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ミステリの祭典

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ʖˋ ၊၂ ਡさんの登録情報
平均点:5.92点 書評数:102件

プロフィール| 書評

No.62 4点 木曜クラブの秘密
ヴィンセント・ムラーノ&リチャード・ハマー
(2023/01/19 15:51登録)
埋め立て地にある巨大なゴミ捨て場から一つの身元不明の腐乱死体が発見される。二十歳前後の黒人女性で、死後二十年以上経過していたが、死体には奇妙な点があった。死因となったのは一つの銃弾であるが、その他にも複数の刺し傷があったのだ。
読者をはぐらかすことに、作者がどこまで自覚的であるのかはわからない。ご都合主義ともとれる偶然がやたら出てくるし、失敗作のように思えるのだが、その外し方と型通りとも思える主人公が、次第に追い詰められていく様はメタ・ミステリでも読んでいるような不思議な気分にさせてくれる。


No.61 6点 極秘制裁
ブライアン・ヘイグ
(2023/01/19 15:43登録)
ユーゴスラヴィアノコソヴォ自治州で、自衛以外の戦闘を禁じられていたはずの合衆国陸軍グリーンベレーの小隊がセルビア人を集団で殺害したのではないか、という疑惑が持ち上がり、軍法務官のドラモンで少佐が調査のために現地へ派遣されることになった。
軍人あがりとは思えない饒舌と、仕掛けの上手さは感動もの。混沌とした状況から、紆余曲折を経て真実が浮かび上がってくる展開は、リーガル・サスペンスの王道を往くものといっていいだろう。


No.60 5点 サンドラの場合
バーバラ・ダマート
(2023/01/19 15:37登録)
フリーランスのTVレポーターのキャサリン・マーサラは、売春婦の生活を描くドキュメンタリーをつくりたいと考え、彼女たちにインタビューを試みることにしたが、たいていは冷たく断られるばかりだった。この物語の主人公ともいうべき少女サンドラ・ルピカと出会ったのは、そんな矢先のことだった。
探偵役がTVリポーターということもあり、作品は全編にわたって社会派的な色彩を帯びているが、決して社会問題を表面的に並べてみせただけの偽善的な物語ではない。活動的な女性探偵の行動、あるいは心境の変化を通じて問題の本質を浮き彫りにするのが作者の狙いだとすれば、その試みは見事に成功しているといえるだろう。


No.59 4点 我らが影の声
ジョナサン・キャロル
(2023/01/19 15:30登録)
ウィーンで暮らす米国人青年と年長の夫婦の間に結ばれた親愛の情が、やがて三角関係に発展し、恐るべき破局を迎える物語。
甘美なロマンスがドロドロの愛憎劇に変わってゆくあたりの描きぶりは達者なもので、さながら西欧版「四谷怪談」といった趣なのだが、結末部分に問題がある。
意表を突くのは望むところだが、しかるべき手順も踏まずに、いきなり作品世界をひっくり返されても、しらけるばかりである。


No.58 6点 さよならは言わないで
ロバート・ゴダード
(2023/01/19 15:26登録)
建築家ジェフリー・スタッドンはある朝、妻のアンジェラから大きく報道された新聞記事を見せられた。実業家ヴィクター・キャスウェル氏の姪、ローズマリー・キャスウェルが毒殺され、ヴィクターの妻コンスエラが逮捕されたというものだった。
本書は第一次大戦直後のイギリスを舞台にした作品で、時代を感じさせる雰囲気が鮮やかに活写されている。愛を裏切った過去の傷跡に、殺人という生々しい事件で触れられら主人公の痛みを切々と描きながら、謎解き犯人捜しへの興味を十分満たすバランスのとれたテクニックは巧みだ。


No.57 6点 影の十二使徒
ジョーゼフ・J・アンドリュー
(2023/01/19 15:20登録)
NSA情報分析家T・C・スティールは、機密情報を妻に漏らした疑いで解雇されていたが、ある出来事をきっかけに呼び戻されることになった。
語り手が情報収集のプロという設定を活かし、盗聴などを利用して一人称の回顧調を最大限に活用しているのもうまい。また巧みな語り口に加えて、引用される「仮説」の数々が興味深く、作品に深みを増しているように思われる。


No.56 4点 クリーチャー
ジョン・ソール
(2022/10/19 16:37登録)
舞台は、コロラドの高原地帯にあるハイテク産業の企業城下町。フットボールの花形選手が、突如凶暴化するという事件をきっかけに、ぐるりと反転して非人間的な素顔をあらわにする。
当時のスポーツ・ブームや健康食品志向に対する風刺という点では面白く読める。しかしながら、ハイテク科学の誤用が生んだ現代版「ジキルとハイド」物語というテーマとその展開は、やや平板でよく似た趣向のクーンツ「ミッドナイト」に比べると迫力不足の感は否めない。


No.55 6点 キャンティとコカコーラ
シャルル・エクスブライヤ
(2022/10/19 16:25登録)
大袈裟で陽気な小男のイタリア人が、愛の素晴らしさを信じて、ボストンの名家の人間たちの心を解きほぐしていく、ロメオの巻き起こす大騒動には一読の価値がある。
作品中で起こる殺人事件の謎が解明される部分は安直だが、その部分までもが作者の魅力になり得るから不思議である。


No.54 7点 ランドルフ・メイスンと7つの罪
M・D・ポースト
(2022/10/19 16:17登録)
十九世紀のアメリカを舞台に、機知あふれた文体で、法律の間隙を突いた大胆な悪事が描かれる悪徳弁護士メイスンの物語。
メイスンの勝利は、完膚なきまでのものではあるものの、一抹の後ろめたさが混じり、矛盾を内包した当時の社会状況を映し出すようで味わい深い。


No.53 4点 ラスト・スパイ
ボブ・ライス
(2022/10/19 16:11登録)
ソ連崩壊を背景としたスパイ小説。鍵となるのは、主人公たちの育った特殊な環境で、この特殊性こそが主人公に孤独をもたらし、彼を追い詰めていくことになる。
全編が上質な感傷性に満ちていて悪くはないが、それに流されてしまっているためか、いくら読み進めても、主人公の顔が見えてこないのが残念。


No.52 7点 タクラマカン
ブルース・スターリング
(2022/10/19 16:05登録)
未来を描くSFの現在進行形。後半のチャタヌーガ三部作が特に圧巻で、物語性を無視して徹底的に細部に淫する「ディープ・エディ」の過激さはスターリングの面目躍如。
著者初のヒューゴー賞受賞作「自転車修理人」はニール・スティーヴンス張りのキャラクター小説で、母親との会話は爆笑。作家的成熟を感じさせる余裕たっぷりのユーモアが絶妙だ。


No.51 5点 リサイクルされた市民
シャーロット・マクラウド
(2022/10/19 15:55登録)
おしどり夫婦セーラ・ケリングとマックス・ビターソンを探偵役に仕立てたシリーズ中の一編。
ケリング一族たち、セーラを中心とした親族が一堂に会し、パートナーのマックス・ビターソンを加えて、降りかかった難事件に挑むというストーリーは、研ぎ澄まされた緊張感や、パワフルなスリルという要素は乏しいが、ほのぼのとした人間味が伝わってくる。含蓄に富んだ丁寧な指摘も多い。


No.50 6点 善意の殺人
リチャード・ハル
(2022/10/19 15:47登録)
犯人が逮捕された後の法的場面から始まるが、犯人の名が伏せられ、謎解きの興味を失わせないばかりか、法廷ミステリ、フーダニット、ブラック・ユーモアという風にスタイルを二転三転していく。
ジャンルの枠内には収まろうとしないところに、本格の未来を垣間見させてくれる。


No.49 6点 裁きの日
スージー・ウェットローファー
(2022/10/19 15:40登録)
犯罪都市マイアミを舞台に、現代アメリカの抱えた問題を鮮やかに切り取って見せる物語である。しかし低下したモラルを表層的に嘆いているだけではなく、作品内の人間たちが実によく書き込まれており、人間ドラマとしてもよくできている。
確かに物語の展開は単純なのかもしれないが、作者の登場人物に対する愛情がすべてのページから滲み出ており、この姿勢には好感が持てる。


No.48 4点 崖の家
トム・サヴェージ
(2022/09/06 16:18登録)
物語は、ニューヨーク州ロングアイランドで、郵便配達夫が主婦の惨殺死体と血に染まったナイフを握りしめた少女を発見するところから始まる。
出だしは悪くない。ダイアナとアダムの謎めいた行動も、ヒッチコックのサスペンス映画のようで、胸を高鳴らせてくれる。だがそれも初めのうちだけで、話が盛り上がるべきはずの中盤あたりからは、どうにも退屈を禁じ得なくなってしまう。
ダイアナとアダムの描き方はいかにも類型的だし、ケイトはあまりにも脳天気のため、いつまでたってもサスペンスが盛り上がってこない。期待されたラストにしても、驚愕の真相というにはほど遠く、たいていの読者は途中で予測がついてしまうだろう。


No.47 5点 炎の翼
チャールズ・トッド
(2022/09/06 16:07登録)
ラトリッジ警部シリーズ第二作。幻想的な伝説が伝わる地を舞台に選び、関係者が霊の気配を感じたり、霊能者を名乗る老婆が登場する。
一族の歴史を調べていくうちに、過去に多くの人間が謎めいた最期を遂げていることが判明し、長い年月をかけた一族皆殺し計画ではないかという疑惑が湧き上がってくるくだりのデモーニッシュな感触には背筋が凍る。当事者の大部分がすでに死んでいるという難事件に主人公を挑ませたあたりにも、作者の野心と才気が感じられる。


No.46 5点 十三人目の審判
ジョン・T・レスクワ
(2022/09/06 15:56登録)
ディズマス・ハーディを主人公にした第三作「物的証拠」の続編。前作後半で地方検事補から弁護士に転じたハーディが虐待問題に挑む。
意表を突くストーリーの展開と法廷場面の面白さ、さらに犯人捜し的興味も加わって最後まで飽きさせない。
ただ登場人物のディテールにこだわりすぎて、サスペンスを削ぐ結果にもなっている。枝葉を刈り取ってストレートなストーリーにしたら、もっと迫力ある裁判小説になったのではないだろうか。


No.45 5点 死人街道
ジョー・R・ランズデール
(2022/09/06 15:46登録)
迫りくるゾンビとの戦いがラストで派手に繰り広げられる中編「死屍の町」をはじめ、ウェスタンとSF怪奇ファンタジーが融合した五つの物語が収録されている。
もっとも「死屍の町」は、ジェビダイアが訪れた町で福音を伝える集会を開こうとするなど、静かなトーンで始まっていく。南北戦争の記憶、射撃の教えを乞う少年、教会の部屋に積みあがった銃器と弾薬の箱の山など、西部劇らしい舞台やエピソードが並ぶ一方、聖書の黙示録、生ける屍、インディアンの呪いといった要素が加わり、じわじわと盛り上がる。
ただホラーとウェスタンを合体させ、B旧活劇に仕立てただけでなく、随所にスパイスを効かせ、素材そのものの良さを引き出し、旨味たっぷりの物語をこしらえている。


No.44 4点 喪失
ジョディ・マーサー
(2022/09/06 15:35登録)
目が覚めたら記憶を喪失していた、自分が誰だかわからない、そばには血の付いた衣服、事件の匂いが濃厚だ、こういった設定のミステリはよくある。
本書は、ヒロインがあれやこれや試行錯誤を重ね、一歩一歩もどかしく、じりじりしながら自分を探していく。そのプロセスの細やかな描写は、説得力があり魅力的。惜しむらくは、後半部分のタッチが荒くなり、結末を急ぎすぎたことにより説明不足で釈然としないところか。


No.43 6点 密告
真保裕一
(2022/08/09 16:18登録)
かつて射撃競技のオリンピック候補だった警察官の萱野。彼には、同じく有力候補だった同僚の矢木沢の不祥事をリークした過去があり、しかも矢木沢の妻を結婚前から慕っていて、いまだ結婚したいという願望を捨てきれない。そんな萱野が皮肉なことに、上司の矢木沢と地元業者の癒着をマスコミに密告したという噂を流されて調査を進めていくと、予想外な真相が見えてくる。
一人の男が捜査中に抱く、罪の償いと過去の清算と愛の獲得という願い。組織対人間の暗部に目を据えて、男のはかない夢を情感豊かに謳いあげている。まことに渋い緊密度高い人間ドラマであり、ラストシーンの哀切さは、いつまでも心に残る。

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