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[ 社会派 ]
真実の檻
下村敦史 出版月: 2016年03月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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KADOKAWA/角川書店
2016年03月

KADOKAWA
2018年05月

No.2 8点 斎藤警部 2026/03/08 02:16
“間に合わなかった……”

いきなり真相暴露のような悪夢のクライマックスが、不躾に出迎えてくれた。 冒頭の異例の熱さには、緊張の口笛で応えたくなる。(思わせぶりなプロローグをも凍らせる勢いだ!)

主人公の青年は大学生。 母は重い病で入院し、看病に疲れたと言う父とは離婚。 やがて母は亡くなり、遺品整理に実家を訪れた青年の目の前に、自らの出生の秘密を暴露するような一枚の写真が現れる。 暴露の射程は自らの出生にとどまらず、亡き母の人生を根本から激変させた、遠い昔のスキャンダラスな殺人事件にまで及ぼうとする。

過去いくつかの “冤罪疑惑案件” が補助線となり、ストーリーは深堀りされるが、補助される掘り起こしターゲットが何なのか、なかなか見えて来ない。 割り切れないもどかしさがうねり続ける謎探りは、一見もったいぶって不思議な小説構造の中をボブスレーのように潜入滑降し続ける。 中盤の揺さぶりは激しく、結末はちょっと凄い。

『犯人かもしれない人間を知っている。 罪を認めさせるつもりだ』

表立った “社会派” 切り口を、むしろブラウン神父スピリットでギンギンの意外性溢れる逆説が包み込む形のミステリ、と言って良いかも知れない。

構成の妙も確かに光るが、それは “目次” を一見して感じるほど露骨なものではなく、意外とシームレスにスムーズに、飽くまで長篇小説の中を擬似(?)オムニバス短篇が長篇の構成要素として流れて行くといった体のようである。

「不自然なものを枠の中にいびつに押し込もうとしたら、必ず反発があり、はみ出します。 それを見つけて摑むことができれば、全てを引っ張り出せます。 白日の下に晒せるんです」

ホワイダニットの視点では、"無実を訴えない” 理由も相当に深いものがあったが、 “離婚” の理由となるとより狭いレンジの中に更なる深みを覗かせた。 これには足元をすくわれた。

「◯◯◯かどうか、試してみる度胸があるか?」

或る人物への逆説的、致命的疑いが消えない。 だがその動機に見当が付かない。 そんな魅力的な煙幕も長きに渉って張られた。
おお ・・ そうだったのか ・・・ だがしかし、一つの大きな謎が解けて、更に巨大な、しかもより暗黒の沼に沈んでいそうな、それまで巧みに隠蔽されていた、新たな謎が、ま、まさか ・・・

“想像したとたん、思い出が走馬灯のようにあふれてきた。”

最後にもたらされる、あまりにも実務的でありながら高熱を発する、最高のロジック実用の輝き!!
これほどまでエモーショナルな “損得勘定” があってたまるか!! なんたる、ミステリの色ツヤに包まれた、玄妙で巧みな “助け舟” ・・
ダメ押しのロジック後日談(?)も旨み溢れて熱過ぎる!!

“シャツの上から自分の胸を握り締めた。”

たとえ当てられたとしても、当てやすかったとしても、実際わたしも当ててしまったけれど、それでもなお、これほどまでに尊い “意外な犯人” の設定、あり様、隠蔽術、更に未来像は魂こもったレアケースとして充分に珍重すべきと思いました。
最重要(?)な伏線の襲い掛かり具合には、のされてしまう勢いがありました。
チェスタトン×連城のような激し過ぎる逆説畳み掛けと、小説構成の妙とが、これほどまで宿命的に絡み合っていたなんて、思いも寄りませんでしたね。

ちょっとした、ブルージーでヴィヴィッドな情景描写、即物心理描写、光や音、所作や気配の表現等、グッと来るフレーズがそこかしこに見られました。
正義や真実を把握せんとする物言いは、言わずもがなの陳腐な言い草に果てず、人生の鮮やかな指針として目の前の山頂に聳え立っていました。

いっけん蛇蝎キャラのような人物が、仄甘い展開で実は存外にやさしい良い人だった、みたいなちょっとした叙述トリック展開から始まって最後まで続くその要素が、ちょっと浮き上がってアンバランスを醸し出している気もしていましたが、読了してみると、それもちょっと不思議な味わいの大事な演出になっているように見えて来ます。
上記の人含め、魅力的な登場人物群の鮮やかな配置も特筆すべき素晴らしさです。

振り返れば、二つの激熱な不等辺三角関係(点二つは共通)がミステリの場を大いに鼓舞した物語だったと言えましょうか。
社会派と成長小説の要素は確かに存在感を見せ付けます。 ですが(本格)ミステリの力がその二つを程よく上回った作品だと思います。

タイトルに偽り無し!

「私は自分の “病” をこじらせないように心掛けながら、これからも自分にできることをしていくと思います」



【ちょっとネタバレ】

エピローグは、最高に素晴らしい意味で、肩透かしだった!

上記にも通じますが、HORNETさん仰る
> それを裏切るもう一枚があってもミステリとしては面白かったのでは、と思う。
これは私も同感で、やっぱり 「もう一枚」 を期待して読んでしまいましたね。 本作の場合、残り頁数のミスディレクション(!?)もあり、いかにも 「もう一枚」 ありそうで実は無い、という逆・意外性がミソなのかな、とも思ったりします。 やり過ぎると社会派と成長小説の熱い側面が見えなくなってしまう、というトレードオフがあるかも知れません。

No.1 6点 HORNET 2018/07/09 20:53
 大学生の石黒洋平は亡くなった母の遺品を整理中、隠されていた手紙から、自分は今の父の子ではないことを知る。本当の父親は、母が結婚前につきあっていた別の男性。それだけでも十分ショッキングだが、なんとその本当の父親は、母の両親、つまり洋平の祖父母を殺害した罪で収監されている死刑囚だった―
 事実を受け入れられない洋平は、実父が無実であることを信じ、冤罪を晴らすべく調査を始める。

 上記のような怒涛の展開で、飽くことなく読み進められることは間違いない。物語の面白さは、我々も含めた世間が根拠なく信奉している日本の裁判制度、というか裁判官の正義。しかし物語を読み進めるに、裁判官もいち人間であり、司法の世界も所詮「人間社会」であるという当たり前のことに気づかされる。そういう点で面白い。

 真犯人は早々に推測できたし、見事その通りだった。それを裏切るもう一枚があってもミステリとしては面白かったのでは、と思う。


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