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[ 本格 ]
アリントン邸の怪事件
アプルビイシリーズ
マイケル・イネス 出版月: 2007年04月 平均: 6.33点 書評数: 3件

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長崎出版
2007年04月

論創社
2018年10月

No.3 6点 2020/01/16 05:23
 引退したロンドン警視庁警視総監サー・ジョン・アプルビイは、財を成し先祖伝来の土地アリントン・パークに隠棲した元科学者、オーウェン・アリントンに歓待されていた。功成り名遂げたオーウェンは紳士階級(ジェントルマン)の義務に熱心で、折りしもパークを舞台にした三週間あまりの催し物〈ソン・エ・リュミエール(イルミネーション・ページェントの一種)〉が終了したばかりだった。
 夜も更け、暇を告げようとして引き止められていたアプルビイはいささか退屈を覚えていたが、主の勧めで野外のイルミネーションを操作した直後、電源付近で男の遺体を発見する。
 当惑するオーウェンを尻目にてきぱきと必要な処置をとり、関係各所に連絡を終えたアプルビイだったが、元捜査官としての彼の勘はこう告げていた。
 「ついさっきだぞ。男はついさっき死んだんだ」
 1968年発表のアプルビイ・シリーズ第20作。彼がスコットランド・ヤードを退職した後の事件で、作中でも彼を担ぎ出そうとする愛妻ジュディとの掛け合いが楽しめます。
 晩年の作品ゆえかイネスにしてはあっさりめ。「アララテのアプルビイ」と比較しても若干食い足りません。財宝ネタでストーリーの補強を図っていますが、総合的には短篇の延長といった感じ。トリック自体は面白いのでその辺が惜しい。
 チェスタトンが引き合いに出されていますが、元ネタを見てももっとハッタリを全面に押し出して扱うべきですね。わざと持って回った書き方にする狙いは分かるんですが、明快なトリックだけに逆効果だと思います。
 共犯者の処理が容赦無い割にメインの標的に対しては可能性頼りと、変に歪なのもマイナス。アプルビイ夫妻以外の人物描写もミステリ的には不足気味で、レッドへリングや脇筋など一捻り欲しいところ。色々あってトータルではギリ6点。

No.2 6点 kanamori 2014/09/29 23:31
警視総監の職を退き、田舎で暮らすアプルビイは、ご近所の元科学者・アリントンの邸の夕食に招かれた。その深夜、由緒ある屋敷や城跡を夜間照明で飾る電気仕掛けの余興に立ち会ったとき、管制室の片隅に変死体を見つける-------。

物語の比較的早い段階で死体の発見があるものの、その感電死が事故か事件かが判然としないまま展開します。アプルビイと妻ジュディスの諧謔精神がにじみ出たユーモラスなやり取りが救いですが、アリントン・パークと呼ばれる敷地を舞台に、教区牧師をはじめとする村人が集う慈善目的の催しの場面描写が長く続くのが冗長と感じるかもしれません。それは第2の死体が見つかっても同様です。しかし、そういったモヤモヤ感は終章近くで一掃されます。
この仕掛けは確かにすごいです。nukkamさんが書かれているように正に”チェスタトン的”で、個人的には「知恵」のアレと「不信」のアレの合わせ技という感じを受けました。トリックの実現可能性についてもチェスタトン的ではありますがw
コンパクトな分量でプロットも比較的すっきりしているので、本書はイネスの文学趣味や薀蓄が苦手な人でも手を出しやすいんじゃないかな。

No.1 7点 nukkam 2010/09/29 16:47
(ネタバレなしです) 1968年発表のアプルビイシリーズ第20作の本格派推理小説です。既にアプルビイが警察を引退した身分というのは時代の流れを感じさせます。ドロシー・L・セイヤーズの「死体をどうぞ」(1932年)を髣髴させるような、アプルビイ夫妻のユーモアたっぷりの探偵活動が楽しく、後期の作品ゆえかプロットもすっきりして読みやすいです。それでいて謎解きは意外と手が込んでおり、第20章の驚愕の告発、そこからのどんでん返しにチェスタトン的な大胆な仕掛けと充実しまくりです。できればアリントン・パークの見取り図があれば言うことなしでしたが、それを割り引いても傑作だと思います。


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