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[ 本格 ]
女の顔を覆え
アダム・ダルグリッシュ
P・D・ジェイムズ 出版月: 1977年04月 平均: 6.50点 書評数: 6件

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早川書房
1977年04月

早川書房
1977年04月

早川書房
1993年05月

No.6 6点 ことは 2023/11/25 00:56
最近、ジェイムズの後期作をつづけて読んだので、初期作はどう感じるかなと思って読んでみた。
(再読だったのだが、いや、完全に忘れていた。犯人すら思い出さない。初めて読む状態でした)
まず、後期作と比べると、やはり、読みづらい。読みづらさの原因は、第一に、3人称多視点だからと感じた。Aは思った、Bは思った、Cは思ったと、普通に続くところが多いので、見通しが悪くなっている。第二としては、状況の提示に強弱がないことだろう。雰囲気をつくる情景描写も、重要なデータ提示も、同じトーンで書かれるので、なかなか咀嚼に時間がかかってしまう。
そのため、読む時間は、結構かかってしまった。
(これは後期作も同じだが)ダルグリッシュのキャラが名探偵でない点も、読むスピードにドライブがかからない点だろう。ダルグリッシュからは、名探偵にあるひらめきや見事な着想がまったく出てこないので、名探偵というよりは有能な刑事だ。キャラクターの立ち位置で近いと感じるのは、マルティン・ベックかな?
他に、舞台設定がお屋敷なので、後期の社会的広がりと比べると地味な点も、後期作に軍配があがる。
途中、「やはり後期作の方が全然好きだな」と思ったが、解決シーンでかなり盛り返した。
被害者のキャラクターに焦点があたっていく構成は見事だし、完全に作者の誤導に引っかかってしまったので、解決にはびっくりさせられた。1章のあれや、現場の状況から、真相を完全に眩まされてしまった。
ミステリ的な意外性ではかなり高得点だが、でも、やはり総合的には、後期作が好きかな。

No.5 5点 レッドキング 2023/02/07 18:50
P・D・ジェイムズ処女作。薬物飲まされ扼殺されたシングルマザーのメイド。富裕ではない・・にしては二人も住込み女中抱えてるが・・旧家の家族に、使用人・近隣・縁者達容疑者揃えた古典的Whoダニット。伏線追って詳細に読み込めば結構ロジカルなんだろが、キモは被害者のユニークなキャラに絡めたWhy ”何で殺されちゃったの?”。なんていうか、クリスティーより一回りアク強く「こんなんだろなあ、英国の女」感が描写されてて、よく。(点数オマケ)

No.4 8点 人並由真 2020/06/25 07:14
(ネタバレなし)
 故・瀬戸川猛資の遺した「ジェイムズを読むなら一気にじっくり」の言葉(大意)を尊んで、二日に分けずに徹夜で完読。
 そして曙光のなかで迎えた結末の衝撃! な、なんと……!!

 いや、実はこの(中略)は途中で一度、もしかしたら……と、頭をよぎったものの、小説本筋のストーリーテリングのうまさと語り口の鮮やかさ、そして終盤に加速度的に事件の真相の輪郭を見せてくる際のサスペンスにたっぷり魅せられて、いつのまにか脳裏から薄れてしまっていた(笑・汗)。。
 一方で、作者が中途の描写で、意図的にある種のミスリードを狙ったフシもあるし、かなり計算された作品だとも思う。

 ポケミスの残り少なくなるページを左手で覆いながら(ぎりぎりのギリギリのギリギリまで、真犯人の名を見たくないぞ!)、ダルグリッシュの語る謎解きにハラハラワクワクする高揚感、自分が思ったこととの合致点、予想しながらも外れたポイントなどを噛みしめていく、あたかも作中の現場に立ち会っているかのような疑似臨場感。これこそが、正統派パズラー優秀作の山場ならではの醍醐味というものだ!

 処女作のジェイムズはまだ完全にクリスティーの影響下、またはその影の中にあるんだけれど、しかしながらこれはそんな時期だからこそ書けた傑作。
 先達の巨匠の良い部分を自然に、あるいは何気なく継承しながら、かたや、自分らしい小説的なうまみを模索。その絶妙なバランスが、本作を香気ある一級の英国パズラーに仕上げている。あー、素で面白かったな。

 先にちょろっと名前だけ出した作中人物を、あとの方で読者との共通認識前提でいきなり登場(再登場)させたりする、やや傲慢な文調でもあるけれど、その辺さえこなせれば、独特のテンポに乗れてそんなによみづらくはない。
 自分も、ジェイムズ、面白いけれどヘビーだからな~と二の足を踏んでいたが、これはよみやすい、歯ごたえがある、そしてミステリとして楽しめる! の三拍子作。
 まだまだジェイムズ、未読のものが残っているけど、まあたぶんこんな刹那的な煌めきを感じさせる作品には、もう二度と会えないかもしれませんね?

No.3 8点 nukkam 2015/09/06 23:51
(ネタバレなしです) 英国ミステリーの新女王(前女王はもちろんアガサ・クリスティー)と称されたP・D・ジェイムズ(1920-2014)のデビュー作が1962年発表の本書です。作者自身がクリスティーの影響を脱しきれない失敗作と自己批判しており、後の重厚な作品と比べると違和感さえ感じる作品ですが決してクリスティーの亜流ではないし、読み易さと重厚さが両立しています。探偵役のダルグリッシュ(本書では主任警部)が容疑者を一堂に集めて真犯人を指摘する場面などは確かに本格派黄金期ミステリーの名残が見られますが、人間ドラマの部分にも十分配慮されていて謎解きと物語のバランスがとれています。ところで1960年代は英国でも本格派冬の時代で、その中で唯一売れていたのがクリスティー、そのためか当時の新進女性作家はクリスティー的作風を出版社から強要されていたという不幸な歴史があったそうですが、それに反発してジェイムズがアンチ・クリスティーになったのも理解できなくはないのですが、謎解きの面白さを後回しにしたかのような後期の作風は個人的には残念です。私にとって1番好きなジェイムズ作品は本書です。

No.2 6点 2014/03/11 23:18
本作が初読の作家ですが、P・Dがフィリス・ドロシーの頭文字であることを知るためには、疑問を持って調べなければならないでしょう。本作の巻末解説にも書いてありません。
さて、その「ミステリの新女王」の第1作ですが、巻末解説ではロマンス作家クリスティーと比較して、作者がリアリストであることを強調しています。でも、どうなんでしょうね。まあ、世代の違いは感じさせられます。田舎地主の館を舞台にしているとはいえ、まず被害者が住み込みのメイド1人だけだということ、またそのメイドの考えていることがつかみにくいこと等、明らかに古典的パターンから外れています。
謎解き的には、様々な偶然の出来事が重なって真犯人がわかりにくくなっていたことが、最後に明らかにされていくところに、感心しました。また殺人動機は非常に納得できるのですが、明確に分類定義できるようなものでないのも、おもしろいところです。

No.1 6点 Tetchy 2009/01/16 22:54
本作がジェイムズのデビュー作で、本の厚みは薄いものの、やはり第1作目から文章が見開き2ページに渡って毎ページぎっしり詰まって、あたかも真っ黒になっているかのよう。

本作でのテーマは被害者の人と成りが捜査で周辺の人からの聴取により一変していくところでしょう。
こういう話は好きですが、ただもう少し掘り下げてほしかったかな。
しかしデビュー作にしてジェイムズのミステリのスタイルが確立されているのは驚いた。
最初からレベル高いです、この人。

事件の始まりは日常の終わりを告げる始まりである。
デビュー作からこのテーマはジェイムズにとって不変のようだ。


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P・D・ジェイムズ
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