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miniさん |
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平均点: 5.97点 | 書評数: 728件 |
No.18 | 6点 | 乱歩の選んだベスト・ホラー- アンソロジー(国内編集者) | 2014/06/30 09:59 |
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発売中の早川ミステリマガジン8月号の特集は、”幻想と怪奇 生誕120周年乱歩から始まる怪奇入門”
ミスマガ夏の恒例特集だがほぉこうきたか 戦前はトリッキーな本格派一辺倒だった乱歩が戦後にホラーに傾倒していた時期が有る、このアンソロジーはホラーに関する乱歩流エッセイに名前が挙がった中短編から、森英俊・野村宏平両氏が選んだものだ 多分だが乱歩が自分で編んだとしたらこんな感じになるのではという想定で両氏が編んだものだと思う、乱歩自身で編んだホラー・アンソロジーは存在しないのだろうか? 埋もれてたり権利関係の問題とかもあって難しかったのだろうが実際に乱歩本人の編んだホラー・アンソロジーも読んでみたかったなぁ と言うのはですね、ジェイコブズ「猿の手」やエーヴェルス「蜘蛛」みたいないかにも乱歩が好きそうな作に混じって、乱歩のエッセイ中で言及された作品という選択肢の制限が有るとは言えW・コリンズ「ザント夫人と幽霊」みたいなあまり乱歩好みとは思えないものも散見されるので、乱歩自身だったら何を選ぶのか興味が湧く さて収録作中で書評者としての私の個人的ベストはP・マクの祖父にあたるファンタジー作家ジョージ・マクドナルドの「魔法の鏡」とロード・ダンセイニの「災いを交換する店」の2作 偶然に両作家とも本職がファンタジー系で収録作もホラーと言うより奇談に近いものだろうが、ミステリー的興味とホラー感覚とのバランスが取れており、敢えてラストにきちんと謎解きをしない所が好きだ その点いかにも乱歩が好きそうなエーヴェルス「蜘蛛」は少々ミステリー的視点に偏り過ぎているように感じた エーヴェルス「蜘蛛」に触発されて乱歩が同じ着想で書いた「目羅博士」がアンソロジーの最後を締め括る この「目羅博士」、ミスマガ8月号にも載っていたのには驚いた、やはり便乗企画にこのアンソロジー選んだのは正解だった でも実は最も面白く読めるのは冒頭に置かれた「怪談入門」と題する乱歩のホラーエッセイである、その情熱に圧倒される文章はこれこそ乱歩だ |
No.17 | 6点 | 世界鉄道推理傑作選2- アンソロジー(国内編集者) | 2014/04/07 09:56 |
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一昨日、昨日と三陸鉄道の北リアス線と南リアス線が全面復旧となった、よかったと思う反面今後の運営も心配だ
復旧は政府の補助金の割合が大きかったが運営収支は別な問題、震災で人口減の中、定期券収入にあまり期待出来ないだろうからやはり観光客乗車が鍵だろう 三陸鉄道は三陸復興国立公園(旧陸中海岸国立公園から改称)の只中がルートなので沿線は風光明媚、観光客の更なる増加に期待したい またJR東日本が黒字企業という理由で被災地の一部JR路線は未だ暫定措置、一部を三陸鉄道に移管という案も出ているらしいがう~ん住民は納得しないんじゃないかなぁ さて小池滋編の「世界鉄道推理傑作選」の第1巻を私が書評したのが3年前の3月11日の午前中だった、そうですその日の午後に東日本大震災は起きたのだ 第1巻をその日に書評した理由は同日に九州新幹線が開通した便乗企画で、別に私の書評と地震は何の関係もない、しかし分かっていただけるでしょうか、私にはそれ以来トラウマになっていたのだ この鉄道アンソロジーの第2巻はいつでも書評しようと思えば出来たのだけれど、鉄道アンソロジーの書評は縁起が悪いのではないかという不安がずっとつきまとって・・ このトラウマを払拭し第2巻の書評を書くとしたら、それは三陸鉄道の復興のタイミング以外に有り得ないと思ってたので、ようやく念願かなって書評書く気持ちに吹っ切れた 第1巻が特定の探偵役が謎を解く作品群なのに対して、第2巻は1編を除いてノンシリーズという編集方針である その為かkanamoriさんも御指摘の通りで、第1巻が割と形式的なのに対して第2巻の方が自由に書ける分だけ面白い ただしクロフツの2短編はつまらなかった、クロフツはやはり長編作家なんじゃないだろうかねえ 個人的集中ベストは謎解きものではなくブラックユーモア系ショートショートだが、唯一のマイナー作家ポール・タボリの「とても静かな乗客」 あっそれと1巻2巻共に言えるのだが挿絵が素晴らしい |
No.16 | 5点 | 幻想と怪奇 おれの夢の女- アンソロジー(国内編集者) | 2013/06/25 09:59 |
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本日発売の早川ミステリマガジン8月号の特集は、”幻想と怪奇 天使と悪魔”
毎度ミスマガ夏号恒例の企画だが今年は”天使と悪魔”という副題が付いた、でもダン・ブラウンとは全く無関係 便乗企画は当然に早川文庫全3巻のアンソロジー、『おれの夢の女』はその内の第3巻目に相当する 第1巻と2巻はミスマガの特集の度に書評してきたが文庫のはこれが最後、古典作品中心のポケミス版は1冊持ってるのでまたの機会に この文庫版だがどうも仁賀さんの編集は分り難い、基本は40年代以降のいわゆる異色作家短編作家達を中心にというのは明白なんだけど、そういう意味じゃなくて、例えば1作家1作品じゃないんだよね あぁもちろん1つの巻では1作家1作品の原則なんだけど、他の2巻に跨って2作3作と採用されている作家も有り、何かこう1本筋が通ってない感じなんだよね どうせだったら全3巻通して1作家1作品にして欲しかったな もう一つ気になったのは、この手の分野としては誰でも知ってるようなメジャー作家と極端にマイナー作家が混在し、中間的存在の作家があまり居ない メジャークラスには一歩譲るが、さりとて名前位は知っているような必ずしもマイナーとは言えないような作家をあまり採っていない、この点仁賀さんの編集は極端過ぎると思う さてこの第3巻だが、他の2巻よりもオールスターキャスト ブラウン、デイヴィッドスン、ブロック、ハートリイ、カーシュ、ブラッドベリ、コリア、ボーモント、マシスン、と並べればまさにこれ1冊でホラー系の異色短篇作家入門書だ 惜しむらくは第1巻同様に特筆するような作が無く内容的に第2巻目に比べ若干劣る気がする、印象では全3巻の中では第2巻『宇宙怪獣現る』が一番優れている感じがした 収録作で2作ほど個別に言及すると ブラッドベリの収録作はメルヘン風ファンタジー作家としての作風しか知らない読者は驚くんじゃないかな ブラッドベリって意外とダークでブラックでグロい作品が有るよね、ホラーでは有ってもブラッドベリをミステリーからは範疇外などという見方は完全に間違いだとよく分かる もう1人はシリア・フレムリン ドメスティックサスペンスの女王という先入観の人が多いだろうが、創元文庫から3冊出ている内の1冊は短編集で、短編だと長編とは違うイメージの作品を書くんだなと思った |
No.15 | 6点 | 世界短編傑作集2 - アンソロジー(国内編集者) | 2012/11/16 09:55 |
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1巻目が探偵小説というものの創造期黎明期であるとするならば、第2巻は同じ古典でも発展期という位置付けだろう
創元の編集上の勝手な都合で第1巻からポーとドイルが省かれているが、もし省かなかったら当然両作家は時代的には第1巻に収録されていた事になる つまりこの第2巻ではホームズによって確立されたパターン形式のその後の発展史という事になるのだが、実はあまり発展してないんだよな、悪く言えば形式に縛られて停滞していると言ってもいい この縛られた形式が破られるのは第3巻以降になってからなのである ホームズ形式の後継者たちは通称”ホームズのライヴァルたち”と呼ばれるが、まさに第2巻ではライヴァルたちの競演が過半数を占め、時代性がよく表現されている ただ乱歩の嗜好なのか全体に物理的トリックを前面に押し出したものに偏った印象なのは気になる、やはりそれも時代性か まぁでも第2巻ではホームズ形式というものを味わう巻だと割り切って読めば楽しめるのではあるが 欲を言えば、マクハーグ&ボルマーの心理分析探偵ルーサー・トラント、アーサー・B・リーヴの科学者探偵クレイグ・ケネディ、オクティヴァス・ロイ・コーエンのはったり探偵ジム・ハンヴィ、そしてエドガー・ウォーレスのJ・G・リーダー氏あたりのシリーズからも採用して欲しかったな さてといくつか各論 「奇妙な跡」のバルドゥイン・グロルラーは珍しいハンガリー生まれのオーストリア作家で、ドイツ語圏作家にしてはホームズ形式の忠実な後継者であり”クイーンの定員”にも選ばれているし各社目を付けて欲しいものだ 「オスカー・ブロズキー事件」はソーンダイク博士の倒叙短編の最高傑作と言われる作だけに選ばれて当然だが、創元は「ソーンダイク博士の事件簿Ⅰ」からこれを省いている 他社でもいいからさぁ、倒叙短編集『歌う白骨』の完全版をだしてほしいな、あっ!いや、嶋中文庫じゃなくてさ(苦笑) トリックだけが有名な短編「ギルバート・マレル卿の絵」のV・L・ホワイトチャーチは、”クイーンの定員”にも選ばれた鉄道短編集が多分来年には刊行予定だ そうなるとコール夫妻の”クイーンの定員”にも選ばれた短編集『ウィルスン警視の休日』なども創元か論創さん頼みますよ |
No.14 | 7点 | クイーンの定員Ⅰ- アンソロジー(国内編集者) | 2012/11/12 09:59 |
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まず最初に、そもそも”クイーンの定員(Queen's Quorum)”って何だ?という問題から
これは作家だけでなく評論家・編集者、そしてミステリー書籍収集家(特にダネイ)としての存在も大きいエラリイ・クイーンが、膨大なコレクションの中から、ミステリー短編史上の里程標たる短編集を選び簡潔なコメントを付したものである あくまでもアンソロジーではなくて単なるリストに過ぎない しかも”簡潔なコメント”と言ったが、本当に簡潔なんだよな(笑)、もう少し語ってくれよ(さらに笑)、そもそも各短編集の収録作すら載ってないし コメントは簡潔だが各短編集には、”内容”、”歴史的重要性”、”初版本の希少価値”の3つの要素を表す記号が付けられている、作品によって選ばれた理由が内容重視だったり希少価値だったりするわけだ その中で注目すべき要素は3番目の”初版本の希少価値”である もちろんクイーンが選ぶのだから、例え超レア本であっても内容・歴史的重要度が選ぶに値しないものは流石に自重?したのか避けているが、でも選ばれた中には”これの初版本持ってる俺ってすげ~だろ”、みたいなクイーンの自慢が垣間見えるのだよなぁ(笑) この各務三郎編のアンソロジーは、言わばリストに過ぎなかったクイーンの定員をアンソロジーに仕立てたまさに夢のようなアンソロジーなのだ 特に舌足らずだったクイーンの原本コメントを補完するかのように、収録作の調査や詳細な解説が加えられており、資料的価値だけなら10点満点を付けられる代物なのだ それにしては中途半端な採点だなとお思いの貴方、そうなんです、アンソロジーとしては不満なんだよなぁ この第1巻目では、オルドリッチ「舞姫」やガボリオ「バチニョールの小男」やマクドネル・ボドキンの親指探偵ポール・ベックものなど他では纏めては読み難い短編も多いのでまだマシなんだけど、2巻目以降ではkanamoriさんも御指摘になられていた問題点が鮮明に出てくるんだよね アンソロジーは何を選んだか、というのが評価の大きな要素だと思うけど、つまりねえ、ポーやドイルみたいなのを入れる必要が有ったのかという事だよね これが例えばね、創元文庫の『世界短編傑作集』みたいな基本図書的な志向ならば入れるべきだと思う、創元文庫では他の短編集との被りを異常に気にしているが、あの創元の編集は良くない しかしこの『クイーンの定員』みたいな目的こそ、他でも読めるものは省いて、一般的に知名度の低いものや他のアンソロジーでは読めないものを優先すべきだったんじゃないかなぁ もしかすると翻訳権上の問題が深く関わっていたのかな |
No.13 | 5点 | 山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー- アンソロジー(国内編集者) | 2012/08/24 09:55 |
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明日25日発売予定の早川ミステリマガジン10月号の特集は、”山口雅也責任編集 Masaya Yamaguchi's Mystery Magazine”
このパターン、今後は他の作家のもやるんだろうか 収録作家も、トリック一発屋スティーヴン・バーからアーサー・ポージス、ブラッドベリ、シェクリイといかにも山口らしい選択 バーはあの「最後で最高の密室」以外の短篇が読めるとは そう言えば山口雅也自身の新作『《謎》の謎、その他の謎』が本日発売となるが、リドルストーリーを中心に据えたものらしい、好きだねえ ストックトン「女か虎か」、モフェット「謎のカード」の題名をモジった作品が入ってるが、本の題名自体もC・ボーモント「夜の旅、その他の旅」をモジったものだろうね 便乗企画として山口雅也編集によるアンソロジーを、過去に書評済だが削除して再登録 これは角川文庫の企画で北村編、有栖川編、法月編が既に先行している 後発の山口としては使いたかった短編を先行3者に先に採用されてしまい苦しい選択になってしまったようで、それで本格かどうか微妙なリドルストーリー特集とか組まざるを得なかったんじゃなかろうか しかしリドルストーリーの3大名作とそのトリビュート作など計5点が1冊で読めるのはなかなか他に無いので意義は有ると思う その有名な3大リドルストーリーとは、フランク・R・ストックトン「女か虎か」「三日月刀の促進士」の2作と、もう1作がクリーヴランド・モフェット「謎のカード」である そしてこの「謎のカード」のトリビュート作がE・D・ホック「謎のカード事件」なのである これは最早パロディではないだろう、つまり謎のカードという初期設定に基づいて、ホックならどう解決するかという一つの回答だからだ それにしてもホックは上手いと思う、たしかに解法がくどいのは否めないが、細かい所まで不自然でないように説明している 探偵役がレオポルド警部でもサム先生でもなくスパイのランドなのは内容的に当然だろう ところでスティーヴン・バーの「最後で最高の密室」も収録されているんだな 今では早川がポケミスの形で復刊させてしまったので希少価値は薄れたが、私は別のアンソロジーで既読だった これ読んだときは驚いた、究極の密室解法ではないかと思ったものだ、これに比べたらあくまでもトリックだけで言えばロバート・アーサー「51番目の密室」なんて誰かが思い付きそう ただ後で知ったのだがスティーヴン・バーは典型的なアイデア一発屋型の二流作家だったらしい |
No.12 | 6点 | 世界短編傑作集1- アンソロジー(国内編集者) | 2012/02/20 09:57 |
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作家としてだけでなくミステリー研究家としての存在も無視出来ない乱歩が編んだことになっている
まぁそうなんだろうけど、乱歩は海外の里程標や名作リストを知らなかったはずは無く、おそらくはそれら資料を参考にして再構成したに違いない オリジナリティという観点では弱点だが、結果的に長所として収録作品の質が優れていてセレクトに妥当性があるのは認めざるを得ない 編年体の配列順なので全5巻を通して見事に短篇ミステリーの歴史の流れを俯瞰出来る様になっていて、初心者が海外短篇の古典を学ぶのには最も適したアンソロジーだろう 欲を言えば、ミード&ハリファックスのハリファックス博士もの、マクドネル・ボドキンの親指探偵ポール・ベック、ホーナングのラッフルズなどのシリーズからも採用して欲しかったな この第1巻ではミステリー創生時代の作品が並びいかにもな古典、古さは仕方が無い 探偵小説の創成期という時代を研究する巻という位置付けだろう 収録作中で好きなのは断然ロバート・バー「放心家組合」 謎は解明しても事件は解決しないっていう一見消化不良な感じが様式美嫌いな私に合う 多分合わない人には合わないんだろうけどね 締めは出版社創元に対するイチャモン 創元はアンソロジーに対して理解出来ない性癖を持っていて、他の個人短篇集の収録作品を平気で省く、当巻だとポーとドイルがそう ポーとドイルを省いた理由は分かるよ、要するにこのアンソロジー読む人なら既に読んでるだろうし、重複を避けたと しかしこのアンソロジーは短篇の基本図書みたいな意義位置付けだろ、だったら省いちゃ駄目だろ 逆パターンもあって、例えばH・C・ベイリーの『フォーチュン氏の事件簿』には「黄色いなめくじ」が入って無いが、このアンソロジーの第5巻に入っているからなのが理由だ 第1巻だとモリスンやフットレルもそう しかしだ創元よ、何で”重複”をそこまで気にする、いいじゃないかダブったって、早川ならその点では大らかだぞ 収録作品がダブると読者からクレームが来るとでも思っているのか?創元は考えすぎだよ |
No.11 | 4点 | 有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー- アンソロジー(国内編集者) | 2011/12/29 10:17 |
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発売中の早川ミステリマガジン2月号の特集は、”アジア・ミステリへの招待、特別寄稿=島田荘司”
残念ながら長編でアジア作家の作品は1作も読んで無いが、短篇なら1つ思い出したよ、このアンソロジーに入ってたんだ 角川文庫から4冊出ているアンソロジーのシリーズ 収録作品の質では法月編のが一番だと思うが、のりりんらしく重いと言うか遊び心にも丁寧さが出過ぎな印象 この種のアンソロジーには北村編くらいで丁度良いような 山口編は後発だけに先行する3者に目ぼしいのを使われちゃって気の毒な気がした どうも他の書評者には北村編のが一番評価が低めだけど、私は有栖川編が一番つまらなかったな 第1部の”読者への挑戦”てのがつまらない、大体ねえ私は”読者への挑戦”なんて嫌いなんだよ、”推理パズル本”の類なんか読んだ事も無い 誤解されないように一応言っておくと、私はクイズは好きでTVのクイズ番組なんかは良く見る、だってあれは知識クイズだから クイズによって新たな知識が得られるのなら歓迎だが、”犯人当てパズル”なんて時間の無駄にしか思えないし、こんな事に頭を使いたくない ミステリー小説と”推理パズル”とは全くの別物と思っている、推理パズルを楽しめる人なんて私には理解出来ねえよ 特につまらないのが”つのだじろう”の漫画 私が普段から漫画を読まないせいもあるだろうけど、私が嫌いな典型的コード型の館ものだしね 漫画なら山口編収録の方のが良かった、文章ではなく漫画でしか表現出来ない芸当の漫画を選んでるのが冴えてる ありゃ話が脱線しちゃった、脱線するわけじゃないのが収録の台湾人の作家が書いた鉄道ミステリー中編「生死線上」 作者の余心楽という作家は初耳だが、有栖川氏が香港旅行の折に雑誌連載されてたのを偶然見付け後に作者に了解を取ったとのことだ 台湾人だが実は欧州在住で、現地では欧州華人作家組合みたいなのに所属しているらしく、収録中篇も台湾ではなくスイスの鉄道が舞台である 内容は日本のトラベルミステリーの影響を大きく受けていて、なるほど真相のアリバイトリックはこれしかないよなって感じで、私はアリバイにアレルギーが無い読者なので、丹念に事件前後の時間の経過を追っていったら何となくトリックは読めた 不満なのは探偵役の造形で私が最も嫌いなタイプの探偵役なので、こういう部分は日本の悪しき影響を受けずに独自性を追求して欲しかった 収録作の資料的価値で言うと、ロバート・アーサー「五十一番目の密室」とW・ハイデンフェルト「〈引立て役倶楽部〉の不快な事件」 「五十一番目の密室」は現在では早川が伝説のアンソロジーを復刊しちゃったから希少価値は薄れたが、トリックは超有名な短篇だ、まぁトリックで言うなら北村編収録の同じアーサー「ガラスの橋」の方が優れていると思うが 「五十一番目の密室」のトリックは昔から有名だったので、さらに別の作品がよく引き合いに出される それがハイデンフェルトの「〈引立て役倶楽部〉の不快な事件」で、「五十一番目の密室」の極端なトリックをさらに推し進めた究極密室トリックだ このトリックも昔から有名だったが、何と言う作品なのか長い間謎だったのだが、作品名が判明したわけだ 題名の元ネタは言うまでも無かろう この作品、実は講談社の別のアンソロジーでも読めるんだよね、案外と知られていないが、こちらのアンソロジーも所持はしているのでいずれ機会が有ったら書評しようかな |
No.10 | 6点 | 幻想と怪奇 宇宙怪獣現わる- アンソロジー(国内編集者) | 2011/06/03 09:57 |
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発売中の早川ミステリマガジン7月号の特集は”ゲゲゲのミステリ/幻想と怪奇”
そのものズバリ「幻想と怪奇」という題のアンソロジーを 早川文庫『幻想と怪奇』全3巻は旧版の通し番号制から副題方式へと代わった 第1巻が『ポオ蒐集家』、第2巻がこの『宇宙怪獣現る』に相当する この第2巻にはR・マシスンとH・カットナーが含まれているのでミステリマガジン7月号との共通性が有る 第1巻では各作家毎の持ち味がもう一つ出ていない感が有ったが、第2巻『宇宙怪獣現る』の方が各作家らしさが出ている 例えば冒頭のマシスン「こおろぎ」などは、あの名作ホラー短編「長距離電話」のマシスンを髣髴とさせるし ロバート・ブロック「ルーシーがいるから」は、「サイコ」のブロックらしいサイコミステリーだ 編者の仁賀氏の好みな作家であろう現代ゴシック作家ローズマリー・ティンバリーは彼女の代表作とも言われる「ハリー」が読める 総じて第1巻よりもこの第2巻の方が出来が良いように思えた |
No.9 | 5点 | 幻想と怪奇-ポオ蒐集家- アンソロジー(国内編集者) | 2011/05/30 09:56 |
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発売中の早川ミステリマガジン7月号の特集は”ゲゲゲのミステリ/幻想と怪奇”
そのものズバリ「幻想と怪奇」という題のアンソロジーを 創元文庫の怪奇小説傑作集がこの分野の基本図書だとすれば、早川文庫「幻想と怪奇」全3巻には古典的なクラシック怪談は一切入っていない 早川のは得意の全集『異色作家短篇集』に含まれるような1950年代前後の作家を中心とした幻想と怪奇入門書である 以前は1~3と通し番号だけだったが、現行版は副題付き題名に変わった 私は副題を付ける習慣は嫌いなんだが、早川にはポケミスで内容が全く別の同題1~2巻があるので、紛らわしさを避ける為には仕方なかったのだろう この『ポオ蒐集家』は第1巻に相当する 収録作家は大きく2つのグループに分けられ、ブロック、ブラッドベリ、シェクリイ、マシスン、ボーモントといった前出の『異色作家短篇集』を彩る作家達と、それ以外のSF作家やホラー作家、さらにはややマイナーな作家達である 前者の異色短篇作家軍団では、例えばユーモア調が持ち味のシェクリイなのに収録作はシリアス調のが選ばれている SF分野からはフィリップ・K・ディック、ただ収録作はオチが見え見えであまり出来が良くない感じがした 名手ディックだけにもっと面白いのがあったんじゃないかな、怪奇要素の有るものという選択上の制約のせいか ホラー分野からはオーガスト・ダーレスとL・P・ハートリイ ハートリイはあの名作「ポドロ島」の作者という先入観で見ると、収録作はちょっとハートリイにしては生々し過ぎて良さが出ていないような気もする ブラッドベリ以外は全体的に、それぞれの作家の持ち味が必ずしも出ていない巻だなという印象だった |
No.8 | 5点 | 世界鉄道推理傑作選1- アンソロジー(国内編集者) | 2011/03/11 09:59 |
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明日12日に九州新幹線「新八代」~「鹿児島中央」駅間が開通し、これにより九州新幹線全線が開通する
先行開通した東北新幹線「新青森」駅まで本州~九州が全線繋がるわけだ 「はやぶさ」と「つばめ」、どちらも鳥の名前なんだな、ただし山陽~九州新幹線直通列車は「みずほ」なんだが いつか鉄道に特化した企画をやりたいなぁと思っていたので、この機会に1冊だけやるか 国産ミステリーには”時刻表トリック”という分野が有って、不人気分野の象徴ともなっている 当サイトでも、各書評者のプロフィールの”好きではないジャンル欄”で時刻表トリックを挙げる書評者の方は多い 単に”アリバイ崩し”と書く人も居られるが、その根底には時刻表トリックの悪しきイメージがあるのだろう しかし国内ものと違い、海外ものには時刻表トリックは極めて少ない もちろんアリバイ検討の過程で列車時刻が問題になる場合もあるが、時刻表自体にトリックを仕掛ける海外ものは極めて稀である やはり日本の鉄道の運行の正確さは世界に誇れるものだ さて本題に入ろう、このアンソロジーは鉄道推理の評論分野で右に出るものが居ない小池滋の編集だけに、ややクラシック過ぎる作品選択とは言え安心して読めるものだ 作家の顔触れを見るとV・L・ホワイトチャーチだけが2作収録されているのが目立つが、ホワイトチャーチには元祖鉄道ミステリー短篇集があって”クイーンの定員”にも選ばれている 論創社さん早いところ頼みますよ、「四十面相クリーク」なんかよりこっちを先にして欲しかったんだから あとは鉄道と言えばクロフツ、なんだけどもう1人クリスピンを忘れてはいけない エドマンド・クリスピンにも鉄道ミステリー短篇集があるんだよな、これも論創社から刊行予定に含まれている さらにもう1人、マクドネル・ポドキンだ、残念ながら収録作のは探偵がポール・ベックじゃないのだが 親指探偵ポール・ベックは、創元文庫がホームズのライヴァル達の第3期をやるなら最優先で入れて欲しかった探偵だ こうしてアンソロジーに収録されるのもいいが、早く1冊に纏めて欲しいシリーズで、論創社さん、親指探偵ポール・ベックもついでにお願いできませんかね |
No.7 | 7点 | 北村薫のミステリー館- アンソロジー(国内編集者) | 2011/02/01 10:08 |
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ええぃ、ついでにもう一つ北村編のアンソロジーだ
新潮文庫だが何巻かの企画ではなく単発なようで、多分同編者の『謎のギャラリー』の姉妹篇という位置付けかも 北村編アンソロジーとしては角川文庫『本格ミステリ・ライブラリー』よりもこっちの方が楽しめた、ジャンルの制約が無い分やりたい放題だし 全体の構成もしっかりしていて、最初の章などは巻頭漫画風で、若干値が上がってもいいから巻頭口絵カラー頁にして欲しかったな 既読なのが少ないのもグッドで、私が既読だったのは唯一ハイスミス「クレイヴァリング教授の新発見」だけだが、この”かたつむり”短編は有名過ぎるもんな 知らない作家が多い中で既知な作家は、H・セシル、H・スレッサー、ペンティコーストあたり セシルのは独立した短編ではなく連作短編形式の長編『メルトン先生の犯罪学演習』からの抜粋、私は『メルトン先生』の方が読むのが後だった ペンティコーストってメジャーにはちょっと足りないがアンソロジーにはよく採用されてるよな、もう一つ読まれて無いのは長編に決定打が無いからだろう、E・D・ホック編『密室大集合』収録の「子供たちの消えた日」の作者なんだが さてこのアンソロジー中で抱腹絶倒なのが日本変換昔話「少量法律助言者」 これは何かと言うと、昔話を翻訳ソフトで一旦英語に翻訳し、それを和訳で戻すというパターンだ 今ではこんな遊びは珍しくも無いんだろうが、このアンソロジーが刊行された頃は面白かったに違いない 題名の意味は何だって?それはねぇ”少量=一寸、法律=法、助言者=師”なんでしょうな、きっと ”法師”に相当する英単語って無いんかい 良い意味で編集者としての北村ワールド全開ですな |
No.6 | 6点 | 北村薫の本格ミステリ・ライブラリー- アンソロジー(国内編集者) | 2011/01/27 10:09 |
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本日発売の早川ミステリマガジン3月号(特別増大号)の特集は”ベスト・オブ・ベスト・ショートストーリーズ”、目玉企画は”名作短篇&トリビュート”
まぁ、有名な海外ミステリー短編を元ネタに国内作家がトリビュート作を書き下ろすという一種の本歌取り競演企画 トリビュート作中心のアンソロジーが思い付かないのでこれでお茶を濁そう 北村編は有栖川との座談会まであるくらいで、もしかしたら最初の企画段階ではこの両名だけの予定だったんじゃないかな、法月編と山口編は言わば追加って感じでね だから北村編と有栖川編には互いに収録作など見ると対になっている面がある 4つの各アンソロジーを編者のセンスの順に並べると私の評価は 北村編≧法月編>山口編≧有栖川編となる 世のネット評価は北村編を最下位に置く評価が多いが私は逆だな やはりこの手のアンソロジーの意図からはこの位のお遊び心が欲しいかな、これに比べるとのりりんのは真面目だなぁ、いや、それはそれで良いんだけどね 海外ものが特に多いわけでもない、例えば第4章の4篇の内3篇が海外作家だが、この章で編者が言いたいのは原作者ではなく”西条八十の訳”であるという事だろうからね さて他の編者のもそうだが、この角川文庫の目玉の企画の一つが、トリック自体はマニアには知られていたが、誰の何と言う作品なのが分からなかった幻の作品を収録する事にあったと思う 有栖川編収録の「〈引立て役倶楽部〉の不快な事件」などはその典型的な例だろう この北村編では、E・クイーンも舌を巻いたという弱冠16才の鬼才レナード・トンプスンの巻頭作がそれだ これはねえ、カーの「ユダの窓」に挑戦した作で、要するに”ユダの窓”以外にもう一つの窓がある事に着目したものだ トリック自体はマニアには知られてたんだろうが、おそらく殆どの読者はこのアンソロジーで実物を知ったはずだ ロバート・アーサーはトリックだけなら「51番目の密室」よりもこちらの「ガラスの橋」の方が上でしょう、たしかに島荘風の絵になるトリックだ ただ「51番目の密室」は楽屋オチ的な要素が評価される所以で、北村編収録のローレンス・G・ブロックマン「やぶへび」と因縁があって、つまり北村編と有栖川編が対になっている事由の一つでもあるので両者合わせて読むべきだろう 当サイトでこうさんの書評でも言及されていますが、最後に吉行淳之介とC・ブランド「ジェミニー・クリケット事件」について 吉行淳之介「あいびき」はこうさんも御指摘の通りこんなのを書いていたのかって感じで、もう笑うしかない 「ジェミニー・クリケット事件」は英国版とアメリカ版が存在し、ラストが弱冠違うのだが創元文庫版「招かれざる客たちのビュッフェ」収録のは英国版なのである アメリカ版は早川書房「37の短編」に入っていたのだが、古本でも入手し難かった状況だったのだ、現在ではポケミスで復刊されちゃったけど 北村薫は角川文庫の編集部からアンソロジー企画を持ち込まれた時、アメリカ版の方を収録する事が引き受ける絶対条件だったとの事だ 言わばこのアンソロジーが生まれるきっかけの作品だったわけだ |
No.5 | 6点 | フランス・ミステリ傑作選(2)心やさしい女- アンソロジー(国内編集者) | 2009/05/28 10:03 |
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発売中の早川ミステリ・マガジン7月号の特集はフランス・クラシーク・ミステール
便乗して仏作家限定アンソロジーの(2)巻目の書評を (2)はボア&ナルが合作前に別個に書いていた作品から古くはルルーの怪奇短編まで収められている 冒頭のノエル・カレフは創元文庫で早くから翻訳紹介されていたので知られた名だが私は初読 映像化向きの先入観があり収録の短編も舞台設定などに視覚的効果が出ているが、ただ切れ味勝負な作家では無いようだ 本格専門読者が注目するのはクロード・アヴリーヌだろう なぜなら創元文庫で早くから本格作品として紹介されていたからだ しかしアヴリーヌは元々が純文学の人であり文章も文学臭が強く、ステーマンや合作前のボアローみたいな悪い意味でのトリック小説を期待するような狭量な本格読者には向いてない気もする ローラン・トポールはフランス人らしい多芸才人の見本みたいな人で画家としても有名 小説では仏産ブラック・ユーモアの代表作家で、収録作も小品ながら、この本の中でも良いアクセントになっている (2)巻で一押しなのがジャン・フランソワ・コートムール 純然たるサスペンス小説作家なので本格専門読者には知らない名前だろうが、実は角川文庫で3冊も翻訳があるのだ まだ見付け易いみたいで私は早速古本屋を巡って確保したが、角川文庫ではコアトムール表記なので検索時は注意 収録作も後半では思いもよらない展開が待ち構えていてるのだが、物語展開勝負な作風だから、ラストのサプライズだけを求めるような読者には向かない 最後の締めはガストン・ルルーの短編で、これだけが他と時代が違うのにあえて編者が入れたのは良く分かる ルルーは「黄色い部屋」などよりも怪奇短編の方が本領が発揮されているのかも 全体としては5点位だが、コアトムールとルルーが意外な拾い物だったのでおまけの+1点 |
No.4 | 6点 | フランス・ミステリ傑作選(1)街中の男- アンソロジー(国内編集者) | 2009/05/25 10:03 |
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本日25日は早川ミステリ・マガジンの発売日で、特集はフランス・クラシーク・ミステール
そこで便乗して仏ミステールのアンソロジーの書評を 単に仏作家を含むアンソロジーなら珍しくないが、実は意外と仏作家だけに限定したアンソロジーは少なくて、これ早川文庫には復刊して欲しいところ 全2巻だが主に(1)は男性が、(2)は女性が重要な鍵を握る作品という分け方で、必ずしもそれぞれの性別が主役とは限らない (1)では冒頭のシムノンから始まりボア&ナルの代表中編「犬」、ステーマンやピエール・ヴェリといった黄金時代本格作家、さらには純文学のフランソワーズ・サガンまで収められている 本格しか読まない読者はどうせステーマンとヴェリしか興味ないだろうが、フランシス・ディドロをご存知だろうか 仏には珍しい戦後の本格派で、なにしろ翻訳が極めて少ないので私も名前は知っていたが読んだのは収録の短編が始めて この作家もっと翻訳されたら日本の本格読者にも受けそうだが 他にもカミのホームズ奇想パロディ、ルフォック・オルメスものの短編も初めて 翻訳された短編集が古書価格もバカ高値なので、どこかの出版社で復活させて欲しいものだ 期待していたフレデリック・ダールは案外と期待外れだったが、視力に障害がある作家として有名なルイ・C・トーマはなかなか切れ味のあるサスペンス作家だ 比較的安価で長編の古本が入手可能な作家だし、日本受けしそうなのでもっと読まれてもいい気もする アンソロジー全体を内容だけで評価するなら5点位かなとも思うが、希少価値を加味しておまけの+1点 |
No.3 | 7点 | シャーロック・ホームズのライヴァルたち③- アンソロジー(国内編集者) | 2009/01/31 10:23 |
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全三巻のうち①②巻は英国作家、この③巻はアメリカ作家
一部ライヴァルという範疇に向いてない収録作もあるのが不満だが珍しいものも収録しているのでよしとするか フランシス・リンドはクイーンの定員に入っていないが、実はホワイトチャーチの世界初の鉄道ミステリー短編集と同年の四ヶ月遅れでやはり鉄道もの短編集を出している つまりたった四ヶ月の差で世界初の称号を英国作家に譲る事になった不運なアメリカ作家なのだ 集録作中で注目したい作家はA・H・ルイス 実録ものを嫌う日本の本格読者の嗜好からすると、ドキュメンタリーな実話風ということで注目され難いかもしれないが、そのぶっとんだ真相たるやお前は島田荘司か、って感じで他の作品も確認してみたくなった やや地味ながら日本の本格読者に受けそうなのがバルマー&マクハーグ 心理試験をミステリー小説に初めて応用したルーサー・トラントものの短編集は、もし創元がライヴァルたちの新シリーズを刊行する気があるならぜひ入れて欲しい アーサー・B・リーヴと科学者探偵クレイグ・ケネディは昔から名前だけは知られていて、日本だと海野十三みたいな存在か これも創元あたりがまとめて欲しい作家だが、科学者探偵という肩書きに期待するほど面白くはない むしろ日本の読者向きなのはジェレット・バージェスか 神秘探偵アストロもクイーンの定員に入っていて、神秘探偵という肩書きにしては意外と現実的な探偵である 一方パロディとして傑作な面白さなのがE・P・バトラーのファイロ・ガッブだ ファイロ・ガッブものの短編集を出したら絶対受けると思うよ どこかの出版社やってみませんか |
No.2 | 6点 | シャーロック・ホームズのライヴァルたち②- アンソロジー(国内編集者) | 2009/01/19 11:42 |
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全三巻中の②巻目は全体的に怪盗などの悪党キャラが多い印象だ
ホームズのライヴァルと銘打っているのだから、もっと正統派探偵の割合を多くしてもよかったんじゃないかな モリスンなどは①巻にも入ってるのだから要らなかったのでは 日本の本格読者が興味を持ちそうなのはE&H・へロンだろう フランクスマン・ロウはオカルト探偵の元祖の一人とされていて、実はへロンはへスキス・プリチャードの別名義なのだ プリチャードは代表シリーズのノヴェンバー・ジョーものが①巻に採られているが、クイーンの定員にはノヴェンバー・ジョーものだけが入り、フランクスマン・ロウものは採られていない オカルト探偵というコピーは伊達ではなく、必ずしも謎が合理的に解明されず、合理性と超自然の中間な感じだ ハーバット・キャデットはこのアンソロジーならではの貴重品 収録の短編は指紋を扱っているが、なんと書かれたのが ソーンダイク博士ものの長編より7年も早いのだという アーノルド・ベネットも短編集に纏められてもいいのに他ではなかなか読めないので貴重だ リチャード・マーシュも貴重で、このアンソロジー以外では滅多にお目にかかれない珍しい短編だ 以上の作家・短編集はクイーンの定員に選ばれている 収録作の中でトリック・マニアに人気があるのはどうやら四十面相クリークものの「ライオンの微笑」らしいが、私の好みではない |
No.1 | 7点 | シャーロック・ホームズのライヴァルたち①- アンソロジー(国内編集者) | 2009/01/12 11:20 |
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創元から作家別にホームズのライヴァルのシリーズが刊行されているが、創元方式だとメジャーどころに限定されてしまうので、早川のこのアンソロジーは貴重である
この作家なら別のシリーズから採用して欲しかった収録作もあり、一部不満もなくはないが創元のシリーズでは絶対読めない作家もあるので良しとしよう 個人的にはクイーンの定員で名のみ知っていた作家がかなり入っているのが嬉しかった L・T・ミードのハリファックス博士ものは、ホームズがストランド誌に連載されていた同時期に一緒に掲載されていた つまりは同期のライヴァルというだけでなく、同一雑誌で肩を並べる仲間でもあったわけだ ホームズのライヴァルの中でも最初期のものだけに古色蒼然としてるのは否めないが、いやいや味わいがあってよろしい ついでに言うと仲間ではなくて同時期の真のライヴァルだったのはもちろんオースティン・フリーマンだろう ソーンダイク博士が連載されていたのはホームズ掲載の雑誌とは別のライヴァル雑誌だったのだから マクドネル・ポドキンはなんで親指探偵ポール・ベックものから選ばなかったのだろう 他社でもいいから纏めた形で出して欲しいな親指探偵 クリフォード・アッシュダウンは貴重で、クイーンの定員でも原著の希少性に言及している オースティン・フリーマンがまだソーンダイク博士ものを書く前の共同筆名で、文章のタッチがソーンダイク博士とは微妙に違い、フリーマンは医学的知識を提供しただけで執筆は合作者だったんじゃないだろうか エドガー・ウォーレスは長崎出版から長編が出ている今となっては希少性は薄れたが、正義の四人の短編集はまだなので、どこかの出版社で挑戦して欲しい あ、それとクイーンの定員にも入っているJ・G・リーダー氏もね へスキス・プリチャードとホーナングはすでに論創社から短編集が出ておりこれも希少価値は無くなった E・W・ホーナングはドイルの妹の婿つまり義弟で当然収録されるべき作家だが、代表シリーズのラッフルズものを避けたのは昔に創元で予告されてたからだろうか 創元らしく予定は完全にボツっちゃったが |