海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

空さん
平均点: 6.12点 書評数: 1490件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.50 8点 サン・フォリアン寺院の首吊人- ジョルジュ・シムノン 2008/12/24 21:46
メグレ警視シリーズ中、最初に読んだ作品であり、今なお最も好きな作品でもあります。
シムノンは自分の作風を印象派になぞらえたことがあったはずですが、国境の小さな駅や夜の街角の情景は、まさにルノワールなどの絵のタッチを思わせる雰囲気があります。
メグレの執拗な捜査に追い詰められた男たちがついに過去の事件の告白を始めるところから、静かな感動がじわじわ広がっていきます。ラスト、立ち去って行くメグレの後姿も印象に残ります。

No.49 7点 疑惑の霧- クリスチアナ・ブランド 2008/12/24 20:50
最後数行で明かされる点については、かなり早い段階で見当がついてしまいました。ブランドの作品では初めてのことで、しかもこの点に気がつけば、真相全体がある程度見通せるというものです。気がついた理由を書くと、たぶんそれだけでネタバレになってしまいますが。
とは言っても、やはりブランドらしく、登場人物たちをじっくり描きこんだ上で、最後近くなって事件を紛糾させまくる構成は楽しめました。それだけでなく、この作品では最後数行の点がかなり皮肉な扱いをされている点も指摘しておくべきでしょう。

No.48 7点 密告者- 高木彬光 2008/12/23 13:01
株での失敗や産業スパイの話など、『白昼の死角』の作者らしい経済派サスペンスとでも呼びたいような発端から、殺人事件が起こって話は謎解きへと移っていきます。
読者には、主人公(前半の)が犯人ではないことがわかっているだけに、霧島検事より有利な立場にあると言えるでしょうが、真相は、そう考えれば無理なくすべてのつじつまが合う、という非常にすっきりしたものになっています。
しかし、検事ともあろう者が単なる詐称を詐欺と言ってしまっては困りますね。

No.47 10点 三つの棺- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/23 10:26
本書を勧めた相手から、マニアックすぎると言われたこともあります。
確かに凝っています。雪道での事件のとんでもない偶然がなかったら、かえってわけのわからない状況を生み出していたかもしれません。その偶然のため、殺人者の行動経緯が表面上明確になり、不可能状況を際立たせることになっています。天気予報どおり雪が降らなかったら、行方の全くわからない殺人者という謎だけになっていたでしょう。
犯行が偶然うまくいったというのではなく、普通に目立たない完全犯罪をもくろんだはずが、予想外の積雪などの偶然が重なって不可能殺人になってしまったということなのですが、元の計画に偶然を組み合わせてよくもここまで複雑な状況を組み立てたものだと、あっけにとられます。
冒頭で目撃者は嘘をついていないと断言する、作者にとっても自信満々のプロットです。自信があるからこそ、密室講義もしているのでしょう。個人的には、機械的な分類など別にどうでもいいのですが。

No.46 8点 十日間の不思議- エラリイ・クイーン 2008/12/22 20:24
『最後の一撃』に至るまでクイーンがこだわり続けるパターンが最初に現れる長編ですね。殺人事件はなかなか起こりませんし、登場人物はごく限られていて、フーダニットとしてのおもしろさはほとんどありません。起こったことの原因を探る過去指向ベクトルよりも、次に何が起こるのかの未来指向ベクトルの方が大きくなったと言えるのではないでしょうか。
とは言っても、最後はやはり論理的に犯人の計画を解析してくれます。しかし、これが初期のクイーンからは考えられないほど重い。小説の長さもかなりのものですが、このじっくり描きこまれた重量感が魅力的な力作です。

No.45 8点 オランダ靴の秘密- エラリイ・クイーン 2008/12/21 14:56
本の中にメモを書ける余白をあけたページを入れるなんて(少なくとも創元推理文庫版は)よくもこんなことやりますね。ホントに何かメモを取る人、いるんでしょうか。生真面目な感じだった前2作に比べ、各章のタイトルの凝り方にしても、知的遊戯を楽しむ余裕が感じられます。
推理プロセスの面白さだけでなく、犯行方法の工夫も見られるようになりましたが、やはり本書の目玉はなんといってもタイトルにもある一足の靴から導き出される推理です。それに対して第2の事件の方では、同一犯人による犯行だとの証明が欠けている点がちょっと弱いのではないかと思いました。

No.44 6点 死が二人をわかつまで- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/21 11:14
密室を構成するのにあるものを使っていたという点が、不可能犯罪の巨匠らしくないと不満を言う人もいるかもしれません。しかし、今回の密室の最大のポイントは、そんなものを使える余地がなかったと錯覚させる工夫でしょう。「毒殺魔」(創元推理文庫版のタイトル)疑念に対する解決も、きれいに決まっていますし、その疑念と密室殺人とを結びつける手際が巧妙です。
ただ、第2の事件はサスペンスを盛り上げるために無理に付け足したような印象がありました。

No.43 7点 笑わない数学者- 森博嗣 2008/12/20 12:32
逆トリックについて書かれたものをいくつか読んでみたのですが、どうもピンときません。テーマということなら、考えどころのあるミステリだと思うのですが、「逆トリック」と言われると、納得できないのです。そんな難しいことを考えなくても単純に、この小説全体の構成からすると、事件の中心にあるトリック(オリオン像消失)はこれくらいシンプルな方がいいのではないかという気がします。
公園の謎の二人によるリリカルな雰囲気もあるラスト・シーン、特に最後の一言が印象的ですね。答(本作中で提示される謎に対する)が「不定」の時にはただネガティヴに不定だと突き放すのでなく…
タイトルは「数学者は笑わない」ではないな、とも思ってみたりして。

No.42 6点 カナリヤ殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2008/12/20 12:13
機械的密室トリックは、現在ではあまりにも初歩的という感じかもしれません。もう一つのトリックも、同時期クリスティーの某作品で使われているのと同工異曲ですが、クリスティーの犯人が巧みに殺人現場から証拠品を持ち去るのに対し、こちらでは平然とそのまま残しています。これはいくらなんでも危険過ぎないか、という不満はあるでしょう。
ポーカーによる心理分析によって犯人が特定できても、犯人が使った後者のトリックは不明なままです。最後に殺人現場を再度検証した際、唐突にトリックが判明するという段取は、ヴァン・ダインがこの作品までは、後のクイーンのような、読者との知恵比べという意識がなかったことを示しているように思われます。

No.41 8点 Yの悲劇- エラリイ・クイーン 2008/12/18 21:45
バーナビー・ロス名義で発表されたこの作品の中で、作者はクイーン流推理への自信を表明していますが、実はその推理も含め、いくつか不満のある作品でもあります。
あくまでX、Zに比べればですが、中だるみの印象がありますし、レーン得意の変装が結局活用されないままなのにも拍子抜けしました。さらに、ルイザが犯人に触れたことから導き出される推理についても、レーンが「難しい」と主張していたことは、実際にやってみればわかりますが、簡単にできるのです。
などと文句もつけてみましたが、上記は犯人特定の推理のごく一部ですし、何といっても初期作品群の中では最も重厚感のある本書は、やはり読みごたえ充分です。ラスト数行も、言外の内容を実に鮮やかに伝えているという意味で記憶に残ります。

No.40 7点 殺人者は21番地に住む- S=A・ステーマン 2008/12/17 22:04
別に謎として提示されているわけではないのですが、最後近くになってやっと、探偵役が誰であるかわかるいう意外性もありました。その探偵役によって犯人の正体が指摘されるシーンはなかなかスリルがあり、劇的な効果をあげています。
大胆な犯人の意外性のアイディアというと、まず叙述トリックを思い浮かべると思いますが、そうではなくて、あくまで犯人の策略によるものであるところも好ましく、「読者への挑戦」が入っているのも納得の謎解きミステリです。

No.39 9点 オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー 2008/12/16 22:27
オールスター・キャストで原作に忠実に映画化するには、確かにもってこいの作品でしょう。同一製作者によるクリスティー・シリーズ最初の映画になったのも納得できます。
冷静に考えれば、バカミスもいいところのアイディアです。がちがちの謎解きを期待して読み、その期待にたがわずポアロが論理的に解き明かしてくれるからこそ、とてつもない意外性があるのだとさえ言えるでしょう。
ただ、このアイディアを実現するためには、ある程度仕方がないのかもしれませんが、若干ストーリーに起伏がとぼしい気がしました。

No.38 6点 出雲伝説7/8の殺人- 島田荘司 2008/12/16 21:37
派手な猟奇殺人を扱ってはいても、かなりまともなトラベル・ミステリという感じですが、共犯者が殺人自体も行ったのではないかという説に対する反証が、意外に記憶に残ります。個人的には、アリバイを作るために共犯者を使う設定は、何でもできそうという気がして好きになれないのですが(クリスティーのような意外な共同正犯は別です)、偶然が関与しているとはいえ、このような明快な反証があれば、納得できます。
動機にもなったヤマタノオロチ伝説の起源に関する論考もおもしろかったですね。

No.37 5点 月明かりの闇- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/15 22:23
冒頭部分に出てくる謎の人物の正体が、結局事件を解き明かす鍵なのですが、これがなかなかわからないようになっています。人間関係が事件を複雑にして読者を惑わせておいて、最後にうまく説明をつけるあたりはさすがですが、最後までカーがこだわっていた不可能殺人トリックの方は、さっぱり冴えません。
それにしても、章の切れ目で毎回劇的なことを起こして、何が何でも話を盛り上げようとするサービス精神には、笑ってしまいますね。

No.36 5点 タラント氏の事件簿- C・デイリー・キング 2008/12/15 22:12
全体的に話自体もトリックも、なんとなく堅苦しい印象を受けました。同時代の巨匠たちの短編はそんなことはないので、古い作品だからというわけでもないでしょう。
密室トリックとしては珍しいパターン「釘と鎮魂曲」、ぞっとさせる真相(科学的にはあり得ませんが)の「第四の拷問」、いかにもの不可能犯罪「消えた竪琴」あたりが楽しめました。最後の「最後の取引」は全くミステリではなく超自然的なテーマを扱っていて、小説としては悪くないのですが、このような連作短編集の最後に入れるべき作品であったかどうか、疑問は残ります。

No.35 8点 白昼の悪魔- アガサ・クリスティー 2008/12/14 18:28
読み始めてまもなく(殺人が起こる前)、あれっと思いました。このシチュエーションの元になった短編を以前に読んでいたからです。
しかしさすがはクリスティー。元の短編も傑作だったのですが、それに新たなアイディアをたっぷり盛り込み、見事に長編化してくれていました。最後にポアロが関係者たちのアリバイをかたっぱしから崩していくところも驚きで、犯人が最初からわかっていても充分楽しめました。

No.34 9点 Xの悲劇- エラリイ・クイーン 2008/12/14 15:39
第1の殺人事件の段階で犯人の見当はついてしまいました。というのも、実は似たアイディアを思いついたことがあったものですから。と思っていたら、続いて起こる事件でさっぱりわけがわからなくなりました。同じパターンのヴァリエーションをクイーンはいくつか書いているのですが、まんまと騙されました。
論理の積み重ねの見事さは、言うまでもないでしょう。ラスト1語に謎解きの最後の1片を当てはめてみせるのは『フランス白粉』と似た趣向ですね。個人的には『Yの悲劇』よりも好きな作品です。

No.33 6点 真夜中の意匠- 斎藤栄 2008/12/13 12:31
1つの殺人・1人の容疑者にもかかわらず、まさにアリバイのつるべ打ち。鮎川哲也のような鉄壁のアリバイではなくて、崩しても崩しても新たなアリバイが主張される、ほとんど漫才のような趣向です。
漫才ですから、リアリティを言い出すのは野暮というものでしょう。刑事たちは真面目に捜査を進めていきますが、笑いながら読むのが一番だと思います。

No.32 5点 アラビアンナイトの殺人- ジョン・ディクスン・カー 2008/12/13 12:21
カーの作品中たぶん最長のミステリは、奇妙なユーモアを漂わせながら、うんざりするという人がいるのももっともなくらいゆったりと進んで行きます。
殺人の不可解な状況に合理的な説明をつけていく第3の語り手ハドリー警視の捜査と推理は緻密で、説得力がありました。すべてが説明し尽くされたように思えますが、それで終わってしまってはフェル博士の出番がありません。そこで、作者はメタ・ミステリ的な構造をとって、別の犯人を指摘させています。ただ、その推理は安易な手がかりを基にしていますし、どんでん返しというほどでもなく、少々がっかりでした。

No.31 8点 ABC殺人事件- アガサ・クリスティー 2008/12/12 23:34
初めて読んだ時は、クリスティーとしては特にすぐれているとも思わなかったのですが、再読して評価を改めました。
本作のメイン・トリックに似た発想は、すでにチェスタートンにあり、ブラウン神父とポアロが同じことわざを引用しています。そしてこの後いろいろな形で応用されて行くわけですが、本書で注目すべき点は、なんと言ってもカスト氏の設定だと思います。彼の性格づけも、ヘイスティングズの手記への挿入の仕方もさすが匠の技で、このあたりが単に謎を複雑化して読者をだませばいいと思っている作家とは違うところでしょう。

キーワードから探す
空さん
ひとこと
ハンドルネームの読みはとりあえず「くう」です。
好きな作家
E・クイーン、G・シムノン
採点傾向
平均点: 6.12点   採点数: 1490件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(110)
アガサ・クリスティー(65)
エラリイ・クイーン(53)
松本清張(32)
ジョン・ディクスン・カー(31)
E・S・ガードナー(29)
横溝正史(28)
ロス・マクドナルド(25)
高木彬光(22)
ミッキー・スピレイン(19)