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空さん
平均点: 6.12点 書評数: 1490件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.130 8点 下宿人- ジョルジュ・シムノン 2009/03/31 23:00
殺人者の視点から描かれた、シムノンらしい心理小説です。
殺人動機が、被害者の持つ大金を盗むためであるにもかかわらず、通常のミステリのような冷静さ・計算高さを主役は持っていません。なぜ彼は被害者を不必要に何度も殴打し続けたのか? この問いには犯人自身はっきり答えることはできないでしょう。カミュの『異邦人』の殺人理由が、太陽がまぶしかったからだというのと同じような感覚があります。ただし、本作は『異邦人』より8年も前に書かれていますが。
愛人の母親が営む下宿屋に転がり込んだ彼と、女主人や他の下宿人たち等との奇妙にねじれていく関係が、不条理感を出していて、ラストの海辺のシーンも印象に残ります。

No.129 7点 本陣殺人事件- 横溝正史 2009/03/29 14:19
大げさで複雑なトリックは、小説よりも映画を見て感銘したという人がいるようですが、確かにそうかもしれません(映画は見ていないのですが)。都筑道夫が絶賛していた三本指の男の言葉は、その役回りも含め『獄門島』の例のせりふと同じように、確かになるほどそうかと納得させてくれます。
最後にはクリスティーを引き合いに出してきて、作者からの注釈風に嘘は書いていないと弁明しているところなど、やはり影響を受けたカーと同じようなことを考えるものですね。
ただ、『獄門島』の動機にはすんなり納得できた私も、この動機にはさすがに首をかしげざるを得ません。

No.128 5点 愛国殺人- アガサ・クリスティー 2009/03/28 10:12
この内容に対してこのタイトル(原題もその直訳邦題も)を付けるってどうなんだろう、とちょっと気になります。全く異なるもう一つの原題"One Two Buckle My Shoe"は、日本語にはしにくいですが。
最初の殺人の動機と第2の殺人の犯行方法が意外で、それをうまく組み合わせた工夫はさすがだと思います。ただし、その後がありきたりな手法を使っていて、そのために犯人だけは見当がついてしまうという点が不満です。また、この犯人のキャラクターなら、このような犯行方法をとるだろうかと疑問に思えるところもあり、評価は少々低めにしています。

No.127 7点 帽子から飛び出した死- クレイトン・ロースン 2009/03/26 23:39
名探偵グレート・マーリニがマジシャンというだけでなく、マジック界やいんちき霊媒の世界を舞台にした第1作です。
犯人が使った様々なトリックは、途中でどんどん解明していくのですが、それでも犯人の正体はなかなかわからないように構成されています。密室殺人、人間消失など不可能状況のてんこ盛りは、この作者の他の作品と同様、かえって煩雑な印象はありますが、全体をまとめる大胆なアイディアがひとつあるおかげで、結末の意外性がうまく決まっていると思います。

No.126 6点 Dの複合- 松本清張 2009/03/25 23:35
最初のうちは紀行文取材旅の途中、死体が埋められているという匿名の投書による捜索の場面に出会うというだけの、ありふれた話なのですが、さすがはトラベル・ミステリーの元祖でもある芥川賞受賞作家、文章の運びがうまく、それなりに読ませてくれます。
その後浮上してくる数字の謎。このミッシング・リンク・テーマは40年代末から50年代頃のクイーンをも思わせますが、そこに浦島・羽衣伝説をからませたところが、古代史等にも造詣が深い作者ならではです。ただクイーンにも多少言えることですが、さらに伝説による暗喩まで加えると、やはりかなり不自然になってしまいます。人物関係も複雑にしすぎたきらいがあり、最後の謎解きがどうもすっきりしませんでした。
途中で説明される言葉遊びと比喩を基にしたタイトルも、ちょっとくるしいですね。

No.125 7点 エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン 2009/03/23 22:59
少なくとも昔は、国名シリーズ中のベストと一般的に言われていた作品です。乱歩をはじめとする当時の日本ミステリ界では、猟奇的な連続殺人事件というクイーンにしては珍しい「怪奇性」と「中盤のサスペンス」が、好まれたのでしょう。事件の進展が長期間にわたるため、実は個人的には少々退屈なところもあったのですが。
現代において、直感で犯人を当てることは難しくないでしょうが、「結末の意外性」というより推理はやはり見事です。最後の事件現場での手がかりについてはかなりの行数を費やして目立つように書かれていますが、その意味するところを見破るのは至難の業でしょう。そこから連続殺人全体の構図が一気に見通せる気持ちのよさ。
ただ、最後に犯人を追跡していくアクション・サスペンスには、それで逮捕できるのだったら、あの有名な手がかりは結局必要なかったのではないか、とも思ってしまいました。

No.124 5点 仮面荘の怪事件- カーター・ディクスン 2009/03/22 11:39
『妖魔の森の家』に収録されている元になった短編を以前に読んだ時には、シチュエーションの不可解さとその鮮やかな解決に感心したのですが、長編にまで引き伸ばすには不向きな作品だったような気もします。考えどころが限定されているため、長編ならではの複雑な人間関係や事件のさらなる展開でストーリーを膨らませるのが難しいパターンなのです。
犯人の正体を示す新たな手がかりも、英米でさえ一般的とは言えない歴史的知識がないとよくわかりません(実は私は知っていたにもかかわらず、気づきませんでした)。結局、H・M卿のマジックなど事件自体とは無関係なできごとを入れてページ数を増やしただけ、という感じは否めません。まあ、基になったアイディアがすぐれているので、それなりに読ませてはくれますが。

No.123 7点 牧師館の殺人- アガサ・クリスティー 2009/03/20 13:28
クリスティーは別の名探偵が登場するある短編で、本作とほとんど同じアイディアを使っています。つまり、長編としてはたいしたネタではないのですが、村に住む様々な登場人物が絡み合って、読んでいておもしろいのです。
ミス・マープル最初の事件ということで、彼女は最初事件の重要な目撃者として登場します。その後、鋭い指摘を繰り返し、名探偵らしさを発揮していくことになります。ミス・マープルの探偵としての才能に前から気づいていた村の牧師の一人称形式で書かれることで、新たな名探偵の誕生を納得させてくれていると思います。また、筆者が牧師であることにより、村人たちからの相談を受けることが自然になる点も見逃せません。
最後に明かされる謎の婦人の正体も、なかなか意外でした。

No.122 6点 迷路- フィリップ・マクドナルド 2009/03/19 22:13
完全なフェアプレイ作品ということだったので、期待して読んだのですが…
確かに、構成からしても名探偵は読者と全く同じ情報からのみ(通常、名探偵が見聞きした情報を読者は読むという違いがあります)推理を進めていくのですが、そのこととミステリとしてのおもしろさは別でしょう。検死審問の記録にしては意外に飽きさせない、という程度です。事件解決の手がかりとそこから導き出される推理については、確かに納得はできるのですが、クイーンの国名シリーズほど驚くようなアクロバティックさはありませんでした。それより、後味のちょっと悪い犯人の動機がかなり印象に残ります。

No.121 8点 蝶々殺人事件- 横溝正史 2009/03/17 22:38
『本陣殺人事件』に1ヶ月遅れて雑誌連載開始された本作では、作者が戦前から登場させていた由利麟太郎を探偵役として起用しています。クロフツの『樽』を意識したとは言っても、やはり横溝正史の持ち味は綿密な捜査過程ではありません。最後の推理で一気にもつれた謎を解いてしまう構成です。コントラバス・ケースを利用したトリック自体も、むしろなんとなくカーを思わせます。もう一方のトリックは後の長編でもそのまま再利用されていますね。
個人的には、『本陣-』より厳格に構成されているようなところが好きな作品です。

No.120 5点 シタフォードの秘密- アガサ・クリスティー 2009/03/16 22:06
降霊会で霊が告げたメッセージは、老大佐の死だったという発端は、どう見ても疑わしい感じがします。さて、これはやはり大佐の死を知っていた者のしわざか、それともひょっとして単なるミスリーディングか…
読んでいて、現場付近の位置関係がはっきりしないため、トリックが明らかになってもすっきりとはいきませんでした。またそのトリックも、「それ」が可能なら普通そうするんじゃないの、と思えてしまいます。ポアロもミス・マープルも登場しない作品だからということもあるでしょうが、手がかりが直接的すぎる上フェアな描写と言えない点も気になりました。乱歩などは高く評価していたそうですが、それほどの作品とは思えません。
ただ、直接の動機はなかなか意外でしたし、さらにその直接の動機があるにしても殺人までを決意させた理由も、納得のいくものでした。

No.119 7点 エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン 2009/03/14 12:52
短い中に推理の競い合いの趣向を取り入れた最初の『アフリカ旅商人の冒険』が、解決もきれいにまとまっていて、続く作品の期待を高めますが、次の凶器になり得る物が現場にいくつもあったという謎の『首つりアクロバットの冒険』はいまひとつです。ドイルの『六つのナポレオン胸像』パターンをひねった『1ペニー黒切手の冒険』もおもしろいですが、切手の隠し場所は無茶に思えます。まあ、M.B.リーが切手収集を趣味にしているだけに、あり得ることを確認して書いたのかもしれません。『見えない恋人の冒険』が犯人のトリックも手がかりもよくできた傑作。『双頭の犬の冒険』も謎解きは単純ですが、雰囲気はあります。

No.118 4点 四つの兇器- ジョン・ディクスン・カー 2009/03/13 22:25
久々に登場するバンコランは、しかし以前のようなおしゃれなところが全くなくなり、かといってフェル博士やH・M卿ほどのあくの強さも感じられません。
タイトル(原題直訳:4つの偽凶器)はチェスタトンを意識したと言われていますが、現場に凶器らしきものがいくつも転がっているというだけでは、カーにしては特に魅力的な謎とは思えません。現場に残された手がかりをつなぎ合わせていくのはミステリの常道であり、本作ではそれらの手がかりがたまたますべて凶器になるものだったというわけです。
実際の凶器は、犯人自身にさえも意外なものだったというオチになっていますが、専門的な知識が必要となるので、一応の伏線があるとはいえ、一般読者が真相を見破ることは不可能でしょう。
最後のカードゲームはなかなか興味深かったのですが、偶然の扱いもすっきりとは言えず、全体的にはいまひとつ冴えない感じでした。

No.117 6点 雷鳴の夜- ロバート・ファン・ヒューリック 2009/03/11 22:11
1961年の作品ですが、もっと古典的な雰囲気が楽しめました。ひとつには歴史ミステリということもあるでしょうが、謎解き部分に関しては、いわゆる英米の本格派黄金時代以来のフェアプレイ精神より前の時代、ホームズ・シリーズ等を思わせるようなところがあります。ファン・ヒューリック自身が描いた挿絵のうちいくつかには手がかりが隠されているという趣向も、微笑ましい感じです。
ただし、道教の大寺院については全体図はあるのですが、クライマックスの推理と告白(?)の部屋の位置も、その後の天の裁きの場所も、どうにもはっきりしないのが不満です。
ところで、実在の人物だという狄判事はともかくとして、他の登場人物の漢字名は、中国学者でもある作者自身が指定しているのでしょうか。

No.116 5点 沈黙の函- 鮎川哲也 2009/03/10 22:49
殺人事件が起こった後、警察の捜査についてはほぼ丹那刑事の視点から書かれていきます。それが残り50ページぐらいになって、突然鬼貫警部が登場して鮮やかに事件の謎を解きほぐすという構成がどうも不自然に感じられます。鬼貫警部も最初から事件を担当していたはずじゃないのか、と思ってしまうのです。その時点になって、たとえばどこかへ長期出張していた鬼貫警部が戻ってきたというような説明もないのですから。
トリック自体はなかなか巧妙ですが、読者は最初からのいきさつを知らされているため、犯人は(行動に多少不自然なところもあり)すぐわかってしまいます。まあ、鮎川作品ですから、それはかまわないのかもしれません。論理的に考えれば、最初の容疑者が本当に犯人だったら、切断した首を発送するなんて愚かなことをするわけがない、という点を警察が無視して捜査を進めているのも気になりました。

No.115 6点 悪の起源- エラリイ・クイーン 2009/03/08 09:34
久々にハリウッドを舞台にした本作は、しかし以前のハリウッド2作とはまた感じが変わり、やはり直前の『ダブル・ダブル』との共通点が感じられるミッシング・リンク系のプロットになっています。途中に手紙が原文のままが出てくるので、当然手がかりが隠されているはずだとはわかるのですが、英語に堪能でないと、どこがおかしいかには気づかないでしょうね。逆に手紙が英語で書かれているのが当然な英語圏の読者との違いです。
ラストのやりとりは、やはり妙に記憶に残ります。人によってこの部分に対する感じ方はかなり変わってくると思いますが、個人的には意外にすんなり受け入れられました。

No.114 6点 髑髏城- ジョン・ディクスン・カー 2009/03/07 14:33
論理性という点では、フォン・アルンハイム男爵が間違っていることを示す手がかりは確かにありますし、特に指紋の問題はその時代ならではの着眼点だと感心しました。
しかし、本作の魅力は何と言っても、火に包まれた被害者が城壁から墜落する印象的な情景から始まる、ゴシック・ロマンを思わせるトーンでしょう。秘密の通路が出てくるなどとここで書いても、全然ネタばらしにはならないようなスタイルの作品です。

No.113 5点 ロープとリングの事件- レオ・ブルース 2009/03/05 21:33
小説としての出来ばえで評価すれば、あまり高い点数は付けられません。いくら犯人の意外性が原理的に独創的で説得力があっても、その意外性を劇的に見せるストーリー構成ができていなければ、効果は半減です。本作では、ごく普通に考えれば第1の事件での犯人像が、明らかな証拠からかなりしぼられてしまうため、ミスディレクションが有効に働いていないのです。
たぶん同時代の巨匠たちに対するコンプレックスに根ざしたと思われる奇妙なユーモアも、それほど楽しめませんでした。ビーフ巡査部長自身はなかなか愉快なキャラクターなのですが。

No.112 7点 夜の終る時- 結城昌治 2009/03/04 22:51
日本初の悪徳警官ものという評価が定着している作品ですが、ほとんど3/4近くを占める第1部は、悪徳警官の疑いがある刑事が殺された事件を他の刑事たちが捜査するという筋書きで、ハードボイルド系警察小説という印象を受けました。元々ハードボイルド作品には悪徳警官が登場することはよくありますが、その部分をメインに据えた、ということになるでしょうか。犯人の正体については、疑惑が確信的嫌疑にまで高まったところで、第1部を終えています。
残りの第2部は、その第1部のラストを受けて視点を入れ替え、犯人の側から描かれていくわけですが、この切り替え部分が鮮やかです。中公文庫解説で権田氏は倒叙推理小説の手法と書いていて、確かにそのとおりなのですが、やはりハードボイルドっぽい哀しみを持つこの第2部は、松本清張などでおなじみの最後の犯人告白部分を拡張充実させた構成ともとれると思いました。

No.111 7点 エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン 2009/03/02 22:40
中編『神の灯』は傑作として知られていますが、方法論だけで言えば、約7年も前に別の作家が同じアイディアで長編を書いています。ただし、その長編では本作のような魔術的な効果を演出しているわけではありませんし、策略がうまくいくかどうかも疑問なところがあります。クイーンにしては珍しいことではないかと思うのですが、方法よりも効果の奇抜さが際立つ作品だと思います。
後の作品は全体的に前の『冒険』より短編小説らしい仕上がりになっているものが多いと思いますが、中でも『暗黒の家の冒険』がクイーンらしい論理を見せてくれます。『ハートの4』のポーラ・パリスが出てくるスポーツ物の中では、『人間が犬をかむ』が長編『アメリカ銃の謎』よりすっきりとまとまった解決で、おもしろいと思いました。『正気にかえる』はクイーン自身の某長編と同じ発想。

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空さん
ひとこと
ハンドルネームの読みはとりあえず「くう」です。
好きな作家
E・クイーン、G・シムノン
採点傾向
平均点: 6.12点   採点数: 1490件
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