皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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miniさん |
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平均点: 5.97点 | 書評数: 728件 |
No.23 | 5点 | 杉の柩- アガサ・クリスティー | 2016/06/28 09:52 |
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漢字間違え易いけど「棺」じゃなくて「柩」なんですよね
世の他のネット書評上でも、クリスティー通を気取る評論家に受けが良い代表例みたいは作品である この作を持ち上げると、作者の隠れた名作を発掘、みたいな気分になるのかも知れない 通を気取っちゃいないが例の霜月蒼氏も高評価だったなぁ 一方で、この作を低評価する方に多いのが、ミステリーにパズル要素しか求めないタイプの読者だ たしかにね、当作は謎解き的には難が有って、例えば動機の点で日英の違いを考慮しても法律上の疑問点が有るし、殺害方法やトリックにしても専門知識はまぁ大目に見るとしてもセンスと言う意味であまり面白味が有るわけでもない、それと他の方も指摘されておられるが後出しジャンケン的な説明も有るしね 私はクリスティーは一部の作しか読んでないから通じゃ無いし、そうかと言ってミステリーにパズル要素だけを求めるような読者でもない 私がこの作をあまり評価していないのは別の理由によるのである この作が通な方に評価が高い理由の一つはメロドラマと謎解きとの融合という要素だと思う、前半メロドラマで後半が謎解き しかし私はそう見事に融合していないと思うのである、どちらかと言えば木に竹を接いだ感じ、チグハグ感有るんだよなぁ それと他の方も御指摘の通り、その前半だが案外と直接の心理描写は少ない、だから書きようによっては後半も同じ雰囲気で書こうと思えば書けたんじゃないかと思うのだけれど こうしたメロドラマと謎解きとの融合を狙った3作、「ホロー荘」「満潮に乗って」と比較してこの作が一番出来が悪いと思っている、3作の中で私が一番好きなのは「ホロー荘」である 何故「ホロー荘」が好きかと言うと、終始同じ雰囲気で押し通しているからだ そういう意味でこの作とか「五匹の子豚」なんかは惜しいと思うのだよな、前半は凄く雰囲気良いのに、後半になってパズルっぽくなってくると失速しちゃう、「満潮に乗って」になるとそもそもロマンス要素がそれほど濃厚じゃないし 結局のところ作者の数多い作品の中で、通の間で隠れた名作扱いされる事の多い作品の中では私は言われるほど出来の良い作品だとは思っていないのである |
No.22 | 6点 | ABC殺人事件- アガサ・クリスティー | 2016/05/07 10:02 |
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C・デイリー・キングの「いい加減な遺骸」の書評をしたのだが、「いい加減な遺骸」がABC3部作の1冊なので、ついでだからABC繋がりで「ABC殺人事件」の書評もしてしまおうと思い付いた
「ABC殺人事件」は確かに私もベタな感じはする、その点では同感だ、確かにベタだ、間違いない ベタですよ、ベタだ! だがしかし問題は、何が理由でベタに感じさせられるのか?ポイントはそこだな ベタな理由は? 多くの読者は、そりゃ、あのミステリ的な仕掛けでしょ、と思うでしょ、しかし私はミステリ的趣向仕掛けがそれ程ベタだとは思わないのである 仕掛けに関しては、これは要するに「三幕の殺人」の改良版だと思うんだよな、作品名を出しちゃったけど、別にネタバレでも何でもないから大丈夫 「三幕の殺人」が1934年、「ABC殺人事件」が1935年、「ABC」の方が後発だし、その割には間髪を入れずに書かれている この両作の間に出た長編は、ポアロもマープルも出てこないノンシリーズ「大空の死」1作のみなのだ つまり「ABC」が「三幕」の改良版を想定したのではないか?という疑いは捨てきれないのである 「三幕」がミッシングリンクの範疇に留まっているのに対して、「ABC」では演出効果として”見立て”の領域にまで踏み込んでいる感じなんだよね 私は「三幕の殺人」がそれ程完成度が高いとは思わない、どちらかと言えば出来損ないの部類ではないかと感じている、そこを改善しようと作者が目論んだと思うのは穿ち過ぎだろうか で、そこでさ じゃあ、論題に戻って「ABC」がベタに感じさせる理由は何なのか? 私はその理由は”題名”だと思う ”ABC”ですよ、ABC! これってさ、日本で言ったら、例えば「アイウエオ殺人事件」とか「いろは殺人事件」って事でしょ、そりゃベタだわな もっと他に無かったのか? 例えばギリシア文字使って「αβγ殺人事件」にするとかさ、そうするだけでも印象は結構違ってくるのになぁ、某国内作家ぽくなるし(笑) つまりはさ、「三幕」よりも完成度を高めたのは良かったのだが、作者の限界か”ABC”などという安易な演出しか思い付かなかったが為に損をしている作品に思えてしまうのだよね |
No.21 | 5点 | 謎のクィン氏- アガサ・クリスティー | 2016/04/19 10:03 |
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私がこれ読んだのは結構初心者の頃で、『おしどり探偵』や『火曜クラブ』(『パーカー・パイン』は未読)と並んで同時期に読んだ
『おしどり探偵』では物真似される未知の作家に対して興味を持ったし、『火曜クラブ』に見る独特のエキゾチズムは魅力だったが、『謎のクィン氏』だけはどうにも合わなかった 一応断っておくと、私は初心者の頃からパズル的要素だけを求めるタイプの読者では決してなかったし、『クィン氏』にパズル要素だけを求めてもいない 私も小説的世界と謎解きとの融合という点で質は高いとは思ってる しかし質の高さと、個人的な好き嫌いとはまた別の問題なわけで とにかく私はこの短編集が嫌いである、質自体が標準クラスだったら4点以下にするところだ じゃあどういう点が嫌いなのか 初めて読んだ時に、読んでるこっちが恥ずかしくなってきたんだよね、これ だって、これって例えば日本だったら、スサノオとかひょっとこを、まるで白馬にまたがった王子様風に登場させる感じなんだもん 初読時に思ったのは、少女漫画の世界かよだった(苦笑) ハーレクィンのアバターという基本発想自体がクリスティの独創性を感じるよりも、他の作家でも思い付きそうだけど、他の作家なら恥ずかしいから書かないんじゃないかと感じたんだよね 私が作家だったら、そうだな「真夏の夜の夢」に登場する妖精パックの化身でも使うかな あとねサタスェイト氏が大嫌い、とにかく嫌い 何て言うかこの人物、作者の化身とでも言おうか、作者の性別を変更して年配にしたような感じがするんだよね サタスェイト氏と事件の渦中に居る登場人物との絡みがもう、読んでて恥ずかしくなるんだよね もう駄目、とにかく私には合わない よく通好みみたいに言われる事の多い『謎のクィン氏』だけど、案外とね、通な読者よりもさ 例えば読者の知恵比べとしてのパズル的ゲーム性を重んじて人物キャラなどには全く興味の無い読者がむしろ高く評価しそうな感じも有るんだよね、案外とね あるいはハードボイルドとか警察小説とか社会派とかのリアリズム系ジャンルには全く興味が無い的なタイプの読者にも合うだろうな、リアリズムとは対極を目指したような感じだもんね ちなみに読んだ数少ないクリスティ短編集の中で、特定の探偵役が居ないノンシリーズ短編集だけど私が一番好きなのは『死の猟犬』である |
No.20 | 4点 | ゴルフ場殺人事件- アガサ・クリスティー | 2014/10/24 09:57 |
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本日24日に早川書房からソフィー・ハナ「モノグラム殺人事件」が刊行される、文庫じゃなくて単行本なので注目され難いかもしれないが、実はこれ新しいポアロものなのである
そう、著作権などの管理団体と思われる英国クリスティー社公認の正統ポアロ後継作なのだ 公認後継作にちなんでという事になると、まぁ最後の作という事で出版上の名目的ポアロ最終作「カーテン」か、あるいは執筆順で事実上のポアロもの最終作である「象は忘れない」あたりを選ぶのが妥当だろうが、どちらも未読なんだよね(残念) 尚、「象は忘れない」の後に事実上の長編最終作「運命の裏木戸」があるがこれはトミー&タペンスものなので対象外 そこでデビュー作でもある「スタイルズ」の再書評も考えたが既に便乗企画で使用しており断念、次善の策でこれにした マープルが初登場するのはクリスティの全作品中でも初期から中期にかけてなので、初期作はポアロものが中心だと普通思うでしょ、ところがこれが違うんだな ある程度ポアロが軌道に乗ってからはそうなのだが、最初期のクリスティは迷っていたのかいろいろ試していたフシが有る 例えば「スタイルズ」の後すぐにポアロものの2作目ではなく、長編2作目「秘密機関」はトミー&タペンスものなのだ 第3作目は一応ポアロ再登場だが、その後を見ると第4作「茶色の服を着た男」はレイス大佐、第5作「チムニーズ館」はバトル警視、第6作目でポアロ3度目登場のあの「アクロイド」、この後2作ポアロものが続き順調にポアロに専念かと思うと第9作目「七つの時計」では再びバトル警視、第10作目がミス・マープル初登場の「牧師館」で、第11作「シタフォード」に至ってはノンシリーズだ 皮肉な事にマープルが初登場してから後の方がポアロものの比重が高まっている これが短編だと初期はポアロものが中心なので、当初は短編シリーズ向けキャラとして考えていたのか?との疑問も有る 私は苦手なスポーツがいくつか有って、中でも嫌いなスポーツがボウリングとゴルフである、要するに腕力を使ったりとか自分の動く範囲が狭くてボールだけがすっ飛んでいく系のスポーツが嫌い 好きなのは自分自身が走ったりして広い範囲を動き回るスポーツで、陸上競技で例えるとトラック競技ならいいけど投てき種目系は全て苦手なのである したがってゴルフというスポーツに全く興味が無い ポアロ再登場の長編3作目が「ゴルフ場殺人事件」で、前作「秘密機関」が国際諜報スリラーだったのでまたオーソドックスな謎解き本格に戻したわけである、でもこれ本当にオーソドックスだな(笑) 「スタイルス」ではまだ大胆な仕掛けが施されていたが、「ゴルフ場」はクリスティらしいと言えばらしいのかも知れないが、古臭いトリックといい習作っぽさが抜けていない いや習作というより前時代的なミステリー小説作法の影響が色濃いと言った方が近いか、「秘密機関」も古臭いしな |
No.19 | 4点 | ポアロ登場- アガサ・クリスティー | 2014/09/25 09:56 |
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本日25日発売の早川ミステリマガジン11月号の特集は、”さようなら、こんにちはポアロ”
ドラマ版ポアロシリーズのラストシーズン放映に関する連動企画が中心 小説版企画では、「死者のあやまち」の元となった中編の掲載も有るが、目玉は近々刊行予定のソフィー・ハナ作「モノグラム殺人事件」の一部掲載、これは本家クリスティーがもう書く事が出来ない今、クリスティー社公認のポアロシリーズの正統後継作なのである さらに各評論家作家によるポアロ登場作品ベスト3アンケートの実施や、クリスティーファンの第一人者である数藤康雄氏による久々のコラムなども有り、特にドラマ版ポアロのファンには見逃せない号だろう アンケート結果だが、何で「そして誰もいなくなった」が1位じゃないの?みたいなアホな突っ込みはしないようにね さてそうなると私の書評もポアロ連動企画となるわけだが、当サイトのアイスコーヒーさんと企画が被っちゃった(苦笑)申し訳ないで~す 『ポアロ登場』(1924)はポアロものの第1短編集だが、じゃぁ第2短編集がすぐ書かれたわけじゃないのだよな、短編集だけを整理すると『ポアロ登場』の後は 『おしどり探偵』 (トミー&タペンス、1929) 『謎のクィン氏』 (1930) 『火曜クラブ』 (ミス・マープル、1932) 『死の猟犬』 (ホラー短編集、1933) 『リスタデール卿の謎』 (ノンシリーズ、1934) 『パーカー・パイン登場』 (1934) 『死人の鏡』 (ポアロものだが中編集、1937) 『黄色いアイリス』 (オムニバス、1939 米版のみ) 『ヘラクレスの冒険』 (ポアロ、1947) 『死人の鏡』は完全な中編集なので本格的なポアロものの短編集は戦後まで無いのだ、意外と皆様知らなかったでしょ こう見ると、初期のクリスティーは色々な探偵役を試していた感が有るんだよね、そしてポアロの造形もまだ後の長編諸作とは違い口調が軽薄(笑) 出版エージェントからの依頼の可能性も有るが、書かれた時期がまだホームズのライバルたちが跋扈していた時代だけに完全にホームズコピーなんだよね ただ真相や展開に後のクリスティを思わせるキラりとした面も感じさせるのは流石 しかしながら軽妙さばかりが目立ち、後の作に見られる人生の陰影が全く感じられないのは、初期の限界を感じさせてしまう 収録短編だが、固定化した舞台設定が嫌いな私としては「グランドメトロポリタン」みたいなものよりも、「百万ドル債権」とか「総理大臣の失踪」みたいな舞台が移動する作の方が好み |
No.18 | 6点 | スタイルズ荘の怪事件- アガサ・クリスティー | 2014/05/15 10:01 |
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先日に講談社から霜月蒼「アガサ・クリスティー完全攻略」が刊行された、文庫ではなく値段が2970円と個人書評集にしてはちょっとお高い
しかし霜月氏の書評エッセンスなら無料で閲覧できるサイトが有る、御馴染みの『翻訳ミステリー大賞シンジケート』だ、そのサイト内の寄稿としては名物企画の1つだった、現在は連載完了しているが今では過去ログのインデックスも付け加えるなどアフターケアも万全(笑) 霜月蒼氏は元来がハードボイルドなどが中心で本格派一辺倒の方ではないらしく、慶應大学ミス研時代に本格派を本格的に読むようになったらしい本格読者としては遅咲きのタイプだったようだ また御三家に関してはクイーンやカーは読んでいたがクリスティーは若いときは敬遠してたらしい 御三家の読み方には面白い傾向を感じるんだよね、クイーンだけ避けているという読者は非常に少ないが、他の2人は沢山読んでもカーだけ敬遠する読者とクリスティーだけ敬遠する読者に大きくタイプが分かれる印象だ 当サイトに私が始めて訪れた時に既に当サイト内で確固たる地位を占めていた書評者で私も尊敬するTetchyさんもクイーンとカーの書評は数多いのにクリスティーの書評は殆どなされていない 私の独断的推測だが、御三家の中でカーだけを避ける読者は割とクリスティーから入門した方が多い印象でカーは癖が有りそうなので敬遠している感じなのに対して、クリスティーだけ避ける読者の性格としていかにも入門し易い無難なものをわざと避けるようなあるいはコージー的なものに偏見が有るようなタイプの方が多い印象が有る コージー派はアメリカ由来のジャンルで英国作家のクリスティーとは作風が全く違うのだが・・・いや主旨が逸れだしたから止めておこう 霜月蒼氏は典型的な後者のタイプだったようでカーは読んでもクリスティーには手を出さずな人だったみたいだ、その霜月氏が一念発起してクリスティー文庫版完全制覇に挑んだのが今回の書評というわけらしい 早川書房にはクリスティー文庫が存在し旧早川文庫から完全に置き換えてしまった、活字が大きくなったのは良いが装丁がトールボーイサイズなのには賛否両論あるようだ しかし1つだけ旧文庫版よりもクリスティー文庫版の方が優れている点がある、それは通し番号の割り振り方法なのである 旧文庫版では通し番号1番が「そして誰もいなくなった」で有名作に若い番号がふられ、多分刊行順なんだろうけど結果的に売らんかな順みたいになっている(笑) 対してクリスティー文庫版では、全体をポアロもの、マープルもの、T&Tもの、ノンシリーズ、短編集などに分けてそれぞれ発表年代順に通し番号をふっている だから例えば年代順にポアロ登場作の間にマープルものが書かれていた場合はそれを飛ばしてマープルものの通し番号は後回しにするといった手法である 旧文庫版に比べて通し番号順が格段に整理され、最初からほぼ全100冊を想定するなど全集的性格を帯びている文庫だ という事はポアロものの第1作目がクリスティー文庫全体の通し番号の1番であり、霜月氏も最初にこれから書評している、いやと言うより「スタイルズ」こそが作者のデビュー作である 1920年という書かれた年代もあっていかにもなワトスン役の設定や全体に漂う古きカントリーものの雰囲気など古臭さは否めないが、それでも真犯人の設定など後の活躍を匂わせるキラリと光る部分も有って、あぁクリスティーはデビュー時からクリスティーだったんだなと感じさせる |
No.17 | 4点 | そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー | 2013/06/21 09:55 |
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本日21日に創元文庫からエリック・キースの「ムーンズエンド荘の殺人」が刊行される
創元では28日にも「幽霊が多すぎる」のポール・ギャリコの珍しいミステリー作品の刊行が予定されており、一部の同じ読者が両方買うんだろうな エリック・キースという作家名は初耳だが、内容からして本格マニアが高じて書いたって感じの新人アメリカ作家かも知れない、少なくとも埋もれてた幻の古い作とかでは無く現代作家な事は間違い無いようだ 創元の紹介サイトの要約だと、探偵学校の卒業生数名の元に校長の別荘での同窓会への招待状が届く、舞台は雪の山荘、唯一の外部との連絡通路は吊り橋のみ そして読者の期待通り?に吊り橋が何者かに爆破されクローズドサークルに、お約束の密室や不可能状況での連続殺人発生という内容らしい うひゃ~、絵に描いたような”雪の山荘テーマ”だぁ~ 売れてない日本の新本格作家のゴーストライトの英訳じゃないかと疑いたくなるような展開だ~(笑) きっとこういうの待ってました、って読者が多いんだろうな 何しろ私はクローズドサークルとか館ものお屋敷ものという舞台設定に全く魅力を感じない読者なので、当分は手を出す気持ちは無い そりゃブックオフで100円になったら購入してもいいが、それまで積読どころか多分入手すらしないと思う ところで原題は『9人の男達の殺人』である、9人という人数に何か仕掛けが有るのかは分からないが、人数が9人と10人という違いは有るにしても、「ムーンズエンド荘」は「そして誰もいなくなった」を念頭に書かれているのは間違いないと思われる 創元サイトの紹介では、”雪の山荘版「そして誰もいなくなった」”とのことだ その本家「そして誰もいなくなった」を読んだのはずっと前だが、私にとっては何の思い入れもない作なので積評(造語です、はい)のままだったのでこの機会に この作は1939年だから古典としては案外と決して古くない、既に本格黄金時代は衰退してサスペンス風に移行しつつあった時代である、このような作品が書かれる土壌は出来ていたという事なのだろう |
No.16 | 3点 | メソポタミヤの殺人- アガサ・クリスティー | 2012/09/11 09:55 |
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本日11日夜にWCアジア最終予選、日本Vsイラクの試合が行なわれる
イラク監督は元日本代表監督のジーコなので、新旧日本代表監督決戦となるわけだ イラクが舞台のミステリーと言うとクリスティの2冊、「メソポタミヤの殺人」と「バグダッドの秘密」となるわけだが、「バグダッドの秘密」は未読なので今回は「メソポタミヤの殺人」だ 「メソポタミヤの殺人」を読んだのはすげ~前でさ、しかも印象が薄くて内容を殆ど覚えてなかったから軽く読み直しちゃったよ 何でそんなに印象が薄かったのかと言うと、一つには考古学的発掘現場という一種のクローズドサークルな舞台なので、中近東ものらしいエキゾチズム漂う魅力に欠けるという理由もある でもやはり犯人とトリックがありきたりだからというのが最大原因だからだろう *! 以下は直接のネタバレではないが、「葬儀を終えて」と「満潮に乗って」のどちらかが未読な人にはネタバレになるので避けてた方がいいです 昨今は”○○トリック”や”○り○○し”トリックや”○れ○○り”トリックというものをやたらと忌み嫌う読者が多い気がするが、私は○○トリックに格別のアレルギーは無いのであまり気にしないタイプである、しかしだ、この「メソポタミヤ」はいただけない 当サイトでのseiryuuさんや空さんの書評で御指摘の通りで、これは無理があるな 「葬儀を終えて」や「満潮に乗って」は強ち不自然だとも言えないと私は思う、関係者とっては”よくは○らぬ○○”だったりするわけだからね、滅多に合わない遠い○○なんて顔も覚えてないなんてざらにあるしね でも「メソポタミヤ」の場合は全くの○○じゃ無いんだぜ、普通気付くだろ 「葬儀を終えて」には難癖付けておいて、この「メソポタミヤ」に寛大な読者が居るとしたらダブルスタンダードもいいとことろだ 殺害トリックもつまらないし内容をすっかり忘れていたのも当然だなと自分自身で納得した |
No.15 | 3点 | アクナーテン- アガサ・クリスティー | 2012/08/17 10:01 |
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今年は1年間に渡って”ツタンカーメン展”が開催される、皆様ご存知でした?
上半期は大阪が会場だったが、4日からは会場を東京”上野の森美術館”に移して開催されている 東日本在住の皆様、黄金のマスクを見るのは今がチャンスですよぉ~ さらに六本木ヒルズでは9月17日まで”大英博物館 古代エジプト展”も開催されている 今年の日本はエジプト・イヤー、ってのは大袈裟か(苦笑) 「アクナーテン」はクリスティ晩年に書かれた戯曲シリーズの1作で、アクナーテンとは宗教改革で有名なアメンホテプⅣ世ことイクナートンその人である そのアクナーテンの娘婿であり、スメンク・カ・ラーを間に挟んで2代後のファラオがツタンカーメンなのである 脇役ではあるが戯曲中にも少年ツタンカーメンは登場する アクナーテンは古代エジプト歴代ファラオの中でも変人として有名で、それまでの多神教を捨て一神教を奉じ都までも遷都した 遷都された都では新しい写実的な芸術も生まれアマルナ芸術と呼ばれている その急進的な改革により反発も多く、死後は墓さえもまともに造られなかったりそんなファラオは存在しなかったみたいに歴史から葬り去られそうにもなったという説も有る アクナーテンの死後に都を元へ戻し旧来のアメン信仰を復活させた張本人が本人の意思だったかは謎だがツタンカーメンなのだ さらに戯曲中には軍人ホムエルヘブも登場するが、ホムエルヘブはツタンカーメン時代には将軍となり後に血は繋がっていないが自らファラオとなって政治を執ることになる さて問題はアクナーテンがなぜ宗教改革に邁進したのかという動機だが、クリスティは従来通りの解釈である、それまでのアメン神を奉じる神官の政治的腐敗から脱却する為にアテン神への一神教に帰依したという説に則り話を展開する つまりアクナーテンを理想に燃える若き英雄として捕らえているわけだ アクナーテンの王妃であり古代エジプト3大美女の1人ネフェルティティも心やさしい人物に描かれている ちなみに3大美女の2人目はラムセスⅡ世の妃ネフェルタリで、ずっと時代は下るが3人目がクレオパトラである 3人の中にハトシェプスト女王を入れる説も有るが、ハトシェプストは美女というより政治家のイメージだからなぁ さて以前TBSだったと思うが、地中海での世界最大規模の火山噴火に関するドキュメンタリー番組が放送された この噴火によって地中海周辺は何年にも渡って噴煙による日光遮蔽が起こり暗い日々が続いたそうだ アクナーテンが即位したのはこの大噴火の影響がまだ有った頃と時代が合致しており、一神教への改宗への動機になっているのではという推論を番組ではしていた なるほど面白い説だ、アテン信仰とは要するに唯一太陽神への信仰であり、暗い気象から末法思想的に光を求めていた当時の雰囲気が伝わる そう言えばさ、末法思想が蔓延すると多神教よりも一神教にすがろうとする風潮は平安末期の阿弥陀信仰と通じるものが有るな アクナーテンは現実の政治などは省みず一心不乱に祈っていただけの王だったという説も有る クリスティの戯曲よりもこのテレビ番組の方がミステリー的に面白い解釈だと思えてしまうのだった |
No.14 | 4点 | 死が最後にやってくる- アガサ・クリスティー | 2012/08/03 10:02 |
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今年は1年間に渡って”ツタンカーメン展”が開催される、皆様ご存知でした?
上半期は大阪が会場だったが、明日4日からは会場を東京”上野の森美術館”に移して開催される あれ?同じ上野公園内でも国立博物館じゃないの?、と思ったら後援がフジテレビか、上野の森美術館ってフジサンケイ・グループが設立したという裏事情なわけね 東日本在住の皆様、黄金のマスクを見るのは今がチャンスですよぉ~ さらに六本木ヒルズでは9月17日まで”大英博物館 古代エジプト展”も開催されている ロンドン五輪の男子サッカー決勝トーナメントの初戦もエジプト戦だし、今年の日本はエジプト・イヤー、ってのは大袈裟か(苦笑) 中近東ものをいくつも書いているクリスティだが、その中でも最も異色作なのがこの「死が最後にやってくる」だろう 古代ローマよりさらに前、古代エジプトが舞台という、おそらくは最も古い時代設定の1つと言える 時代性もあって、”妻”と”妹”を同義語的に使用したりでちょっとその辺がややこしいが、当時は近親結婚も普通だったりという事情なんだろうね こんな設定で書けるのは、夫が考古学者のクリスティならではだ しかしなんである、内容は案外とオーソドックス ロマンス小説風なヒロインに訳知りな老婆といった人物設定、話の展開、謎の解明など、いつものクリスティの定番に沿っていて、あまり異色性が無いのだ 舞台設定をこのまま現代に置き換えても通用するような話で、舞台が超異色で有る事がかえって浮いている感すらある また謎めいた後妻の若い女性の過去について謎のまま放ったらかしなのもどうかと思うし タイプとしては館もの一族ものに順ずるような話なのも私の好みではなかった |
No.13 | 5点 | 死との約束- アガサ・クリスティー | 2012/06/08 09:24 |
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本日8日、WC最終予選のヨルダン戦が行なわれる、さて中東ヨルダンという国は東西交通の要衝で、中東ではドバイ擁するUAEやドーハ擁するカタールなどより歴史的観点では重要な国だ
例えば”死海”という言葉から大抵の人はイスラエルという国名だけを連想するだろうが、実は”死海”はイスラエルとヨルダンの国境に跨っているのだ そして死海と並ぶヨルダン最大の観光名所が”ぺトラ遺跡”である 映画インディジョーンズのロケ地にもなった”ぺトラ遺跡”、両側を崖に挟まれた道が突然開け、眼前に断崖に刻まれた神殿が現れる様は画になる光景だ クリスティ中期の中近東もの「死との約束」は、私は観てないが『死海殺人事件』として映画化された時もこの光景が効果的に使われていたらしい 一見するとクリスティ流トラベルミステリっぽい「死との約束」は、クリスティ作品としてはかなり仕掛けにこだわった作だ トラベルミステリという点では「オリエント急行」とも関連が有り作中でも言及されているが、”旅行もの”という視点で見るとある種の共通性を感じる 「オリエント急行」では関係者が1ヶ所に集められる”雪の山荘テーマ”で書いたら意味を成さず、あくまでも旅行途中での事件である必要があるのは皆様御存知の通り そして「死との約束」もトラベルミステリとして書かないと意味が無いのである 作者が「オリエント急行」のネタを思いついた時に、”旅行もの”ならではの仕掛けをもう1つ思い付いた、という推測は考え過ぎかなぁ 精神分析の専門家まで登場させる割には、極端に戯画化された被害者など登場人物の造形に深みや陰影がそうあるわけでもなく、そうした人物描写的方面での魅力には乏しい この作品に関して人物関係云々を詳細に考察しても私はあまり意味が無いと思ってる この時期のクリスティは似たような人物関係設定が散見されるが、私はその理由は、その時期には仕掛けを最優先した話が多いからだろうと思う、だから似たような人物設定を自作から借りてきちゃうみたいなね ただしこのカリカチュアされた被害者の人物造詣が真相と大きく関わってくるので仕方ないところだろうか まぁとにかく、”まず仕掛けありき”、な作なのである 他サイトで、”クリスティ作品中最大級の驚愕”と評していた人が居たが、たしかにある意味「アクロイド」や「オリエント」を凌ぐサプライズが用意されている 仕掛けが上手く嵌った読者への驚愕度では№1だろう ただしかし私は中途で気付いてしまった、実は本文を読む前に登場人物一覧表を眺めた段階である疑惑を感じたのだが、途中で作者はこういう事を狙っているのではないか?と思ったのだ 私は「ナイルに死す」みたいなのは見抜けないおバカなんだけど、この「死との約束」とか「ポアロのクリスマス」みたいなパターンは気付いちゃうんだよなぁ |
No.12 | 5点 | ナイルに死す- アガサ・クリスティー | 2012/04/05 09:52 |
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今年は1年間に渡って”ツタンカーメン展”が開催される、皆様ご存知でした?
現在は6月上旬までの上半期に大阪が会場となっており、8月~12月までの下半期は東京に会場が移る 西日本在住の皆様、黄金のマスクを見るのは今がチャンスですよぉ~ 今年の日本はエジプト・イヤー、ってのは大袈裟か(苦笑) エジプトはナイルの賜物、そこで「エジプト十字架」に続いての第2弾はこれだ 私は作者が仕掛けてきたなってのは割と見破る方なんだよね 「死との約束」「ポアロのクリスマス」「葬儀を終えて」みたいな、いかにも狙ったな、みたいなやつは普段はアホなくせに勘が働くんだ しかし「ナイルに死す」には全く騙された、私はこういうのに弱い、人間を信用してしまう性格なんだろうか露ほどにも疑わなかった いかにも作者が視点を逸らそうとしてるタイプのは割と気付くんだけど、この手の真っ向勝負に人間の本性でこられると駄目だな、私はこういうの見抜けない でも「ナイルに死す」は真相が分かったって人が意外と多いんだね、私にとっては上記で挙げた3作よりも「ナイル」の方が難しいと思うんだが それにしてもだ、「ナイル」って作者の自信作の1つらしいが、そうかなぁ たしかに作者の中でも最も華やかな作品の1つではある しかし赤い鰊が多い割には、それらの人物描写が記憶に残ってないしなぁ、結局赤い鰊以上の存在になってないし、やたら能天気だし やはり物語性と人間ドラマと人物描写が評価出来る話の方が好きだなぁ |
No.11 | 5点 | 五匹の子豚- アガサ・クリスティー | 2011/11/29 09:57 |
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例の森事典で森英俊氏がすごく誉めていた作品
森氏曰く、”人物描写が弱いと言われるクリスティだが、人物が描けなかったのではなくて敢えて深くは描かなかったのではないか”、とこれまでのクリスティ評価を覆す人物描写に深みのある作という事だ たしかにその通りではある、ただそういう意味では「ホロー荘の殺人」も同等の評価は出来ると思うな もちろんこの「五匹の子豚」を好きか嫌いかと問われればそれは好き、前半だけなら・・ 地道な捜査小説が好きな私の嗜好から言えば、前半のポアロによる事件の聞き取り再調査の件はメチャ好きだ このスタイルを最後まで貫く構成だったならば多分8点以上は進呈したと思う しかし後半になると過去回想ではなくて実際に登場人物達が眼前に現れてくるわけだよな、これだと結局は他のクリスティ作品とさして変わらなくなってしまうのではないだろうか ネタバレになるから詳しくは書けないが、「五匹の子豚」は「ホロー荘」と似た発想を持っているが、「ホロー荘」の方が首尾一貫してテーマを掘りさげている分、私には「ホロー荘」の方が好感が持てた |
No.10 | 6点 | オリエント急行の殺人- アガサ・クリスティー | 2011/04/13 09:56 |
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シドニー・ルメット監督が逝去した
おっさんさんが書評で書かれているようにルメット監督の代表作は『十二人の怒れる男』なのでしょうが、映画に特にこだわりがなく『十二人の怒れる男』も観ていない私のような一介のミステリー読者にとっては、ルメット監督と言えばやはり『オリエント急行殺人事件』のイメージが強い 原本「オリエント急行の殺人」は作者の中では仕掛けの要素が大きい作であって、その分オリエントと言う割には中近東の観光御当地ミステリーの要素が少ない クリスティが考古学者マローワンと再婚したのが1930年だから1934年作のこの作は中近東ものへの萌芽は感じるものの、やはり本格的に中近東ものに手を染めるのは1936年「メソポタミアの殺人」ということなのだろう 「メソポタミア」以降は1937年「ナイルに死す」1938年「死との約束」と中近東ものが続く 「オリエント急行」は仕掛け上の基本アイデアもさることながら、それ以上に作者の凄さを感じるのは、この仕掛けを活かすために国際的に様々な国籍の人種を登場させて粉飾している点だ 例えばこれを雪の山荘テーマみたいに、仮に初対面でも名前は聞いていたとか何らかの関係者同士である事が事前に分かっていたというのでは意味を成さない 同じ雪中に閉じ込められるのでも、互いに面識も無いような行きずりの旅行客同士だからこそ設定と真相が活きる訳だ だからねえ、”雪の山荘”じゃなくて”雪で立ち往生した国際列車内”じゃないと駄目なんだな、そこに目を付けたのはクリスティの手柄だ 映画版『オリエント急行殺人事件』はオールスター・キャストで話題となったが、イギリス制作なのに監督はアメリカ人、英米仏から役者を取り揃えと原作並みに国際色豊か 原作での各登場人物は案外と地味なんだけど、映画化という観点ではたしかにオールスター向きだ 原作で言えば「オリエント急行」よりも「ナイルに死す」の方が余程華やかなんだけど、「ナイルに死す」はオールスター向きじゃないし 何たって映画ではポアロがある意味主役になって無いもんね、そりゃイングリッド・バーグマン、アンソニー・パーキンス、ショーン・コネリー、ローレン・バコール等々錚々たる配役の中でポアロ役アルバート・フィニィだけが突出ってわけにゃいかんだろうしね アルバート・フィニィのポアロ役は人柄の温厚さが出て無いが、巨漢ユスチノフは論外としてもスーシェよりはむしろ好き 脇役陣にも気を配っているなと思うのが、例えば陽気なイタリア人なんかも感じが出てるし、フランス人の車掌などにも見せ場を創っている この車掌は結構重要な役柄だけにフランスの名優ジャン=ピエール・カッセルを配するなどオールスターならでは ここまでやるなら捜査陣側の鉄道会社重役(映画では役名を変更)やギリシア人医師などにももう少し大物俳優を使っても良かったかなという気はした ただ今にして思うと、役者人生や私生活などで曰くが有る俳優女優が多い配役だと感じるのは気のせいか ところで昔の翻訳題名には「十二の刺傷」というのがあったらしいが、ルメット監督よくよく”12”という数字に縁が有ったとみえる |
No.9 | 5点 | ポアロのクリスマス- アガサ・クリスティー | 2010/12/23 10:07 |
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* 季節だからね(^_^;) *
クリスティーと言うとクリスマスにちなんだ作品は多そうだが、単独の短編は除くと案外と題名にも付くのがこれと短編集『クリスマス・プディングの冒険』位なんだよな それにしてもだ、クリスティーは読者の視点を逸らすのが上手い作家だが、謎解き部分以外の面でも読者を煙に巻くんだな 長編では珍しく題名にクリスマスの文字を入れながら、内容的に全然クリスマスらしくなくて、クリスマス・ストーリーの定番である子供も殆ど出てこないし、超自然的な雰囲気を醸し出さず血生臭い事件にしている さてはわざと狙ったなクリスティー 狙ったと言えば、これどう見てもある仕掛けを前提に書かれていて、ミステリー作家ならば1度は使ってみたい設定だが、例えばクイーンにも作例がある しかしクイーンはこれをそのまま使うのが気が引けたと見えて少々アレンジして使っているのに対して、クリスティーの方が発表年的には後発なのに真っ向勝負で使っている それでも読者を騙せるのがクリスティーなんだろうけど、ただここまで直球勝負だと慣れた読者を騙すのは難しいかも 私もこれ読んだ時点ではある程度クリスティーは読んでいたので、いつもらしからぬポアロの登場のさせ方が不自然に思えて、あぁこれ狙っているなと早い段階で察しがついてしまった あと作者には珍しく密室トリックも使っているが、密室の基本的解法は状況からこれしかないだろ、と割と簡単に見破ってしまった ただ空さんが御指摘の後始末処理の上手さには同感 それだけクリスティーがフェアに書いているという事だろうけど、クイーンの方がすれからしな読者を想定しているということなんだろうか ポアロの推理は心理的だけど、私は”人間の性格”による推断だから駄目という風には思わない、心理は駄目で物的証拠に基づく推理だからミステリーとして価値があると決め付けるのは止めにしたいね そもそも心理的解法にならざるを得なかったのは、この作品が仕掛け優先で書かれているからだと思う、書評で意外性ばかりが採り上げられがちなのも当然でしょう |
No.8 | 1点 | 邪悪の家- アガサ・クリスティー | 2010/11/12 09:59 |
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私が読んだクリスティ作品中で最も駄作だと思ったのがこれだ
いやこれがさぁ初期の1920年代の作だってぇのならまだ情状酌量の余地はあるんだよ 1932年作って事はさ、つまり作者が軌道に乗ってきた言わば脂が乗り始めた頃の作なのだ もっともカーとか他の作家でもね、不調時期なら仕方ないがその全盛期において、傑作群の中にポツリと駄作書いちゃう場合も結構あるからね 「邪悪の家」がまず酷いのは犯人の隠し方がメチャ下手糞な事で、まるで初心者用テキストかと思う位だ この犯人が分からなかった読者はそれこそ自分の頭の回転の鈍さを疑った方がいいんじゃねぇの?って位バレバレ 「葬儀を終えて」レベルになると初心者が見抜けなかったとしても、そりゃ作者が上手いせいで読者側の頭が悪いわけじゃないよと慰められるが 他の要素もクリスティの悪い面が全面的に出てしまったようで、薄っぺらな登場人物とこれも下手なミスディレクションといい、およそ誉める要素がまるで見当たらない 話は変わるが、クリスティ作品の邦訳題名は、早川=英版、創元=米版に準拠している場合が多いが、この作は創元版の方が英版の原題通りなんだよな、なぜなんだろう 私は英国作家のものは英版準拠の題名で読みたいので、普段は早川版で読むんだけど、これは英版準拠の創元文庫版「エンドハウスの怪事件」の方で読んだ |
No.7 | 8点 | 葬儀を終えて- アガサ・クリスティー | 2010/11/11 10:06 |
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クリスティに関してはどうも私は当サイトでの空さんの評価と合わない傾向があって、戦後の有名作だと空さんは「予告殺人」に対しては擁護派で、この「葬儀を終えて」に関しては辛口で厳し目の御意見ですが、私は全く逆ですね
実を言うと私は真相は中途で見破っちゃった まぁ単なる直感なんだけど臣さん同様に最初に犯人に気付いた 一応クリスティという作家の癖を知っていたので、犯人は絶対こいつしかないと中盤で確信しちゃった 犯人から逆算して考えると当初のある前提について180度見方が変わる事に気付いて、さらに大胆なトリックが使われた可能性を疑った まぁ正直言うと、当初のある前提については、案外と単純にミスリードなんじゃねえのと序盤から多少は疑惑は感じてんだけどね、私も初心者じゃないからね 以上の思考順序から直感ではあるがほぼ完璧に真相は分かった しかしなんである、真相は見破っちゃったが、がっかりするどころか技巧の冴えに驚嘆せざるを得なかった 当サイトで臣さんもミスディレクションに感心しておられますが、私も臣さんに全く同感ですね 「葬儀を終えて」は例えば「ホロー荘」のような人間ドラマ的魅力や感動には全く欠けていて、とにかく技巧だけが目立つ作である そうなると方向性としては本来の私の嗜好では無いのだが、ここまで技が熟練したら褒めるしかないだろう 中心となるトリックも昔からあるトリックだが、しかし使い古されたトリックでも要は使い方次第であり、上手く使えばこんな傑作に仕立てられるのだという円熟の境地を見せられた思いだ 私は慣れた読者だから見破ってしまったが、初心者では多分見抜くのは難しいだろうね あともう一つ、私はCCの館ものや一族ものという設定に何の魅力も感じない性格なんだけど、この作品では冒頭に掲げられたあれも含めて設定自体がミスリードになっているのも好感を持った理由の一つ まぁ一族ものという設定にこれ以上言うとネタバレになるから止めとこ |
No.6 | 3点 | ゼロ時間へ- アガサ・クリスティー | 2010/11/10 10:07 |
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クリスティの有名作の中で私がとても嫌いな作品が何作か在る
以前に書評書いた「三幕の殺人」もそうだが、「ゼロ時間へ」も気に入らない1冊 この”ゼロ時間”という言葉が実に魅力的で読む前は期待したのだが、読後に期待は大きく裏切られた こんなつまらない真相だったとは 実はこの根本的な発想には、レオ・ブルースの某作に前例が有るんだよな ネタバレになるから作品名は明かせないが、レオ・ブルースの某作の方がたしか発表年は早いはずだし、内容的にもブルースの方がこの仕掛けの使い道が上手いし また人物描写もちょっと難 いや決して人物描写が弱いんじゃないよ、弱くはなくてむしろこってりと登場人物が描かれている 私は物語性主体なのが全然苦手じゃないし、パズル性だけを求めるようなタイプの読者では絶対に無い しかしだねぇ今作では物語性が良い方向に働いてなくて、ただ読者をうんざりさせるだけに終わってる感じで、定評ある作だが私には失敗作にしか思えなかったな ところで今回の主役はバトル警視 これは仕方ないよな、この話は探偵が推理を失敗する必要がある設定なので、ポアロやマープルを使うわけにはいかないしトミー&タペンス向きの話でもない、ましてや国際陰謀譚じゃないからレイス大佐ってわけにもいかんし 結局使えそうな探偵役がバトル警視だったのは納得出来る |
No.5 | 8点 | ホロー荘の殺人- アガサ・クリスティー | 2010/07/16 10:20 |
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明日17日に映画『華麗なるアリバイ』が公開となる
その原作が「ホロー荘の殺人」なのだ ただしポアロが登場しない設定の戯曲版だが フランス映画なので舞台もフランスに代えていて、被害者の職業も行政官から医師に置き換えている 以前ニュースでクリスティの名が採り上げられた時、「オリエント急行の殺人」や「ホロー荘の殺人」で有名な、と紹介していた 「ホロー荘」の位置付けが分かるエピではないか 日本での初心者にとっては「アクロイド」や「そして誰も」だろうが、世界一般的には「オリエント急行」や「ホロー荘」のクリスティなんだな、と思った 「ホロー荘」はたしかに特別な作品の一つである クリスティはよく謎解き部分は上手いが人物描写が薄っぺらみたいにいわれることもあるが、人間が描けなかったのではなく、あえて描こうとしなかったんじゃないかと思わせる お!やれば出来るんだなクリスティ、 ただし私はこの作品を”ブンガクテキ”などと思ったことは無い トリック自体は大したことは無いが、トリックしか興味の無い読者が読んでも良さが分かリ難いのだ 真相がつまらないと言う読者も当然居るだろうが、真相だけを抜き出して吟味しても意味が無い 要するに総合的に判断して真相が作品世界にマッチしているかが重要なポイントで、「ホロー荘」においては他の解明は有り得ず真相は絶対これしかないし、それでいいのだ まぁだからこそ私は途中で真相が分かっちゃったけど 「ホロー荘」はブンガクとかそういう観点じゃなくて、普通にミステリー小説として総合的な世界観としての傑作なのである 小説版ではポアロものだが戯曲版ではポアロは登場しない それも道理で、この作品でのポアロは「八つ墓村」の金田一みたいに終盤で推理と説明は一応披露はすれど、事件の根本的解決に役割を果たしているとは言えない もっとも事件直後を目撃させる必要があるので、それが小説版ではたまたまポアロだったわけだが、1人だけに目撃させるなら確実な証人の方が良いわけで、そうなるとポアロの存在意義が全く無いわけではない 映画予告ではどうやら複数の目撃者を立てて確固たる証人としているようだ |
No.4 | 3点 | 三幕の殺人- アガサ・クリスティー | 2010/03/02 10:38 |
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発売中の早川ミステリマガジン4月号は特大号で、特集は”秘密のアガサ・クリスティー”
なぜ特大号扱いなのかというと、最近クリスティー短編2編の幻の未発表原稿が発見されたというニュースはファンなら御存知のことだろう 早川書房は名前の通りいち早く翻訳権利を取得し雑誌掲載となったわけである こういうのが世に出ると真っ先に読みたがる読者も居るのだろうが、その作家の代表的な作品は全部読みましたって読者ならまだしも、私のように一部しか読んでない読者には意味が無い 他社だが近刊情報だとクロフツ唯一の未訳長編も出るらしいが、”幻の”なんて宣伝文句に弱いのはどの世界も同じなのかな 私はそういう売らんかな作戦には便乗したくないぞ そこで同じ便乗するなら負の便乗で、一般的に定評がありながら、個人的に好きじゃない作品を取り上げよう 「三幕の殺人」はクリスティの有名作の中で特に嫌いな作品の1つなのだが、理由は2つある 1つ目はもちろん有名な”動機”の是非 この作品の動機は昔から賛否両論あることで有名だが、私ははっきり言って否定派だ こんな理由で人を殺しちゃ駄目でしょ 動機の謎なら「鏡は横にひび割れて」の方がずっと納得できる 2つ目の理由がサタースウェイト氏の人物造形が嫌いな事 サタースウェイト氏は短編集「謎のクィン氏」でも主役級の人物で、「謎のクィン氏」は質の高さは私も分かっているが、この人物が嫌いなのであまり好きな短編集ではないのだ 作者は人生の傍観者という役割の人物をよく登場させるが、どうも私には相性が悪いようで ただ今回サタースウェイト氏を使って、最後は謎を解くにしても途中経過でポアロを探偵役の中心に据えなかったのは、ポアロに早い段階から探偵をさせては謎の仕掛けから言って都合が悪いという事情もあったのかも知れんな |