皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.225 | 6点 | ダイヤル7をまわす時- 泡坂妻夫 | 2009/10/21 21:32 |
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最初の『ダイヤル7』はよくできた正統派の謎解きで、まあ意外性演出パターンどおりとも言えるかもしれませんが、犯人を意外な手がかりから指摘してくれた後、さらに叙述形式を利用したひねりを用意していてサービス度充分。次の『芍薬に孔雀』も叙述形式というか語り口に工夫があり、さらにマジシャンとしての知識が盛り込まれた作品ですが、ちょっと懲りすぎで不自然になった感じがします。
しかしそれよりTetchyさんも挙げられている3作の雰囲気がいいですね。特に『青泉さん』のチェスタトン風な逆転の論理に滋味を加えた匙かげんがいかにも泡坂妻夫らしく、最も気に入っています。 |
No.224 | 5点 | ロウソクのために一シリングを- ジョセフィン・テイ | 2009/10/18 13:14 |
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最後に明かされる犯人は意外といえば意外です。個人的には動機も納得できましたし、殺害にあるものを利用した点も単純ながら合理的であることは間違いありません。
しかし、その人物が犯人であることにグラント警部が気づく直接的な手がかりが読者には示されないまま、すぐに犯人逮捕に直結してしまうという段取は、1930年台のミステリだと思えません。他の怪しげな人物たちの行動への説明や逃亡者の再出現もあわせて、最後の十数ページにつめこまれ過ぎていて、消化不良な感じがします。 死体発見の冒頭から警察署長の娘エリカの活躍あたりまでは、文句なく楽しかったのですが。ヒッチコックもここらへんを気に入って、『第3逃亡者』として仕立て直したのではないかと思えます(実はこの映画、見てないのですが)。 |
No.223 | 7点 | あるスパイの墓碑銘- エリック・アンブラー | 2009/10/15 22:14 |
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無国籍者という弱みにつけこまれて、警察から手先になるよう強要された「私」。滞在中のホテルの中にいるスパイは誰か?
ホテルというクローズド・サークルの中でのフーダニットならぬ「フーズスパイ」(誰がスパイか)とでも言ったらいいでしょうか。ただし、真相にたどりつくための手がかりがあらかじめ読者に提示されているわけではありません。真相究明に苦慮する一人称主人公のかなりのまぬけぶりは、私が読んだ筑摩書房版では訳者がクリスティー翻訳が多い田村隆一氏だということもあるせいか、なんとなくヘイスティングズをも思わせます。 それにしても、登場人物の口を借りて第二次世界大戦直前(1937~8年)という時代状況をはっきり感じさせる展開は、さすがシリアス・スパイ小説の第一人者でした。 |
No.222 | 6点 | 怪盗レトン- ジョルジュ・シムノン | 2009/10/13 21:40 |
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このメグレ・シリーズ第1作は、やはり後の作品とは微妙に違うところが感じられます。
まず目につくのは章立て。次作からは初期にはたいてい11章、その後は8~10章ぐらいなのですが、本作では19章と細かく分かれています。メグレの風貌が特に詳しく書かれているのも、最初の作品だからこそでしょう。部下のレギュラーメンバーの内では、リュカがちらっと登場するだけです。途中で殺し屋に殺される刑事はトランスという名前ですが、後の作品でも登場する同名の刑事は別人(親族?)と言うより、クイーンのニッキー・ボーターみたいに作品相互間の矛盾を気にしていないだけのように思えます。説明的な文章が所々あるのも、後の作品には見られない特徴です。 違いばかり強調しましたが、台風の中、港町での張り込みの描写など、やはりいかにもシムノンです。 |
No.221 | 5点 | スペードの女王- 横溝正史 | 2009/10/10 14:11 |
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刺青師の奇妙な体験から始まり、内股にスペードのクイーンの刺青をした女の首なし死体発見、さらに政財界にも影響力を持つ男の殺害、とストーリーは快調に進んでいきます。これは横溝正史の隠れた秀作か、と期待させられますが…
メインになる首なし死体パターンのヴァリエーションは決して悪くないのですが、残念なことに犯人の人物造形と動機が拍子抜けで、さらに最後の犯人逮捕に至る過程が変に通俗的になってしまっているのです。 1960年発表ですので、松本清張登場後の作品ということになります。しかし、横溝正史は大物殺害時点で「大きな社会的波紋にはしばらく目をつむり、殺人事件としてだけ、この問題にふれていこう」と書いていて、まさに反社会派というか非社会派というか。 |
No.220 | 7点 | シャーロック・ホームズの冒険- アーサー・コナン・ドイル | 2009/10/07 19:46 |
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ホームズ初登場の短編『ボヘミアの醜聞』は、なんとこの名探偵のいわば失敗談ともいうべき話です。こういう意外な作品から、ストランド・マガジンへの連載は開始されたんですね。
全編を通して、1910年台いわゆる本格派黄金時代以降確立された考え方に則って見れば、不満なところもあるでしょう。特に『ボスコム渓谷の惨劇』『五個のオレンジの種』等は意外性が全くないと思うかもしれません。しかし、そのような不満は社会派の観点から横溝正史を批判するのと同じような無いものねだりにすぎないと思います。 ××にミルクだとか(卵ならまだわかりますが)、土をどうしたのかとか、有名作にも論理的・科学的欠陥は指摘されていますが、そういったあら捜しも楽しい古典中の古典です。 |
No.219 | 5点 | もの言えぬ証人- アガサ・クリスティー | 2009/10/04 12:33 |
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もの言えぬ証人とは、被害者の老婦人の愛犬ボブのことです。とは言っても、ボブがドイルの『銀星号事件』のような意味で重要な証人になるわけではないので、看板に偽りありという気もします。
1937年発表の本作、ヘイスティングズの一人称形式ものとしては、『カーテン』を除くと長編では最後の作品のはずですが、最初の50ページぐらいは三人称形式という異例の構成をとっています。作者もワトソン役による手記形式の限界を感じていたのかもしれません。 三人称形式部分による登場人物紹介の後、ポアロが2ヶ月以上も前に書かれた事件依頼の手紙を受け取るという謎から始まり、捉えどころのない事件の全貌を明らかにしていく手際はさすがですが、結末の意外性はクリスティーにしてはそれほどと思えませんでした。「犯人の意外性パターン」として分類しにくい犯人像のせいか、完全にだまされたという人もいるようですが。 |
No.218 | 7点 | 密閉山脈- 森村誠一 | 2009/10/02 20:01 |
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タイトルどおりの山岳ミステリです。大学時代ワンダー・フォーゲル部に所属し、登山が趣味だったという森村誠一だけに、迫真の山の描写が堪能できます。山での火葬シーンもインパクトがありました。このあたりは、同じころ書かれた芸能界や航空業界を舞台にした作品より小説としての迫力が感じられます。
トリック自体は大したことはないのですが、登攀、下山が困難な山頂をスケールの大きな一種の密室と化してみせた発想はお見事。また、疑惑が起こるきっかけや動機の問題など、なかなか巧みに構成されていますし、犯人の殺人計画も細かいところまで練りこまれていて、好印象を与えます。 最後2ページぐらいでもおまけのショッキングな出来事を用意しているという、読みどころの多い作品です。 |
No.217 | 8点 | メグレ罠を張る- ジョルジュ・シムノン | 2009/09/29 21:24 |
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『殺人鬼に罠をかけろ』のタイトルでジャン・ギャバンがメグレを演じた映画が話題になったこともある作品です。切り裂きジャックをも思わせる連続殺人の犯人に対して大がかりな罠をしかけるということで、直属部下の刑事たちだけではなく、いつもは単独行動が多い所轄の違う「無愛想な刑事」ことロニョンも、珍しくメグレの指示の下はりきっています。
罠が功を奏し、容疑者が逮捕されますが(この段階ですぐ連行しちゃうのかなとも思えますが)、さらにその後一波乱待っています。 最終章でメグレが犯人に語って聞かせる内容は、通常のミステリでは推理と呼べるようなものではありませんが、それでもこれこそがメグレ式推理であるとしか言いようがない説得力で迫ってきます。事件解決後のラスト1段落もいいですねえ。 |
No.216 | 7点 | マルタの鷹- ダシール・ハメット | 2009/09/26 13:18 |
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「マルタの鷹」と呼ばれる宝物の争奪戦という粗筋だけでは、ほとんどインディ・ジョーンズとかの世界をも連想しますが、それが現実的なサンフランシスコの街中でリアルに展開するのが微妙に違和感を覚えさせる作品です。
いや、小説としてはやはり非常におもしろかったのですが、終ってみると上述のことも含め、何となくアンバランスな感じが残るのです。第2章で起こる殺人の犯人が誰かということに関する推理の根拠は早い段階でわかっていることばかりで、その後の鷹をめぐる騒動とのつながりがうまくかみ合っていないようにも思えます。 危険をほとんど舌先三寸で切り抜けていくサム・スペードのキャラクターは、マーロウやアーチャー(もちろんスペードの相棒のではなく、リュウです)ほど共感を持てないというのも正直な印象でした。推理の後のスペードの立場・考え方の披瀝は、かなりの分量で、読みごたえありましたが。 |
No.215 | 4点 | 喪失の儀礼- 松本清張 | 2009/09/24 21:32 |
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最初から最後まで、警察の地道な捜査を描いた作品。清張の場合、このタイプは社会性より謎解き中心のものが多いように思われます。本作でも病院と製薬会社の問題を多少取り上げたりはしていますが、むしろ犯人の意外性などに比重がかかっています。本作で使われている意外性は書き方ひとつで相当に驚き度が変わってくるものですが、さすが巨匠の文章はうまいものです。現代俳句を取り入れているのも、並の作家にはまねのできない技でしょう。
ただし、謎解き中心にしては説明不足、論理的欠陥がかなりあります。特に犯人の二つの動機について、殺されるべき人間の特定が犯人にどうしてできたのか、全く説明されていないのは問題でしょう。 最終章での推理は憶測の域を出ず、その後の犯人のとる行動も半ページぐらいで説明されるだけで、どうにもすっきりできない幕切れでした。解決部分だけで評価がかなり下がってしまった作品です。 |
No.214 | 6点 | 墓場貸します- カーター・ディクスン | 2009/09/21 11:24 |
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カーをも思わせるような不気味な雰囲気があったヴァン・ダインの『ドラゴン殺人事件』に対するカーからの回答ではないかと思わせる(年代的には離れていますが、舞台はアメリカですしね)、プールからの人間消失という同じ謎を扱った作品です。さすがにカーらしく、消失方法は拍子抜けだった『ドラゴン~』と違い、奇術的な巧妙なものになっています。
ただし、怪奇趣味を得意とするカーにもかかわらず、逆に『ドラゴン~』のような不気味さは全く見られません。まあ、本作ではより不可能性を強調するため、事件は白昼、完全に見通しのきくプールで起こりますので、無理に怪奇を演出することはあきらめたのかもしれません。それだけ一方の笑いに比重がかかっているということでしょうか、H・M卿が登場早々から派手に悪ノリぶりを発揮してくれます。 やはり消失を扱った似た構造の作品をカーは以前にも書いていますが、個人的には本作の方が気に入っています。 |
No.213 | 7点 | 火曜クラブ- アガサ・クリスティー | 2009/09/19 09:47 |
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創元社からは『ミス・マープルと13の謎』として出ている短編集で、私は創元版で読んでいます。
会(火曜クラブ)の中で話された謎の事件に対して、メンバーたちが様々な意見を言うけれども、真相を見抜くのはいつもミス・マープルだったというパターンが基本です。しかし、ミス・マープル自身が語る2つの事件ではもちろんその型が崩されていますし、語り方も登場人物によって違ったりしていて、この手のシリーズの陥りがちなマンネリ化が避けられているところはクリスティーの手腕だと思います。 事件の語り方では『死の草』がひねってあります。また「話」のひねりということでは『バンガロー事件』が一番でしょう。『血に染まった敷石』で一箇所、いつの間にか血痕が消えていたというのだけは問題ですが… パターン外の最終作『溺死』を除くとかなり短めな短編ばかりですが、総じてよくできた短編集です。 |
No.212 | 7点 | モンマルトルのメグレ- ジョルジュ・シムノン | 2009/09/15 20:45 |
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原題を直訳すれば『「ピクラッツ」のメグレ』。モンマルトルにあるピクラッツというキャバレーから事件は始まり、クライマックスではメグレ警視がこの店に陣取って、刑事たちからの電話報告を受け、指示を与えていきます。
しかし、個人的には『メグレとラポワント』というタイトルにしてもいいのではないかと思ったりもします。若いラポワント刑事はこのシリーズでは常連の一人ですが、本作では最初から最後まで特に重要な役割を果たすのです。 最初の被害者アルレットやおかまのフィリップなど妙に印象的な登場人物たち、スリリングな最終章の展開、最後1ページのシムノンらしいシンプルな筆致による味わい深さ。伏線を張ったフーダニットとは全く違うタイプですが、なかなかおもしろく読ませてくれる秀作です。 |
No.211 | 8点 | 11枚のとらんぷ- 泡坂妻夫 | 2009/09/13 23:35 |
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第2部に入っている11の奇術のうちどれだったかを、実はマジックの専門誌でも読んだことがあります。そういった厚川さん(作者の本名)のオリジナル・トリックを利用して長編にしているんですね。
海外ミステリ・ファンにとっても、第3部の世界国際奇術会議の中では、J.D.カーがマジックを演じているフィルムなんてものが飛び出してきて楽しませてくれます。ダイ・バーノン、フレッド・カップス、マーク・ウィルソンといった名前は、マジック方面にくわしくないとわからないでしょうね、すべて実在の人物です。 第1部の場所が「真敷(マジキ)市」であることなども含め、マニアックな嗜好が楽しめるかどうかで、作品に対する評価も変わってきそうです。 |
No.210 | 6点 | ドラゴン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2009/09/09 22:05 |
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今回ファイロ・ヴァンスが講釈するのはもちろん世界各国の竜伝説についてで、弘法大師の話等も出てきます。それ以外に南米などの珍しい魚についての薀蓄も披露されますが、これは結局肩すかしでした。
さて、ドラゴン・プールからの人間消失方法それ自体はちゃちなトリックです。しかし、犯人は特に不可能性を演出する意図はなかったにもかかわらずそうしなければならなかった理由が明快ですし、しかも第2の殺人まで起こりながらたった2日半で事件が解決することを考えると、まあいいのではないでしょうか。それより、犯人のうっかりミスのため、逆に小説の半ば近くになって事件が異常な様相を呈してくるあたりが見所で、カーをも思わせるようなホラーっぽい展開です。1933年作ですから、ひょっとしたらこの後輩作家を意識したのかもしれません。 専門知識が利用されるため、ヴァンスより先に真相の見当をつけてしまう事件関係者が複数いるあたりは、あまり感心しませんが、最終的な決着のつけ方も含め、おもしろさはなかなかのものでした。 |
No.209 | 5点 | 死が招く- ポール・アルテ | 2009/09/07 20:53 |
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フランスのディクスン・カーと呼ばれ、実際カーの大ファンであることを公言している作家の1988年作品。舞台設定は1920年台後半のイギリスです(時代は第9章で判明)。でも、なぜこの設定?
確かに、密室や殺人のとんでもない不可解な状況、事件全体の構造などカーを思わせるところは多々あります。密室構成のための犯人の行動には無茶なところもありますが、謎のつくりはなかなかよくできています。しかし少なくとも本作に関する限り、小説としての味わいということでは、カーはむろん、解説担当の二階堂黎人(『奇跡島の不思議』しか読んでないのですが)に比べてもかなり見劣りがすると言わざるを得ません。特に怪奇趣味は雰囲気作りができていなければ、幽霊が出てきても無意味です。 ところで真犯人の正体だけは、非常に早い段階で可能性に気づき、第2の事件直前で確信できてしまったのですが… |
No.208 | 8点 | 刺青殺人事件- 高木彬光 | 2009/09/04 21:26 |
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現在、本作は1953年に約2倍の長さにまで大幅加筆訂正した版だけでなく、乱歩に送ったというオリジナル版も改めて出版されているそうですが、皆さんはどちらを読まれているのでしょうか。私自身が読んだ加筆訂正版は、次作『能面殺人事件』に比べると作家として円熟味が出てきてからの手直しだけに、小説としての充実度は高くなっていると思います。
やはり高木彬光が最初期に最も影響を受けたのはヴァン・ダインからなのでしょう。『カナリヤ殺人事件』と同じ性格判定が取り入れられています。機械的密室構成方法も原理はヴァン・ダインの別作品そのままですが、戸に鍵穴などのすきまがない状況をどう切り抜けるかのアイディアが光ります。しかし、作中で神津恭介も指摘するとおり、その後のアイディアの方がメインなところが、本書の最大の読みどころでしょう。 近年のミステリではだましの定番になっているあるトリックも、すでに使われています。 |
No.207 | 8点 | リコ兄弟- ジョルジュ・シムノン | 2009/09/01 19:52 |
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メグレ以外のシムノン作品中、初めて読んだのが本作です。この人、こんな小説も書いていたのかと驚いたことを覚えています。
いや、作者の純文学系作品をかなり読んだ現在でも、代表作の一つと言われる本作を改めて読み返してみると、やはりかなり珍しいタイプではないかと思います。シムノンがアメリカに住んでいた時期の作品で、小説の舞台もアメリカ。ギャングの世界の中で肉親を裏切らなければならなくなった男の話です。そのような背景の中で行方をくらました弟を探し出そうとする兄といえば、失踪に始まるハード・ボイルドを思わせるでしょう。 しかし、書き方はいかにもシムノン。主人公エディーの行動と内面描写を巧みに配して、子供のころの記憶から現在の状況までが読者に的確に伝わるよう描いていきます。辛いラストはずっしりと重みを感じさせてくれます。 |
No.206 | 6点 | 孤独の島- エラリイ・クイーン | 2009/08/30 10:43 |
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デビュー40周年記念と巻頭に記された本作は、クイーンの全作(ダネイ、リーが少なくともプロットを考えた作品に限る)の中でも、とびっきりの異色作です。エラリーが登場しないだけでなく、全然本格派でないのですから。映画『俺たちに明日はない』やボガード主演の『マルタの鷹』への言及がされていますが、小説のタイプ自体がそれらの映画をも思わせるハードボイルド的な感じのするサスペンスものです。
型通りの強盗殺人を犯した3人組。しかし死体がすぐに発見されてしまったことから、事件は意外な方向に転がっていきます。とは言え、隠れ家を見つけたり「犯人」を指摘するあたりにはクイーンらしい推理も多少見られますし、邦題の「孤独の島」というテーマもどことなくこの作者らしいところが感じられます。クイーン=論理的謎解きと決めつけて読みさえしなければ、緊迫感も最後まで持続し、楽しめると思います。 |