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空さん
平均点: 6.12点 書評数: 1505件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.25 7点 エッジウェア卿の死- アガサ・クリスティー 2009/05/22 22:25
犯人が仕掛けた極めて大胆なトリックが何と言っても印象に残る作品です。大胆すぎて読者にも見当がつきやすいとも言えますが、最初のポアロへの奇妙な依頼から非人間的なエッジウェア男爵の殺害、さらにすぐ続けて起こる第2の殺人へと、効果的な構成で面白く読ませてくれます。
最初のページに「ポアロ一流の考え方からすれば、この事件は彼の失敗のひとつであった」と書かれていますが、本当に本作ではポアロは試行錯誤を繰り返し、あまり名探偵らしくありません。まあ、それもご愛嬌というところでしょうが、彼が真相に気づくきっかけがあまりにあっけないのだけは、いただけません。

No.24 6点 ポケットにライ麦を- アガサ・クリスティー 2009/05/16 10:34
作中でも「舞台装置は定石どおりにそなわっている」と書かれていますが、被害者を取り巻く人物関係は本当にミステリの定石そのまんまです。
マザーグースの歌にあわせた連続見立て殺人には理由もちゃんと考えられていますし、クリスティーらしい犯人の意外性が満喫できる作品ではあります。謎解き後の最終章も鮮やかです。
ただし、犯人の使ったトリックはちょっと危なっかしすぎる気がします、と言うか、人によっては腹を立てるかもしれません。また、後で重要事項に関するある人物の証言部分を読み直してみると、こんな答をするとは考えられないという点が気になります。
傑作という人がいるのもわかりますが、個人的にはそれほどまでの高評価は付けられないかな、というところです。

No.23 7点 パーカー・パイン登場- アガサ・クリスティー 2009/05/09 15:50
本作の前半6編は、パーカー・パインがスタッフを使って様々な依頼人の悩み事を解決していく話で、通常のミステリとはちょっと違った楽しみが味わえます。スタッフというかアイディア提供者としてミステリ作家のオリヴァー夫人も出てきていますが、この短編集が彼女の初登場です。パインがオリヴァー夫人にもっと独創的なものを求めるのに対し、夫人がワン・パターンだからこそいいのだと主張するあたり、クリスティーの独創性とパターン化を巧みに融合する小説観を示しているように思えます。
後半はパインが旅行中に出くわす犯罪事件が書かれた普通のミステリになっていますが、その中では、最後の『デルファイの神託』がアイディア一発ものでやられました。

No.22 4点 青列車の秘密- アガサ・クリスティー 2009/04/28 21:26
青列車を利用したトリックはなかなか巧妙ですし、犯人の意外性もあります。しかし、このプロットは…
高価なルビーをめぐるスリラー的な冒頭、アメリカ大富豪の家庭的問題、主役ともいえるキャザリン(セント・メアリーミード村に住んでいたという設定! ミス・マープルものが書かれる前に発表された作品です)の人生など、いろいろな要素を詰め込みすぎて、なんだかばらばらな印象があるのです。ポアロ登場作に本物の幽霊までちょっと出てくるなど、作者の狙いがどこにあるのか、よくわかりません。
最後に真犯人指摘のためポアロが事件の依頼者たちと再度青列車に乗らなければならない理由も全くなく、基になるアイディアはいいのですが、小説としてまとめそこなった失敗作という感じがします。

No.21 7点 満潮に乗って- アガサ・クリスティー 2009/04/18 09:48
1948年に書かれた作品で、クリスティーにしては珍しく、大戦中と戦後の時代における経済的、心理的状況がかなり取り入れられています。爆撃による富豪の死が一応発端となっていますし、特に主役と言ってよいリンが本当は何を求めているのかという点も、戦争をめぐって描かれています。
ポアロが登場する短いプロローグの後、第1部の殺人が起こるあたりまではいかにものパターン展開なのですが、第2部に入ってポアロが再登場してからはさすがにミステリの女王の面目躍如といったところです。恋愛要素もうまく組み合わせて、意外な結末を劇的に構成してくれています。

No.20 5点 死者のあやまち- アガサ・クリスティー 2009/04/12 15:07
事件の裏に潜む秘密については、かなり強引な力技が使われています。それに関して途中はてなと思った証言があったのですが、その意味するところまでは推理できませんでした。その過去の秘密さえ暴かれればすべては単純明快ですが、ポアロが真相に気づき推理を披露するあたりのプロセスにちょっと唐突感があり、少女殺害の動機に明確な具体性が欠けるせいもあって、いまひとつすっきりしませんでした。
それにしてもクリスティーの分身ともいえる登場人物オリヴァー夫人が、最初の方で思いっきり重要な暗示的ヒントを、まさに手がかりとして述べているところは痛快です。オリヴァー夫人には後半ももう少し活躍してもらいたかったな。

No.19 8点 五匹の子豚- アガサ・クリスティー 2009/04/03 22:13
『アクロイド』や『オリエント急行』のような驚天動地のアイディアもなく、『ナイルに死す』や『白昼の悪魔』のようないわば教科書的な巧妙なトリックもありません。それにもかかわらず、nukkamさん等本作を絶賛する人は多いですし、私も大好きな作品です。
16年も前に起こった殺人事件ということで、ポアロが当時の事件関係者たちに質問していき、関係者それぞれがポアロに事件の思い出を手紙に書き送るだけの地味な展開です。また、真犯人の正体を隠しているのはほとんど動機に関するワン・アイディアだけで、これといった殺人トリックもありません。ところが、それにもかかわらず読んでいて面白く、結末の意外性も満足のいくものなのです。関係者たちが同じ人物に対して全く異なる見解をしていて、それら証言の中から真実を見極めていく手際は、まさにクリスティーならではだと思います。ただ、犯人を見破るための伏線がもう少しあればなという感じもします。

No.18 5点 愛国殺人- アガサ・クリスティー 2009/03/28 10:12
この内容に対してこのタイトル(原題もその直訳邦題も)を付けるってどうなんだろう、とちょっと気になります。全く異なるもう一つの原題"One Two Buckle My Shoe"は、日本語にはしにくいですが。
最初の殺人の動機と第2の殺人の犯行方法が意外で、それをうまく組み合わせた工夫はさすがだと思います。ただし、その後がありきたりな手法を使っていて、そのために犯人だけは見当がついてしまうという点が不満です。また、この犯人のキャラクターなら、このような犯行方法をとるだろうかと疑問に思えるところもあり、評価は少々低めにしています。

No.17 7点 牧師館の殺人- アガサ・クリスティー 2009/03/20 13:28
クリスティーは別の名探偵が登場するある短編で、本作とほとんど同じアイディアを使っています。つまり、長編としてはたいしたネタではないのですが、村に住む様々な登場人物が絡み合って、読んでいておもしろいのです。
ミス・マープル最初の事件ということで、彼女は最初事件の重要な目撃者として登場します。その後、鋭い指摘を繰り返し、名探偵らしさを発揮していくことになります。ミス・マープルの探偵としての才能に前から気づいていた村の牧師の一人称形式で書かれることで、新たな名探偵の誕生を納得させてくれていると思います。また、筆者が牧師であることにより、村人たちからの相談を受けることが自然になる点も見逃せません。
最後に明かされる謎の婦人の正体も、なかなか意外でした。

No.16 5点 シタフォードの秘密- アガサ・クリスティー 2009/03/16 22:06
降霊会で霊が告げたメッセージは、老大佐の死だったという発端は、どう見ても疑わしい感じがします。さて、これはやはり大佐の死を知っていた者のしわざか、それともひょっとして単なるミスリーディングか…
読んでいて、現場付近の位置関係がはっきりしないため、トリックが明らかになってもすっきりとはいきませんでした。またそのトリックも、「それ」が可能なら普通そうするんじゃないの、と思えてしまいます。ポアロもミス・マープルも登場しない作品だからということもあるでしょうが、手がかりが直接的すぎる上フェアな描写と言えない点も気になりました。乱歩などは高く評価していたそうですが、それほどの作品とは思えません。
ただ、直接の動機はなかなか意外でしたし、さらにその直接の動機があるにしても殺人までを決意させた理由も、納得のいくものでした。

No.15 6点 葬儀を終えて- アガサ・クリスティー 2009/03/01 11:01
クリスティー後期作品の中でも一般的評判の高い本作ですが、個人的にはそれほどの傑作とは思えませんでした。殺人が起こってすぐ、その手の可能性に気づいてしまったからかもしれませんが。
事件の基本的な構造が非常にシンプルなため、第2の事件は間を持たせるため無理に付け足した感じも若干します。首をかしげる手がかりも、納得はできますが驚くほどではありませんでした。(本書を読んでない人には意味不明な文になってすみません)
とはいえ、以上は期待が大きすぎたための不満であり、作品としてのできは悪くありません。
クリスティーはちょっと前にも似たパターンのアイディアを部分的に使った作品を書いていますので、それをさらに大胆に展開させて利用したのではないかとも考えられます。

No.14 5点 魔術の殺人- アガサ・クリスティー 2009/02/22 09:18
クリスティーらしいちょっとしたアイディアをうまく使った殺人トリックも悪くありませんが、それよりミスディレクションがさすがに巧みです。ただ、ミスディレクションに関して、ご都合主義的な偶然が1箇所あるのですが、そのシーン自体なくてもよかったと思います。専門的検査が行われればすぐにばれてしまうはずだという点も気になります。
また、よくある証人殺しパターンの第2の事件(二重殺人)はどう見ても不要でしょう。小説が9割ぐらい終わった時点、既にミス・マープルが事件の真相に気づいた後に起こり、事件状況の基本的な調査も全く描かれないまま、謎解きの推理が始まってしまうのですから。登場人物が多くて人間関係が複雑な作品なので、この被害者2人は最初から登場させない方がすっきりしていたのではないかとも思います。

No.13 7点 三幕の殺人- アガサ・クリスティー 2009/02/10 20:40
次作『雲をつかむ死』の中でもちょっと言及されている瞬間を利用した毒殺証拠隠滅方法や、第2の事件のネタも悪くないのですが、本書の最大のポイントは第1の事件の動機と、その動機だからこその大胆な計画でしょう。その動機を持つ人物としての犯人設定も、ちゃんと考えられています。ポアロも、この動機に気づいた時には感嘆しているほどですが、一方でこの動機を好きになれない読者がいても、確かにおかしくはないと思えます。個人的には率直に驚けましたが。
ただ、それらが組み合わさって大きな驚きを生み出すところまで行っていないと思いますので、傑作とまでは言えないかな、というところです。『謎のクィン氏』でも活躍するサタスウェイト氏をポアロもので再登場させた意味も、いまいちピンときません。

No.12 7点 ゼロ時間へ- アガサ・クリスティー 2009/02/06 20:23
タイトルからしても、また最初の方に挿入された謎の犯人が計画を立案しているシーンからしても、殺人に至るサスペンス系の作品かと思っていたら、意外にもかなり早い段階(といっても半ば過ぎですが)で殺人が起こります。さて、どうなることやらと首をひねっていたら、最後になってタイトルの意味が明かされるあたり、驚きはさほど大きくありませんが、やはり作者らしい企みです。
アナロジーによる伏線といえば、先日亡くなった泡坂妻夫がよく使っていた手ですが、クリスティーとしては、少なくともこれほどあからさまな形での使用は珍しいのではないかと思います。その伏線によって、バトル警視は犯人の本当の狙いに気づくわけですが、それでも犯人が誰かは、タイミングよく登場した他人の助けを借りないとわかりません。この人、有能な警察官なのに、どうしても単独では事件解決ができないように設定されているのでしょうか。

No.11 6点 書斎の死体- アガサ・クリスティー 2009/01/31 16:45
半分近くになるまで殺人が起こらない作品もいくつかあるクリスティーにしては珍しく、開幕早々死体が発見され、10ページちょっとぐらいですでにミス・マープルが事件解決に乗り出してきます。
書斎の死体という、本作が書かれた時代でも古めかしい事件のパターン(そのことは作者自身がまえがきで述べています)であると思いきや、その死体が意表をつくものというひねりを加えているところは、ユーモアもありさすがです。しかし、今回の犯人のトリックは意外ではあるのですが、警察の目をいつまでもごまかしておけるようなものではないだろう、と思えるところが難点です。

No.10 4点 ビッグ4- アガサ・クリスティー 2009/01/27 22:34
このポアロが登場する唯一のスパイ小説は、クリスティーの中でもたぶん最も評判が悪い作品のようですが、佳作とは言えないにしても、そんなにひどいというほどではないと思います。連作短編集的な構成になっていて、そこだけ独立させてもそれなりに楽しめる章(挿話)もありました。
映画の007並に非現実的な4人の悪役に加え、クライマックスでは、ご自慢の口ひげが重要な役割を果たしたりもする荒唐無稽さは、謎解きに頭を使ったりせず、気楽に読んでいけばいいのではないでしょうか。

No.9 7点 ポアロのクリスマス- アガサ・クリスティー 2009/01/16 20:50
犯人の意外性は、本作のはるか以前からある手です。下手に扱うと読者をがっかりさせるだけなのですが、そこはさすがに手際よくまとめています。また、派手なトリックが使われているのはクリスティーにしては珍しいですが、現場にある証拠が残ってしまうところをちゃんと処理して、しかもポアロが真相を見破る手がかりにもしているところ、うまいものだと思います。
死体が発見されたところで、何か怪しいなとは感づくのですが、そこから先の推理が進まず、結局だまされてしまいました。

No.8 4点 雲をつかむ死- アガサ・クリスティー 2009/01/09 21:31
犯人の意外性も、よくあるパターンなのですが、この作品には、犯人が計画実行のために準備しておいたあるものの置き場所には、近づけるはずがなかった、という重大な論理的欠陥があります。かなり大きなものですので、ひそかに隠し持っておくことも困難ですし、置き場所に戻すこともまず無理です。今までに読んだクリスティーの中で、これほど明らかな穴があるのはこの1作だけです。
私自身、解説される前に大筋の見当はつけていたのですが、この「あるもの」をどう入手したのかがわからないという状態でしたので、そこが説明されないままの「解決」には失望しました。
追記(2020/9/16):本作のトリックに関しては、犯人がそれをずっと手元に置いていたのではないかという意見もあるようですが、あの時まで肌身離さずというのは、いくらなんでも不自然だと思います。しかし、この欠点をカバーする案を最近思いつきました。機内見取図の設備位置が間違っていて、あそこのすぐそばにあれがあったとしたら、というものです。

No.7 10点 ナイルに死す- アガサ・クリスティー 2009/01/04 22:55
前半のストーリーは、様々な登場人物たちを紹介しながら、不穏な空気を漂わせつつ、まさにナイル川のようにゆったりと流れていきますが、再読すると、この前半がなかなか味わい深いのです。で、ほとんど半分近くになってやっと最初の殺人が起こると、話は一気に加速します。
ポアロものの中でも、『アクロイド』や『オリエント急行』のようなとんでもない発想はありませんが、いかにもクリスティーらしい犯人の意外性とトリックを組み合わせた、非常によくできた構成の作品です。
映画版でポアロを演じたユスティノフの巨体には、「おまえはフェル博士か」と突っ込みを入れたくなりましたが、どちらも名探偵ですので、まあいいことにしましょう。

No.6 7点 メソポタミヤの殺人- アガサ・クリスティー 2008/12/25 23:10
犯人の設定については、いくらなんでもこれはちょっと無理じゃないかと思ったのですが、意外に気にならない人もいるようです。一方、殺人の手順は明かされてみると単純ですが、いかにもミステリらしい感じで、うまく考えられています。
考古学者のマローワン教授と再婚したクリスティーが、初めてオリエント世界を舞台にとった作品で、それだけにストレートに遺跡発掘隊の中で起こる殺人を扱ったということではないでしょうか。

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空さん
ひとこと
ハンドルネームの読みはとりあえず「くう」です。
好きな作家
E・クイーン、G・シムノン
採点傾向
平均点: 6.12点   採点数: 1505件
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