皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格 ] 海のオベリスト オベリスト3部作 |
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C・デイリー・キング | 出版月: 2004年09月 | 平均: 5.67点 | 書評数: 6件 |
原書房 2004年09月 |
No.6 | 6点 | ことは | 2022/09/04 23:16 |
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読み終わって振り返ると、「謎と解決」は、いまひとつ。提示された謎のうち、いくつかは途中で判明するし、それも「なぁんだ」というものもあるし、被害者の二人のうちの一人の扱いは「なんだかなぁ」という感じだし、途中でたたかわされる心理学による推理も「どうなの?」と思うし。
惹句として使われる「手がかり索引」は、初期クイーンの諸作の「手がかり」と比べると、圧倒的に薄味で、惹句以上のものではない。 逆に面白かった点は、銃撃戦のシーンや、「船が沈むかも?」というシーンや、飛行機が飛び立つというシーンで、舞台設定もあわせて考えると、極めて映像的な作品だといえる。 評判をきいて期待していた部分と、違う部分か楽しめた作品です。 |
No.5 | 5点 | E-BANKER | 2021/11/20 10:52 |
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「オベリスト」=“疑問を抱く人”ということだそうで、個人的に作者の初読みです。
本作は、その後「鉄路の・・・」「空の・・・」に続く「オベリスト」シリーズの第1作目(とのこと)。 1932年の発表。 ~豪華客船「メガノート号」。満員のサロンでは恒例のオークションが行われていた。スミス氏が最高値で落札しようかというそのとき、不意に室内が暗くなりはじめ、やがて闇に包まれた。そして銃声が響き渡る。まもなく非常灯が部屋を照らすとスミス氏は胸に血を染めて倒れていた。ところが検視の結果、スミス氏が銃撃の直前に毒殺されていたことが分かり、謎は混迷を深めることになる。ポンズ博士をはじめとする4人の心理学者たちがそれぞれに推論を重ねて探偵ぶりを発揮するのだが・・・~ 読了までなかなかの時間を要した本作。問題となるのは、他の方も触れられているとおり、中盤に展開される四人の心理学者による推理(?)合戦。 これが、どれもこれも「はア?」っていう感じの推理であり、この辺は例えばバークリーの「毒チョコ」などの多重解決ものとはかなり趣を異にしている。 極論すれば、この部分は「なくても」成立する気がするし(多少の伏線、手掛かりなどは仕込まれているにせよ)、最終的に読者としては不満の残るところとなる。 後は巻末の「手掛かり索引」。 これも・・・親切かつ分かりやすいようでいて、どうも不要な気がしてしまう。 まぁ作者が丁寧に伏線を仕込みながら作品を仕上げていることは分かるんだけどね・・・ で、最終的な真相解明について。これは使い古された「意外な犯人」というものに分類されるのだろう。 ただ、いろいろ不自然な点はあって、これについては探偵役の〇〇(真の探偵役も物語終盤まで伏せられている)も認めていて、それはやむなしという風にごまかしている。 という感じで、なんか腑に落ちない読後感だ。でも、まぁ仕掛けそのものは目新しさはあるし(当時は当然そうだったんだろう)、純粋にフーダニットとして楽しめなくはない。 ただ、四人の心理学者と同様、「ああでもないこうでもない」と全く事件の核心に迫らないまま展開されるストーリーに付き合わされるので、予めご承知おきください。 (巻末解説によれば、特に「空の・・・」はさらに斬新らしいので読んでみたい気はする) |
No.4 | 6点 | 人並由真 | 2020/07/02 15:10 |
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(ネタバレなし)
北大西洋を横断する豪華客船「メガノート号」。その夜、船上では乗客たちによるオークション大会が開催されていたが、いきなり照明が停電。闇のなか、銃声が響いてアメリカ有数の大富豪ヴィクター・ティモシー・スミスの命が奪われた。船長ホリス・マンフィールド指揮のもと、客船の保安係や船医たちは殺人事件を捜査して犯人を捜すが、やがて死体の意外な事実が判明した。それと前後して、船に乗り合わせていた四人の心理学者グループは持てる学識を、事件解決と犯人逮捕のために役立てようとするが。 1932年のアメリカ作品。 当初は、比較的単純な射殺事件と思われたものの、新事実が明らかになっていくにつれて少しずつ犯罪の様相が変わっていく作劇はフツーに面白い。 さらに本作のキモといえる複数のプロの心理学者(精神分析学者)による事件の介入。その各人の実働ぶりは、21世紀の今なら素人目にも相応にトンデモではあるのだが、当時は一種の専門科学分野からのミステリジャンルへの独特の? アプローチではあったのだろう。 我が国の島田一男が1970年代から量産した「科学捜査官」ものとその派生シリーズ、(評者はまだ手つかずだけど)もしかしたらその辺りに近い興趣を狙ったもののようにも、評者は勝手に想像したりする。 嘘発見器やら単語からの連想ゲームやらを活用した4人の学者のトンデモっぽい探求はそれなりに読んでいて楽しいが、当たり前ながら彼らのウンチクや見識が語られる物語中盤の時点で事件が解決するわけはない。だからこれらの学識にもとづく捜査はみんなおおむねファールに終わるんだな、でもそのなかで何らかの真相に繋がる伏線や手がかりは散りばめられるんだろうな? と予期しながら読み進めるが、はたして……(中略)。 (ただしある学者の見識・仮説にもとづいて、客船単位でとある大作戦を行うあたりの豪快さは、かなり笑えた。) その辺にからんで、本書のもうひとつの売りである巻末の手がかり索引の方が、今ひとつ効果が上がらなかったのは残念。個人的には(大昔に読んだ記憶ながら)同じ趣向ならクロフツの『ホッグズ・バック』の方がずっと良い仕上がりだったようにも思える。 総括すれば、得点(楽しみどころ)はそれなりに多い作品ながら、足をひっぱる部分も目についてプラスマイナスでこの評点。nukkamさんがおっしゃった人物描写の不自然さは同感だが、物語の後半で、ある登場人物の名前がずっと伏せられている? のにも違和感。狙いがよくわからない。こちらでどこかで何か読み落としたか? 一応は該当部分は二度読みしたけれど。 ちなみにこれは作者の処女作だったみたい。評者はすでにC・D・キング作品は何冊か先に読んでいたのだが、ある面でそれで良かったというか、その状況ならではの一種のサプライズを味わえた。まあファンの人は何を言っているか、分かってくれるでしょう。 (たぶんこの書き方なら、ネタバレにはなってないと思う。) |
No.3 | 5点 | nukkam | 2016/10/02 07:41 |
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(ネタバレなしです) 1932年に発表された米国のC・デイリー・キング(1895-1963)のデビュー作でもありオベリスト三部作の第1作です。オベリスト(作者の造語です)という言葉の意味は本書の冒頭で解説されています。趣向に凝った犯人当て本格派推理小説で、巻末に手掛かり索引を挿入して何ページに手掛かりが隠してあったかを説明しています。この手掛かり索引を導入したミステリーが本書が最初なのかはわかりませんが本格派推理小説黄金時代ならではのアイデアですね。4人の心理学者が各々の心理分析手法を用いながら誰が犯人かを推理していくというのがプロットの特徴になってますが効果はいまひとつです。さらに不自然に感じたのがある人物が別の人物に命を狙われていると怯えて助けを求める場面があるのですが、その人物の名前を絶対に明かそうとしません。理由はあるけど弱いです(まあこれで犯人の正体がわかってしまうのでは本格派としては破綻ですが)。これでみんなに助けてくれというのはちょっとねー(笑)。キングは自身も心理学者だそうですけど心理学者だからって心理描写が上手いわけではないようです。 |
No.2 | 6点 | mini | 2012/10/16 10:03 |
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論創社の予告にデイリー・キングの「いい加減な遺骸」が立った、いわゆるABC3部作のCに相当するらしい
何故Cを最初にと思う人も居るかも知れないが、実は原著の刊行順ではC→A→Bの順番なんだよね まだ仮題ではあるが韻を踏んだ邦題名を見るに、どうやら原題の感じを出そうという試みなんだろう ”い”っていう事は”いろは”なのかな?、でもそれだと”ABC順”と”いろは順”の順番が揃わなくなるけど刊行順て事か? * 私的読書テーマの1つ、”船上ミステリーを漁る”の1冊 デイリー・キングと言えばABC3部作の前にまずはオベリスト3部作である、3部作の第1作目が「海のオベリスト」だ 「海のオベリスト」は典型的な船上ミステリーで、それも船上という舞台設定を効果的に使用した作である、ラストの意外性なんて船上ならではだ 船上を舞台ににした場合、観光旅情ミステリーに行くか、クローズド・サークル性を強調するか、あるいは見知らぬ他人同士が乗り合わせているという設定を活かすか、といったパターンに分かれると思う ビガーズ「チャーリー・チャンの活躍」やブレイク「メリー・ウィドウの航海」なんかは観光型、カー「九人と死で十人だ」やマガー「目撃者を捜せ」はクローズド・サークル型、そしてクェンティン「死を招く航海」やこの「海のオベリスト」などはたまたま乗り合わせ型に近いのかなぁ ただこの作が他の船上ミステリーとは全く違うのが心理学者の推理の競演である これは船上という舞台設定には全くもって必要な要素ではなく、話の進行からも浮いているように見える しかしこれこそがキングの十八番、まぁ仕方ないんじゃないでしょうか(笑) 「鉄路のオベリスト」もノベルス版では心理学者の競演を省いているが、あれ要らないという人も居るみたいだが、やはり完訳じゃないと雰囲気違ってくるからね ※ ちなみに論創社の刊行予定には、某掲示板でも全く話題になって無いが、リリアン・デ・ラ・トーレの「サミュエル・ジョンソン博士」も立ってるのな ABC3部作はいずれどこかが出すだろうと思ってたから、ABC3部作よりもデ・ラ・トーレの方が驚いたけどな |
No.1 | 6点 | 空 | 2011/07/12 21:17 |
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オベリスト・シリーズの第1作には、第1作らしい仕掛けがほどこされています。その仕掛け(殺人事件の真相とは関係ない)部分は、先に『空のオベリスト』を読んでいたので、なるほどと思えました。
4人の心理学者が次々に仮説を披露しては、反証が出てくる2~5章については、それなりに楽しめました。まあ4つ目はさすがに苦しまぎれというか、あまり意味を感じなかったのですが。 それより、偶然の出来事で事件が複雑になるという筋立ては個人的にはむしろ好きなのですが、本作の銃弾の扱いは、そうなる条件を考えていってみると、いくらなんでもねえと思えるのが難点です。2個の銃弾の謎も、巻半ばで答は明かされるのですが、拍子抜け。真犯人指摘の根拠は、いくら手がかり索引を付けてみても、弱すぎるように思えます。 と、悪口を書いてはいますが、意外な展開になっていく全体構造はなかなかおもしろいと思いました。 |