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[ 社会派 ]
叛徒
下村敦史 出版月: 2015年01月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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講談社
2015年01月

講談社
2018年01月

No.2 7点 HORNET 2019/06/29 15:42
 新宿署の七崎隆一は、中国人の被疑者の取り調べなどに際して通訳の役を担う「通訳捜査官」。隆一を誇りに思い、自らも将来は警察官を志す息子の健太と、妻・美佐子の家族3人、それに幼いころからの親父代わりであり通訳捜査官の先輩でもある美佐子の父、七崎賢太郎とで、仲睦まじく平穏な家庭生活を送っていた。ところが1年前、義父・賢太郎の不正を隆一が告発したことにより、その生活は破綻。賢太郎は自ら命を絶ち、以来家庭にはぎくしゃくした空気と不穏さが漂っていた。
 隆一は、繁華街での中国人殺害事件の捜査にあたる。第一発見者の目撃談では現場から走り去った人間が、龍の模様の入った水色のジャンパーを着ていたという。一方その頃家では、息子の健太が家を出て行方が分からなくなっていた。健太の部屋を探っていた隆一はそこに、血にまみれた「龍の模様の水色のジャンパー」を発見して青ざめる―

 通訳捜査官を取り上げ、しかもその「通訳」という行為の盲点を突いた仕掛け方は着眼点としてよかった。自分の息子を守るため、取り調べる中国人が話す言葉を隠したり、変えたりする隆一。具体的なそのやりとりは面白く、緊迫感を伴う場面描写だった。しかしながら「ウソがさらなるウソを呼ぶ」の構造そのままに、どんどん深みにはまっていき、暴走していく主人公には前半かなりやきもき、イライラさせられた。
 終盤は、ハッピーエンドに向けて次々と切り札が切られていくパターンで、ちょっと都合が良すぎる感もあったが、物語全体の構造としてよく練られているとも感じ、総合的に好評価。
 乱歩賞受賞後も弛まず、コンスタントに長編を書き続けているのですごいなぁ。

No.1 5点 kanamori 2015/03/13 21:26
”通訳捜査官”七崎は、歌舞伎町で起きた中国人殺害事件を通報した中国人男性の取調べに同席するも、その証言から、現場から逃走した若い男が自分の息子である可能性に慄き、虚偽の通訳をしてしまう--------。

管内で発生する事件の関係者に在日中国人が多いことから新宿警察署に配属されている”通訳捜査官”を主人公にした、江戸川乱歩賞受賞第1作。
警察組織内でもあまり知られていない特殊な職務の主人公という点では、横山秀夫の一連の警察小説を思わせますが、主たる題材が外国人労働者の過酷な実態や、中学生のいじめであり、警察小説というより社会派の要素が強い作品です。また、先輩通訳捜査官でもあった義父を自死に追いやった”正義”と、息子を守るため職務に背く”叛徒”という相反する2つの立場で苦悩する七崎とその家族のヒューマンドラマでもあります。小さな構図の反転はあるものの、ある程度予想の範囲内であり、前作「闇に香る嘘」と比べると謎解きミステリの成分は薄めと言わざるを得ません。また、ご都合主義的で、予定調和で終わるストーリー展開に共感しずらいところもありました。同じ横山秀夫でも「半落ち」タイプを好む人には合うかもしれません。


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