幻の標的 |
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作家 | デイヴィッド・E・フィッシャー |
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出版日 | 1994年09月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | ◇・・ | |
(2023/03/25 19:15登録) かつてCIAや外国の情報機関のために仕事をしてきたウォルター・ナーマンは、引退した現在では、その経験を生かして身辺警護に関するコンサルタント会社を営んでいた。そんな彼のもとを長年の友人であるクラウス・フォアシャーゲが訪れたのがすべての始まりだった。 スパイ小説の魅力の一つは、彼らが垣間見せるテクニックにある。暗殺術や尾行を巻く方法といった具体的なものから、独自の哲学やスパイであることの孤独感までも含めたある種の処世術のようなものに惹かれる。作者はそれをよく理解しているようで、ツボを押さえた安心して読むことが出来る作品に仕上がっている。 現役を引退した初老のスパイであり、強制収容所での経験によって閉所恐怖症になってしまっているナーマン、全身脱毛症のメルニック、妻が浮気をしているのではないかと疑心暗鬼に陥ってしまったヘイガンといったような丁寧に描写された登場人物たちは十分魅力があり、そのことがきわどい話に小説としてのリアリティーを持たせることにもなっている。ラストがいささか弱く、尻すぼみの印象を与えてしまった欠点があるものの、それ以上に読み応えのある作品だ。 |