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[ 本格/新本格 ]
時計屋探偵の冒険 アリバイ崩し承ります2
「美谷時計店」店主・美谷時乃
大山誠一郎 出版月: 2022年03月 平均: 5.25点 書評数: 4件

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実業之日本社
2022年03月

No.4 5点 パメル 2023/06/19 06:45
前作「アリバイ崩し承ります」に続く第二弾で、那野県警捜査一課の新人刑事「僕」が、美谷時計店の女性店主・時乃に捜査中の事件について相談し、容疑者のアリバイを崩して事件を解決に導くというスタイルが貫かれている5編からなる短編集。
「時計屋探偵と沈める車のアリバイ」一人の男性が自動車ごと湖に落ちて亡くなった。甥に容疑がかかったが、防犯カメラに残った画像からアリバイが確認される。
「時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ」県会議員のパーティーの最中、秘書が殺された。議員は秘書を殺す動機があったことが分かったが、彼には完璧のアリバイがあった。
「時計屋探偵と一族のアリバイ」資産家の男性が刺殺された。彼の甥と姪の三人が容疑者になるが、三人にはそれぞれアリバイがあった。
「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」主婦が自宅で殺害され夫が容疑者として浮上するが、彼には同時刻に別の女性を殺害した容疑がかかっていた。片方の事件で彼が犯人と立証されれば、もう片方の犯行は出来ない。
「時計屋探偵と夏休みのアリバイ」祖父からアリバイ崩しを学んでいた時乃の高校時代の話。夏休みのある日、美術部員が作った石膏像が壊されていた。事件当時、茶道部の先輩が現場近くで目撃されていたが、犯行する時間はなくそのアリバイは時乃自身が確認していた。
凝った設定を駆使して、謎解きを提示している。だが毎回アリバイを崩して一件落着という流れでは単調になってしまう。これに対してアリバイを崩すことによって、さらに事件の様相が複雑になったり、状況の工夫によって展開の幅を広げてみせている。
白眉は、第75回日本推理作家協会賞短編部門を受賞した「時計屋探偵と二律背反のアリバイ」で、狡猾で周到なアリバイ工作の真相には驚かされた。最終話の「時計屋探偵の夏休みのアリバイ」も、犯人が用いたトリックが効果的に機能している。その上で、時乃や祖父が見抜くロジックが美しく、アリバイが崩れた先に心地よい温かさが優しく訪れる忘れ難い作品となった。

No.3 5点 HORNET 2022/11/21 22:12
 県警本部捜査一課の主人公は、アリバイ崩し「だけ」は優秀と買われている新米刑事。しかしその実は、美谷時計店の女性店主・美谷時乃に毎回「アリバイ崩し」を依頼している。今回も、難攻不落と思えるさまざまなアリバイを、「時を戻すことができました。――アリバイは、崩れました。」と瞬殺する時乃。人気作「アリバイ崩し承ります」の第2作。

 2件の殺人事件の両方の容疑者になることによって、片方の犯人となればもう片方の容疑が張れるという「二律背反のアリバイ」など、アイデアが面白い。警察の捜査をはじめから見込んで、こんな手の込んだトリックをするか?という常識はわきに置いておいて、人物像やドラマ性には重きを置かずただただパズラーとしての楽しみに特化した(と思っているが)、作者らしい連作短編集。

No.2 5点 まさむね 2022/09/28 21:52
 テレビドラマ化された「アリバイ崩し承ります」の続編。死亡推定時刻が都合よすぎるだろうとか、こねくり回しすぎではとか、なぜ犯人はそこまでするのかとか、突っ込みたくなる部分はあるものの、その辺りを割り切って、アリバイクイズものといった感覚で読めば、楽しめると思います。サクサク読めるのもいい。

No.1 6点 人並由真 2022/09/06 15:33
(ネタバレなし)
 テレビドラマ化までされて巷ではそれなり以上の人気シリーズの二冊目だと思うが、本サイトではいまだレビューもない。
 
 シリーズ前巻は、このサイトでは、どこかで読んだものが多いという主旨を軸に、ややきびしめの評価をされた感じであった。
 評者的には前巻の時点ではそんなに気にならなかったが、今回、そんなものかな? と改めて意識してみると、なるほど、既視感の漂う作品もいくつか。
 ただしこれは、具体的にどの作家のかの作品に似ているというより、21世紀の時代にこういうレベルのアリバイトリックで各作品をまとめられるなら、たぶんおそらくどこかに類作は存在していそうだというそんな気配というか観測、そういう感慨がおのずと生じるような作りだからである。

 とはいえ良い意味でクセのない愛らしい系の名探偵ヒロインと、彼女に秘めた思いを抱くワトスン役刑事との掛け合いは、ある種のトラディッショナルな連作謎解きミステリの空気をもたらして心地よい。
 もはやミステリの鬼(笑)たちからは見捨てられたシリーズかもしれないが、評者などはもうしばらく付き合っていきたい連作ミステリだ。

 今回は全5編の中短編が収録されているが、面白かったのは逆転の発想が生きる第1話と第3話(特に後者)。さらにヒロインの時乃の高校生時代の回想編で、先代名探偵のおじいちゃんの活躍編でもある第5話はクロージングまでの流れも含めてちょっと良い感じ。ほかの2本も悪い出来ではない。

 前巻とあわせて、正に良い意味でミステリ入門者に読ませるには最適のシリーズだと思う。
 そして自分のような冊数をそれなりに読んだ(実にいい加減な体系のミステリ読書歴だが)者でも、それなり以上の感興は得られるのではないか。
(キャラクターも謎の主題の絞り込み方もまるで違うが、赤川次郎の初期の佳作連作集『幽霊列車』あたりに通じるものもあるかもしれない。) 


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