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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
陰謀の島
アプルビイシリーズ
マイケル・イネス 出版月: 2019年12月 平均: 5.50点 書評数: 2件

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論創社
2019年12月

No.2 6点 2020/04/03 11:11
 第二次大戦時下のイギリス。ロンドン警視庁の刑事ジョン・アプルビイは、最近警視監に就任したばかりの老紳士の頼みで、ハロゲイトで起こった馬の盗難事件を調べることになる。黄水仙〈ダフォデイル〉というそのおとなしい馬は警視監の姉レディ・キャロラインのお気に入りだったが、価値はわずか十五ポンド。しかも泥棒は先に盗んだ何百ポンドもの価値のある馬を馬小屋に戻した後、入れ替わりにダフォデイルを連れ去ったのだった。厩舎の持ち主の話では、ダフォデイルは〈人間そっくりの馬〉だった。
 アプルビイは捜査を続けるうちに、ハワース最後の魔女ハンナ・メトカーフが家財道具を引き払い、幌馬車に乗った男たちと共に立ち去ったことを知る。彼女は「わたしはもう、別の世界へ行くのだから」と言っていた。その馬車を引いていたおかしな馬の話が、アプルビイを惹きつける。「もし、その馬がダフォデイルだったとしたら?」
 他方ではアプルビイの同僚ハドスピスも奇妙な事件に遭遇していた。多重人格の女性ルーシー・ライドアウトが派手な外国人風の男に連れ去られたのだ。男は彼女との会話でハンナ同様〈カプリ島〉という単語を口にし、その島が南米大陸にあることを仄めかしていた。さらにハドスピスは、十八世紀に建てられたブルームズベリーの幽霊屋敷が、丸ごと盗まれたというとんでもない話を聞きつける。一連の奇妙な事件には、果たして何かの目論見があるのだろうか?
 二人の刑事は事件の手掛かりを求め、ハロゲイトの馬車馬が残した痕跡を追って赤道を越え南米へと向かうが、彼らを待ちうけるのは空想と科学をごた混ぜにした大規模な研究施設〈ハッピー・アイランド〉と、それを足掛かりにした途方もない企みだった・・・
 『アララテのアプルビイ』に続き1942年に発表された、アプルビイシリーズ第八作。要約するとアプルビイ達が、パノラマ島みたいなトチ狂った世界に入り込んじゃう話です。ただその世界を貫く論理がメチャクチャなものではなく、狂気の産物とはいえそれなりに筋が通っているところがミソ。ミステリ的にはボスのエメリー・ワインが、アプルビイとハドスピスに仕掛ける〈実験〉の内容がメインですかね。作品内でもオカルト肯定・パラサイコロジー肯定の大盤振舞いなので、賛否はあると思います。
 内容は『アララテ』がマトモに見えるほどで(この時点でもうおかしい)、事件の規模からしてとても一刑事がどうにか出来るようなものではありません。ただ日本の読者だと、二十面相のおじさんが少年探偵諸君に提供するトンチキ空間に慣れ親しんでいるので、案外平気かも。けれど雰囲気的には前作に比べても重く、しかも解決は冒険小説風。色々と突然変異的な作品ですが、イネスにはこれを執筆しなければという已むに已まれぬ理由があったのかもしれません。ちょっと想像つきませんが。

No.1 5点 nukkam 2020/01/10 20:49
(ネタバレなしです) 1942年発表のアプルビイシリーズ第8作の冒険スリラーですが同じジャンルのシリーズ前作である「アララテのアプルビイ」(1941年)と比べると実に捉えどころのない怪作で、読者の評価が大きく分れそうです。第一部でいくつかの事件が起きてアプルビイたちが捜査に乗り出す展開自体は普通ですが、その事件が複数の女性の失踪(誘拐?)だったり馬の盗難(ご丁寧にも最初の馬を返して目的の馬を盗み直してます)だったり家屋の消失(盗難?)だったりと何これというもの。第二部になると物語はますます破天荒になり、なぜかアプルビイたちが南米行きの船に乗っていて、船には怪しげな人物がうろうろ。失踪者たち(馬や家屋も)がそれぞれ普通でない特性をもっていることがわかりアプルビイの推理は予想範囲の斜め上です。多重性格者との会話や容疑者相手にアプルビイたちのとんでもない芝居も強烈な印象を残します。第三部は舞台が南米、ここでは「アプルビイは2件の殺人を犯した」という文章にどっきりです。プロットはハチャメチャでまともに理解できませんでしたが強力な磁力に引っ張られるかのように読まされました。


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