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[ サスペンス ]
絶声
下村敦史 出版月: 2019年08月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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集英社
2019年08月

集英社
2021年10月

No.1 6点 パメル 2022/12/15 08:47
舞台は「昭和の大物相場師」と呼ばれた大富豪、堂島太平の屋敷。大立者の死によって骨肉の相続争いが巻き起こる、というのはミステリではすっかりお馴染みの筋立てだが、そこに「失踪宣言」という法制度を取り入れたのが本書の新しさであり、最大のセールスポイントにもなっている。
生死不明のまま七年以上が経過し、裁判所によって失踪が宣告されると、法的には死亡と同じ扱いになる。しかしブログの更新がそれに歯止めをかけた。サスペンスとは本来「吊す」という意味だが、生きているか死んでいるか分からない太平の存在は、文字通り遺産相続を宙吊りにして、緊張感のあるドラマを生み出してゆく。
十年前、太平の後妻だった母親と共に屋敷を追い出されて辛酸をなめた正好、事業で多額の損失を出した貴彦と美智香。それぞれに事情を抱えた三人の親不孝者が演じる、狐と狸の化かし合い。欲をむき出しにしたその姿から、なぜだか目が離せない。そんな中でもブログは定期的に更新されてゆく。その記述から浮かんでくる「A子」という謎の女性の存在。果たしてその正体は。
異様なムードに満ちたプロローグから、正好が堂島家に一矢報いようと計略をめぐらせる中盤、ブログに込められた真意が明らかになるクライマックスまで、興味を一瞬もそらさない構成が見事。悪くない読後感も含め、よくできた舞台劇を鑑賞しているような、良質のエンターテインメントである。


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下村敦史
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