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ミステリの祭典

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罪なき血

作家 P・D・ジェイムズ
出版日1982年04月
平均点9.00点
書評数3人

No.3 8点 レッドキング
(2024/03/30 01:52登録)
学者で不妊症の養父と赤面症の養母に育てられ、大学入学を前にした18歳少女が知る事になる実親の正体は、通りがかりの幼女を犯した男とその幼女を殺した妻であった。無期刑釈放の実母を引き取り共同生活を始めるヒロインと、犯人の「処刑」に余世を賭ける殺された娘の父親。二人の交互視点で進む、暗く虚無的な小説にして、詩的で変に美しい濃密なロマン・・かつ、物語の骨格にさえなるWhatダニットどんでん返し(及び伏線)・・嗚呼! げにフィリス・ドロシー・ジェイムズ真骨頂此処に在らず哉?

No.2 9点 人並由真
(2020/12/16 13:41登録)
(ネタバレなし)
 1978年のイギリス。社会学者モーリス・ポルフリーとその妻ヒルダの養女であるフィリッパ・ポルフリーはケンブリッジ大学への進学が決まり、18歳になったのを機会に、自分の本当の出自を調べる。まもなくフィリッパは、自分の実父マーティン・ジョン・ダルトンが12歳の少女ジェリー・スケイスに性的行為をして逮捕され、すでに獄死した犯罪者であり、実母がそのマーティンの妻で、くだんのジェリーを殺した女囚メアリだと知った。しかも無期懲役の受刑者ながら10年間、模範囚だったメアリは、この夏に釈放される予定だという。モーリスが自分を<殺人者の娘>というサンプルとして引き取ったのだと認めたフィリッパ。彼女は進学のために家を離れると同時に、実母メアリの身柄引受人となり安アパートで自活して同居を始める。だがそんな母子に、ジェリーを殺された親族の復讐の妄執がひそかに迫っていた。

 1980年の英国作品。
 ジェイムズファンが、彼女の最高傑作とも噂しているみたいな、ノンシリーズのサスペンスもので人間ドラマ。
 元版のハードカバーで読了。大昔に、知人の年上のミステリファンから、面白かったから読んでみてと進呈されながら、ダルグリッシュものでも、コーデリアものでもない、なんか重そう……と思って敬遠し、そのまま戴いたことすら半ば忘れていた一冊であった(ああ、申し訳ない)。
 少し前に部屋の蔵書を引っかき回していたら出てきたので、改めて当時、本をくれた方に感謝してこのたび読み始める。
 今なら、シリーズものだろうがそうでなかろうが<ジェイムズならじっくり詠めば面白いだろう>との確信があるし。あとは読みたいという気分と、ゆっくり本が読めるまとまった時間を掴むタイミングがあればいい。

 それでページをめくりはじめてから、ほぼ丸一日で読了。いや期待どおりに面白かった&読み応えがあった。

 予期しない事態、初めての経験に次々と遭遇しながらおおむね器用に理性的にこなしていくフィリッパのキャラクターは<現代っ子>的な逞しさを感じさせ、その周囲あるいは遠景でそれぞれの立場にもとづいた動きを見せるメインキャラ&主要サブキャラたちの描写もいい。

 本作は三人称、多視点描写の形式。
 文章は意外に会話も多いが、やはり主体は登場人物の行動や状況と情景、それに適度にそれぞれの人物の内面をのぞき込む地の文。重厚というよりは緻密さで、読者に迫る。ほかの英国女流推理作家との比較でいうなら、レンデルの文芸スリラーのときの三割増しという感じ。
 とはいえ母メアリを迎えて(中略)な同居を始めたフィリッパの本当の腹の底は、けっこうギリギリのところで明かされず、大枠としてかなり特異な状況を彼女なりに消化していくその内面で、本当に何を考えているかはわからない? むしろ途中から登場してくる<もう一人の主人公>といえる復讐者の方が、読者視点では裏表がないくらいだ。
 
 小規模な見せ場を重ねていくストレートノヴェルに近い感じだが、後半~終盤ではちゃんと(やや広義の?)ミステリに転調。(中略)も(中略)されて、読み手にフィリッパをふくむそれぞれのメインキャラクターへの雑駁な想いを残しながら、物語は潮が引くように幕を閉じる。細部の決着のなかには、本当に一部、読む者の心に淀みを宿すような軽いひっかかりがあるのも、この作品の場合、なんとなくよろしい。
 十分に面白く手応えがあり、ジェイムズの代表作とよぶに、たぶん相応しい出来であろう(まだそんなに冊数を読んでない内から、こんな物言いも不遜だが)。
 
 ちなみにハードカバー版の訳者あとがきで、このあとに作者がまたコーデリアものを書くらしい、と予告されていた。これが1982年の『皮膚の下の頭蓋骨』だったわけだな。さすがにそっちはもう読んでるが。一瞬、勘違いして本作をもっと晩年のジェイムズの作品と誤認し、構想だけで結局は書かれないで終わったコーデリアものの第三長編でもあったのか? と夢想してしまった(汗・苦笑)。
 評点は0.5点ほどおまけ。

No.1 10点 Tetchy
(2009/01/28 19:33登録)
実の両親を探し当てたところ、父は少女暴行罪で獄中死、母はその少女を殺害したかどで服役中というショッキングな設定。
そして母の出所が間近である事を知った主人公の女性が、母との生活を決意したところ、なんと娘を殺された父親もまた復讐するためにその母親の出所を待ち構えていたという、もう不幸にしか転がらない設定の話。しかしこれが実に読ませる。

ジェイムズの精緻を極める文体はこういうシンプルな設定の方が存分に活かされると思う。
複雑な事件を更に緻密な背景描写、人物描写に舞台設定、人間相関に筆を割くと、読み手の苦労もかなりの物になる(まあ、これでないとジェイムズを読んだ気にもならないのだが)。
しかしこのノンシリーズである本書はそのシンプルかつ解っている結末を迎えるまでに、主人公の女性と復讐を企む父親の心の移り変わりや再会までの過程が緻密であればあるほど、ドラマを掻き立て、登場人物らの心情が心に染入ってくる。
むしろ人を殺す理由というのは単純な物ではないという事が非常に説得力を持って書かれている。

またこういう作品を是非とも書いて欲しいのだが、御年80を超える今となってはもう無理かなぁ。

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