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[ 青春ミステリ ]
情熱の砂を踏む女
下村敦史 出版月: 2022年04月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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徳間書店
2022年04月

徳間書店
2024年09月

No.2 5点 パメル 2024/08/28 19:24
新藤怜奈は兄・大輔の突然の訃報を受け、スペインを訪れた。大輔は、マドリードで闘牛士として活躍していたのだが、危険な大技に挑み命を落としたのだった。怜奈は、兄がトラブルに巻き込まれていたのではないかと、兄の最期について疑問を抱いていた。
マドリードで暮らすことになった怜奈は当初、兄の命を奪った闘牛を嫌っていたが、カルロスの演技を見たことで考えが変わる。そこには生と死のドラマが、闘牛士と牛の交流があった。怜奈が闘牛に心を揺さぶられるこのシーンは、前半の大きな読みどころとなっている。また、気の利いた大家夫婦、その息子で若き闘牛士のカルロス、大輔とは恋人同士だったアパートの同居人・マリアなどの交流を、スペイン独自の文化や風習、闘牛の蘊蓄を織り交ぜながら、生き生きと描写している。
闘牛に魅せられた怜奈は、兄のようにスペインで闘牛士を目指すことを決意する。しかし、それは平坦な道ではなかった。一癖も二癖もある男たちの交流を通じて、死と隣り合わせの危険な世界、神聖な儀式、スペイン社会と闘牛界の光と影に触れていく。闘牛士としてのキャリアを積み上げながら、怜奈は兄の死の謎にも迫っていく。複数の手掛かりから、意外な真相が明らかにされる謎解きシーンはまさに圧巻。普通から考えればあり得ない動機だが、この世界であればと思わせてくれる部分はある。多少のご都合主義は感じるが、闘牛小説とミステリ要素が噛み合った構成に唸らされた。

No.1 7点 人並由真 2022/07/16 06:34
(ネタバレなし)
 女子大生・新藤怜奈は、スペインで見習い闘牛士となって活動していた兄・大輔が実演の最中に死亡したことを知る。スペインに渡った怜奈は、兄の友人かつ闘牛士仲間カルロスの家族、また兄の恋人マリアの家族の世話を受けながら、兄が命を燃やした闘牛の世界に次第にのめりこんでいく。だがそんな兄の、そして闘牛界の周辺では、怪しい犯罪の影が。

 数年ぶりに、この作者の作品(新作)を読んだ。

 先に言っておくと、Amazonの現状の二つのレビューはかなり低評で、ほかにもネット上では芳しくないレビューも散見する。
(おかげでTwitterを覗くと、作者自身がかなりヘコんでるようなのが何とも……。)

 ただ個人的には、トータルとしては結構楽しめる作品であった。まあそのほとんどがミステリというよりは、闘牛というあまり国産のフィクションの中で題材になったことのない世界をしっかり描いた、その新鮮さとある種のダイナミズムによる部分が大きいのだが。
(ちなみに評者は海外ものでも、闘牛界を舞台にした作品って、ほかにはカーター・ブラウンのメイヴィス・セドリッツもの『女闘牛士』ぐらいしか知らない~しかも内容はほとんど忘れてるし。)

 とはいえ終盤、波状攻撃がごとくミステリ要素がコンデンスに飛び出してくるのはなかなか豪快であった。特にある殺人の動機というかホワイダニットに関しては、かなりスサマジイもので、このひとつはちょっと馬鹿馬鹿しいと思いつつも、評価したい。

 で、本作を嫌う人の多くは、主人公の怜奈の行動が納得できないとか、考えていることとやることが違うとかいうこと、さらには生活費の問題とかのリアリティの欠如についてのようである?

 うーん、個人的には、くだんの前者、怜奈の内面の右往左往ぶりに関する文句はわからないでもないが、まあグレイゾーンでそんなには気にならない。兄の命を奪った闘牛に当初は反発しながら、同時にソコに関心を深めていく心の矛盾めいたものは、結構普遍的にありそうな感じもするので。
 ただし一方、スペインでの生活に関しては後半に少しバイトの話題なども出るものの、お世話になっている一家での食費の問題とか、さらには日本とスペインを行き来する旅費の問題とか、さらには少し前まで本格的に習っていたというバレエの月謝や大学の学費の件とか、その辺の案件の説明について雑すぎるのは確か。ここら辺は、ほかの人のレビューを目にするまでもなく気になった。
 これが昭和30年代の「宝石」系若手作家の作品なら苦笑で済ませるところだけどね、21世紀の作品としてはちょっと脇が甘すぎるでしょう。
(こーゆーのって作家が見落としても、編集者の方が忠告すべき部分だよね。今回は担当さんに恵まれなかったのか?)

 ただまあ、減点法でいくと結構キビシイところもあるものの、先に書いたように、一種の業界もの、女子主人公の奮闘ものとしてはかなりオモシろく読めた。
(やはりネットのレビューで言ってる人もいるように、最後のややトンデモなオチは要らなかった気もするが。)

 菊池寛の名文句「要は小説は面白くって、タメになる読み物のことだ」に従えば、これ一冊でかなりスペインの闘牛界のことは勉強できます。巻末に山のように参考資料の書名が並べられているので、そういう方面では信用していいでしょう? きっと。


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下村敦史
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