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[ 本格/新本格 ]
赤い猫
仁木悦子 出版月: 1981年06月 平均: 6.67点 書評数: 3件

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立風書房
1981年06月

講談社
1984年04月

No.3 8点 mediocrity 2021/09/11 13:42
『赤い猫』
安楽椅子探偵もの。推理は所々少し強引に感じましたが、全体としては良い出来だと思います。ストーリー自体も感動的です。
『白い部屋』
同じく安楽椅子探偵もの。最後の動機の部分だけ取って付けたような感じがしますが、それ以外はレベルの高い作品だと思います。
『青い香炉』
これは安楽椅子探偵+犯人当てゲームみたいな感じです。前の2作の強引さはまだ許容範囲でしたが、この作品はちょっと強引すぎるのでは。あと、なぜ停電時に電話を使えたのだろう?
『子をとろ 子とろ』
ちょっと怪奇じみたストーリー。それ以外は普通。
『うさぎさんは病気』
ピアノ教室中に子供が「おばあちゃん死んじゃう」とパニックに。するとちょうどその時間におばあちゃんが溝に落ちて死んでいたという話。謎を消化できるのか心配したが、きれいにまとまる。
『乳色の朝』
誘拐物。短編の割に複雑で面白い。

読んでいる方が推理不能な展開と、「○○さん、あなた発表されていない現場の詳細をどうして知っているのですか?」という状況が少し多い気がしましたが、全体的には密度の高い短編集だと感じました。7.5点くらい、四捨五入して8点で。

No.2 6点 2020/09/22 22:22
 連城三紀彦『戻り川心中』と共に第34回日本推理作家協会短編賞を受賞した、著者の代表作品集(ちなみにこの時の長編賞は西村京太郎『終着駅殺人事件』)。本書冒頭で彼女は故・江戸川乱歩の追憶に触れ〈もう一度駆け出しのころに戻って、頑張ってゆきたい〉と熱く抱負を語っているが、デビューから二十四年目、晩年での受賞は正直遅きに失した感がある。前年度の第33回はいっさい作品が選出されなかったため、地味な作家にもようやくスポットが当てられるようになったと考えると少々皮肉な話だが。
 学習研究社発行の「母と子の雑誌 ベルママン」に連載された二編を初め、昭和五十四(1979)年九月から昭和五十六(1981)年二月にかけて各誌に掲載された、表題作ほか四短編を含む全六作品を収録している。第八長編『冷えきった街』に登場する私立探偵・三影潤や、第三長編『殺人配線図』登場の東都新報・吉村駿作記者など、ほぼシリーズ探偵のみで固めた短編集でもある。
 なお「ベルママン」発表各編で探偵役を務める〈浅田悦子〉の旧姓は仁木。雄太郎の妹・悦子の結婚後の姿である。仁木短編は本集の後にも執筆され続けるが、長編については翌昭和五十七(1982)年、講談社ノベルスより刊行された第十一長編『陽の翳る街』が、彼女の最終作となった。
 表題作「赤い猫」は、一人暮らしの無口で、とっつきのわるい老婦人・大林郁の住み込み話し相手として雇われた二十二歳の女性・沼手多佳子が、ある夜邸で起こった事件をきっかけに郁の持つ類稀れな推理の才能に気付き、彼女とともに十八年前、母の由佳子がなぐられて殺された事件の犯人を突き止める話。車椅子の老女が主役のアームチェア・ディティクティヴ物だが、協会賞受賞作とはいえ仁木短編としてはそこまで突出していない。ミステリとしてよりも郁と多佳子、短いながらも確かな繋がりで結ばれた二人が心に残る作品。
 逆にミステリ要素が買えるのは嵐の山荘ものの変形「青い香炉」。暴風雨に煽られて吊橋の落ちた民宿に閉じ込められた八人の男女が、復旧までの暇潰しとして半年前、麓の町に住んでいた著名陶芸家が二人組の男に殺された謎を解く推理競べもの。ジュニア風だがなかなか変わったトリックが二つほど使われている。やや強引な所もあるが、収録作の中ではかなり面白い。
 肩を撃たれて入院中の三影潤が病院近くで起こった老人殺しを解決する「白い部屋」は、この両編に比べるとやや落ちる。赤・白・青と来て、幼稚園児の哲彦と二歳になる鈴子、二児の母となった悦子の活躍が見られる「ベルママン」発表作も同様。それなりに趣向は凝らしてあるが、発表誌のせいか物語の展開は若干安直にも思える。
 トリの「乳色の朝」は二重三重の裏を秘めた誘拐ものだが、最終的に犯人サイドの人間が多くなり過ぎるのが難といえば難。こうやって見渡すと、こじんまりとはしているがやはり一番は表題作、という事になろうか。仁木の小説はミステリ部分にばかり気を取られていると読後そこまでとは感じないが、思い返すと長編にしても短編にしても後を引く作品が多い。独自の感性を持つ貴重な作家の一人である。

No.1 6点 kanamori 2010/07/06 18:00
ミステリ短編集(角川文庫版)。
角川文庫から出ている作者の文庫本の表紙絵は全て猫のイラストで統一されていることに気がついた。猫など出てこない作品が大半なんですが、それだけ乱歩賞作品の印象が強いということでしょうか。
本書は比較的後期の作品が6編収録されていますが、協会賞を受けた表題作の「赤い猫」、三影潤ものの「白い部屋」、仁木雄太郎もの「青い香炉」の3作は、いずれもが安楽椅子探偵もので、ほかにも面白い仕掛けがあり楽しめる。


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