Tetchyさんの登録情報 | |
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平均点:6.73点 | 書評数:1631件 |
No.871 | 10点 | 夜明けの睡魔 評論・エッセイ |
(2010/10/16 23:46登録) これは史上稀に見る大傑作評論・エッセイである。全てのミステリ評論家は本書をバイブルとして座右に置く事を義務付けるべきだ。 入り込んでいきやすい文章と作品に対する着眼点の鋭さ。これは本書が13年前に書かれた事実を忘れさせてしまう。 特にロス・マクドナルドは本格ミステリ作家であるだなんて提言は、昨今正にそのような再評価が成されている状況を鑑みるとその先見性に驚嘆そして戦慄を覚えたし、『赤毛のレドメイン家』の分析も、正に眼からウロコ物であった。 享年51歳。改めて早過ぎる死だと痛感した。 |
No.870 | 5点 | ダブル・ダブル エラリイ・クイーン |
(2010/10/15 22:39登録) 実に摑みどころの無い事件である。殺人事件とも思えない連続的な事故に対し、エラリイは誰かの作為が介在して意図的に起こされた殺人なのだと固執して事件の関連性を調査するというのが、本作の主眼なのだが、なんとも地味な内容なのだ。そしてエラリイが周囲の反対を押し切って捜査を続ける理由が、“金持ち、貧乏人、乞食に泥棒・・・”と歌われる童謡どおりに事件が起きている事実、それのみ。 前作『九尾の猫』との奇妙な符号についても触れておきたい。 『九尾の猫』は無差別殺人と思われた連続殺人事件に、一貫したミッシングリンクを探し出し、犯人を炙り出そうという趣向の作品だった。翻って本作は一見偶発的に起きた事故としか思えない町の人たちの死亡事故が、童謡という符号(リンク)があるがために実は隠された意図で起きていたことを見出すのが趣向だ。どちらも複数の人の死を扱っていながら、テーマは表裏一体だ。しかし次々と人が殺されていく『九尾の猫』は物語としても実に派手であるが、本作は事故としか見えないものをエラリイが無理矢理事件にしようと苦心し、足掻いているだけに実に地味だ。『九尾の猫』が陽ならば本作『ダブル・ダブル』は陰の作品といえよう。 前作のエラリイの探偵廃業を決意するまでに絶望に落ち込んだ彼は一体何だったんだと叫びたいくらい、立ち直りが早い。まあ、これはよしとして次作がもっと面白いであろうことを期待しよう。 |
No.869 | 1点 | 創元推理19 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/10/11 21:06登録) もはや何を以って本書が届くのを愉しみにしたらよいのか判らなくなってしまった。どんどんマニアックになっていって、はっきり云ってついていけなくなった。 今回初めて評論を読み飛ばしてしまった。この行為がもうこの創元推理クラブとの訣別の象徴となってしまった感が胸に去来する。 私は確かにミステリが好きだ。だが本書に掲載されている内容は好きではない。ミステリに求める悦楽のヴェクトルが違うのだ。 過去に埋もれた、今では傑作とは呼べない代物を掘り起こして、さあ、読み賜えと振舞う所業に、私は何かしら戦慄を覚えてしまった。 さらば創元推理、これにて我、その下を去らん! |
No.868 | 1点 | 推理日記Ⅲ 評論・エッセイ |
(2010/10/09 22:24登録) 最も推理小説の謎、トリックといったものを含めたプロットにこだわり、しかも愛するこの作家が、このエッセイで他作家の作品の種をいとも簡単に暴露するなんて精神分裂症ではあるまいか?作品を生み出す労苦は己の身がよく知っているであろうに、何の断りも無く、あっさりとバラす。 エッセイを語る上でどうしても必要だからという理由は十分理解できるがその作品を未読の読者に対して一言事前に断りを入れておくのがマナーであり、エチケットであろう!それが無い本作は作者のエゴの塊にしか過ぎない。大変失望した!! |
No.867 | 7点 | 推理日記Ⅱ 評論・エッセイ |
(2010/10/08 22:51登録) 初めて『推理日記』シリーズに接したⅤの時よりも、読み手としての佐野洋に少々辟易したような感が残った。 それは都築との名探偵論争に顕著なように、あくまで自論を正当化させるためにありとあらゆる知識を総動員して論破しようとする点が今回特にくどく感じたからだ。時には偏屈爺の説教のようになり、食傷気味であった。 しかし、「同一トリックの再使用について」の見解は白眉である。平成の世に到来した新本格ムーヴメントを考えれば途轍もない先見の明である。 これだから『推理日記』は止められない。 |
No.866 | 7点 | 浪花少年探偵団2 東野圭吾 |
(2010/10/07 21:33登録) シリーズ1作目同様、肩の力を抜いて楽しく読めるキャラクター小説である。こちらの独断かもしれないが、物語の構成が手がかりを提示した本格ミステリの風合いから次々と事件が起きて読者を愉しませるストーリー重視の犯罪物に変わっているように思う。 しかしあとがきにも作者自身が作風の変化を自覚していることを述べているからこの推察は間違いないだろう。読者の推理の余地がないので、本格ミステリ度は薄いが、逆に東野のストーリーテリングの上手さと、関係のないと思われた事象がどのように繋がっていくのかを愉しんで読める作品になっている。 大阪弁を前面に出した軽妙なストーリー運びと下町の姉ちゃんと呼べる威勢のいい女教師のこのシリーズ、シリアスな作品が多い東野作品の中でも異色のシリーズだっただけにたった2冊でシリーズを終えるのは惜しいものだ。現在押しも押されぬ国民的人気作家となった東野圭吾がこのシリーズを再開するのは限りなく0%に近いだろうけど、執筆活動の気晴らしとしてまたぼつぼつと書いて欲しいものだ。 |
No.865 | 7点 | ミステリ・ベスト201 日本編 事典・ガイド |
(2010/10/06 21:48登録) 海外ミステリを広く扱ったガイドブックは多数あるのに対し、日本のミステリに焦点を当てたそれは全くといっていいほど、無かった。そんな現状を憂うミステリ・ファンの声に応えて編まれたのが本書。 前に読んだ『本格ミステリ・ベスト100』の時も感じたある種の物足りなさは今回もあった。しかしやはりこうしたガイドブックでは十全に満足することは無いのではないか、いや満足してはいけないのではないかと思うようになった。十全に満足するガイドブックとはその人にはもはや必要ないのだ。自分の興味の無い本も紹介されているからこそ読む意味があるのだろう。 |
No.864 | 5点 | ミステリ絶対名作201 事典・ガイド |
(2010/10/05 21:51登録) 前作のミステリ・ベスト201では1ページに1作紹介し、上下2段の文章にぎっしり情報がつめられていたが、本書ではジャンル別になされた座談会が掲載され、作品紹介は1ページに2つと情報量が半減。初めて読むシリーズがこれならばアリだが、1作めを読んだ後では、面白さ半減。 選出された作品も絶版が多いのが残念。古本屋巡りの際の発掘本参考書とするのがいいのかもしれない。 |
No.863 | 9点 | カリフォルニアの炎 ドン・ウィンズロウ |
(2010/10/04 21:26登録) 今回の主人公は火災査定人。なんでも作者ウィンズロウ自身が保険調査員だった時の経験を基に書いたのだそうだ。そして内容も経験した者でしか書けないディテールに満ちている。特にジャックが火災現場で火元を調査する詳細な件は実に精緻でリアルに満ちている。科学的根拠に基づいたその調査は素人の好奇心を掴んでやまないほど、面白い。 さらに保険に纏わる数々の信じられないようなエピソードが読書の興趣をそそる。 こんなに面白い作品なのに、表紙で大いに損をしている。この生っちょろいイラストではこれが不屈の男の生き様を描いた作品だということは想像つかないだろう。表紙に引かず、是非とも手にとって欲しい。保険業界の仕組みや裏側も判り、なによりもジャック・ウェイドという、この上ない魅力ある主人公に出逢えるのだから。 |
No.862 | 5点 | 余計者文学の系譜 評論・エッセイ |
(2010/10/03 18:37登録) 非常に評価の難しい本だ。 これは所謂“反則本”である。本書は、単に作者が各雑誌・文庫などに書き綴ってきた解説・評論を寄せ集めて1つにしただけなのだ。従って時折、内容の重複が見られ非常に見苦しい乱暴な作りになっている。 しかし、内容はやはり北上次郎、面白いし、その読書作法には感心させられる。その広域な、悪く云えば手当たり次第な読書は、好きな物(者)は好きという実直さが見受けられる。 それが故に勿体無いのだ。 |
No.861 | 6点 | 本格ミステリ・ベスト100 事典・ガイド |
(2010/10/02 17:17登録) 毎年刊行される『本格ミステリ・ベスト10』の根幹を成すガイドブックであり、東京創元社が刊行した事もあってか、100冊の選出には些か首肯できない部分もある。批評を捏ね繰り回してその作品が選出された妥当性を捻出しようとしているようにも感じた。他にも選ばれるべき作品はあるはずなのだが…。 とは云っても私個人としては自らの読書の幅を広げる手助けにはなった。特に連城の一連の作品にはかなり食指が動き、本棚のスペースとのジレンマで身悶えしたほどだ。 |
No.860 | 2点 | ミステリの原稿は夜中に徹夜で書こう 評論・エッセイ |
(2010/10/01 22:31登録) 本作が日本推理作家協会賞を受賞したのは、現在、雨後の筍のように乱立するミステリ評論家たちの、黎明を表す作品であるからだと解釈できる。つまり、片意地張らずにもっとざっくばらんに胸襟を開いてミステリを語ろうといった姿勢が当時最も斬新だったのだろう。 しかし、今読んでみれば単なる古本の収集狂の茶飲み噺である。 今であれば、北上次郎、池上冬樹などといったもっといい評論家はいる。確かにいまや伝説の如く語られている海外作品の多くは興味を惹かないでもないが。 |
No.859 | 7点 | 本格ミステリー宣言Ⅱ ハイブリッド・ヴィーナス論 評論・エッセイ |
(2010/09/29 22:00登録) 自らの考えを啓蒙する行為が如何に困難であるかをまざまざと見せつけられた感がある。言葉が魂を有するだけに各々の捉え方で誤解・曲解を生み、それに対する補足説明にも同様な効果が生まれ、さながらウロボロスの輪のようだ。 巨人は今、その只中で孤軍奮闘している。 しかし光は見えたように思う。山口雅也の、島田を指して「あなたはボブ・ディランなんだ」という一文。この一言で作者は大いに救われた。 |
No.858 | 9点 | 本格ミステリー宣言 評論・エッセイ |
(2010/09/27 23:37登録) 島田荘司ファンの私にとって、当時島田の本格に対する姿勢、各作品の創作裏話、そして島田推薦の新本格作家達へのエールが込められた、島田の本格ミステリ愛に満ちた1冊。 この時点ですでに新本格作家達と島田の本格に対する価値観の乖離が垣間見えるが、まだ蜜月の日々であったのは間違いなく、あの頃はよかったと回顧に浸れる1冊でもある。 この頃の島田の考えにはまだついていけたんだけどなぁ・・・。 |
No.857 | 5点 | 複雑系ミステリを読む 評論・エッセイ |
(2010/09/26 16:57登録) 今回の論説集は、当時巷間で話題に上った「複雑系」、特に図象学における「フラクタル」を素材にして古典的名作から昨今の京極夏彦、西澤保彦達の、所謂「ニューウェイヴ本格派」達のミステリの解体に勤しんでいる。 俎上に載せられた作品群が、前2作の論説集よりも肌に馴染んでいるせいもあり、またモチーフを「フラクタル」に絞っているため、理解はしやすかった。 だがやはり暴走しているという感は拭えなかった。極めの一歩手前の領域で衒学する事が、この作者に必要なのだ。 |
No.856 | 3点 | 翡翠の城 篠田真由美 |
(2010/09/25 22:33登録) なぜか毎回のめり込めない作品世界に加え、今回は非常に複雑な姻戚関係の一族の内紛が物語の中心であったため、いつもよりもさらに作品世界に入れなかった。登場人物の中には姻戚でありながら、冒頭に附せられた家系図に乗っていない人物もあり、途中で理解するのを投げ出してしまった。 ミステリとして読むべきなのか、キャラクター小説として読むべきなのか、非常に判断の困るシリーズである。どっちの方向にも中途半端な印象を受けるため、読む側も軸足をどちらに置くべきか非常に迷う。はっきり云ってミステリとしては凡作である。したがってコミケで桜井京介らの同人誌が一時期隆盛を誇ったという背景からやはりこのシリーズはキャラクター小説として読むべきなんだろう。好きな人は好きなんだろうな、この少女マンガ的探偵譚が。 |
No.855 | 2点 | 創元推理18 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 |
(2010/09/24 22:08登録) とうとう平凡な同人誌のような内容になってしまった。 目次を見ても食指を動かされるようなコラムはもはや無い。東京創元社で囲われた単行本一冊を物にしていない名も知らぬ新人どもの寄せ集めに何処の物好きが¥1,600も出すんだろうか? また評論はますますマニアックになり、いわば「創元語」とも云うべき暗号の羅列に成り下がり、ますます排他性が強くなった。次に何を期待すればよいのだろう。 |
No.854 | 7点 | 深夜の散歩 評論・エッセイ |
(2010/09/23 16:41登録) ミステリマガジン誌上で連載されていた『深夜の散歩』、『バックシート』、『マイ・スィン』を収録。 もし『深夜の散歩』が最後に来ていたら、断然10点をつけたであろう。そう、何よりも『深夜の散歩』が素晴らしかった、いや素晴らし過ぎた。特に第一回目は歴史に残る名コラムと云っていい。 それに比べると『バックシート』は文学論に走りがちだし、『マイ・スィン』は個性が強過ぎる。 さて、僕も深夜の散歩に出掛けるとするか…。 |
No.853 | 1点 | 世紀末ミステリ完全攻略 事典・ガイド |
(2010/09/22 22:04登録) 独り善がりが過ぎるぞ! 酔っ払いが書いたような解説が続き、何ら共感する部分が無かった。人に読ませる、自分の考えを啓蒙するのではなく、単に自己満足を、大いなるエクスタシーを得ようとマスターベーションを繰り返しているのだ!正にドラッグガイドブックだ! ミステリ・ジャンキーにはお誂え向きなのかもしれないが生憎とこちらはそれほど病んでない。 こんな本で儲けようとする根性が気に食わないし、買った俺にも腹が立つ! |
No.852 | 9点 | 推理日記Ⅴ 評論・エッセイ |
(2010/09/21 21:22登録) 「小説を読む」もしくは「小説を書く」ということが如何に困難であるかを思い知らされた。 しかし、佐野洋はここまで深く考えながら小説を読むのか…。ひたすら脱帽である。 特に視点の問題。これに関しては非常に参考になった。が同時に自分も以前のようには己の湧き出る文章に委ねて文章を書けなくもなった。 ここであえて10点とせず、9点にしたのは、そのくどいまでの追求性にある。「何もそこまで…」と感じる部分が随所に見られたからだ。 だが、このシリーズ、全て通読はしてみたい。 |