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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 007/黄金の銃をもつ男 007 |
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イアン・フレミング | 出版月: 1974年02月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 2件 |
早川書房 1974年02月 |
早川書房 2000年02月 |
早川書房 2000年02月 |
No.2 | 6点 | 臣 | 2019/09/18 10:39 |
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1964年、最後の長編。
フレミングの遺作ということで感慨深く読めたのはよかった。 ボンドの復活作品でもある。復活登場のシーンがなかなか面白い。 シリーズ最初の映画作品「ドクターノオ」が1962年なので、映像化を見据えたのか、派手なキャラクタが登場する作品となっている。 映画版を観ていないので、頭の中に映像は浮かんでこないはずなのだが、自分なりの想像にもとづく映像が浮かんできたのには驚いた。 本作の敵役であるスカラマンガは、ユニークでなかなか魅力的なワル。象のエピソードは印象的だった。本シリーズは、だいだいにおいてワルでもこんな扱いだし、そこが人気なのかもしれない。 一方のボンドは、冒頭でもラストでもけっしてカッコよくない。でもうまく描いてある。欠点を見せるのも人気の秘密なのだろう。 そのボンドとスカラマンガとの間で、もしかしたら友情が芽生えるんじゃないかと、ひやひやした。 と、キャラばかりを褒めたが、キャラのみの一点豪華主義で、ストーリーはスリルも変転もすくなく物足らない。「ゴールドフィンガー」ほどの変化のある話ならいいのだが、それには全くおよばない。 遺作なので評点はすこしオマケした。「ゴールド」の評点を6点にしていたので、本作とのバランスをみてプラスした。 |
No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2018/10/10 00:03 |
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評者はどうもワルモノなので、「マジメを売り物にする」奴が嫌いみたいだ。というのは、ル・カレをこのところ5冊やったんだが、何かねえ読んでいて嫌な気分になることが多いんだ。その点、フレミングは、洒落っ気があるのでスノッブな気取りだって嫌な気分にはならない。エンタメに徹してるが、これだけ売れたシリーズのわけで、それはそれである種の「真実」を示しているようにも思うのだ....と、人気絶頂での作者の死によって遺作となった本作は、ある意味このシリーズの本質みたいなものを露呈しているのが面白い。
前作「二度死ぬ」の最後で行方不明になったボンドが、突然帰ってきた...が、この裏にはソ連に洗脳されたボンドによるM暗殺が企まれていた。間一髪で暗殺を逃れたMは、ボンドに療養をさせたのち、回復したボンドに汚名挽回のための任務を与える。カリブ海を根城にソ連の仕事を多く請け負う殺し屋スカラマンガの暗殺である。スカラマンガは「黄金銃を持つ男」として伝説化した殺し屋だった....スカラマンガに接近したボンドに対決の日が近づく。 ボンドの帰還とM暗殺を巡るシーケンスが、「秘密情報部の一般社会インターフェイス」という視点で描かれていて、なかなか興味深い。で、本作は実際のところ「007=殺人許可証を持つ男」というのが、国家の暗殺者だ、ということを露呈しているのだ。正義の冒険者、というよりも暗殺を業とする殺し屋としてのボンドが、伝説の殺し屋と決闘する、というウェスタン調の話なのである。原作でもスカラマンガは何となくボンドを気に入ったかたちで、身近に雇うことにする。同類としての共感みたいなものが、原作でも底流に感じられる。 で、これは映画ではクリストファー・リーがスカラマンガを演じて、これはもうボンドに対する親愛感をまったく隠さない、というか同性愛的なニュアンスさえある(スカラマンガとニックナックの関係も怪しい)。二人は古典的な正々堂々な決闘をする。ほぼスカラマンガのキャラだけを原作から採用して、舞台背景や事件はほぼオリジナルになっているのだが、これはこれで原作のウェスタンな「殺し屋vs殺し屋の話」のテイストを維持できていて、ナイスな映画化だと評者は(あえて)思うのだ。舞台を映画の前作とカブるという理由でカリブ海から香港・マカオ・東南アジアに移して、折からのカンフーブームにも乗っかって...と、かなりお気楽なボンドならぬモンド映画風の作りになっているので、マジメなファンは嫌がる作品で有名なんだがね。 と、舞台が共通する「スクールボーイ閣下」でマジメにベトナム戦争を背景にしたル・カレと対比すると、あちらのマジメさが結局華僑の囲われ者になっていたイギリス人女性を、イギリスの臨時工作員が任務を逸脱して華僑から奪おうとする話..となってしまい、イギリス人の視野の狭い独善性みたいなものを感じて評者はノレないんだな。こっちは「ガキじみた決闘ごっこに血道を上げて、アジアの片隅で腐れ果てるイギリス変態紳士たち」の映画だ。これに巧まざる批評性を読み込こんでみたいと評者は思うのだ。 ま、映画はカジノ・ロワイヤルが 1967 > 2006 な映画バカなら、お気に入りになること間違いなし。映画の方が原作よりも面白い。 |