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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
闇に潜みしは誰ぞ
西村寿行 出版月: 1978年11月 平均: 7.00点 書評数: 3件

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集英社
1978年11月

徳間書店
1980年04月

集英社
1980年05月

KADOKAWA
1982年03月

No.3 7点 人並由真 2025/04/29 16:16
(ネタバレなし)
 その年の8月2日。警視庁の刑事で30代半ばの独身男・仙波直之は、自主的な射撃訓練の帰り、埼玉県清瀬市の周辺で交通事故で重傷を負った男に遭遇。男を愛車で病院に担ぎ込む。男は死亡するが、彼は仙波に透明なビニールに書かれた地図のような図面を渡した。その直後、仙波は何者かに襲撃される。仙波は年上の友人で妻子持ちの46歳の酒好き刑事・峰武久に私的に協力を求めて応戦に出るが。

 ……評者が読んできた寿行作品で、今までいちばん、通常の字義でのエログロバイオレンス・クレイジーだと思っていたのは『峠に棲む鬼』であった。
(別の意味で最もイカれてるのは『わが魂、久遠の闇に』で、作者の熱量の度合いが最強にクレイジーだと思ったのは『蒼茫の大地、滅ぶ』だが。)
 で、本作はその『峠に~』と同じ年、半年後に刊行された、そんな時期の作品。今回が初読である。

 もともとハードカバーは買ってあったような気もするが、すぐに出てこないので1~2年前にブックオフの100円棚で見つけた角川文庫の上下巻セットで今回初めて読んだ。ハードカバーの表紙ジャケットに描かれていた黒豹の意味がウン十年目にして初めてわかる。ほとんど出オチのようなもんじゃん?
 その角川文庫下巻の巻末解説は西脇英夫が書いてるが、どこそこにいつ連載とかあるいは書き下ろしとかの書誌情報は記載していない。内容の形質からしてまず連載作品だと思うが、だとしたらやはり連載ものだったと記憶する『峠に~』と同時進行のハズで、なるほど、かなりショッキングなバイオレンス描写のネタなどこっちでも共通している(具体的にどんなのか書かないが、悪党への報復の描写)。
 
 で、リアルタイム当時、今以上に寿行作品がスキだった自分がなんでこの新作を(ちゃんとハードカバーも買ったハズなのに)読み漏らしていたかというと、くだんの『峠に~』でさすがにゲップが出たからだったと思うし、その時点ですでに寿行のバイオレンスアクション(いわゆるハードロマン)は何年にもわたって読んでいたのだから、そりゃまあね。あと元版のその黒豹の絵だけでお腹いっぱいになった上、さらに新刊の帯で、敵側と主人公が奪い合う謎の秘宝の正体が何か、当初から明かされていたこともある。実際の本編を読むとそのキーアイテムの地図に書かれてたお宝が何なのかは、中盤の初めくらいまで引っ張られるのであった。
(ちなみに評者はその帯で、初めて「(中略)」というモノの存在を知った。)
 
 で、本作の感想だが、さっきから引き合いに出しているその『峠に~』のマッドさをそのまま横滑りさせたような内容。その一方で、作者がもうこの手のものを書き飽きたのか、自分自身で自作をパロディというかカリカチュアしているような感触もある。
 いや、そんな傾向、つぶさに見ればすでに何作か前からきっとあったのだろうが、今回は特にそれが顕著だ。
 また妙な、さらに今回はミステリから外れた例を引き合いに出すが、ゲーム「スーパーロボット大戦」シリーズの初期分で、フォウ・ムラサメ(Zガンダムの)が登場すれば必ず敵に拉致され、洗脳された彼女を救う説得イベントがある、ガンダム2号機(0083)が登場すれば必ず敵に奪われる、といったお約束イベントのリフレインがあり、送り手も受け手もどっかそのパターニズムを諧謔として楽しんでいたような気配もあるが、本作内のある種のいくつかの種類の描写(読めばわかる)の反復はそれに通じるモノがある。
 あと、話を長く長くするためにどんどんと敵やら陣営やらが投入されて作品の延命が続き、それが一応は面白い作劇ぶり。後半のドラゴンボールかい。

 バディ主人公ものとしてもすでに書き慣れ切った作者が、そこに妙なすっとぼけた味を投入。なんというかああ、もう完全に寿行の私的観測において第三期というか、第二・五期(?)だな、という感じの作品であった。
 それでも上下巻あわせて文庫版600ページ以上、一晩で読んでしまうのだから面白いことはオモシロイ。クロージングはアレだが、その辺をつっつくような作品でもないだろうな、コレ。
 
 で、このレビューが投稿されると、めでたいことに本作は本サイトで初めての、レビュー数3票獲得の寿行作品になるのであった。チャンチャン。いや、あまりにしょーもない歓喜の事由ではあるのだが(笑)。

No.2 7点 斎藤警部 2024/08/22 00:30
シティポップがこんだけグローバルに再評価されるんだから、ハードロマンにだってチャンスは無いものだろうか、なんて思わなくもないですが、だからと言って例えば竹内まりやさん往年のLPを掛けながらカンパリ・オレンジ片手に本作を読むなんて趣味の悪い真似はとても薦められたもんじゃありません。

「わたし、ほんとうは、あなたがたのも、切りたい。もう男の汚ならしさには、へどが出そうだわ」
「おい、ナイフ、返せよ」
「心配しないで。仲間のは切らないから」

死んだバディと生きてるバディ。 死んだ二人は日本政府側の人間で、ある特殊な鉱物の在り処を探索していたらしい。 生きている二人は刑事。 時の弾みで、死んだ方の二人と接点が出来た彼らは、正体不明の敵から執拗な接触、攻撃を受ける。 勢いで警察を辞めた(!)二人はもう一つの新たな敵に出遭い、新しい女と出遭い、これぞ日本のハードロマンと言うべきギラギラした泥沼の冒険絵巻の中へと自ら将んで吸い込まれていく。

オープニングからしばらく続く、強い謎の押し寄せる感覚は圧倒的。 いったんネタがリリースされた後も、新しい謎が次々と攻め上がっては火の矢を放つ。 謎の傍らには常に凄まじいばかりの暴力と凌辱。 この両輪どちらも切らさず爆走し続けるのが素晴らしい、飽きさせない、読ませる、痺れさす。 スリルワラワラの終盤に近づき突如発生した謎の「泥棒」事件の機微とか、引っ張ってくれたねえ。 ラスボス臭パンパンの魅力溢れるアイツが(以下略)

「今度、遇ったら返せよ。いいな、アルコールだけは、借りたら返すもんだぜ。それが礼儀と言うもんだ」

題名の重さと、内容に潜む奇妙な軽さ。 そのくせ重過ぎるギラギラ拷問&陵辱シーンの頻発。 現代のコンプライアンスを散弾銃でぶっ飛ばすような会話や言説の遍在。 今これ新作で発表したら、AIの勝手な判断でスカーーーンと殺されちゃうんじゃないか作者が、と心配にもなります。 一方でかなり強靭なユーモアが作品の四方八方へ明るさを付与している点も特筆すべきでしょう。 こいつらいったい何回敵に捕まってあんな事こんな事されたら懲りるんだ、元刑事のくせして、なんてあきれてしまう滑稽味もあります(その裏からは強烈な惨酷描写が身を乗り出している構造なわけですが)。

「悪くはない。ペニスです」

重要ファクターとして「◯◯」が登場。 S.S.なんとか氏の某作にも登場するアレですが、ソレのアレとは重みが違う(洒落か)。 他にもあれこれ盛り込んで、最終的にはなかなかトンデミーな方向へと物語が飛んで行きそうになったけど、そこは流石にぐっと堪えたよね。。 あれ、そう言やあっち方面の落とし前は? と少し思ったけど、そっちには「◯◯」の存在は知られてないんだっけ。 どっかで漏れてるような気もするのだが・・・・

No.1 7点 E-BANKER 2010/06/06 14:27
巨匠得意のバイオレンス&アクションですが、本作品は全体的に軽いタッチで、あまり重厚さはありません。
核兵器を製造する際に必要な幻の液体「重水」をめぐって、3つのグループが死闘を繰り広げます。
氏の作品には、”ものすごい特殊能力や訳の分からない××拳法の達人”という現実離れした人物がよく登場してきますが、本作品は普通の能力の登場人物ばかりで、そういう意味では安心?して読み進められます。
キャラとしては、大学の地質学講師「土田明子」の造形が見事・・・荒くれの山男たちの間にさらされ、まさに体を張った活躍をしてくれます(?)
男のロマンを感じたいときにお勧めの一作。


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