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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
凩の犬
西村寿行 出版月: 1991年05月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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KADOKAWA
1991年05月

KADOKAWA
1993年01月

No.1 6点 人並由真 2024/06/21 15:10
(ネタバレなし)
 国際的な謀略事件を担当していた元・警視庁捜査一課の刑事、舞坂正路(まさみち)は、その事件の渦中で敵の犯罪組織に愛妻を惨殺された。刑事の職を離れて犯罪組織に復讐を果たした舞坂は奥多摩の山中で、銀色と金色の左右の眼を持つ愛猫コガネ(黄金)とともに隠遁していたが、そこで一人の重傷の男と遭遇。彼から不可思議なダイイングメッセージを聞いた。そしてそれこそは、噛み技に長けた殺人犬「殺し犬」や、狂犬病の狂犬、さらには生物爆弾として訓練した鴉などで凶行を行なう国際的テロリスト「大狂人」の上陸を告げるものであった。かつて関わっていた外地の犯罪組織に、日本の公安によってダメージを与えられた大狂人の大々的な復讐が始まる。公安の特殊隊、別称「裏警察」は舞坂に接触し、その強靭な意志と闘志を求めた。だが大狂人は、敵の戦列に加わった舞坂の妹で、31歳の人妻・昌代を誘拐した。舞坂の知人である元北大教授・押野平作は、昌代の奪還と大狂人の打倒を願う彼のために、幼少の頃から訓練された戦闘犬「凩(こがらし)」を用意するが。

 新書判で読了。中期~後期の寿行作品らしく、ストーリー(というかドラマ)はあるようなないような中身で、どうも送り手が編集側の期待するものをいつもの手癖で書いたような感触もなくもない。
 一方で主題というかお話のモチーフは十八番の動物ものなので、さすがにその辺の描写は腐っても鯛、のような歯応えはある。
(後半から登場するタイトルロールの凩もさながら、もう一匹の動物主人公コガネの、マイペースな猫らしい、しかしどこか擬人化された描写がとてもよい。)
 
 後半で大敵、37歳の日系アメリカ人(らしい)大狂人の秘めたる過去が開陳され、読者の情感を刺激するのは、これってフツーの作家がくれる感銘だよなあ、こういうのに頷くのは寿行作品じゃないよなあ……という気もしないでもないが、それでも過去にあった大狂人の事情とその愛犬への忸怩たる念は、ちょっと魂を揺さぶられた。しかし寿行っぽくない。リフレインではあるが。

 後半の山狩りの際に舞坂に協力する、元熟練のハンターだが50代で猟銃を捨てた65歳の松川栄造は、たぶん作者自身の分身的なキャラクターであろう。この人も妙にいい味出している。

 クライマックスにコンデンス感を抱く一方で、ある種のあっけなさも同時に感じるのはいつもの寿行作品。

 まだまだ寿行作品の全域を俯瞰できる自信はない(畏れ多い)が、たぶ中期~後期ではそれなりの良い方ではあろう。

 ところで、ラスト……。これは、もしかして……?


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西村寿行
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