警察監視状況下での密室殺人の謎が強烈です。非常に複雑なトリックで解決前にこれを読者が見破るのは難しいと思いますが。細かいところまで考え抜かれているのはさすがですが、(警察が)あるものを見落とす(気づかない)ことを前提としてあったりと結構綱渡り的だと思います(見落とす伏線も用意してはあります)。対照的に大胆な死体隠しトリックの方がシンプルゆえに印象に残りました。H・M卿へ挑戦状が送られたり手掛かり脚注を使っての謎解き説明があったりとトリック以外にも色々と趣向のある力作です。

No.325 5点 飛び鐘伝説殺人事件- 本岡類 2012/08/15 16:31
(ネタバレなしです) 1986年発表のユーモア本格派推理小説で、警察同士でもふざけたような会話が飛び交っています。その割りに個性を感じさせる登場人物が探偵役の秀円ぐらいしかいないのがちょっと辛いですが全般的には読みやすい作品です。「800kgもある鐘が空を飛んで人を押し潰した」という謎の魅力は一級品です。このトリックは証拠が残るので普通ならもっと早く見破られるだろうとは思うのですが、アイデアとしては中々の優れものもだと思います。

No.324 7点 夜の熱気の中で- ジョン・ボール 2012/08/14 16:56
(ネタバレなしです) 米国のジョン・ボール(1911-1988)は1950年代後半から作家活動を始めていますが最初の成功作は1965年発表の黒人刑事ヴァージル・ティッブスシリーズ第1作の本書で後年には映画化もされました。ティッブスが人種差別と戦いながら捜査をする、国内作品なら社会派推理小説に属する作品かと思い込んで長らく敬遠していましたが読んでみると違いました。人種差別描写は確かに、それも結構強烈に描写されており、奴隷制時代からの悪しき風習が米国南部にいまだ根強く残っていることにはカルチャーショックを受けました。しかしそれをハンデとはせず、自身の人間的魅力と探偵としての才能で解決へと前進するティッブスが実に格好いいです。社会問題の解決を期待する読者には勧められませんが、本格派推理小説の謎解きを純粋に楽しみたい読者になら勧められます。

No.323 5点 加賀友禅愛憎殺人- 山村正夫 2012/08/14 16:39
(ネタバレなしです) 滝連太郎シリーズは伝奇本格派推理小説と一般的に認知されていると思いますが、1993年発表のシリーズ第11作の本書はこのシリーズとしては珍しく伝奇要素のない本格派推理小説です。加賀友禅をモチーフにして和風の雰囲気を醸し出しているのが個性になっています。滝の推理は粗く、好都合的に登場した証人に助けられているのが謎解きとしての不満になっています。悲劇調になることの珍しくないシリーズですが、本書では滝の大食いぶりを随所で描いてそれを中和しており読後感は悪くありません。

No.322 6点 精神分析殺人事件- アマンダ・クロス 2012/08/14 15:15
(ネタバレなしです) 今でこそ男性の領域とされる分野で活躍する女性を主人公にしたミステリーは珍しくもありませんが、その先駆けとされるのが米国の女性作家アマンダ・クロス(1926-2003)のケイト・ファンスラー大学教授シリーズです。クロスは後にフェミニズム(男女平等主義)をミステリーに織り込んだ作家として有名な存在になりますが、デビュー作の本書は驚くことにユーモア本格派推理小説でした。ここにはフェミニズムの要素は全くなく、それゆえ作者の個性が発揮されていないと一般的な評価は低いようですが、私がこれまでに読んだクロス作品で純粋にミステリーとして楽しめたのは本書が1番でした。お堅い印象のタイトルですが(英語原題は「In the Last Analysis」)それほど学術的な難解さがないので私の好感度は高いです。

No.321 4点 扉の影の女- 横溝正史 2012/08/14 15:03
(ネタバレなしです) 1957年発表の金田一耕助シリーズ第21作ですがこれは結構問題作でしょう。地味な事件を地味に調べる盛り上がりに乏しいプロットなのはまだしも、この真相は本格派推理小説としては反則と批判されても仕方ないと思います。力作だった「悪魔の手毬唄」(1957年)と同年の作品とは思えません。金田一の日常生活が紹介されているのがファン読者へのアピールポイントにはなっていますが。

No.320 5点 ホッグズ・バックの怪事件- F・W・クロフツ 2012/08/14 14:45
(ネタバレなしです) クロフツの作品は探偵役の行動だけでなく考えていることまで丁寧に描写しているので早い段階で犯人の見当がつきやすいのが珍しくありませんが、1933年発表のフレンチ警部シリーズ第10作となる本書では最後まで犯人の正体を隠しているだけでなく何と64個の手掛かり索引を使っての推理説明があります。とはいえこの手掛かりは大半が重箱の隅をつついたような細かい手掛かりで、そんなところまで覚えていられるわけないだろうと凡才読者の私としては抗議したくもなりましたが。それにしてもこんな失踪事件で(最終的には殺人事件に発展しますが)引っ張り出されるなんてロンドン警視庁って結構暇なのでしょうか(笑)?

No.319 5点 出口のない部屋- 岸田るり子 2012/08/13 18:39
(ネタバレなしです) デビュー作の「密室の鎮魂歌」(2004年)はサイコ・スリラー要素のある本格派推理小説ですが、2006年発表の長編第2作の本書は本格派推理小説要素のあるホラー小説というのが個人的な評価です。怖いというより気持ち悪いと感じましたが。前半はややもたもたした展開で、犯罪描写はありますがミステリーらしくありません(ホラーらしくもありません)。後半はテンションが上がります。謎解きはやや駆け足気味な気もしますが、要点のわからないばらばらの物語を有機的にまとめあげる手腕は見事で、作者の実力の高さを十分に示しています。本格派とホラーの組み合わせというと今邑彩や綾辻行人もそういう作品を書いているので比較するのも面白いかも。

No.318 7点 スリー・パインズ村の不思議な事件- ルイーズ・ペニー 2012/08/13 17:58
(ネタバレなしです) ルイーズ・ペニー(1958年生まれ)はカナダ人の女性作家で2005年発表のガマシュ警部シリーズ第1作である本書でミステリー界にデビューし、レジナルド・ヒルやピーター・ラヴゼイから好意的なコメントを寄せられています。このシリーズは一時期コージー派ミステリーであるかのように紹介されたこともあったような記憶がありますが、どうしてそうなってしまったのでしょうか?キャロライン・グレアムの傑作「蘭の告発」(1987年)に雰囲気の近い本格派推理小説で登場人物の心理を非常に丁寧に描き、平和で静かな世界の秘められた悪意をガマシュ警部が追求するプロットになっています。謎解き伏線もしっかり張っており、なかなかユニークな手掛かりが印象的です。ガマシュ警部も十分に活躍していますが、もう1人名探偵にふさわしい推理をした人がいましたね。

No.317 6点 ライン河の白い霧笛- 高柳芳夫 2012/08/13 15:47
(ネタバレなしです) タイトルが紛らわしいですが1981年発表の本書は「ライン河の舞姫」(後に「『ラインの薔薇城』殺人事件」に改題)(1977年)とは全く別の作品です。小説部分のプロットには釈然としないところもあります。例えば主人公の鷹見が敵対的であることに気づきながら雇い主のヴォルフマンが解雇しないのは不思議としかいいようがありません(いくら優秀でも運転手の代わりならいくらでも見つけられそうですが)。また鷹見のキャラクターも読者の共感を得られるかは疑問です。しかし本格派推理小説の謎解きとしてはユニークなトリックが光る作品で、一読の価値は十分にあります。

No.316 6点 QED 龍馬暗殺- 高田崇史 2012/07/13 11:37
(ネタバレなしです) 2004年発表の桑原崇シリーズ第7作の本格派推理小説です。本書で取り上げられた歴史の謎は坂本龍馬暗殺事件で、歴史の苦手な私でも知っている暗殺事件であることと、本格派推理小説の犯人当てに通じるところがあるので比較的とっつきやすい歴史の謎解きでした。とはいえ桑原崇の説明は(奈々の指摘の通り)物的証拠のない解決なのですっきり感は得られませんでしたが。現代の事件の方は何と嵐の山荘ならぬ嵐の村落で起こったのが新鮮でした。ところが警察の介入がないので大手を振って探偵活動するのかと思ったら、事件そっちのけで龍馬暗殺の議論に明け暮れているではありませんか。そりゃ彼らは一般人だから犯罪事件に自ら顔を突っ込まないのが普通と言われればそれまでですけど。最後はちゃんと解決していますけど、色々な意味で私の思惑を外された作品でした。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2755件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)