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[ 時代・捕物帳/歴史ミステリ ]
幻燈辻馬車
明治もの
山田風太郎 出版月: 1976年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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新潮社
1976年01月

文藝春秋
1980年01月

筑摩書房
1997年06月

角川書店(角川グループパブリッシング)
2010年11月

No.1 7点 2020/04/30 20:24
 「父(とと)!」「きて、たすけて、父(とと)!」

 少女が必死に助けを求めて叫ぶとき、娘を守るため冥府から、血まみれの白刃をひっさげた軍服姿の幽霊が現れる。二頭立ての老馬・玄武と青龍に引かれた〈親子馬車〉を駆る元会津藩同心・干潟干兵衛とその孫娘・お雛の哀切な物語を軸に、自由民権運動の嵐が吹き荒れる開花期の東京を、一台の辻馬車を狂言回しに使い活写する風太郎版・明治秘史。
 雑誌「週刊新潮」昭和五十(1975)年1月2日号~同年12月25日号まで掲載。ラスト付近は雑誌「日刊ゲンダイ」掲載の『御用侠』冒頭部分と被る形。ほぼ丸々一年に渡っての連載で、明治ものとしては前年12月まで連載の『警視庁草紙』の後を受けた二作目にあたります。
 大枠は一作目の流れを受けた、連作形式での藩閥政府VS自由民権運動の暗闘。四十そこそこながら元会津藩出身の〈負け組〉である干兵衛は、ふとした縁で知り合った勃興期の自由党壮士たちに漠然とした好意を持ち、幾度か陰に日向にと協力しますが、彼らの運動が最終的に踏み潰されることも洞察しており、そのために孫娘との平和な日々を失いたいとは思っていません。
 ですがこの小説の時代設定は明治十五(1882)年から明治十七(1884)年。旧士族の反乱は五年前の西南戦争を最後に終息したものの、福島事件・加波山事件・秩父事件など激化した自由党シンパと官憲との武力衝突が頻発した時期。紆余曲折の末一時的に夢のように穏やかな日々が訪れるものの、願いも虚しく結末では半ば幽明の存在と化した干潟干兵衛が、夜の武蔵野を辻馬車で、加波山に向かいまっしぐらに翔けてゆくシーンで終わります。
 ミステリ的には"自由党に潜入した政府の密偵は誰か?"と、後半にクローズアップされる〈刑法第百二十六条〉の真意が焦点。そして主人公たちを彩るのは三遊亭円朝・出淵朝太郎父子、橘屋円太郎、山川健次郎、大山巌・大山(山川)捨松夫妻、大山信子、三島通庸、三島弥太郎、中江兆民、河野広中、来島恒喜、赤井景韶、花井お梅、八杉峰吉、松旭斎天一、川上音二郎、伊藤博文、マダム貞奴、徳富蘇峰、田山花袋、坪内逍遥、松のや露八、嘉納治五郎・西郷四郎師弟、斎藤新太郎・歓之助兄弟などの面々。
 文化人が多いのは、ガラガラだった銀座煉瓦街にも店舗が入り始めたご時勢故でしょうか。ほぼ同時期を扱った明治もの第七作「エドの舞踏会」とも、かなり登場人物が重なっています。
 その中で異彩を放つのは人斬り以蔵の実弟・岡田緒蔵こと柿ノ木義康。フェンシングを使う山高帽にフロックコート姿の剣鬼で、「鹿鳴館前夜」で講道館柔道の創始者・嘉納治五郎を破る半身不随の老門番・鬼歓こと斎藤歓之助と共に、強い印象を残します。
 編中ベストはその「鹿鳴館前夜」で、幽霊を使った〆も上々。次点は風太郎には珍しくマジックを扱った「開花の手品師」。ストーリー優先ながら時代小説人気投票ではともすると、『警視庁草紙』をも上回る作品ですが、その理由はお雛ちゃんの愛らしさに尽きるでしょう。


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