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[ サスペンス ] ゲートハウス ジョン・サッタ―シリーズ |
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ネルソン・デミル | 出版月: 2011年10月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
講談社 2011年10月 |
No.1 | 8点 | Tetchy | 2011/11/26 22:26 |
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あの名作『ゴールド・コースト』から18年。まさか続編が作られるとは思わなかった。期待と不安の入り混じった思いを抱きながら手に取った。
作品内の時間は前作から10年後の世界で9・11テロの9ヵ月後という設定。民族テロという色合いを持つこの事件がデミルに多大な影響を及ぼしているのは昨今の作品からも明らかだが、本書ではそれを上手く『ゴールド・コースト』の作品世界に絡ませている。 今回も隣に引っ越してきたマフィアの息子アンソニー、そしてスタンホープ屋敷を除く一円を買い取った怪しげなイラン人アミール・ハシム、もちろん別れた妻スーザン。さらには永遠の宿敵で目の上のたんこぶであるスーザンの父親ウィリアムと帰米したジョンの周辺は何かと物騒で物々しい。 とにかく懐かしい面々が揃った物語は上下巻併せて1380ページという大書だが、全く飽きが来ない。全てのキャラクターに貌があり、全てのキャラクターに血肉が備わっている。彼ら彼女らのアクの強い面々の織り成す物語は云わばデミル版『渡る世間は鬼ばかり』。ミステリのようでミステリでない、人間喜劇ともいうべき作品なのだ。 やはりこの物語の功績はジョン・サッターの一人称叙述にしたことだろう。古くから住まうアメリカ高級貴族の生活を、NYで事務所を構える弁護士であり、それなりに身分の高い人物でありながら俗物根性が抜けないジョンの、ワイズクラックに満ち、権威を鼻で嗤い、持ち上げては突き落とすおちゃらけ振りが、一般人には理解しがたい高級階級の人たちの生活や考え方を荒唐無稽な非常識として我々に提供してくれている。 確かにジョンの減らず口の連打には冗長に過ぎるという感を抱く向きもあるだろう。厚さの割りには物語が進まない、長すぎる、という声は至極尤もだと私も思う。しかしこの作品はその長さを愉しむのであり、ジョンの俗物根性と斜に構えた思考が繰り出す皮肉の数々を味わうのが正しい読み方なのだ。私は逆にこの作品がこれだけの長さでよかったと思っている。 そんな物語はやはりこれはミステリではないのでは?と思わせながらも、やはりマフィアの息子アンソニーの登場で実に緊迫したクライマックスが訪れる。 この事件もまた個人レベルで起きたテロなのだ。そしてスーザンとジョンが取った行動には決してテロには屈してはいけないというメッセージが明示されている。最後にスーザンがFBI捜査官マンクーゾに次のように語る。 「(前略)あの男はわたしたちを辱め、その後のわたしたちの人生を変えたいだけだったのよ」 「(前略)あの男はわたしたちの魂を殺そうとした……わたしにはそれが許せなかったの」 これは“あの男”をビン・ラディンと読むとデミルの9・11同時多発テロに対する怒りの主張に取れないだろうか?つまり本書はデミルが今後ライフワークとして取り組むであろう、「9・11によってアメリカに何が起きたのか」というテーマに沿った作品の一部であるのだ。 |