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[ 時代・捕物帳/歴史ミステリ ]
八犬傳
旧題「八犬伝」
山田風太郎 出版月: 1983年10月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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朝日新聞社
1983年10月

朝日新聞社
1986年03月

角川書店
1989年11月

廣済堂出版
1998年03月

No.1 7点 2019/06/03 08:30
 一人の作家が、一人の画家に語り出した――。
 作家の名は曲亭こと滝沢馬琴、画家の名は葛飾北斎。江戸文化が爛熟期を迎えた文化・文政年間を舞台に「虚の世界」と題して大長編「南総里見八犬伝」を的確に纏め、「実の世界」と題してそれを書き終えるまでの馬琴の実生活と江戸末期の世の転変を交互に配置し、「語ること」に憑かれた卑小にして偉大な人間の姿を描ききった作品。昭和五十七年八月三十日~昭和五十八年四月一日まで「朝日新聞」夕刊紙上に連載。
 古川日出男の「アラビアの夜の種族」を登録したので、合わせ鏡のような存在のコレについてもやらんといかんかなと。あっちは「読むこと」に憑かれた人々についての話ですけどね。書かれた年代のせいか山風にしてはアッサリ加減。しかし物語としては非常にバランスが良い。
 読後感は忍法帖+明治物といった感じ。前半部分は「虚の世界」である里見八犬伝のストーリーが主体。八犬伝面白いですね。幼少期に児童版で読んだだけですが、配置された脇役や伏線が思わぬところにピタピタと嵌り込んでいくところはデュマの「モンテ=クリスト伯」を思わせる。馬琴当人の偏執的な性格もあって、こればっかりが繰り返される後半ではお腹一杯になっちゃうんですが、前半の山場である「芳流閣の決闘」あたりまでは感心するばかり。作者も承知の上で、ここには十分筆を割いています。
 これが後半になると、馬琴を馬琴たらしめた業とも言える彼自身の性格と、どうしようもない運命が積み重なり崩壊に向かう滝沢家の姿、それと重なり揺れる時代に押し潰される人々の描写が多くなる。対してクドさの増した八犬伝の記述は簡略化されてゆく。ブッキッシュで複雑な構成なのにきちんと手綱を取ってるところは、さすが山風。
 そして「虚実冥合」と題された最終章。曲亭馬琴はもうホント融通の利かないクソ爺で、偉大なのは分かるけど絶対に身内には持ちたくねーな、という人物なんですが、その彼が名利も欲得もなく、何物をも欲せず、ただ一心に「語ること」のみに専心する。「語る」という行為そのものがいつしか"聖性"を帯びてゆく。このラストには感動させられます。山田芳裕「へうげもの」的な、物欲の徹底による爽やかさにもどこか通じるなあ。締め括りの美しさは風太郎作品でも最上のものでしょう。これを書き下ろしでなく、新聞連載の形でやったのが凄い。
 ただ欲を言えば、明治物的なクロスオーバーがもう少し欲しかったですね。中盤に馬琴・北斎・鶴屋南北が「東海道四谷怪談」上演後の中村座奈落で顔合わせするところは圧巻ですが。馬琴の交際範囲が極度に狭いんで仕方ないんだけど、ちょっと触れられてる十返舎一九、できれば河鍋暁斎なども絡めて欲しかった。山田風太郎のベストに推す声もありますが、そこまでには至らないかな。7点作品。


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山田風太郎
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