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[ 本格/新本格 ]
殺人配線図
新聞記者・吉村駿作
仁木悦子 出版月: 1960年01月 平均: 6.25点 書評数: 4件

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桃源社
1960年01月

桃源社
1966年01月

角川書店
1981年06月

出版芸術社
2006年03月

No.4 6点 人並由真 2023/09/14 03:07
(ネタバレなし)
 昭和30年代の東京。胸の病気(結核らしい)で一年以上も入院・療養生活を送った27歳の青年・吉村駿作は、退院後の暮らしにも慣れて、そろそろ職場に復帰しようと考えていた。そんななか、大学時代の学友で3歳年下の塩入哲夫が現れ、ある相談をする。それは哲夫の従姉妹である若い娘・塩入みどりが現在、哲夫の家に同居しているが、実はみどりの父で発明家としてかなりの資産家だった卓之助が一年前に自宅で事故死した。しかしその事故の原因の一端がみどりにあるらしいことから、彼女はいまだに父の死に責任を感じ、心を痛めている。それゆえ哲夫は吉村に、嘘でもいいから、みどりが心の枷から逃れられる「事故の真相の説明」を授けてほしいというものだった。事情を聞いて、ジャーナリストとしてできることを、と塩入一族の輪の中に入っていく吉村だが、事態はさらに深い奥行きを秘めていた。

 仁木悦子の長編第三作。角川文庫版で読了。

 なんか大昔の少年時代に読んだか読まなかったか、記憶があいまいな一冊で、そういう感じだから当然、大筋も犯人もトリックも忘れてる。ただし都内のそれなりの規模の館が舞台になることと、作中に出て来る図面などはうっすら覚えていた。途中まで読んで、なんらかの考えか事情かで中断して、何十年もそのままだったのかもしれない。

 というわけで改めて? 読んでみた一作だが、なんともつまらないような面白いような、そんな読後感だった。これが面白いようなつまらないような、ではないところがちょっとミソ。

 仁木ミステリ版「館もの」なのは、後年の新本格的な系譜に繋がる味わいがあるし、しかしそれが昭和35年の作品ということで、レトロな味にもモダンな感じにもなってないところも作品の個性。図面のガジェットや、舞台のある種の設定、さらには宝探しの興味など、手数はそれなりに多いのだが、みんなどこか書き割りの背景みたいな手ごたえの薄さを感じる。

 ただしそれが悪いというのではなく、メニューの盛り合わせの豊富さと、良かれ悪しかれも薄味さがこれはこれでバランス感を獲得し、いい雰囲気の佳作を築いた、というべきか。

 角川文庫版の中島河太郎の解説を読むと、作者自身は本作を評して、本当はもっとゾクゾクする謎解きスリラーめいたものを書きたかったのに、まるでそうはならなかった、という主旨の慨嘆をしていたようだが、ああ、その辺は本当によくわかる。でもだからこそ、この作品、妙な肌触り感で面白い面もあるんだよ。

 なお、後半、吉村がヒロインのひとりに健康な若い青年として肉欲を感じるあたりの描写は、妙に作者の屈折を感じたりもした。
 先の二冊、仁木兄妹ものを、当時の読者たちの一部に、明るい健康的な作風だとか「それって必ずしもそうでないんでない?」と言いたくなるような受け止められ方をした分、生々しい部分をきちんと押さえておきたかったんだろうね。
 世の中の趨勢が、明るい健康的な作風だとマンセーしていても、実は作者はもっと清も濁も書きたがっている。その辺の乖離は、一時期までの手塚治虫作品みたいだ。

 7点あげてもいいけど、なんかそうしちゃうと自分にとってウソになる作品。評者なりのそれなりの愛情をこめて6点。

No.3 7点 斎藤警部 2020/11/26 15:41
従妹が、父親(発明家で裕福)が階段から転落死したのは自分のせいだと気に病んじゃって仕方ないんだ、この際デッチ上げでいいから、あれは従妹には全く責任の無い事故だったって調査でもフリでもして証明してやってくんないかなあ、あなたそういうの得意だから、、 と街でたまたま遭遇した旧友に頼まれちゃった、病みあがりで休養中の新聞記者。。

という、なかなか変わったサスペンス風導入から、和やかに愉しく話はシャカシャカ進んで、気付けば本格推理の隧道へとどっぷり突入。時代モノ、専門知識頼みの暗号がまた旨し。昭和の配線図って、いいよねえ。。 人間関係含む複数の仄かなミスディレクションが、過不足ない隠し味としてコンブ酢のように効いている。(あっさり味に仕立てたクリスティ技のような..) 意外な重要ポイントになっていた人物が印象的! 子供の配置も良い。 結末の反転 .. 目くらましが効いてそっちは思いも寄りませんでした .. は結構ドロドロしてるくせに、爽やかなエピローグもいい。 まったく館モノらしくない、富める者と貧しき者とが交錯する、古い洋館の話。

No.2 6点 nukkam 2012/06/07 17:51
(ネタバレなしです) 1960年発表の長編第3作の本格派推理小説で、ちょっと理系要素がありますが(実際に配線図も2つ登場)、そういうのが苦手な読者(私もそうです)でもそれほど抵抗なく読めると思います。主人公が謎解きする理由が自分の不注意で父親が死んだと思い込んでいる従姉妹の心の重荷を取り除くというのがユニークで、こういうハッピーエンド狙いのミステリーを(しかもわざとらしさを感じさせずに)書ける作家は案外そうはいないでしょう。探偵役の吉村俊作は本書以外に短編4作に登場するそうです(仁木兄妹や三影潤に比べると地味ですが)。

No.1 6点 kanamori 2010/07/05 21:13
新聞記者・吉村駿作シリーズの長編ミステリ。
現在の事件から過去の隠された事件が浮かび上がってくる構成は、”日本のクリステイ”と称された作者の面目躍如です。
機械好きの少年が重要な役割を果たすなど、短めの長編ながら、いかにも仁木ミステリという感じをうけた。


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