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ミステリの祭典

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◇・・さんの登録情報
平均点:6.03点 書評数:181件

プロフィール| 書評

No.101 7点 闇に香る嘘
下村敦史
(2023/01/13 20:30登録)
兄の正体と主人公の周りで、何が起きているのかという謎自体はいたって地味。ただし、終戦時の中国大陸で起きた悲劇が根底にあるだけに謎は長く尾を引いており、全盲で徒手空拳の主人公にとって真相究明はあまりに手強い。
疑惑の人物は本物か偽物か、シンプルな命題なのに意外性があってドラマチックで、伏線もきちんと張ってあるからフェアといえるし、目から鱗が落ちる瞬間の快感を味わうことが出来る。


No.100 5点 警視の休暇
デボラ・D・クロンビー
(2023/01/13 20:25登録)
キンケイド警視シリーズの第一作であり、作者のデビュー作である。金持ちの集まるホテルで立て続けに殺人事件が起こり、容疑者は初めから限定されているという設定は、さながら黄金時代の本格ミステリを思わせるが、骨格のしっかりした本格ミステリである。
伏線は周到に張っているので、途中で真相を見抜くことも可能でしょう。内容的には現代社会の様々な問題を色濃く反映した個所もあるが、謎の解明は意外なほど古典的なもので、一種の懐かしさを感じてしまうほどだ。


No.99 8点 太陽黒点
山田風太郎
(2023/01/13 20:18登録)
ネタバレあります




全体のうち、ラスト数ページを除くほとんどの部分は、複数の男女の恋愛関係のもつれを描いた青春小説でしかない。ところが事件らしい事件がやっと発生したと思いきや、最後になって事件の背景に潜んでいた黒幕が姿を現し、それまでの部分で描かれた男女の行動が、彼によって操られた結果であったことが明らかになる。
それはそれで極めて意外な結末だが、真犯人の仕掛けた罠は単なる操作ではない。この作品の秀逸さは、操りに見立てを組み合わせることで、操作のテーマの本質をあぶり出した点にこそ存在するのだ。


No.98 5点 シミソラ
ルース・レンデル
(2022/12/19 18:50登録)
ネタバレあり


一見信頼できそうもない目撃証人を登場させたことで、より意外な効果を狙っている。高齢者が自分の目撃した光景をそのまま証言しても、警察がそれを額面通り信用することはないと見越したうえでのアリバイトリックは、現実の犯罪だとするとかなり危うい綱渡りと言わざるを得ないが、本格における決まり事の裏の裏をかいたトリックとしては見事と評するべきだろう。


No.97 7点 黒白の囮
高木彬光
(2022/12/19 18:46登録)
時はまさに高度経済成長の真っただ中。名神高速道路で起きた自動車事故のシーンから幕が上がる。やがて第二の事件が発生し、社長の座をめぐる骨肉の争いが炙り出されると、企業小説や社会は推理の雰囲気も漂い始める。
作者は大小さまざまなテクニックを駆使しているが、本格推理として見事なのは、スケールの大きなアリバイトリックと、捻りの利いた真犯人の設定。しかも、充分に長編を支えられるだけのトリックを、いわば捨て駒に使っていることに驚かされる。


No.96 4点 ナイトワールド
F・ポール・ウィルソン
(2022/12/19 18:41登録)
悪魔の人類に対する陰謀と、それと戦う少数の正義派という図式は、ホラー長編の得意とするところ。
オカルト、疑似科学、最新科学知識を巧みにミックスして、現代ニューヨークにパニックを起こさせているが、善悪対決のアイデアとその闘争過程があまりにパターン化しすぎているので新しい驚きはない。


No.95 5点 生物学探偵セオ・クレイ 街の狩人
アンドリュー・メイン
(2022/11/28 21:32登録)
あらゆるデータを駆使し生き物の生態に迫る生物情報工学を応用し、事件に立ち向かうセオ・クレイシリーズ第二作。
セオ・クレイは、通常の捜査とは全く異なる発想で、限られた情報の中からとんでもない事実を探り当ててしまう。本作においても彼は連続誘拐殺人犯と対決することになるのだが、その犯人が実在する確かな証拠が芋づる式に次々に発見される瞬間の、その快感たるやすさまじい。


No.94 5点 パーキングエリア
テイラー・アダムス
(2022/11/28 21:25登録)
雪山の中でパーキングエリアに立ち往生してしまった女性が、そのパーキングエリアに居合わせた男女四人と出会う。だが彼らの車の一台に少女が監禁されていることを知ってしまった彼女は次々と悪夢のような出来事に襲われる。
作品の手法は、作者が影響を受けたと語るスコット・スミスの代表作「シンプル・プラン」と近く目新しさがあるわけではないが、孤軍奮闘する主人公の芯の強さの表現や、主人公と母親の関係性が物語を通して変化していく様が描かれているあたりのサブストーリーの書き込みを見るに力のある作者であることは間違いない。


No.93 5点 もう終わりにしよう。
イアン・リード
(2022/11/28 21:19登録)
カップルである男女の不穏な会話劇で読ませる心理スリラー。
二人が男の実家に行き、謎の男からの無言電話に悩む女性が、交際相手の男の両親に挨拶をするまでのシーンの合間に、おそらく二人の帰省の後、何かしら常軌を逸した形で家から死体が発見されたことが語られる。謎解きミステリ的なアプローチではないが、読了後には「何が起こっていたか」という事態の真相を読者に解釈させる作りになっている。
作中で哲学的な問いが男女の間で交わされるが、再読すればその会話から見えなかった景色が見えてくるはず。


No.92 3点 聖ウラジーミルの十字架
イーヴリン・アンソニー
(2022/11/15 19:43登録)
何十年もの間、歴史から忘れ去られていた十字架に国家の運命を左右する力を与えてしまった設定からして、すでに無理があるような気がするが、それ以上に気になるのが、安手のテレビドラマのような人物設定。
ストーリー構成も全体的に荒く、中盤ルーシーとウォルコフのラブロマンスがだらだら続いたかと思うと、終盤になっていきなり話は急展開、スイスを脱出したルーシーをウォルコフの命を狙って、殺人マシンのような人物が突如登場してくる。ラストでは、さらに意外な事実が明らかになるのだが、これまた強引な仕掛けのため、驚くというより笑いがこみあげてくる。


No.91 5点 独捜! 警視庁愉快犯対策ファイル
霞流一
(2022/11/15 19:36登録)
愉快犯事件を専門に捜査する警視庁の特殊チームの活躍を描く本格ミステリ。
物と物とを繋いで珍妙なオブジェもどきを作る愉快犯の連続事件を追ううちに、別の事件、それも密室殺人の凶悪事件に遭遇してしまう。不可解と不可思議、二つの謎は表裏一体にリンクし、双方の解明のために、不愉快なくらい愉快な刑事たちが奮闘する。
日常の謎と非日常の謎を合い盛りにしたダブル・テイストのハイブリッド本格。


No.90 6点 サバンナの奥
T・A・ロバーツ
(2022/11/15 19:29登録)
ケニアの国立公園の中でヘリコプターが墜落し、パイロットと共に著名な女性野生動物学者アレクサンドラが事故死した。さらにヘリコプターの残骸の下からアフリカ人の死体が発見された。事故機の製造元はエンジニアのアランを現地に派遣し、事故究明に乗り出した。
アフリカの大自然をバックに、滅びゆく者への愛着や、自然を奪おうとする悪への憤りを、不器用な主人公であるヘリコプターの設計者の目を通して淡々と描いている。
アフリカの大地、民族間の紛争、利権争いなど作者の経験に基づいた丹念な書き込みがあり、航空機器に対する造詣も大変なもの。


No.89 6点 罪悪
フェルディナント・フォン・シーラッハ
(2022/11/02 19:14登録)
作者は犯罪について書くが、そこに至る感情を描かない。冒頭を飾る「ふるさと祭り」でも、傑作「間男」でも、焦点となる犯罪の原因は空白のまま。百万言を費やしても描き得ない人と世界の暗い不思議を、作者は百万言を費やす。代わりに空隙として残す。そして起きたことだけを読者に差し出す。余白に思いを巡らせるのは読者たちの仕事と言わんばかりに。


No.88 4点 クライアントの姪
ジニー・ハーツマーク
(2022/11/02 19:08登録)
ケイト・ミルホランドは、ロス法律事務所の合併・買収部門に所属する女弁護士。会議中、伝言を受け取ったケイトは、恐れていたことが事実になったのを知る。事務所の最上の顧客でもあるアゾール製薬会社への敵対的買収が始まったという宣戦布告の知らせだった。
全体を通して、ある企業の乗っ取りに対抗する法律事務所と、その敵との駆け引きを描くのだが、乗っ取りが成功するのか、それとも阻止できるのかというスリルが読みどころになっている。
しかし、弁護士たちの反撃とそれによる相手との駆け引きといったところまでは描けておらず、不満が残る。また、容易に想像がつく手がかりに主人公が終盤まで気づかないのはなんとも腹立たしい。


No.87 4点 秘めやかな宴
T・J・マグレガー
(2022/10/20 20:03登録)
殺人淫楽症に憑かれた二人の連続殺人魔。彼らとコンタクトをとってベストセラーを書こうとする女性作家、劇団のメンバーを中心とした秘密クラブなどが絡み合った複雑なプロットを、視点をいろいろ変えて描くことによって効果を上げている。
しかし、複雑なプロットは整理されておらず、やや消化不良になっていき、主人公が襲われる場面からもスリルが伝わってこない。


No.86 6点 災厄の紳士
D・M・ディヴァイン
(2022/10/20 19:56登録)
登場人物は書割りだけど、しっかりキャラクターが書き分けられているから説得力がある。ある人物の性格を前提として論理的に考えれば分かるというところは、書き割り的キャラクターならではこそ可能なのでしょう。
ただ、前半で純潔を奪うことにやたら焦点が当たっていて、後半、絵解きをされると少し拍子抜けでしたが。


No.85 5点 遊戯室
フランセス・ヘガティ
(2022/10/20 19:52登録)
一見平和に見える家庭に潜んでいる異常性と、その崩壊していく様が淡々と、しかも綿密に描かれているが、一気に崩れ落ちていくのではなく、危うい均衡を保っている辺りがなんとも不気味。
主人公のアレンデール夫妻は確かに異常なのだが、ではソフィーやメアリなど周囲の人々は正常なのかというと、決してそんなことはなく、彼らも目に見えるほどではないが、やはり確かな歪みを抱えている辺り、現代社会に対する批判精神に満ちているといえるかもしれない。


No.84 4点 オフ・マイナー
ジョン・ハーヴェイ
(2022/10/03 19:54登録)
チャーリー・レズニック警部とその刑事たちのチームが手掛ける事件を描いたシリーズの第四弾。ミリントン部長刑事を始め女性のパティル刑事などお馴染みのメンバーが出演する警察ミステリ。
目まぐるしく人物の視点が交錯する技法は、警察ミステリとして各刑事の人物を描き分けると同時に、事件の全体像をモザイク的に拡散させながら収斂しようという試みだろうが、集中力を欠く結果に陥る弊害も伴い、大部の割には印象の薄いストーリーになってしまった感がある。


No.83 4点 シャーマンは歌う
ジェイムズ・D・ドス
(2022/10/03 19:48登録)
冬の近づいたある夜更け、南ユート族に属するシャーマンの老女は目に見えぬ小人の使者の声を聞いた。何か恐ろしい異変が起ころうとしているのだ。
科学技術に関する謎の設定とシャーマンに見られる神秘主義の融合が売りのようだが、その二つが有機的に結びついているとは言い難い。全体的な構成もぎこちなく、登場人物の描き方や結末の捻りといった点でも多くの不満が残る。


No.82 4点 チャイナ・ウォー13
ボブ・メイヤー
(2022/10/03 19:42登録)
様々な立場の人間が最善を尽くそうと努めながらも、実際には駒として利用されていただけというのは、軍事ものやスパイものの常道ではあるのだが、本書ではその最も単純な図式が用いられている。
事情を全く知らされずに現地へ飛ばされた兵士たちばかりではなく、その計画を練った人物もまた、さらに大きな力によって操られていたというだけのことだ。ラストシーンで語られる新聞記事にしても、ある意味では極めて類型的なオチといえるものである。ミステリ的な要素もなくはないが、ラストも付け足しのような印象が強く、これだけで謎解きと呼ぶのには明らかに無理がある。

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