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miniさん
平均点: 5.97点 書評数: 728件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.88 6点 007号の冒険- イアン・フレミング 2009/01/25 11:01
昨日24日に日本公開となった007新作映画「慰めの報酬」
例によって題名は原作から借りてきただけで内容は別ものだが、今回の題名の元は短編「ナッソーの夜」で、収録している短編集が『薔薇と拳銃/007号の冒険』なのである
実は映画の題名の方が素直に原題の直訳であって、小説の題名「ナッソーの夜」の方が翻訳時の変更なのだ
たしかに「ナッソーの夜」の方が小説の内容的にはしっくりくる
カリブ海に浮かぶバハマ諸島の首都ナッソーで、ボンドはある人物から一夜の物語を聞かされることになる
小説ではその語られる話が全てであって、ボンドがスパイとして活躍する場面は一切無い異色作なのである
映画版では流石にナッソーでの一夜の語りというわけにはいかないから、内容を小説版とは全く変えざるを得なかったのは当然である
映画版では小説には全く出てこない、環境保護団体グリーンピースがモデルと思われる団体が出てくるのが今風で、しかもその正体たるやNGO法人の仮面をかぶった謎の・・という趣向
「ナッソーの夜」はシリーズ外伝のほとんど普通小説と言ってもよく、元来が作者フレミングには純文学指向があったのだろうが、仕方なくボンドものとして書いたのだろう
人生というものを短い短篇の中に凝縮して見せた物語は魅力的で、007という先入観を持って読むと驚くだろう

他の収録作「読後焼却すべし」は私的な事情で抹殺という工作活動が許されるのかという重いテーマを持っているこれも異色作
原題は「ユア・アイズ・オンリー」そう映画版の題名は単にカタカナ書きしただけなのだが、日本で言うところの”親展”てな意味だろうね
映画版「ユア・アイズ・オンリー」も特殊兵器などがほとんど登場せず、映画シリーズ中でもとりわけ地味な異色作だった
この短編集の他作品からもプールに飛び込む男に対するボウガンの矢や敵味方の判別シーンなど小説中の場面をそのまま使っているし、ボンドとヒロインが縛られて海中を引きずられる場面は長編「死ぬのは奴らだ」から使っている
案外と小説の内容を100%無視しているわけでもないんだな
ただし必ずしも映画版と同一タイトルの小説から100%採っては無いんだけどね

No.87 7点 鉄の門- マーガレット・ミラー 2009/01/22 09:52
ロス・マクドナルド夫人がマーガレット・ミラーで、たしかにロスマクの神経症的な作風はミラーを思わせるものがある
実はロスマクの本名はケネス・ミラーと言い、妻のマーガレットの方が夫の姓を筆名にしているわけだ
「鉄の門」はミラー初期の代表作で、長らく絶版で入手が難しいのが惜しい
早川ってこういうのを頑固に?復刊しない出版社なんだよなぁ
謎解き的に見たらそう大した真相ではないが、これをサスペンス小説として書くとこうも興味深く描く事が出来るのだという良い見本である

No.86 6点 シャーロック・ホームズのライヴァルたち②- アンソロジー(国内編集者) 2009/01/19 11:42
全三巻中の②巻目は全体的に怪盗などの悪党キャラが多い印象だ
ホームズのライヴァルと銘打っているのだから、もっと正統派探偵の割合を多くしてもよかったんじゃないかな
モリスンなどは①巻にも入ってるのだから要らなかったのでは

日本の本格読者が興味を持ちそうなのはE&H・へロンだろう
フランクスマン・ロウはオカルト探偵の元祖の一人とされていて、実はへロンはへスキス・プリチャードの別名義なのだ
プリチャードは代表シリーズのノヴェンバー・ジョーものが①巻に採られているが、クイーンの定員にはノヴェンバー・ジョーものだけが入り、フランクスマン・ロウものは採られていない
オカルト探偵というコピーは伊達ではなく、必ずしも謎が合理的に解明されず、合理性と超自然の中間な感じだ

ハーバット・キャデットはこのアンソロジーならではの貴重品
収録の短編は指紋を扱っているが、なんと書かれたのが
ソーンダイク博士ものの長編より7年も早いのだという

アーノルド・ベネットも短編集に纏められてもいいのに他ではなかなか読めないので貴重だ
リチャード・マーシュも貴重で、このアンソロジー以外では滅多にお目にかかれない珍しい短編だ
以上の作家・短編集はクイーンの定員に選ばれている

収録作の中でトリック・マニアに人気があるのはどうやら四十面相クリークものの「ライオンの微笑」らしいが、私の好みではない

No.85 5点 ホット・ロック- ドナルド・E・ウェストレイク 2009/01/18 10:14
年明けに訃報が入ってきたウェストレイク
リチャード・スターク名義の書評は既に書いたのでウェストレイク名義の方も
「ホット・ロック」はシリーズ第1作で、ドートマンダー以下奇矯なキャラの泥棒仲間が登場する
全体的には同じユーモア調ということでトニー・ケンリックと似ているが若干違いもある
ケンリック作品にも変な性格の人物は登場するけど、ケンリックの場合は悪く言えば人物の性格が物語に上手く融合しておらず、良く言えばキャラに頼らずあくまでも物語の展開勝負なところがある
しかしウェストレイクのこのシリーズはキャラへの依存度が高くて、都合の良い才能を持つ設定の登場人物を揃え過ぎている印象だ
この作ではキャラに寄りかかっている割に、特殊なプロットに振り回されている感じで、この種の段階的構成だとどうしても物語が4分割された感じなんだよなぁ
ただしテンポ良くさらっと読めるのはポイント高い
個人的にはスターク名義の悪党パーカーの方が好きなので5点としたが、内容的には6点くらい付けてもよかったかなとは思う
ところで題名のロックはあの石のことだよね?

No.84 6点 密偵ファルコ/白銀の誓い- リンゼイ・デイヴィス 2009/01/18 10:00
密偵ファルコはとても面白いのでぜひ読んで欲しいシリーズだ
歴史ものが苦手な人もいるだろうが、これが例えば中世イングランドとかヴィクトリア朝時代とかだと、いかにも歴史ーーって感じになっちゃうけど、古代ローマとなると時代が離れすぎて架空の世界みたいだ
言わばSF的世界を舞台にした活劇としても読めてしまうから、あまり歴史的舞台を感じさせない効果があるので、歴史アレルギーな人にも薦められるシリーズである
ファルコの立場はスパイと探偵の中間みたいなので、密偵という呼称はぴったりである

No.83 7点 ブラック・ダリア- ジェイムズ・エルロイ 2009/01/16 10:01
LA4部作の幕開けを告げる「ブラック・ダリア」
最初の章の部分だけ読んだ段階では、男の友情を謳う警察小説かと思う人も多いだろう
しかし物語はそこから奇妙なうねりを見せ、この作品が警察小説でもハードボイルドでも犯罪小説でもない、まさにノワールとしか表現できない小説であることを読者に確信させるのだ
実際にあった猟奇事件をモチーフに、ブラック・ダリアと呼ばれた女性の幻影に翻弄されてゆく人間群像を、エルロイの筆は書き尽くさずにはいられない
もっとエルロイはエロイのかと先入観が有ったが案外そうでもないし、もっと救いの無い物語かと思っていたがラストで少し救われた

No.82 7点 シャーロック・ホームズのライヴァルたち①- アンソロジー(国内編集者) 2009/01/12 11:20
創元から作家別にホームズのライヴァルのシリーズが刊行されているが、創元方式だとメジャーどころに限定されてしまうので、早川のこのアンソロジーは貴重である
この作家なら別のシリーズから採用して欲しかった収録作もあり、一部不満もなくはないが創元のシリーズでは絶対読めない作家もあるので良しとしよう
個人的にはクイーンの定員で名のみ知っていた作家がかなり入っているのが嬉しかった

L・T・ミードのハリファックス博士ものは、ホームズがストランド誌に連載されていた同時期に一緒に掲載されていた
つまりは同期のライヴァルというだけでなく、同一雑誌で肩を並べる仲間でもあったわけだ
ホームズのライヴァルの中でも最初期のものだけに古色蒼然としてるのは否めないが、いやいや味わいがあってよろしい
ついでに言うと仲間ではなくて同時期の真のライヴァルだったのはもちろんオースティン・フリーマンだろう
ソーンダイク博士が連載されていたのはホームズ掲載の雑誌とは別のライヴァル雑誌だったのだから

マクドネル・ポドキンはなんで親指探偵ポール・ベックものから選ばなかったのだろう
他社でもいいから纏めた形で出して欲しいな親指探偵

クリフォード・アッシュダウンは貴重で、クイーンの定員でも原著の希少性に言及している
オースティン・フリーマンがまだソーンダイク博士ものを書く前の共同筆名で、文章のタッチがソーンダイク博士とは微妙に違い、フリーマンは医学的知識を提供しただけで執筆は合作者だったんじゃないだろうか

エドガー・ウォーレスは長崎出版から長編が出ている今となっては希少性は薄れたが、正義の四人の短編集はまだなので、どこかの出版社で挑戦して欲しい
あ、それとクイーンの定員にも入っているJ・G・リーダー氏もね

へスキス・プリチャードとホーナングはすでに論創社から短編集が出ておりこれも希少価値は無くなった
E・W・ホーナングはドイルの妹の婿つまり義弟で当然収録されるべき作家だが、代表シリーズのラッフルズものを避けたのは昔に創元で予告されてたからだろうか
創元らしく予定は完全にボツっちゃったが

No.81 3点 五番目のコード- D・M・ディヴァイン 2009/01/10 10:40
創元から復刊される予定
ディヴァインに関しては私は最初に読んだのが「兄の殺人者」で、「五番目のコード」は作風をある程度知ってから読んだ
したがって「五番目のコード」については多少厳しめの偏った見方なのかもしれないのは了解していただきたい
「兄の殺人者」が考え過ぎの慣れた読者よりも素直な初心者の方がかえって見破れるならば、「五番目のコード」は逆で仕掛けが大胆過ぎて読み慣れた読者ほど見破れる作品だ
ミステリー初心者でもない限りあのネタは大体見当付くだろ、って感じだよなあ
私はかなり早い段階で、あのアイテムが発見された経緯の相違から考慮して、真相は絶対これっきゃないだろ、と確信しちゃったもんな
ディヴァインだけあって人物造形などは流石なんだけど、他の作品に比べると悪い意味で仕掛けの要素が占める割合が大きく、ディヴァインの中ではあまり私の好みではない
「兄の殺人者」の方が断然上でしょう

No.80 7点 氷のなかの処女- エリス・ピーターズ 2009/01/06 11:00
寒さも厳しき折、真冬を舞台にした寒そうな題名の話を
読んだ中ではシリーズ中最も本格色が薄く、冒険活劇色が濃厚な話である
盟友ヒュー・べリンガーもそこそこ出番はあるが、なんと言ってもヒーローは後半に登場する謎の人物だろう
この謎の人物の正体をネタバレするのは話の根幹に関わるし、物語全体の興趣を著しく削ぐので明かせないが、要するに最初からこれの登場を書きたかったわけね
こいつ後のシリーズでも活躍するのかな

No.79 7点 悪党パーカー/人狩り- リチャード・スターク 2009/01/04 11:24
新年から残念なニュースだがドナルド・ウェストレイクが亡くなったらしい
ウェストレイク名義のユーモア調を好む人もいるだろうが、私はシリアス調のものの方が好きなんで
スターク名義の悪党パーカーはやっぱ格好良いよなあ
シリーズが進むにつれてマンネリ化してしまったという評価もあるみたいだけど、この第1作はもう絶品
ドートマンダーみたいな失敗は許されないという設定のパーカーだけに作者も水準を維持するのは大変だったんだろうな

No.78 7点 ディミトリオスの棺- エリック・アンブラー 2009/01/04 11:11
年が明けて今年はアンブラー生誕100周年
去年がフレミング生誕100周年だったから、スパイ小説の巨匠二人は年齢が一つ違いだったわけだ
スパイ小説と言っても前期のアンブラーは素人探偵が調査をする捜査小説の形態に近く、この「ディミトリオス」などは典型的なパターンだろう
初期の素人巻き込まれ型だと「あるスパイへの墓碑銘」のようなCC的なパターンの方を好む人もいるとは思うが、私はクローズド・サークルものには興味が無い読者なので、「ディミトリオス」みたいに国際的に広がりのある舞台設定の方が好きだ
本格が好きでもクロフツ風の地道な捜査小説は苦手みたいな読者だと前半を退屈に感じるかも知れないが、まさに前半の地味な調査場面こそが面白さのツボ
かえって後半のだんだんと真相が見え出してからの方が魅力が薄れた
私の好みでは「あるスパイへの墓碑銘」よりも、警察小説的な調査場面に終始する「ディミトリオス」の方を推したい

No.77 4点 007/ロシアから愛をこめて- イアン・フレミング 2008/12/30 10:25
今年はフレミング生誕100周年だった
来年1月中旬に007新作映画「慰めの報酬」が公開予定だそうだが、題名の元になった短編を含む短編集の書評はそのときにでも書くことにしよう
007長編は創元と早川でほぼ折半するかのように版権を持っているが、どちらかと言えば前期作に創元が多く後期作は早川が多い
「ロシアから愛をこめて」はよくシリーズ最高作みたいに宣伝されるが、それは創元の宣伝であって早川版のを考慮に入れてないようだ
実際読んでみると正直言って「ロシアから~」だけが突出して優れているわけでもない気がするんだよな
大体物語として動くのは後半になってからで、前半は殺し屋と囮役の美女のそれまでの人生を語る事に費やされているので動きらしい動きは全く無いし、中盤はトルコ支局のエージェントの話題が中心であってボンドはほとんど脇役同然
映画シリーズの方で「ロシアから~」が出来が良かったと言われているのから評価要素に映画との連携もあるのだろう
それと前期作に創元が多いのも有利だったのかも
と言うのは、珍しく前期作の中で早川が版権持っている「死ぬのは奴らだ」も出来が良いからだ
ただ創元が偉いのは版権持ってる分はちゃんと全作復刊したこと
見習えよ、早川書房さん、古本屋で探すのも大変なんだから

No.76 6点 愚か者の祈り- ヒラリー・ウォー 2008/12/29 11:52
今年惜しくも作者が亡くなった警察小説ついでにもう一人、これもつい最近訃報が入ったヒラリー・ウォー
ウォーについては「ながい眠り」の書評を既に書いたけど、この「愚か者の祈り」は中期以降のフェローズ署長ものではなく、まだシリーズ探偵役が定まってなかった頃の初期の作
フェローズ署長ものはかなり本格色が強いシリーズだったが、「愚か者の祈り」は初期作らしく警察小説の王道といった感じ
ただし警察小説が苦手で本格しか興味ない人には「ながい眠り」の方をお薦めする
ウォーの初期作というと「失踪当時の服装は」が従来の定番だが、「失踪当時」はそれほど出来が良いとは思えず、「失踪当時」のグレードアップ版が「愚か者の祈り」である
「愚か者の祈り」は、いかにもウォーらしい雲をつかむような茫洋とした謎から次第に真相が見えてくる構成で、特徴がよく出ているという意味では作者の初期代表作とも言える直球勝負な警察小説だ

No.75 7点 死者の舞踏場- トニイ・ヒラーマン 2008/12/29 11:28
早川のミステリアスプレス文庫は今では過去の企画となってしまったが、そもそもこんな中途半端な文庫シリーズ出すくらいなら普通にHM文庫で出しとけばよかったんだよな
復刊するにしても装丁がそのままという訳にもいかず、今にして思えば失敗企画だよな早川書房さん
中にはエルキンズなどのようにHM文庫に変えて復刊されたものもあるが、そういう恵まれた作家は一部だけで、何作か埋もれているのが惜しい作家・作品がある
マーガレット・マロン、キャロリン・G・ハート、ディブディン、ウェストレイクとか何とかならんもんかな
特に復刊して欲しいのが、今秋に惜しくも亡くなったトニイ・ヒラーマンなのである
ヒラーマンは白人ながら幼少時代にインディアンの学校に通った事があるせいかインディアンについて詳しく、ナヴァホ族の血を引くリープホーン警部補とチー巡査のシリーズは人気シリーズとなった
残念ながら日本ではインディアン文化が身近ではなく、地味な作風とも相まってあまり人気にならなかったが評価は高かった
「死者の舞踏場」はMWA賞を受賞した初期の代表作で、アメリカ社会でのマイノリティー問題や部族間の文化の違いなども上手く織り込まれ、謎解き部分もなかなか良く、ぜひ復刊して欲しいものだ

No.74 7点 チャイナタウン- S・J・ローザン 2008/12/28 11:38
旧正月を迎えて賑わうニューヨークのチャイナタウン
私営美術館からの陶磁器盗難の調査を依頼された中国系の女私立探偵リディア・チンと大柄な白人ビルのコンビが事件を追うがまたもや事件が

原題にある”china”は陶磁器の方の意味も含む
今年の『このミステリーがすごい!』でローザンの「冬そして夜」がランクインしてたけど、いくらシリーズ最高傑作との評判とは言え、この手のシリーズものは不利だと思っていたのでこのミス偉いな
ローザンは初めて読んでみたけど、これは良い
女私立探偵ものの中でもキャラが魅力的で、リディアとビルの掛け合い漫才的な会話が最高
クリスマス後の旧正月を前にしたチャイナタウンの風物・喧騒もほどよく織り込まれ、作者が生まれ育ったニューヨークの街が魅力的に描かれている
いやーこのシリーズは自分のお気に入りになりそうだ

No.73 5点 毛糸よさらば- ジル・チャーチル 2008/12/23 10:40
* 季節だからね(^_^;) *

クリスマスにちなんでコージー派作品を
ジル・チャーチルはドメスティック系コージー派を代表する作家

例によって題名は二重の意味を掛けている、浅羽さんよく訳すよ
題名の「毛糸よさらば」はもちろん”武器よさらば”が元ネタで、原題も arm(武器) と yarn(毛糸玉) を掛けている
ただ残念なのは、シリーズ第1作「ゴミと罰」が日本語の訳題でも韻を踏んでいたのに対して、”武器(ブキ)”に音が似ていて毛糸を意味するような語句が見当たらず、ちょっと今作の訳題は妥協した感じですね

ジル・チャーチルはシャーロット・マクラウド以外のコージー派作家の中では、日本で人気となったのが早い方だったと思う
意外とコージーな雰囲気が薄くて普通の本格っぽいマクラウドと比べると、ジル・チャーチルはいかにも一般的にイメージされるコージーな雰囲気に満ちていて、チャーチルを読めばコージー派とはどんなのかというのが理解し易い
逆に言えばコージー派に偏見を持つような人にはマクラウドの方が無難だろう
シリーズ第2作「毛糸よさらば」は第1作「ゴミと罰」よりも真相の意外性は強烈で上回るけれど、ちょっと唐突過ぎて素直には納得出来ない気もした
コージー派としては話も暗く、「ゴミと罰」の方がコージーらしい雰囲気と謎解きとのバランスは取れていたな

No.72 7点 死ぬほどいい女- ジム・トンプスン 2008/12/14 11:46
ノワール作家の中でも日本でエルロイと並ぶ人気なのがトンプスンだ
トンプスンの個性が際立つのはやはり「死ぬほどいい女」だろう
内容はいたって地味、普通の平凡な民間人が、状況から次第に狂気へと駆り立てられる様を、淡々と描くだけである
派手目な「おれの中の殺し屋」とは対照的
「おれの中の殺し屋」はある種、特殊な人間性という感じもあって、読者側から見れば”こんな奴も世の中には居るかもな”的な距離をおいて客観的に眺められる面もある
しかし「死ぬほどいい女」の、平凡な身近な人物もこうして狂っていくんだよっていう方が怖い
小説としての纏め方もブッ飛んでいて、「死ぬほどいい女」に比べると、「おれの中の殺し屋」はどんでん返しなどミステリーとしてきっちり纏まっている分、ノワールとしてはちょっとマトモ過ぎる印象もある
やはり作者らしいのは「死ぬほどいい女」の方だろう

No.71 4点 酔いどれの誇り- ジェイムズ・クラムリー 2008/12/11 12:28
今秋に惜しくも逝去したクラムリーの1作目
私はハードボイルドには偏見を持っていないつもりだが、体質的に酒が駄目なのでこういう酔っ払いの心情など解りようがなく感情移入できなかった
肝心のストーリーだが、これも酔いどれキャラ前提で、キャラの魅力に大半を負っている
私は事件よりキャラ中心の話に偏見を持っていないつもりだが、それはキャラに興味が持てる場合であって、酔っ払いの話は苦手だからローレンス・ブロックのマット・スカダーものにも手が出せずにいる
全体に主人公の口調といい、明らかにチャンドラーの影響ありありで、御大チャンドラーには及ばないというのが正直な感想
最後にあるどんでん返しがあり、その意外性で物語全体の世界観がひっくり返るんだけど、残念ながら後期チャンドラーほどの寂寥感に乏しいので、大きく効果をあげていない感じがする

No.70 5点 アリバイのA- スー・グラフトン 2008/12/07 10:49
パレツキーを出すならグラフトンも出さないとね
本国では二人の評価は同等だろうし、作家活動以外ではむしろパレツキーの方が功労してる感じだが、なぜか日本だけはパレツキーよりグラフトンの方が読まれている感じがするのはなぜなんだ?
パレツキーの探偵ヴィクの方が武道の心得もあり活動的なイメージなので、本格好きが多い日本ではグラフトンの方が本格っぽいと思われているのだろうか
事件解決面では似たり寄ったりですよ(苦笑)
ただ冒頭の主役キンジー・ミルホーンの事件報告書の文章がわざとらしくて、文章だけならパレツキーの方が好きだ
その代わり人物設定などはグラフトンの方が自然な感じがする

No.69 4点 サマータイム・ブルース- サラ・パレツキー 2008/12/07 10:33
クリスマスの時期なのに季節外れの題名の書評で恐縮
読んだ時は真夏だったので(苦笑)
ハードボイルド作家は案外とインテリが多いが、パレツキーは女性作家団体の会長も務めたりと作家活動以外の分野でも中心人物で4Fの中でも功労者と言えるだろう
現代私立探偵ものを書くならこうだよな、っていうイメージ通りで、ものすごく面白いわけでもないが決してつまらなくもない
ちなみに江口寿史のカバー画も結構イメージ通り
文章は上手く個人的には文体だけならグラフトンよりパレツキーの方が好き
ただ主人公ヴィクを取り巻く人達を都合良く配置しているのがちょっと気になった

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