海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 時代・捕物帳/歴史ミステリ ]
ラスプーチンが来た
明治もの/別題「明治化物草紙」
山田風太郎 出版月: 1984年12月 平均: 6.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


文藝春秋
1984年12月

文藝春秋
1988年01月

筑摩書房
1997年10月

筑摩書房
1997年10月

No.1 6点 2020/05/13 20:08
 明治二十二(1889)年二月十一日、新政府の文部大臣・森有礼は憲法発布の式典に向かう直前、凶漢に襲われ非業の死を遂げた。その同じ日の夕暮、のちの日露戦争勝利の立役者の一人・明石元二郎陸軍中尉は参謀本部次長・川上操六に、近衛旅団長を勤める乃木少将宅で起こった幽霊事件の解決を依頼される。その真相を見抜き半ば希典を脅すようにして事を収めた元二郎だったが、今度は彼を見込んだ乃木家付きの馬丁・津田七蔵に、大恩ある伊勢神宮の神官竜岡左京の娘・雪香を救ってくれと頼まれた。
 美少女雪香はとかくの噂のある伊勢神道占・稲城黄天なる人物に、巫女となりその身を捧げるよう強要されていたのだ。稲城は幽霊事件にも一枚噛んでおり、さらに森有礼暗殺事件を利用して竜岡神官の弱みを作ったらしい。じつに容易ならぬ曲者のようだ。
 元二郎は七蔵の依頼をも快諾するが、それは彼の前に現れるさまざまな明治の化物と戦うことを意味していた。そしてその化物たちの中には、実に驚倒すべき大化物もいた――
 「週刊読売」昭和54(1979)年12月2日号より掲載。後述の理由により翌昭和55(1980)年6月15日号にて、結末まで2/3余りの段階で中絶。そののち四年の歳月を経て部分訂正及び加筆の末、昭和59(1984)年12月に文藝春秋社より刊行。明治もの第五作『明治波濤歌』とは、ほぼ並行連載されました。
 中絶理由は関係者の抗議。山縣有朋・桂太郎・松方正義・犬養毅・原敬・後藤新平・頭山満など明治の政界に食い込み"日本のラスプーチン"と言われた「穏田の行者」飯野吉三郎と、かれの愛人で他にもとかく醜聞のあった女性教育者・下田歌子。明治ものには珍しい濃厚な濡れ場シーンや完全な悪役扱いもあって、めでたく連載中止に。それぞれ稲城黄天、下山宇多子の仮名を用いることにより、なんとか許可されています。
 現行本はそれに第十一章「ラスプーチン来る」以降の章を書き加えたもの。とはいえラスプーチンが文豪チェーホフから病死した雪香の母・水香の手紙を託されるのは連載中のことであり、構想に大きな狂いは無いでしょう。下山宇多子の影は後半いささか薄くなっていますが。
 風太郎得意の短編連鎖形式ではなく、どちらかというと長編に近いもの。型破りの快男児・明石元二郎が前半では稲城黄天と、後半では密かに来日したラスプーチンと対決する趣向。最初は緩めの展開ですが、徐々に大津事件を背景にしたロシアの怪僧の狙いが明らかに。人間入れ替えにプラスしての操りで、さらに水香の運命や宇多子の狂態、加えて黄天の予言を重ねることにより、ラストでの雪香の凄艶さやそれを引き出した妖僧の魔力を際立たせています。最後付近は釣瓶撃ちでしたね。
 とはいえ明治物名物のクロスオーバーで他に光るとこが冒頭部、ニコライ堂の屋根シーンくらいしかないので6点。ただ稲城が弱みを拵える手口は、しょせん口先三寸とはいえ興味深いです。実際の詐欺師も多分こんなんなんでしょうね。


キーワードから探す
山田風太郎
2013年09月
忍法相伝73
平均:3.00 / 書評数:1
2010年07月
虚像淫楽(角川文庫版)
平均:6.00 / 書評数:1
2003年02月
十三の階段
平均:7.00 / 書評数:1
2002年05月
怪奇篇「怪談部屋」
平均:4.00 / 書評数:1
2002年03月
補遺篇「達磨峠の事件」
平均:4.00 / 書評数:1
2002年01月
少年篇「笑う肉仮面」
平均:5.00 / 書評数:1
2001年11月
セックス&ナンセンス篇「男性週期律」
平均:4.00 / 書評数:1
2001年09月
忍法創世記
平均:6.00 / 書評数:1
ユーモア篇「天国荘奇譚」
平均:5.00 / 書評数:1
戦争篇「戦艦陸奥」
平均:6.00 / 書評数:1
2001年07月
凄愴編「棺の中の悦楽」
平均:6.50 / 書評数:2
2001年05月
サスペンス篇「夜よりほかに聴くものもなし」
平均:7.00 / 書評数:2
2001年03月
名探偵篇「十三角関係」
平均:7.50 / 書評数:6
本格篇「眼中の悪魔」
平均:7.75 / 書評数:8
1997年06月
厨子家の悪霊
平均:8.00 / 書評数:2
1997年02月
奇想ミステリ集
平均:7.25 / 書評数:4
1995年08月
室町少年倶楽部
平均:6.00 / 書評数:1
1995年04月
跫音
平均:6.50 / 書評数:2
1995年03月
奇想小説集
平均:7.50 / 書評数:2
1992年09月
柳生十兵衛死す
平均:5.50 / 書評数:2
1992年08月
明治バベルの塔
平均:6.00 / 書評数:1
1991年07月
室町お伽草紙
平均:5.00 / 書評数:1
1990年05月
婆沙羅(ばさら)
平均:7.00 / 書評数:1
1987年09月
神曲崩壊
1986年12月
秘戯書争奪
平均:7.00 / 書評数:1
1985年02月
修羅維新牢
平均:6.00 / 書評数:1
1984年12月
ラスプーチンが来た
平均:6.00 / 書評数:1
1984年07月
叛旗兵
平均:7.00 / 書評数:1
1983年10月
八犬傳
平均:7.00 / 書評数:1
1983年05月
帰去来殺人事件
平均:6.00 / 書評数:3
1983年01月
エドの舞踏会
平均:7.00 / 書評数:1
1981年06月
明治波濤歌
平均:7.00 / 書評数:1
1979年02月
明治断頭台
平均:7.31 / 書評数:13
1978年11月
忍法封印いま破る
平均:5.00 / 書評数:1
1978年01月
魔群の通過
平均:7.50 / 書評数:2
1977年10月
地の果ての獄
1976年01月
幻燈辻馬車
平均:7.00 / 書評数:1
1975年01月
警視庁草紙
平均:8.00 / 書評数:4
1973年11月
くの一忍法帖
平均:4.25 / 書評数:4
1972年01月
海鳴り忍法帖
平均:5.00 / 書評数:1
1969年01月
くノ一忍法勝負
平均:5.00 / 書評数:1
1968年01月
銀河忍法帖
平均:5.00 / 書評数:1
1967年01月
いだ天百里
平均:6.00 / 書評数:1
夜よりほかに聴くものもなし
平均:6.50 / 書評数:2
伊賀忍法帖
平均:6.00 / 書評数:4
妖説太閤記
平均:7.67 / 書評数:3
忍びの卍
平均:6.00 / 書評数:1
魔界転生
平均:5.80 / 書評数:5
1965年01月
自来也忍法帖
平均:4.00 / 書評数:1
1964年01月
信玄忍法帖
平均:6.00 / 書評数:1
忍法八犬伝
平均:6.00 / 書評数:2
風来忍法帖
平均:8.00 / 書評数:2
柳生忍法帖(上・下)
平均:6.83 / 書評数:6
1963年01月
かげろう忍法帖
平均:6.00 / 書評数:1
太陽黒点
平均:7.12 / 書評数:17
1962年01月
棺の中の悦楽
平均:4.00 / 書評数:1
忍者月影抄
平均:5.00 / 書評数:1
外道忍法帖
平均:5.00 / 書評数:3
忍法忠臣蔵
平均:5.33 / 書評数:3
1960年01月
女人国伝奇
飛騨忍法帖
平均:5.00 / 書評数:1
江戸忍法帖
平均:6.00 / 書評数:1
おんな牢秘抄
平均:7.00 / 書評数:3
1959年01月
青春探偵団
平均:5.00 / 書評数:1
甲賀忍法帖
平均:7.39 / 書評数:18
1958年01月
誰にも出来る殺人
平均:8.00 / 書評数:1
1956年01月
十三角関係
平均:5.75 / 書評数:4
1955年01月
悪霊の群
平均:5.75 / 書評数:4
1954年01月
妖異金瓶梅
平均:7.90 / 書評数:10