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ミステリの祭典

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しゃんてんさんの登録情報
平均点:6.55点 書評数:33件

プロフィール| 書評

No.33 8点 陽気なギャングが地球を回す
伊坂幸太郎
(2004/01/13 09:20登録)
伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』
 銀行強盗4人組が主人公。サスペンスらしいが、いわゆる『火曜サスペンス劇場』のサスペンスとは違う。
 主人公達のうち男3人は、皆どこか飄々とした浮世離れしているように感じた。
 どんでん返しの連続の展開と、その展開に対する主人公達の行動が面白い。。事態はどう展開するのか、主人公はどう行動するのか、そして、行動の結果はどうなるのか? そうした様々のことが気になって、最後まで一気に読んだ。
 最後まで驚きっぱなし。ある意味で本格ミステリに期待する驚きを感じさせてくれた。


No.32 7点 アヒルと鴨のコインロッカー
伊坂幸太郎
(2004/01/13 09:16登録)
大学生である「僕」が語る現在、ペットショップの店員である「私」が語る2年前のパートが交互に繰り返される。
 文章がおしゃれで読みやすい。
 二つのパートが微妙にリンクしていて、興味をひかれる。
 読むことが愉しい。ページを捲ることが愉しい。先を読める喜び。
 「重力ピエロ」のように大きな感動は無かった。ミステリ的な驚きを狙った部分でもそれほど驚きはしなかった。
 けれど、後味は悪くない。
 読み終えたあとも、語られたこと、語られなかったこと…それらが頭の中でこだまする。

 読んでいる間、愉しかった。この愉しみは何物にも変えがたい。

 ただ…欲を言えば、もう少し驚かせてほしかった。という気がしないでもないが…これはこれで、素晴らしい。


No.31 10点 重力ピエロ
伊坂幸太郎
(2004/01/13 09:06登録)
 ファンタジックなミステリー。主人公はサラリーマン。母がレイプされた結果生まれた弟と、癌の父親を持っている。途中途中に、主人公の過去の思い出話が語られる。
 語り口調は、とぼけているような、ふざけているような。ユーモアらしきものが混じる。登場人物は奇妙で、本当だったら醜悪で嫌らしい部分を書いているのに、主人公の語り口調のせいか、醜悪な感じがしない。読み進めていくうちに、どこが奇妙かはうまく説明できないけど奇妙な、しかし、妙に現実味を帯びた、でもやっぱりどこか浮世離れした世界に引き込まれる。(いったい私は何を書いているのだろう?)
 ラストには、思わず涙を流した。感動してしまった。とにかく素敵だ。主人公とその弟の出した結論には、個人的には賛成しかねる。だが、にもかかわらず感動してしまう。
 この小説はすごい! 伊坂幸太郎氏にはこれからも注目していきたい。今後、京極夏彦や東野圭吾氏以上の大物になってほしい。


No.30 7点 占星術殺人事件
島田荘司
(2003/11/26 07:47登録)
オーソドックスな推理小説に、かなりするどめの物理トリック一つ。単純かもしれないが、シンプルであるが故に破壊力を持っているように思う。
雰囲気の出し方も上手いと思う。

ただ、トリックが解けていこうは…あまりおもしろくなったかな。


No.29 5点 死体を買う男
歌野晶午
(2003/09/25 20:34登録)
江戸川乱歩の文章をまねたらしい作中作。けれど、私には余り愉しく読むことができなかった。文章が非常に読みづらい。何故、こんな作品に作中の人物が皆、夢中になるのか、私には今ひとつつかめなかった。
 ラストで明かされる事実、どうしてだか、ここでも私には驚くことが出来なかった。
 登場人物が驚くのは分かる。でも、読者である私にとってはそんなことどうでもイイコトにしか思えなかった。登場人物に魅力を感じなかったからかもしれない。
 歌野さんの小説は、無理に人間を書かない本格推理よりも、人間を書くことに重点を置いたものの方が面白いように私には思えた。


No.28 6点 神のロジック 人間のマジック
西澤保彦
(2003/08/17 20:22登録)
 伏線を使った論理的な解答で人を驚かせる、本格ミステリらしい本格ミステリ。
 前半は生ぬるい感じを受けた。子供たちの社会、謎な学校のあり方、大人びた主人公の個性、それらになかなか興味をもてなかった。
 後半の展開には衝撃を受けた。予想もしない展開。そして解答、確かに驚いたのだが。
このトリックは、ある作品と良く似ている…。あっちは“読者の思い込んでいるだけ”、こっちは“登場人物もそう。 その部分こそが主人公、読者共通の謎の答え”という違いはあるのだが。 しかし、その部分が似ているために驚きが半減してしまった。
 しかし、こちらの作品の答えは、本当にそういうことが可能なのかどうか? 私にはよく分からないが…素直に出された結論を受けることはできない…。
 ラストはかなり辛い。辛いが私の好み。


No.27 6点 ブルータスの心臓−完全犯罪殺人リレー
東野圭吾
(2003/08/17 20:21登録)
 サスペンス色の強い推理小説
 前半が冷たく無機質な感じがしてなかなか入り込めないが、後半になると引き込まれる。これは他の作品とも同じ。
 悪意とエゴ、弱さと強さが上手く描かれているように思う。最後2ページは、かなり、ずきりと胸にこたえるものがあった。


No.26 6点 陰摩羅鬼の瑕
京極夏彦
(2003/08/17 20:19登録)
 5年前から出版の予定だけは聞いていた作品。
 整然とした文章ながらもどろどろしているのは、他の作品と同じように思う。
 ところで、この小説の鍵となる部分。ラストで明かされる部分があるのだが、その部分については、大体予想がついていた。おそらく予想がつくような書き方をしているのではないか。なので、ラストでは、それほど驚かなかったのだが…パラダイム変化を余儀なくされたある登場人物の想い、それはどのようだったんだろうと考えさせられた。信じていた常識を根底から覆された人間。彼は果たして、どのように今後の人生を歩むのだろうか?

 ただ、面白くはあったのだが、私は京極堂シリーズの前作までや、『覘き小平次』の方が好きだ。それらに比べると、本作は衝撃が少ない。


No.25 7点 緋友禅
北森鴻
(2003/07/12 17:01登録)
 台詞にわざとかぎカッコを使っていない部分が多かったが、それが独特の味を出しているように思う。また、描写も上手く感じられ、骨董や芸術の世界に生きる面々の、どこか化け物じみた表情が思い浮かんでくるような気さえした。職人が創作への意志、そういったものが、門外漢の私にも伝わってくるような気がする。
 物語としても非常に面白い。『奇縁円空』のラストの一言が私は好き。ぞくりとさせられた。


No.24 8点 桜宵
北森鴻
(2003/07/12 17:01登録)
 ます、食べ物がものすごくおいしそう。読んでいるだけでお腹がすく。それほど、詳しく書いているわけでもないのだが、すごく食べたいという気持ちにさせられた。
 工藤の推理は必ずしも論理的ではないし、事実と照らし合わせることでしか証明が不可能である。短編によっては事実によってすら確かめられないものもある。しかし、それでも、彼の推理が導き出した結論が真実味を帯びているように思える。それは、彼の推理の中に、人間の心理が上手く描かれているからではないだろうか、そんな風に思った。

 最近の本格ミステリでは「動機から犯人を割り出すのはださい,動機を追及できやしない」そんな、傾向があるように思う。この作品は、そんな傾向に真っ向からぶつかっていて面白い。淡くて切なくて悲しくて、がちがちの本格ミステリには無いものを持っているだろう。


No.23 6点 さみしさの周波数
乙一
(2003/07/12 16:58登録)
 最初の3つの短編にも共通するのは、今までの乙一氏の作品と同じく主人公達が孤独で世間とのずれを感じている点だろう。
 『君にしか聞こえない』とは違い、ものすごく特異な出来事が起こるわけではない。「フィルムの中の少女」では怪異現象が起こるが、『君にしか聞こえない』の各短編と比べたら、特殊さはさほど無い。話のモチーフ自体は良くあるものである。それぞれの短編のラストに至るまでものすごく驚くような出来事が起こるわけではない。にもかかわらず、読み終えると救われた気分になれた。人間の暖かさを各短編で上手く表現しているためだと思う。
 最後の短編『失われた物語』では、主人公は救われない。むしろより悲惨な方向に突き進んでいっている。しかし、残酷なラストにもかかわらず、人間の暖かさを感じた。
 優しさと暖かさで包まれた作品集のように思う


No.22 6点 密閉教室
法月綸太郎
(2003/07/12 16:57登録)
 みな高校生らしいひねくれ方、屈折の仕方をしている。その点が、私にはすごく好ましく思えた。独特の比喩表現、言葉遣いにセンスを感じる。気取りすぎ、そんな印象も受けるが、その気取り具合もまた主人公の性格を現しているような機がして面白い。
 推理のほうは、何故机を移動させたかの真相が面白かった。また、インタルードはかなりびっくりした。
 結構楽しめたように思う


No.21 7点 亡国のイージス
福井晴敏
(2003/07/12 16:56登録)
 感じたのは、作品の最初から最後まで、同じ世界観が漂っていること。その世界観を構成しているのは、上手くかけないが弱肉強食と勧善懲悪、浪花節、男のロマン、そういったものをごちゃ混ぜにしたようなものだと思う。どの登場人物もその世界観に基づいて行動しているような気がする。登場人物は背景が違い、思想も考え方も違うのだが、いずれもなんと言うか、男のロマンめいたものには敏感に反応する。兵士達は己の艦を救うために戦い、その姿を見て政治家達もあっさりと改心するといった具合に。
 この作品全体、登場人物全員に漂う世界観に虚構くささを感じたが、同時に面白さも感じた。とにかくエネルギッシュでひきつけられるのだ。
 そして、先がどうなるか分からない緊迫感も持ち合わせている。時折、ミステリ的なトリックが仕掛けられているがそれもこの小説の緊迫感を高めている様に思った。


No.20 7点 タイトルマッチ
岡嶋二人
(2003/07/11 11:11登録)
 最後まで一気に読まされた。エンタテイメントという印象を受ける。
 ラスト近くでいよいよボクシング本線のところなど迫力があって面白い。
 欲を言えば、最後、犯人が誰かの点でもう少し驚きたかった、そんな感じがした。
岡嶋二人氏の作品ははじめて読んだが、もっと本格っぽいのを書くと思っていたので少しだけ意外だった。


No.19 8点 覘き小平次
京極夏彦
(2003/07/11 11:10登録)
 各章ごとに視点が変わる。面白い。実に面白い。生きているようなしんでいるような男、小平次、彼がどう生きるのか、最後までひきつけられた。小平次以外の登場人物たちもよく描かれている。そして、彼らの視点によって、見えてくる小平次の独特さが良い。
 また、文章は私には非常に読みやすくすらすらと読めた。
 ラストに、小平次とその女房のお塚が最後に到達したもの、それは何だったのだろうかと、ずっと考えている。理解はできない。できないが。


No.18 8点 ZOO
乙一
(2003/07/11 11:08登録)
 短編集。それぞれの短編に共通しているのは死を扱っていることだろうか。
 異形といった印象を受けた。何なんだこれは?
 時に可笑しく、馬鹿馬鹿しく、暖かく、恐ろしく…それから痛い、物凄く。
 特に「カザリとヨーコ」や「冷たい森の白い家」や「SEVERN'S ROOM」の後味の悪さ。「カザリとヨーコ」はそれでも、確かに救いはあるのだが、しかし、大きなものを捨てなくてはならなかった主人公、その姿はこっけいに描かれているように思えるが辛すぎる。
こっけいに描かれているのに、痛く思えるのは表題作「ZOO」も同じ。こちらは読み終わった後ではなくて、読んでいる間中痛さを感じて仕様が無かった。


No.17 8点 ゲームの名は誘拐
東野圭吾
(2003/07/03 13:07登録)
 誘拐計画が進行していく様子は、どこか氷川氏の推理を読んでいるときのように美しさが感じられ、読み応えがあった。
 しかし、私が本当に面白いと思ったのはラスト
後半、まさかこんな展開になるとは思っていなかった。其れまで、身代金の受け渡しは成功するのか、男は警察に捕まりはしないか、そんなことばっかり気になっていたので、もう、まさかこう来られるとは! 世界が上手くひっくり返った。 まさか、まさか…。伏線ははりめぐらされていたんだなぁ、と読み返して納得。最後の一行も結構好き。


No.16 3点 増加博士と目減卿
二階堂黎人
(2003/06/24 18:23登録)
『増加博士と目減卿』(原書房)
 二階堂氏言うところのメタミステリーらしい。連作短編集。『奇跡島の不思議』で出てきた登場人物に加え、フェル博士のパロディ・増加博士とメルヴェール卿のパロディ・目減卿が登場する。彼らは自分が作品の登場人物であることを承知している。
 なんだか、謎々を読まされたような気分。真相は馬鹿らしく、それなりに笑えて楽しいのだが。しかし、問題提起の部分が私には非常に退屈に思えた。フェル博士など、私は知らないので、イメージがわかない。本格ミステリをよく知っている人には楽しめるのだろうが、私にはそれほど楽しめなかった。
 本格ミステリというと、一言であっと驚かせてもらえることを私は期待している。なので、ラストのラストまでそのあっと言う驚きを期待していたのだが、期待はずれ。道化芝居と題された章はどれも作者の言い訳にしか過ぎなかった、そんな印象を受けた。


No.15 8点 悪意
東野圭吾
(2003/06/24 18:22登録)
 本格ミステリ。加賀刑事が探偵役として登場する。
 文章が上手く、すらすらと読ませる。真相が徐々に明らかになっていく過程は結構はらはらさせられるし、(反転)明らかになった真相がミスディレクションだったと知らされたときは、むちゃくちゃ驚いたわけではないが、どきりとさせられた。(ここまで)
 ラスト、数ページから、どろどろ感が漂ってくるきがしてのも私好み。でも、『白夜行』や『嘘をもうひとつだけ』や『レイクサイド』ほどにはぞっとさせられないのだが。物足りない気もするが、しかし、やはり面白く読めた。(ねたばれ)結局悪意の根源ははっきりとはわからない、というところに薄ら寒いものを感じる。
 個性の無い探偵役。加賀さんだが、『嘘をもうひとつだけ』でもそうだけど、個性が描かれてないけどもなぜか個性が垣間見えるような気がして面白い。

 ホワイダニットというのは、京極や森氏、黒田氏、氷川氏等、最近の本格作家から無視されている傾向にあるきがする。本格ミステリはホワイダニットとは相性が悪いわけではないとおもうのだが。本格ミステリの論理はロジックではなくレトリックだし、レトリックによって人間の心理を描けることもかのうだと思うのだが。


No.14 7点 失踪HOLIDAY
乙一
(2003/05/07 01:38登録)
両方の短編とも、いつもの乙一さんのあとがきのような微妙なユーモアが盛り込まれていて楽しかったです。楽しんで読んでいると、最後にほろりと悲しい気分になりました。乙一流「おもろうてやがて悲しき」。ただし、謎解きの部分では、驚きはあまり感じられなかったかも。
 孤独な人間が自分なりの幸せを見つけ出すのを書くのがうまいな、そんな風に感じました。

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