Tetchyさんの登録情報 | |
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平均点:6.73点 | 書評数:1625件 |
No.445 | 6点 | わが職業は死 P・D・ジェイムズ |
(2009/01/18 19:41登録) 本作は非常にオーソドックスな作りになっている。ジェイムズのミステリ公式に則って、創作された、そんな感じだ。 事件が起き、ダルグリッシュが登場し、関係者一人一人に尋問。しかも登場人物それぞれが重苦しい何がしかの不幸を孕んでいる。ダルグリッシュが捜査を続けていると第2、第3の事件が発生、そしてカタストロフィへ…てな具合だ。 この定型を固執するがため、それぞれに個性が感じられなくなってきているのも確かで、本作においては特にその志向が強い。 ジェイムズには読後、良きにせよ悪きにせよ、いつも心に何かが残るのだが、本作に関してはその辺が全くない。 多分1ヵ月後にはどんな話だったか忘れてしまうだろう。 |
No.444 | 6点 | 黒い塔 P・D・ジェイムズ |
(2009/01/17 23:34登録) とにかく重厚かつ陰鬱な内容で、途中何度も投げ出そうかと思った作品。 レジナルド・ヒルの『骨と沈黙』が出るまで、ポケミスでは最厚記録を持っていたらしい。 今までのジェイムズの特徴である緻密な人物描写、風景描写は全く緩まるところがなく、更に登場人物が増えたわけだから、その分量も増え、今までの作品にありがちな、残り少ないページ数で解決シーンへ駆け足で行き着く、などということが全然なく、そこまで終始見開き2ページ、文字で埋め尽くされたページが延々と続く。 最初に手に取るジェイムズ作品としては最も相応しくない作品だろう。 その分、今までになく事件の真相は凝っているように感じた。更にダルグリッシュに魔の手が迫るのもいい。 しかし、これはキツイ!かなり読むのに覚悟がいる1冊。 |
No.443 | 6点 | 女の顔を覆え P・D・ジェイムズ |
(2009/01/16 22:54登録) 本作がジェイムズのデビュー作で、本の厚みは薄いものの、やはり第1作目から文章が見開き2ページに渡って毎ページぎっしり詰まって、あたかも真っ黒になっているかのよう。 本作でのテーマは被害者の人と成りが捜査で周辺の人からの聴取により一変していくところでしょう。 こういう話は好きですが、ただもう少し掘り下げてほしかったかな。 しかしデビュー作にしてジェイムズのミステリのスタイルが確立されているのは驚いた。 最初からレベル高いです、この人。 事件の始まりは日常の終わりを告げる始まりである。 デビュー作からこのテーマはジェイムズにとって不変のようだ。 |
No.442 | 7点 | 女には向かない職業 P・D・ジェイムズ |
(2009/01/14 22:22登録) ハヤカワ・ミステリ文庫ではP.D.ジェイムズはこの作品から始まる。 というわけでオイラもこの作品から読んだので、最後に出てくるアダム・ダルグリッシュが誰だか全く解らなかった。 これをジェイムズの作風だと思われると大きな誤解が生じる。このコーデリア・グレイシリーズはジェイムズにとって突然変異のような作品であり、未だになぜ唐突にこのような女探偵物を書いたのか、解らない。 事件はシンプルで、実はどんなものだったか全然記憶に残っていない。 しかし若年22歳のコーデリアが奮闘するこの物語は、若い女性がいきなり社会の荒波にもまれながら、自分の立ち位置を常に確認し、懸命に生きていくその姿こそが本作の主眼であり、それが克明に私の記憶に刻まれている。 留意しておきたいのは、キンジー・ミルホーンやウォシャウスキーシリーズに何年も先駆けて本作が出ていた事。 これこそジェイムズの功績だと讃えたい。 |
No.441 | 7点 | ナイチンゲールの屍衣 P・D・ジェイムズ |
(2009/01/14 00:52登録) 本作以前の作品のページ数を遥かに凌駕する厚みと重厚な内容。 とにかくそれぞれの登場人物が同僚や友人に抱く憎悪や軽蔑の念がこれほどまでに露骨に表現されているのにまず驚いた。 こういう綿密且つ粘着質な書き方は女流作家ならではの負の感情の発露なのか? 本作では作者初のCWA賞を受賞しているが、まだまだ本領は発揮されたとは云えないだろう。 ページ数は増えても、それは書込みの量が増えただけで、物語の進行はさほど変わっていない。 犯人の動機も単純だし。 力作とは思うが、傑作とまではいかないというのが正直な感想。 なんせP.D.ジェイムズにはこの後、真の意味での傑作が控えているのだから。 |
No.440 | 7点 | 人類の子供たち P・D・ジェイムズ |
(2009/01/12 21:56登録) 2,3年前、『トゥモロー・ワールド』という題名で映画化された作品。CM観た感じでは、どうも作品世界とかけ離れている感じがあったので怖くて観ていないが。 ジェイムズにしては全く異色の、子供の生まれない未来の地球を舞台にした物語。 何故子供が生まれないかの謎を解明するとか、その設定でしか成立し得ない事件の解明というようなシチュエーション型ミステリではなく、あくまで世界を設定した上で繰り広げられるヒューマン・ドラマを描いている。 迎える結末はこういった設定で容易に予想されるものであるが、ジェイムズが敢えてこのような母性に満ちた物語を紡いだことに興味を覚えた。 |
No.439 | 5点 | 不自然な死体 P・D・ジェイムズ |
(2009/01/11 13:44登録) 題名はジェイムズが尊敬してやまないセイヤーズの『不自然な死』を意識してつけられたことは明らかだろう。 ボートに乗せられた両手首のない死体というショッキングな幕開けだが、その導入がこじつけのようになっている感じがするのが惜しい。 とにかくジェイムズの描写は今回も細微に渡るが、ページ数も少ないため、第2の殺人が起こってからは、残りのページで収めようといきなりバタバタするのが残念だった。 動機も至極当たり前なもので、これといって新味が感じられず。 導入として読むのにも以上のような小粒感があり、お勧めできない。 何作か読んで、興味が出たら、どうぞ。 |
No.438 | 6点 | ある殺意 P・D・ジェイムズ |
(2009/01/10 23:47登録) よく出来た小説だと思う。 何一つ過不足無く終末へと向かうし、文章も格調高い。 しかし、目くらましのために容疑者を増やしすぎたのではなかろうか? 以前に比べると登場人物の特性がそのために希薄になってしまっている。 未だにどんな人物だったのか区別がつかない人物が3~4人いる。 |
No.437 | 3点 | 月明かりの闇 ジョン・ディクスン・カー |
(2009/01/09 22:22登録) これは敷地のレイアウトを付けてくれると非常に助かるのだが・・・。 そしてやはり一番大きいのが機械的トリックを説明しているのにそれが図解されていない事。 だいたい想像はつくが、はっきり云って十分理解しているとは到底思えない。これは正に推理小説のカタルシスであるから致命的だ。ここでほぼ90%は興趣が殺がれた。 しかし晩年においてもやっぱりカーはカーだ。 老いてなお、このようなトリックに挑むのだから。 でも一番面白く感じたのは人間関係の妙。 晩年のカーはこういう人間というものの不思議さ―特に趣味趣向の多彩さ―に後期のカーは結構魅せられていたのだな。 |
No.436 | 2点 | 絞首台の謎 ジョン・ディクスン・カー |
(2009/01/08 22:25登録) 色々な意味で全体を捉えるのが難しい作品だった。 怪奇趣味が横溢しているものの、明かされる真相がほとんど子供だましの領域であったのが、大きな原因か。 バンコランの非情さが色濃く出た作品であるのはあるのだが、改訳した方がいいと思う、いい加減この作品は。 |
No.435 | 7点 | 占い師はお昼寝中 倉知淳 |
(2009/01/07 19:39登録) 本作は北村薫を起源とする日常の謎系ミステリで、殺人事件は一つも起きない。 出来映えだが、これは!と目を見張るものは正直云って、ない。謎の難易度も比較的軽めで、作品によっては霊鑑定に入る前に真相が解ったものもあった。 本作の特徴として面白いのは従来の本格ミステリの依頼人が持ち込んだ事件を探偵が解き明かすというフォーマットは踏襲しているものの、依頼人にはそれらの謎が怪奇現象などではなく、人間によって為された事である事を直接依頼人には説明しないところにある。 したがって霊鑑定の後、辰寅叔父と美衣子の間で成される謎解きはあくまで彼の推論であり、証拠も何もないので、実は単なる1つの解釈に過ぎない。 この辺が倉知氏の本格ミステリに対するしたたかな視座だと見た。 つまり推理で解ける事が必ずしも真理では無いと既に自覚的であるように取れた。 あと倉知氏のミステリ作家仲間から伝え聞く人と成りからどうも辰寅叔父=作者とダブってしょうがなかったなぁ。 |
No.434 | 1点 | 死者はよみがえる ジョン・ディクスン・カー |
(2009/01/06 23:14登録) この作品を手に取る人はミステリに対してかなりの寛容さを持ち、なおかつカーの稚気が解るほどに精読しておかなければならない。 私はこの作品はカーを読むに当たり、かなり初期の段階だったので、「何じゃあ、こりゃ~!!!」と憤ったクチです。 いやあ、ほとんど反則の連続なんですよ、コレ。 「えっ?」、「ええっ!?」、「えええっ!!?」となること、請け合いです。 |
No.433 | 8点 | 妖魔の森の家 ジョン・ディクスン・カー |
(2009/01/05 22:29登録) 玉石混淆の短編集だが、逆にそれが故にメリハリが出て、総体的にはカーの短編集の中でも最も好きな一冊である。 表題作は傑作。短編のみならず長編も含めて上位に来る作品。一瞬チェスタトンかと思った。 「ある密室」はほとんどアンフェアだが、まあこのずるさもカーならではか。 「赤いカツラの手がかり」は真相は解るものの、なかなかコミカルで、記憶に残る作品だ。 「第三の銃弾」はハヤカワ・ミステリ文庫で完全版が出ているので読む必要はないかな。 |
No.432 | 4点 | アメリカ銃の秘密 エラリイ・クイーン |
(2009/01/04 19:07登録) まず驚いたのは登場人物表に載せられた人数の少なさ。挑戦状が入っているのにも関わらず、この少なさに戸惑いを感じた。 今回は何か掴みようのないままに物語が進行していく。なんだか作者クイーン自身が暗中模索しながら書いている、そんな印象を受けた。事実、最後の真相解明を読んでも、ところどころ歯切れが悪い。 特に真犯人の真相はありえんだろうと思う。クイーンのミステリは指紋の検証、歯型の採取など通常行う警察の捜査を行わない、ロジックに特化したミステリと認識しているので、そこらへん云々については云わないまでも、あれだけ知っている人が間近に見ていてあの真相はないだろう。 また殺人方法も頭で考えただけで採用したという、至極現実味のない方法である。どう考えても神業としか思えない。 しかし指紋や歯型を利用した科学捜査を行わないながらも、映像による犯行の検証や弾道学を応用した謎解きをやるのだから、混乱して仕方がなかった。 もう作者の都合のいい捜査技術のみを使用している、実に恣意的なミステリだな、こりゃ。 唯一見つからない拳銃の隠し場所に関しては、「おおっ、なるほど」と思ったが、それまで。 やはり国名シリーズ全てが名作ではないということか。 |
No.431 | 5点 | パリから来た紳士 ジョン・ディクスン・カー |
(2009/01/04 00:38登録) 表題作は最後の意外な真相も含め、楽しめた。 同趣向として、「黒いキャビネット」も面白く読めた。 ただ総体的には各編が地味なように感じる。 フェル博士やHM卿に加え、マーチ少佐物の短編が収められているものの、小粒な感じがしてしまう。 |
No.430 | 5点 | 幽霊射手 ジョン・ディクスン・カー |
(2009/01/02 22:21登録) このぐらいまでなら読み物として成立していると認められる雑多な作品集。 「B13号船室」は小さい頃、似たような怖い話を読んだっけなぁ。 表題作のトリックにちょこっと感心した。ちょこっとだけだけど。 |
No.429 | 3点 | ヴァンパイアの塔 ジョン・ディクスン・カー |
(2009/01/01 22:55登録) ラジオ・ドラマの脚本を集めた異色短編集。 従って地の文が無く、登場人物同士の会話だけで成り立っているため、読み易く、テンポも良い。 が、しかしもはやそれまで。 各々のプロットは興趣をそそるものではなかった。結論するに、全く以って本書はカーマニアのコレクターズ・アイテムに過ぎない。 『赤後家の殺人』や『死が二人をわかつまで』の原形と思われる作品や別の短編で使われたトリックが散見したのもマイナス要因。 |
No.428 | 4点 | 仮面劇場の殺人 ジョン・ディクスン・カー |
(2008/12/31 18:16登録) 確かに短編で同様のトリックがあり、しかもチェスタトンの某有名短編でも同様のトリックがあるので、新味はない。 そして起こる事件はそれ一つのみだから、私も冗長さを感じたのは全く同感。 本筋から関係のない脱線気味の笑劇もあり、カーのサービス性がどうも悪い方向に働いたようだ。 |
No.427 | 5点 | 依頼人の娘 東野圭吾 |
(2008/12/30 23:04登録) 内容は基本的にオーソドックスで2時間サスペンスドラマ用のストーリーとも云える。私は特に政財界のVIPのみを会員とする調査機関ということで、『家政婦は見た!』シリーズのようなテイストを感じた。 この頃の東野は『鳥人計画』以降、『殺人現場は雲の上』、『ブルータスの心臓』、そして本作とノベルスで上梓されたミステリが連続して刊行されており、逆に東野氏はキオスクミステリに徹して軽めの作品を書くことを意識していたようだ。 生活の糧を得るためとしてこういうライトミステリに手を出さざるを得ないのが当時の新進作家の状況であったのは十分理解できることだ。 したがってこの手のミステリに読書を趣味とする人間やミステリ愛好者があれこれいちゃもんを付けるというのは全く筋違いという物だろう。 が、あえてその愚を犯すならば、やはりもう少しミステリとしての熱が欲しかったなぁと思う短編集だ。 |
No.426 | 5点 | 死が二人をわかつまで ジョン・ディクスン・カー |
(2008/12/29 23:05登録) ストーリー展開は実に巧みで読者をぐいぐい引っ張っていく。 まず婚約者が毒殺魔ではないかという情報を聞いた当事者の周辺で実際にその毒殺事件が起き、次は我が身!?と疑惑の渦中に放り込まれていく。 そしてその進言をした病理学者の意外な正体をフェル博士が明かす、とここまでは実に面白い。 しかし物語はそこから失速してしまう。 特に真犯人は納得行かない。自ら首を絞めるようなことをしているのだから、全く以って論理的ではない。カーの諸作には犯人の意外性を重んじて、人間の関係性や行動心理をうっちゃることがよくあるが、本作もまたその1つ。 そして延々と説明がなされる密室殺人のトリックは図解が必要。 長らく絶版となっていた作品のようやくの復刊はなんとも味気ないものになってしまった。 |