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[ サスペンス ]
これよりさき怪物領域
マーガレット・ミラー 出版月: 1976年01月 平均: 6.75点 書評数: 4件

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早川書房
1976年01月

No.4 6点 人並由真 2020/04/09 20:25
(ネタバレなし)
 1967年10月13日。カリフォルニア州の若き農園主である24歳のロバート・オズボーンが急に姿を消した。その少し前に農園が雇い入れていた季節労働者の一団10人も足取りが不明で、案件の事件性、またロバートの失踪と労働者たちの関係も取り沙汰されるが、事態は大きな進展のないまま一年が過ぎた。ロバートの失踪時にまだ結婚半年の新妻だったデヴォンは、夫の公的な死亡を認定する法廷に向かうが。

 1970年(1972年という資料もあり)のアメリカ作品。
 評者にとっては数年前の新訳『雪の墓標』以来、久々のミラー作品である。
 ロバートの生死の謎を核に、デヴォンをはじめとする関係者たちの素描を書き連ね、じわじわとホワットダニットのサスペンスを煽る小説作りは、例によって見事。とはいえ中盤の裁判シーンが結構長めで、やや退屈しないでもない。いやいろんな情報が小出しにされ、事件の輪郭が際立っていく感覚など、そのパートの意味はあるんだけれど。
 
 終盤の反転は切れ味という点では申し分ないが、最後まで読みおえると一部の登場人物の心理に、いささか釈然としない違和感が残ったりする。まあこれは結局は、世の中には「そういう前提」があっても「そういう選択」をする人もいるのです、といって了解するしかないような部分だろうけれど。

 あとポケミスの登場人物一覧表は、ややネタバレになってしまっているような……。なんでこういう感じになったかの事情はわかるが、もうちょっと工夫の余地はあると思う。

 ちなみにこの作品、未訳の時点でミステリマガジン誌上で原書が紹介された時の仮題が「地の果ての魔物たち」であった。
 評者が古本屋で購入した(と思う)HMMのバックナンバーでその紹介記事を目にした初見時、おおカッコイイ! 題名と感嘆し、のちに実際の邦題がなんか泥臭いのにいささかガッカリした思い出があった。とはいえ、実作を読んでみると、これはこれでなかなか味のある日本語版タイトルではある。

No.3 7点 mini 2015/07/08 09:57
* 私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”、第8弾はマーガレット・ミラー
いや本当はさ、ロスマクに続いて第2弾にするべき作家なんだけど、と言うか、実際に第2弾として「まるで天使のような」を1度は書評したんですよ
ところがさぁ、今夏に創元文庫からそれも新訳で復刊予定だそうなので、書評済の「まるで天使のような」は一旦削除してその時点で再登録することにしたんだよねえ、で結局ミラーが後回しになっちゃったってわけ(苦笑)
昨年から今年とミラーの刊行が相次ぐが、出版社も生誕100周年を意識しているのかねえ
さてそんなわけでミラーの書評1冊目がかなり後期の作からという、私らしい(苦笑)へそ曲がりな順番になってしまったのである

ロス・マクドナルド夫人がマーガレット・ミラーで、たしかにロスマクの神経症的な作風はミラーを思わせるものがある
「これよりさき怪物領域」は、まぁ後期になっての作者の集大成的な位置付けなのだろう、「まるで天使のような」がミラーの中では異色作だっただけに、「怪物領域」は原点に立ち返りました的な感じだ
う~ん、これぞミラー、ミラーはこうでなくちゃみたいな(微笑)
強いて言えば全編の半分以上を、行方不明者の死亡認定裁判シーンで占めるという構成が特異だが、でも「まるで天使」のような毛色の違う作とは言えないだろう
初中期のガラス細工のような雰囲気も出ているし、代表作の1つと言ってもいいかもしれない
ただ何て言うのかなぁ、きっと題名から受ける先入観なんだろうな、もっとガラス細工が砕け散るようなラストが来るのかと予想してたら、案外と地味に着地してたのには逆の意味でちょっと意外な感じがした
その分、例えば「狙った獣」や「見知らぬ者の墓」みたいな、ちょっとあざとく仕掛けが目立ってしまうような感じもないのは好感が持てた
私が思うに、この「怪物領域」のミソは真相での主従の逆転である
ネタバレしないように言うのが難しいのだが、要するに真相が2つ有って、2種類有る真相の内メインの方はきちんと解明され、しかも丁寧にその事件時の経緯を説明している
ところがもう1つのサブの真相はすごくあっさりと語られ、いや語られてさえいないと言うか一言で済ませている
メインの謎の真相がそれほど驚嘆するような性質の真相じゃないだけに、読者側としてはそこで油断してしまうのだ、その時に話のついでにサブの真相も仄めかされる
ところが読者にはこっちのサブの方が衝撃でメインとサブが入れ替わる、その時点で表向きは重要な主役のメインの謎の真相などどうでもよくなって、いやどうでもいいわけじゃないけど脇役に格下げとなる
逆に一気に主役に格上げされるサブの方の真相こそ、まさに怪物領域
サブ方の真相をくどくど説明してしまっては、怪物領域の未知なる怪しさが半減してしまうので、仄めかすだけで正解なんだろうな

余談だが、意味深な題名の由来は作中にも登場する”古い地図”である
メルカトル図法みたいないわゆる図法じゃなくて、中世の世界観ってのは平面の大地になっていて、その端の方は滝になって流れ落ちたり、あるいは魑魅魍魎の世界みたいな、そんな文明世界の外側に在るのが怪物領域である

No.2 7点 蟷螂の斧 2014/08/21 19:57
~若い農園主ロバートは突然姿を消した。食堂にはおびただしい量の血痕があった。そして次の日、十人のメキシコ人労働者がいなくなった。死体は見つからず、数か月後、妻は死亡認定の訴訟を起こした。しかし、ロバートの母親は、息子の死を絶対に認めようとしなかった。~                      死亡認定訴訟の裁判を通して、徐々に明らかになっていく真相。しかし、息子は絶対に帰ってくるという揺るぎない母親の確信により、本当に死亡したのか?母親は何か真相を知っているのか?という謎を残しながら・・・。この辺りは、さすがにうまいと感心しました。真相自体は単純なものですが、ラストでは心理的サスペンスの第一人者と言われるだけのものは用意されています。

No.1 7点 kanamori 2010/04/20 20:15
メキシコ国境近郊の若い農場主の失踪で幕を開ける心理サスペンス。マーガレット・ミラー後期の傑作です。
まず、タイトルがすばらしい。まるでミラーのサスペンス小説全てを象徴するようなタイトルだと思います。
残された農場主の妻と母親の心理的葛藤が緩慢な筆致で語られていきますが、息子の生存を確信する母親の造形が出色です。そして、息子の部屋のドアへの貼紙・・・結末は途中である程度予測がつきますが、やはり最後の衝撃は強烈で、心理サスペンスの女王の名に恥じない出来だと思います。


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マーガレット・ミラー
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