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ミステリの祭典

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ROM大臣さんの登録情報
平均点:6.05点 書評数:165件

プロフィール| 書評

No.105 6点 脅迫、空港閉鎖!
ジャック・トロリー
(2023/05/18 12:35登録)
リンドバーグ空港は、住宅をかすめて飛ぶ飛行機の引き起こす騒音が公害化し、市全体が停滞した状態に陥っていた。そのサンディエゴ市内で連続殺人が起こった。
犯人の動機が多かれ少なかれ、住人が持つ飛行場への不満の鬱積である点が目新しい。犯人の動機が、最初のうちは荒唐無稽のように思えるのだが、逆に現実離れした犯人の行動の異常性を身近に感じさせる効果を上げている。
飛行機の騒音という解決されない重苦しいテーマを掲げながらも、独特の軽みを帯びたタッチで作品の雰囲気が暗くなるのを防ぐ作者の手腕は評価されてもいい。


No.104 4点 冬のさなかに ホームズ2世最初の事件
アビイ・ペン・ベイカー
(2023/03/09 13:50登録)
シャーロック・ホームズと「ボヘミアの醜聞」に登場するアイリーネ・アドラーとの間に生まれた娘、論理学者のマール・アドラー・ノートンの活躍するシリーズ第一作。本編では、シリーズの語り手兼ワトスン役を務めることになる、フェイ・タリスとマールとの出会い、二人を巻き込んだ最初の事件の顛末が語られる。
本書がホームズのパスティーシュであることは、作者の前書きで明かされるが、それがなければ、ごくありきたりの現代米国ミステリに見えてしまったかもしれない。というのも、舞台が米国というのがピンとこないし、時代色もうまく出ていない。また、当時の婦人解放運動に作者の主張を反映させているところが、いかにも現代の米女流作家らしいが、それがどうにもホームズの世界と結びつかない。
作者の意欲は認めるが、いろいろ詰め込みすぎた結果、全体としてかえってまとまりを欠いてしまった。


No.103 5点 魔女の鉄槌
ジェーン・スタントン・ヒッチコック
(2023/03/09 13:41登録)
魔女狩り、猥書と魔術書が充満するヴァチカンの秘密図書館、ナチとヴァチカンの裏取引など、世界史の陰惨なエピソードが積み重なった果てに炙り出されるのは、キリスト教の反動性と男尊女卑思想の恐るべき共犯の構図。
おぞましい真実を知るにつれて、最初は印象が薄かったビアトリスが行動的に変貌してゆく様は見もので、後半での思い切った振る舞いには驚かされる。
だが、本書の最も恐ろしいところは、作中に登場する「マレウス・マレフィカールム」なる書物が実在し、十五世紀に刊行されて以降、数世紀にわたって実際に魔女狩りの手引書として用いられてきたという点にある。一般に考えられている以上に米国という国には宗教的色彩が濃厚なだけに、荒唐無稽な絵空事と一笑にふせない、リアルな恐ろしさ感じる。


No.102 6点 見知らぬ人
エリー・グリフィス
(2023/03/09 13:32登録)
クレアは、イギリスの中等学校タルガース校で英語教師を務めながら、ヴィクトリア朝時代の作家、R・M・ホランドの伝記を執筆している。実はこの学校の旧館は、怪奇短編「見知らぬ人」で知られるホランドの邸宅だったのだ。ある日、クレアと親しい同僚のエラが自宅で何者かに刺殺される。遺体の傍らには、「地獄はからだ」のメモ書きが。それは「見知らぬ人」に繰り返して出てくるフレーズだった。そしてクレアの日記にも「ハロー、クレア。あなたはわたしを知らない」という謎の書き込みが。
クレア、事件を担当する部長刑事ハービンダー、クレアの娘ジョージアの三人の視点と作中作「見知らぬ人」を駆使して語られ、やがて連続殺人事件へと発展していく本作における一番の読みどころは、フーダニットミステリとしての完成度の高さ。裏をかいて見せる手際には脱帽。さらに最後に用意されたある趣向にもご注目。


No.101 6点 七人の愛国者
スティーヴ・ソーマ
(2023/03/09 13:21登録)
一九九一年、アメリカ大統領は冷戦の終結に伴って、米軍をヨーロッパから引き上げるという軍縮政策を宣言した。だがそれと同時に、軍内部の愛国者たちが不穏な動きを取り始める。
ホワイトハウスの爆破、地球規模に及ぶ戦略警戒態勢、ワシントンの厳戒令、と緊迫の度を増していく。本書に描かれているのは、わずか十三時間の出来事だが、衝撃的かつ不可解な事件が立て続けに起こり、圧倒されるばかり。
構成的には、複数の人物と並行して描くグランドホテル形式をとっているが、探偵役ともいうべきクリスティのパートは謎解きミステリの要素が強く、叙述トリックまで用意されている。軍事ものを敬遠しがちな本格ファンにもおすすめできる。


No.100 5点 彼女は僕の「顔」を知らない
古宮九時
(2023/03/09 13:12登録)
十年前に起きた放火事件を生き延びた少年と少女の物語。ミステリの枠組みを利用した青春小説で、謎解き自体の味付けは薄い。
他人の負の感情に過度に同期して、憂鬱になったり胃を痛めてしまう体質の良。同じ高校に転校してきた静葉は、良と同じく十年前のキャンプ場火災の生存者だった。だが、彼女は相貌失認(人の顔を識別できない病)だった。静葉の願いで十年前の真実を探ることに。
ミステリとしては薄めとはいえ、物語と仕掛けが響きあう構造は魅力に富んでいる。人間関係の中に埋められた秘密が明かされる展開は、謎の解明による快楽を満喫できる。秘密の解明が、主人公たちの関係を変えてしまう。その苦さと甘さが心に焼き付く。


No.99 6点 フィアー
L・ロン・ハバード
(2023/03/09 13:04登録)
人類学者のローリーは、悪魔や悪霊を否定した論文がもとで学長の不興を買い、解雇を通告される。失意のまま友人宅を訪れた彼は、その後四時間の記憶と愛用の帽子を失い、呆然自失して愛妻の待つ我が家へ戻る。帽子を探しに再度、家を出たとたん彼は異様な世界へと落下し、異界の住人達から、帽子を見つければ命がなくなると警告される。
サイコ・ホラーの先駆ともいえる物語だが、失われた時間を求めて彷徨する主人公を取り巻く世界が、次第に現実と妄想ともつかぬものへと変容してゆく過程のリアルな描写は圧巻である。
現実を侵犯するフォークロア風異世界という趣向など、ジョナサン・キャロル流のダーク・ファンタジーをはるかに先取りしているともいえる。モダンホラーの知られざる原点として再評価に値する作品といえるだろう。


No.98 4点 捜査官ケイト 
ローリー・キング
(2023/01/26 14:58登録)
サンフランシスコのベイ・エリアには、タイラーズ・ロードと呼ばれるコミューンがあった。荘園住まいの現代風領主を気取っているジョン・タイラーの地所に当たるその地域には、電気も電話もなく、車の通行も週に二日しか許されていない。七十人以上の住民が俗世間から逃れ、平和な生活を享受していた。だが、そこで凄惨な幼女連続殺人事件が発生したのである。
主人公ケイトの捜査活動にどちらかといえば重点を置き、私生活の方はさらっと描いているので、読んでいてもさほど重たくはない。気になったのは、四九九ページの感動的な場面での「盗まれた手紙」という語句で、訳者はゴシック小説に結び付けた説明を行っているが、これはポーのかの有名な短編の、手紙の隠し場所のことを指しているのではないだろうか。訳者の解釈だと、この場面の性格がまるっきり違ったものになってしまうので、一言苦言を呈しておきたい。


No.97 6点 ビッグ・ピクチャー
ダグラス・ケネディ
(2023/01/26 14:49登録)
主人公ベン・ブラッドフォードは、信託・遺産部門の弁護士。世間的には成功者として何不自由ない暮らしだが、プロカメラマンへの夢を捨てたという苦い思い出があり、心の中は満たされていない。ある時、妻の不貞を発見し、妻の不倫相手を殺害してしまう。
まず、殺人に至るまでの日常生活の描写にしびれる。ヤッピーの物質的には満たされた暮らしと、夢を失った心の不毛をじっくりと描く。うるさいくらいのカメラコレクションの蘊蓄も、後半への伏線になっている。
ブラックユーモアに満ちた死体処理の凄み。主人公の心象風景のような冬の北米大陸統合の旅。そしてひねりの利いた結末まで間然するところがない。


No.96 6点 茶匠と探偵
アリエット・ド・ボダール
(2023/01/26 14:42登録)
この作者は、フランスとベトナムの血を引いている。パリに住み、フランス語が母国語であるのに英語で書いている。内容も中国作家より中国的な感じがある。
アメリカ大陸を中国人が発見し、ヨーロッパの進行を阻止して生まれた「シュヤ」という世界を舞台にした作品を九編、日本独自にまとめた中短編集だ。
表題作と「蝶々、黎明に堕ちて」の二作は、歴史改変物ということになるだろうが、そのことが中心になっているのではなく、その改編の結果としてどのような状況が生まれ、そこからどのような未来が生まれたのか、ダークな世界観だがその細部を描くことによって、大きな背景が見えてくるという手法が効果的に使われている。


No.95 4点 バビロンの影
デイヴィッド・メイスン
(2023/01/26 14:35登録)
謀略小説と冒険小説の中間に位置する作品である。ハワードら九人の行動を精密に描いて、フセイン暗殺の準備をする過程に冒険小説としての魅力がある。また彼らの行動を軍事衛星で追って、阻止しようとするアメリカのアナリストたちの行動も同時に描いている。
しかし、登場人物が多いため、重要なキャラクターである九人の男たちが十分に描かれておらず、盛り上がるはずのクライマックス・シーンも淡々と描写しているだけに不満が残る。どちらにしても欠点がないわけではないが、ラストのどんでん返しはなかなか気が利いている。


No.94 5点 悪夢の八月
ティモシー・ウイリアムズ
(2023/01/26 14:28登録)
アパートの一室で発見されたその死体は、ひどく損傷を受けており、死後数日は経っていた。一方、時を同じくしてポー川で自殺騒動が起こる。二つの事件には関係があると睨むトロッティは、警部補のピザネッリを連れて独自の捜査を続ける。
癖のある主人公、悲しみを通り越した先に生まれた乾いたユーモア、どこか嚙み合わない会話、簡素でいて奇妙にずれた章大、耳慣れないイタリア語の人名や地名、八月のイタリアが持つうだるような暑さ、そういったものが混然一体となって作品世界を構築している。


No.93 6点 陸軍士官学校の死
ルイス・ベイヤード
(2022/12/20 14:43登録)
舞台は一八三〇年のニューヨーク州。ウェストポイント陸軍士官学校である夜、一人の士官候補生の首吊り死体が発見される。一旦は安置所に保管された遺体だったが盗み出されてしまう。
重厚な文章でつづられた歴史ミステリでありながら時に軽みというか、脱力ものの趣向が飛び出すこともあり、被害者同士のミッシングリンクが明らかになった時は笑ってしまった。とはいえ、最後に明かされる事件の動機はロマンチックとは程遠く、とても生々しく哀しい。


No.92 5点 精密と凶暴
関俊介
(2022/12/20 14:37登録)
歴史の影で戦ってきた異能者「シノビ」が主役。内閣情報調査室の依頼で、特異な力で戦う男女二人の物語。
冒頭の犯罪組織の親玉を仕留める場面を読むだけで、超能力を活かしたアクションを中心に捉えようとしていることが伝わってくる。アクションと謀略で埋め尽くす物語は、とにかく緩むことなく突き進む。
日本の官僚機構を背景にした謀略の図式は、荒唐無稽に思えるぐらい派手である一方、うやむやに片付けられる物事が多い現実と重なり合って、妙な生々しさを感じさせる。


No.91 4点 ストーカーズ
ケネス・J・ハーヴェイ
(2022/12/20 14:30登録)
物語は、ニューヨークの広告代理店に勤める美貌のキャリアウーマン・アクシスが、一人の男に尾行されているところから幕を開ける。男は、仮釈放されたばかりの殺し屋のスカイホース。スカイホースは、無言電話、留守宅への不法侵入と、ストーカーぶりを発揮していく。一方アクシスには、学生時代からのボーイフレンド・ダリーがいるのだが勝手に合鍵を作って部屋に押しかけてくる、もう一人のストーカーなのである。
作者は映画編集助手の経歴を持つだけあって、二つの物語をカットバック風に交互に進めていくあたり、読者を退屈させることがない。ただ、双方の結びつきが稀薄なため、ストーリーが完全に分離してしまっているのが残念。また、ストーカーによる恐怖を堪能することも難しい。


No.90 6点 女副署長 緊急配備
松嶋智左
(2022/12/20 14:22登録)
殺人事件の捜査を中心に捉えつつ、それぞれの悩みを抱えた警察官たちの姿が描かれている。狭い町での人間関係、親の介護に子育てといった身近な問題から、警察官としてのキャリアと矜持、そして殺人事件の意外な真相と、決して長大ではないのに、多彩な要素で読ませる。
主人公・田添杏美の存在も大きい。小さなコミュニティ外からやってきた者であり、警察組織でもマイノリティの女性であり、それでも臆せず言うべきことは言う。そんな彼女が赴任から間もない状態で組織を率いて問題に立ち向かう様子も本書の大きな魅力となっている。


No.89 6点 ブルー・ムーン亭の秘密
パトリシア・モイーズ
(2022/12/20 14:15登録)
古き良き時代を思わせる本格ミステリであり、中心となる謎はシンプルなものだが、手慣れた作者だけに楽しめる出来となっている。
キャラクターも相変わらず魅力的だが、とりわけ不運な境遇のスーザンがデレクのプロポーズを受けるエピローグは爽快であり、それまでのすべての不幸を洗い流してくれるかのようだ。
サービス精神も随所に盛り込まれており、まさに洒落たイギリスの本格ミステリの手本のような作品といえるだろう。


No.88 6点
ガイ・バート
(2022/11/29 15:15登録)
アワ・グローリアス高校の校舎の片隅には、長いこと使われていない地下室が人知れず存在する。マーティンの発案で、五人の少年少女がその地下室で、食料や飲料持参で三日間暮らすことになった。ところが三日経っても誰も迎えにやってこなかったため、五人はパニックに陥ってゆく。果たしてマーティンの身に不測の事態が起こったのか、それとも五人を閉じ込めることが彼の目論見だったのか。
本書の特異さは、その語りのスタイルにある。三人称で綴られている部分があるかと思うと、五人の生徒の一人である少女リズの手記や、その友人でもあるもう一人の少女の告白などが随所に挿入されるのである。
エピローグに至って、実際に起きたことがある程度明かされ、複数の語り口が選択された理由も明白となる。ところが、本書で最も恐ろしいのはこの解明部分である。宙吊りのまま謎が幾つも残されているせいもあるが、それ以上に敢えて具体的に書かないことによって、読者のおぞましい妄想を掻き立てるような筆法が選ばれているせいでもある。


No.87 5点 スロート
ピーター・ストラウブ
(2022/11/29 15:04登録)
私(ティム)とジョンとは十代のころからの付き合いだった。大学卒業後、私は徴兵され、ベトナムの地で死体処理班の一員として働いた。グリーンベレーとなっていたジョンとその地で出会ったが、死の瀬戸際に立たされた地獄を見た彼は何もかもが変わっていた。
ティムとジョンの少年時代の挿話のさりげない切なさ、大量殺人者のドラゴネットの不気味なリアリティ、ジョンの岳父ブルックナーの孤独な存在感、いずれも強い印象を与えるが、さらに鮮烈なイメージで圧倒するのが、ベトナム戦争の描写である。抑制のきいた乾いたタッチが、極限状態に起きる狂気と暗黒を抉り出している。
現在と過去が複雑に交錯し、幾重にも歪められた迷路を抜けてたどり着いた結末は、いささかあっけない感じもする。いくつか説明不足もあるが、充実した読後感を与えてくれる。


No.86 5点 切り裂き魔ゴーレム
ピーター・アクロイド
(2022/11/29 14:55登録)
一八八一年、夫のジョンを毒殺した罪で、エリザベスが絞首刑に処されるところから始まる。時制が目まぐるしく前後するばかりか、三人称記述のあいだにジョンの手記やエリザベスの語りが入り乱れ、一読しただけではプロットを呑み込めないほど複雑。
マルクスや喜劇役者ダン・リーノら実在の人物が容疑者として登場したり、ユダヤ神秘主義やチャールズ・バベッジの解析エンジンに言及するなどの凝った趣向が、世紀末ロンドンのパノラマの如きこの小説に、虚実皮膜のスリリングさを付与している。

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