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[ サスペンス ]
青じろい季節
翻訳家・砂村朝人
仁木悦子 出版月: 1975年01月 平均: 6.00点 書評数: 3件

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毎日新聞社
1975年01月

立風書房
1977年05月

角川書店
1980年09月

出版芸術社
2006年05月

No.3 6点 nukkam 2022/08/30 23:48
(ネタバレなしです) 1975年発表の本書は「冷えきった街」(1971年)と共にこの作者のハードボイルド作品の代表作と評価されています。主人公が喜怒哀楽をあまり表に出さなかったり、何者かに殴られて気を失ったり、捜査中に銃撃されたりする場面があるところは確かにハードボイルド風といってもいいかもしれません。とはいえ(直接描写ではないですが)主人公が照れてしまう場面があったり最後は幸福な将来を予感させる締め括りが用意されていたりと非情に徹しているのでもありません。kanamoriさんや人並由真さんのご講評で評価されているように、複雑な人間模様が悲劇の背景にあるところはロス・マクドナルドの影響があるのかもしれませんが、第32章で「単に運がよかったのだとしか思わなかった」出来事にまで細かく推理をするなど本格派推理小説としての謎解きがしっかりしているところはこの作者ならではです。

No.2 6点 人並由真 2020/05/10 19:53
(ネタバレなし)
 理由あって、大学講師の立場を数年前に辞した語学研究家の砂村朝人。現在33歳になった彼は、二人の正社員そして複数の外注やバイトを使いながら、業務用の翻訳を主体に受注する「砂村翻訳工房」のチーフとなっていた。だがその年の6月の半ば、外注の大学院生・矢竹謙吾が、朝人に不審な文書を預けて行方を絶った。謙吾の母親・雪野から捜索の協力を請われた朝人は、謙吾の婚約者の畑真美枝、そしてその父親で朝人とも同業で交流のある陽一郎に接触する。やがてそんななかから、謙吾が私立探偵事務所にある件を依頼していたことがわかってくるが。

 仁木悦子の後期の長編作品のひとつ。主人公の知人の失踪から、実はかなり奥深い事件の迷宮に分け入っていく筋立てはたしかにロス・マクドナルドっぽい。角川文庫版ではクリスティー研究家の第一人者・数藤康雄氏が巻末の解説をまとめ、以前にご自宅にお伺いした作者の書斎にフランシスやらロス・マクなどのポケミスがずらりと並べられていた逸話を紹介しているが、さもありなんであろう。

 ネタバレにならない程度に筋立てのポイントを語ると、事件は3~4軒の家庭間の人間関係に深く関わり合い、さらに主人公・朝人の周辺でも相応のドラマが語られる。
 実は……(中略)パターンの反復がいささか物語の構造を狭くしている印象もあるが、そのうちのいくつかは事件や悪事の流れにおいて登場人物の方からまた別の人物にすりよってきている面もあるので、人間関係をきちんと整理していくと実はそんなに偶然や暗合には頼っていないのかもしれない。

 この時期の仁木悦子作品は、もはやベテランの域に達した書き手としての手慣れた、そのくせどっかに不器用さを感じさせる(伏線の張り方にある程度のパターンが見えたり、人物配置の狙いが察せられたり)おちつききらない成熟感みたいなものが見受けられ、そこもまた魅力ではある。
 砂村朝人の事件簿は、長編はこれひとつのみだが、短編はわずかだけ書かれたらしい。その辺は先輩格の、あの『冷えきった街』の主人公・三影潤を踏襲した(三影の方が短編の数はずっと多いはずだけれど)。

 しかし未読の仁木作品の長編もだんだんと減っていくなあ。まあ仕方ないけれど。大事に読んでいこう。

No.1 6点 kanamori 2010/08/11 18:17
一般人を主人公にしたハードボイルド風味のサスペンス長編。
翻訳事務所を開いている主人公が、アルバイト学生の失踪事件を追っていくうちに、もう一つの隠された事件につきあたるというストーリー。
主人公が何者かに襲われたり、真相が複雑な人間関係の闇にある点など、ロス・マクの影響があるように思います。


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