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[ 本格/新本格 ]
目撃者 死角と錯覚の谷間
和南城夫妻シリーズ
中町信 出版月: 1994年03月 平均: 6.25点 書評数: 4件

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講談社
1994年03月

講談社
1997年03月

No.4 7点 斎藤警部 2025/08/23 23:30
確信犯 .. 迷いの無いプロローグ|エピローグに挟まれ、快速で複雑コースを疾走するストーリーの虹色水しぶきを浴びまくる一冊だ。

幼子二人を巻き込んだ轢き逃げ事故の “目撃者” は、旅行先の温泉地にて大地震に見舞われ、死亡する。 “目撃者” の姉はこの死に不審を抱き、夫と共に真相追求へと乗りだす。 妻と夫に警察、三つ巴の探偵役が躍動。 やたらな連続殺人には 「またかよ」 って苦笑してしまうが、全体の感触は普通にシリアス(だが中町流にどこか変)。 探偵夫婦のユーモラスな関係が良い息抜き。 温泉旅行の参加者に、轢き逃げ事故の関係者、なかなか見えない人間関係と利害関係。 矢継ぎ早にミステリの場を襲う事件また事件(そして時に..)は、探偵役各人に仮説立てを促し、その仮説を放埓に打ち倒し、あざ笑うように謎の磁場を大いにかき乱す。

それにしてもやはりどこか香ばしい、どこかヘンな中町信文体が楽しい。 仮に、テラッテラに磨き上がってスムゥーズにも程がある佐野洋文体を基準とすると、中町信文体と来たら表面にダマは浮いてるわ基礎工事に歪みはあるわでドエラい違い。 顔は馬面でちょっと似てるんだけどね。 全て誉め言葉ですよ。

さて終盤が見えてくるあたり、少しずつ真相の片鱗が見えてくるにつれ “その因数分解に、ミステリ上の充分な旨味があるとでも?” なんて疑ってみたりもした。 複雑そうな全体真相も “足し算だけじゃつまらんのじゃが?“ なんて危惧したりもした。

しかし、意外と謎の核心は終結近くまで解きほぐされないままなのだな、と快い緊張を保っていたところ ・・・・ シ、シ、シンプルな核心真相から紡ぎ出されたフ、複雑怪奇な幻想の構築、まったく予想のスコープから外れる “動機” と、その隠匿魂には圧倒された。 いやいや、思い違い勘違いの積み重なりもここまでの建造物に仕上がると壮観だ。 
ただ、真相を構成する各要素が、大きいレベルでもう一押し、カチリと嵌まっていたら更に良かった。

あまりに普通にリアルで(経験者いっぱいおるでしょう)地味な心理的密室トリックもきっちり役割を果たした。 奥がある上に、グインとカーヴを切ったダイイングメッセージの、結果と原因のねじれ現象とか、たまらんわ・・
ささやかなれど効果抜群の叙述の戯れもありました。 ある乗り物や、ある身体的特徴も、しっかり伏線を成していたんだなあ。 感心しましたよ。

読み始めは軽いゲーム小説かと踏んでいたんだが、まさかこんな人間悲劇から、全ての目くらましが派生していたとはね。 読了直後から酔いが回って来ましたよ。。 7点でもかなり上のほう(7.3相当)ですね。

No.3 5点 nukkam 2023/12/25 15:54
(ネタバレなしです) 翻訳家の夫・健と時代小説家の妻・千絵の和南城(わなじょう)夫妻シリーズ第1作の本格派推理小説で1994年に発表されました。夫婦間の役割設定は氏家周一郎シリーズに近いですが、本書では千絵の妹・香織が死ぬという設定のためかユーモアは感じられません。地震の落石で死亡したとされる香織は子供の飛び出しを誘ってひき逃げ死亡事故のきっかけになった男(逃亡)とひき逃げ犯の女(逃亡)を目撃しており、夫妻は殺されたと考えてひき逃げ事故の関係者を調べていきます。千絵が感情的になって具体的な根拠もなしに殺人と決めつけるのはまあわかるのですが、それに異を唱えない健は名探偵役としてはどうかなという気もします。とはいえこの作者らしく密室にダイイング・メッセージ、どんでん返しの連続と本格派としてのツボはきっちり抑えた作品です。ダイイング・メッセージの謎解きがなかなか変わっていて、kanamoriさんのご講評でも紹介されているように部屋を暗くすることが被害者の狙いではという推理は興味深かったです。

No.2 7点 測量ボ-イ 2022/01/02 09:13
謎の設定とスト-リ-展開が絶妙で、楽しく読めました。
そんなに著名な作家ではありませんが、どれも粒よりで、
他の作品にも手を出してみたいですね。
採点は8点(基礎点)-1点(密室・ダイイングメッセ-ジがいま一つ)

<ここからネタばれ>
プロローグで読んだ違和感をそのまま信じれば良かった・・・
推理を捻り過ぎて、真犯人の指摘に失敗 笑

No.1 6点 kanamori 2016/03/20 00:14
幼い子供2人を犠牲にした轢き逃げ事件の目撃者・香織が、白骨温泉で不審な状況で死亡する。義兄の和南城健は、事故現場から姿を消したもう一人の目撃者が事件の鍵を握るとみて、妻の千絵とともに関係者を訪ね廻るが、さらに第2、第3の殺人が--------。

夫は売れない翻訳家で、妻は時代小説作家という、和南城夫妻を素人探偵コンビに据えたシリーズの第1作。探偵活動と謎解き披露のお膳立てまでを主導するのは妻の千絵だが、最後に真相を言い当てるのは夫.......キャラクターを変えても、基本設定は氏家周一郎シリーズと同じですw
本作も意味深なプロローグに始まり、真相を知る人物がバッタバッタと殺され、密室あり、ダイイングメッセージありで、中町ミステリお約束のガジェットが一通り揃っています。
密室からの犯人消失トリックはやや拍子抜け(しかも過去作の二番煎じ)ですが、部屋のブレーカーを落として暗闇にするというダイイングメッセージの”ホワイ”がユニークで意表を突かれます。これは考えましたね。
連続殺人の構図をミスリードする手際も相変わらず巧く、この時期の作品のなかではまずまずの出来と言ってもいいのではないでしょうか。


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中町信
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