皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.145 | 6点 | ダンケルクの悲劇- ジョルジュ・シムノン | 2009/04/23 21:34 |
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匿名探偵のG7という変名は、先進7か国の会議とは何の関係もなく、第1作で出てくるタクシーから採っています。『13の秘密』と同様、ほとんどショート・ショートといってよい短い作品の連作で(原題を直訳すれば「13の謎」)、かなり謎解きを中心とした短編集です。謎解きと言ってもシムノンですから奇抜なトリックを弄したものではありませんが、消えたけが人、溺死体の盗難、不可解な容疑者などの奇妙な事件をいずれもきれいにまとめてくれています。
なお、第3作の『引越の神様』という邦題は何のことかわかりませんが、要するにポルターガイスト(引越:移動、神様:霊)のことです。 |
No.144 | 5点 | 青銅ランプの呪- カーター・ディクスン | 2009/04/21 22:46 |
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「ミステリーの発端は人間消失の謎にまさるものはない」ですか、うーん(討論相手のクイーンには堅牢な家屋消失なんて魔術的作品もありますが)。
しかし要は消え方でしょう。確かにタイトルの呪いを利用した最初の消失状況は不思議な感じがして、なかなか魅力的ですし、さらに再度同じような人間消失を起こしてみせるところも、さすがにうまいと思います。ただ、やはりその2つの(異なった)消失方法については、どちらもあまり冴えず、そのわりに作品は長すぎる気がします。 確かに動機はなるほどと思わせられるのですが、H・M卿演出による最後の「キメ」の部分も含め、少々腰砕けの感じがしました。青銅ランプ自体が最後どう扱われたかはおもしろかったですが。 |
No.143 | 5点 | 旅人たちの迷路- 夏樹静子 | 2009/04/20 21:32 |
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女性刑事と嘱託医が主役の謎解き2中篇を収めた作品です。
『焼きつくす』は当然そこが問題になるだろうなというところをひねっています。犯人の設定は犯行現場との関係で納得いきますが、バッグの扱いと都合のよい偶然があまりに不自然かなと思いました。 『現場存在証明』では海外ミステリ巨匠の傑作のアイディアをひっくり返したようなトリックが使われていて、感心したのですが、この殺人方法にこのタイトルはやめてもらいたかったですね。 そう言えば、本のタイトルも内容とそぐわないと思います。 描写でなく説明になってしまっているようなところのある文章は気になりました。 |
No.142 | 7点 | 満潮に乗って- アガサ・クリスティー | 2009/04/18 09:48 |
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1948年に書かれた作品で、クリスティーにしては珍しく、大戦中と戦後の時代における経済的、心理的状況がかなり取り入れられています。爆撃による富豪の死が一応発端となっていますし、特に主役と言ってよいリンが本当は何を求めているのかという点も、戦争をめぐって描かれています。
ポアロが登場する短いプロローグの後、第1部の殺人が起こるあたりまではいかにものパターン展開なのですが、第2部に入ってポアロが再登場してからはさすがにミステリの女王の面目躍如といったところです。恋愛要素もうまく組み合わせて、意外な結末を劇的に構成してくれています。 |
No.141 | 8点 | ブラウン神父の不信- G・K・チェスタトン | 2009/04/17 22:39 |
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12年ぶりのブラウン神父ということで、冒頭作の『ブラウン神父の復活』はホームズの生還を意識していると言われていますが、これはほとんど冗談みたいなとんでもない復活劇です。『犬のお告げ』(密室というほどのものでもないでしょうが、お告げの意味が素晴らしい)、『ムーン・クレサントの奇跡』(この殺人方法のアイディア自体が奇跡的)等有名作の他、クリスティーあたりが使いそうな単純なトリックの『ギデオン・ワイズの亡霊』が好きです。 |
No.140 | 7点 | 死者の中から- ボアロー&ナルスジャック | 2009/04/15 21:57 |
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ヒッチコックの傑作として知られる『めまい』の原作ですが、サンフランシスコを舞台とした映画の明るいロマンチックな雰囲気とは全く違い、どろどろした感じが最初から漂っています。ヒッチコックと比べるなら『サイコ』の不気味さが本作の感じにむしろ近いでしょうか。真犯人がどうなるかは原作では映画と違っているのですが(というより映画ではほとんど無視)、小説の展開はちょっとした驚きでした。
それにしても最終的にトリックが明かされた後、ラストの主人公の確信には、悪夢もここに極まれりという感じです。 |
No.139 | 7点 | 三角館の恐怖- 江戸川乱歩 | 2009/04/14 21:30 |
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作者のロジャー・スカーレットは本作で(というか本作扉の原作タイトル及び作者名表記で)初めて知り、気になる作家になりました。とは言っても、創元からも出ている原作『エンジェル家の殺人』の厳密な翻訳は実は読んでいないのですが。エレベーターの密室殺人トリックや遺産相続をめぐる意外な動機など、パズラーとしてよくできています。
乱歩は原作のプロットをもちろん高く評価していたのですが、文章があまりよくないと感じたのではないかと言われているようです。この翻案(映画化なども一種の翻案です。本作のような翻案や映画化だけでなく忠実な翻訳も、原作著作権者の許諾が必要で、無断で行えば著作権法違反です)は乱歩自身の文章で書き直したということなのでしょう。謎の訪問者の不気味さなどの雰囲気作りが、さすがにうまいと思います。 |
No.138 | 5点 | 死者のあやまち- アガサ・クリスティー | 2009/04/12 15:07 |
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事件の裏に潜む秘密については、かなり強引な力技が使われています。それに関して途中はてなと思った証言があったのですが、その意味するところまでは推理できませんでした。その過去の秘密さえ暴かれればすべては単純明快ですが、ポアロが真相に気づき推理を披露するあたりのプロセスにちょっと唐突感があり、少女殺害の動機に明確な具体性が欠けるせいもあって、いまひとつすっきりしませんでした。
それにしてもクリスティーの分身ともいえる登場人物オリヴァー夫人が、最初の方で思いっきり重要な暗示的ヒントを、まさに手がかりとして述べているところは痛快です。オリヴァー夫人には後半ももう少し活躍してもらいたかったな。 |
No.137 | 4点 | 帝王死す- エラリイ・クイーン | 2009/04/11 11:31 |
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風変わりな設定と奇妙な事件。聖書とのアナロジーはクイーンらしいテーマだと思うのですが、やはり不可能性を前面に出したプロットが得意な作家ではないな、という認識を新たにさせられるできばえだと思います。途中で、トリックはそのうちわかるだろうとエラリーが言っているのでは、不可能興味は盛り上がりませんし、実際のトリックの出来もいまひとつです。しかもその事件では殺人が不成功に終わり、最終的には犯人がクイーン親子を利用した意味がない結末を迎えてしまうという、どうも釈然としない作品でした。 |
No.136 | 7点 | 超高層ホテル殺人事件- 森村誠一 | 2009/04/09 23:17 |
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3つの殺人事件のうち、超高層ホテルで起こるのは最初の1つだけです。この最初の事件で使われる密室トリックがなかなかとんでもない方法で、本当に大丈夫かと思えますが、そういうリアリティの問題よりもむしろ、それ以外の可能性を否定する段取が甘いところが気になりました。ただしこれは半分に満たないぐらいで解き明かされてしまいます。後の2つの殺人では、アリバイとチェーン・ロックによる密室がうまく組み合わされています。
それだけトリックを盛り込みながら、お得意のホテル業界を舞台とした企業戦争の顛末をいやらしく描き出す部分も、説明的になってしまっているところがあるのは少々不満ですが、さすがに迫力があります。 |
No.135 | 7点 | 女魔術師- ボアロー&ナルスジャック | 2009/04/07 23:27 |
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ミステリとしてどうだというより、主人公マジシャンの芸人魂の描き方がすごい作品です。後半彼が個性的な舞台演技を見出していくところは鬼気迫るものがありました。
邦題からはわかりませんが、原題は「女魔術師」の複数形です。複数であることがストーリーと謎解きにからんでくるわけですが、小説半ばで起こる事件は一応不可能犯罪なのですが影が薄く、ラストになって、そういえばそんな殺人も途中で起こったなあぐらいにしか感じません。だからといって、失敗作だとは思わないのですが。 |
No.134 | 8点 | ユダの窓- カーター・ディクスン | 2009/04/06 21:27 |
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あまりにも有名な密室トリックは読むだいぶ前から知っていましたが、こういうふうに使われていたんですね。現実的には確かにちょっと無理もありますが、切れ味抜群なので許してしまいましょう。
トリックを知っていてもやはり事件の全容はさっぱり見当がつかなかったのですが、さまざまな謎が裁判の中で次々解き明かされていくところ、さすがに傑作の名に恥じない見事な構成の作品だと思います。怪奇趣味は全くなく、H・M卿が引き起こす笑いもひかえめで、冒険的要素も見られないという、この作者にしてはある意味まともすぎるほどの謎解きが堪能できます。 |
No.133 | 5点 | 砂の器- 松本清張 | 2009/04/04 11:59 |
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実は第2の殺人に使われたようなタイプのトリックが、目新しいものをあまりにも直接的に使っていて好きになれない上、重厚なテーマとの相性がよくないように感じました。そのため、後半は無理やり引き伸ばしたような印象を受けます。その後で映画を見た時にはうまくアレンジしたなと感心するとともに、まさに映画ならではの音楽(「宿命」)の扱いに感動しました。ちなみに小説と映画とでは、音楽の種類が違います。
前半は小説もおもしろいですし、方言の考察など小説だからこその謎解きの緻密さもあるのですが、個人的にはやはり長すぎると思います。 |
No.132 | 8点 | 五匹の子豚- アガサ・クリスティー | 2009/04/03 22:13 |
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『アクロイド』や『オリエント急行』のような驚天動地のアイディアもなく、『ナイルに死す』や『白昼の悪魔』のようないわば教科書的な巧妙なトリックもありません。それにもかかわらず、nukkamさん等本作を絶賛する人は多いですし、私も大好きな作品です。
16年も前に起こった殺人事件ということで、ポアロが当時の事件関係者たちに質問していき、関係者それぞれがポアロに事件の思い出を手紙に書き送るだけの地味な展開です。また、真犯人の正体を隠しているのはほとんど動機に関するワン・アイディアだけで、これといった殺人トリックもありません。ところが、それにもかかわらず読んでいて面白く、結末の意外性も満足のいくものなのです。関係者たちが同じ人物に対して全く異なる見解をしていて、それら証言の中から真実を見極めていく手際は、まさにクリスティーならではだと思います。ただ、犯人を見破るための伏線がもう少しあればなという感じもします。 |
No.131 | 5点 | 第八の日- エラリイ・クイーン | 2009/04/01 22:31 |
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ダネイ自身が後期の中で気に入っている作品として挙げていたのがこれですが、謎解きミステリとしてだけなら、後期のエラリー登場作の中でも特にあっけないものです。
しかし、『十日間の不思議』以来クイーンが何度か取り上げてきた宗教的なテーマということでは、最も充実した作品と言えるでしょう。完全に外界から隔絶されたコミュニティーの中で進むストーリーは、SF的な感じさえします。実際の執筆を担当したのはSF作家のエイヴラム・デイヴィッドスンだということですが、この作品なら納得できます。誰でも指摘することでしょうが、最後の「聖典」が何だったかという点は、殺人事件の真相よりはるかに意外でした。 |
No.130 | 8点 | 下宿人- ジョルジュ・シムノン | 2009/03/31 23:00 |
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殺人者の視点から描かれた、シムノンらしい心理小説です。
殺人動機が、被害者の持つ大金を盗むためであるにもかかわらず、通常のミステリのような冷静さ・計算高さを主役は持っていません。なぜ彼は被害者を不必要に何度も殴打し続けたのか? この問いには犯人自身はっきり答えることはできないでしょう。カミュの『異邦人』の殺人理由が、太陽がまぶしかったからだというのと同じような感覚があります。ただし、本作は『異邦人』より8年も前に書かれていますが。 愛人の母親が営む下宿屋に転がり込んだ彼と、女主人や他の下宿人たち等との奇妙にねじれていく関係が、不条理感を出していて、ラストの海辺のシーンも印象に残ります。 |
No.129 | 7点 | 本陣殺人事件- 横溝正史 | 2009/03/29 14:19 |
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大げさで複雑なトリックは、小説よりも映画を見て感銘したという人がいるようですが、確かにそうかもしれません(映画は見ていないのですが)。都筑道夫が絶賛していた三本指の男の言葉は、その役回りも含め『獄門島』の例のせりふと同じように、確かになるほどそうかと納得させてくれます。
最後にはクリスティーを引き合いに出してきて、作者からの注釈風に嘘は書いていないと弁明しているところなど、やはり影響を受けたカーと同じようなことを考えるものですね。 ただ、『獄門島』の動機にはすんなり納得できた私も、この動機にはさすがに首をかしげざるを得ません。 |
No.128 | 5点 | 愛国殺人- アガサ・クリスティー | 2009/03/28 10:12 |
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この内容に対してこのタイトル(原題もその直訳邦題も)を付けるってどうなんだろう、とちょっと気になります。全く異なるもう一つの原題"One Two Buckle My Shoe"は、日本語にはしにくいですが。
最初の殺人の動機と第2の殺人の犯行方法が意外で、それをうまく組み合わせた工夫はさすがだと思います。ただし、その後がありきたりな手法を使っていて、そのために犯人だけは見当がついてしまうという点が不満です。また、この犯人のキャラクターなら、このような犯行方法をとるだろうかと疑問に思えるところもあり、評価は少々低めにしています。 |
No.127 | 7点 | 帽子から飛び出した死- クレイトン・ロースン | 2009/03/26 23:39 |
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名探偵グレート・マーリニがマジシャンというだけでなく、マジック界やいんちき霊媒の世界を舞台にした第1作です。
犯人が使った様々なトリックは、途中でどんどん解明していくのですが、それでも犯人の正体はなかなかわからないように構成されています。密室殺人、人間消失など不可能状況のてんこ盛りは、この作者の他の作品と同様、かえって煩雑な印象はありますが、全体をまとめる大胆なアイディアがひとつあるおかげで、結末の意外性がうまく決まっていると思います。 |
No.126 | 6点 | Dの複合- 松本清張 | 2009/03/25 23:35 |
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最初のうちは紀行文取材旅の途中、死体が埋められているという匿名の投書による捜索の場面に出会うというだけの、ありふれた話なのですが、さすがはトラベル・ミステリーの元祖でもある芥川賞受賞作家、文章の運びがうまく、それなりに読ませてくれます。
その後浮上してくる数字の謎。このミッシング・リンク・テーマは40年代末から50年代頃のクイーンをも思わせますが、そこに浦島・羽衣伝説をからませたところが、古代史等にも造詣が深い作者ならではです。ただクイーンにも多少言えることですが、さらに伝説による暗喩まで加えると、やはりかなり不自然になってしまいます。人物関係も複雑にしすぎたきらいがあり、最後の謎解きがどうもすっきりしませんでした。 途中で説明される言葉遊びと比喩を基にしたタイトルも、ちょっとくるしいですね。 |