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ミステリの祭典

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◇・・さんの登録情報
平均点:6.03点 書評数:181件

プロフィール| 書評

No.161 6点 五十万年の死角
伴野朗
(2024/04/02 21:51登録)
太平洋戦争の開戦直後、日本軍は北京原人の化石骨を摂取すべく米国系医科大学の研究所を急襲したが、すでに持ち出されたあとだった。軍医部長の特命を受けて骨の探索に乗り出した主人公は、日本の特務機関、国民党の謀略組織、中国共産党の三つ巴の争奪戦に巻き込まれていく。
当時の大陸情勢を背景に、主人公の瑞々しい探究心と、ヒューマニズムを謳い上げた戦記サスペンスで、この種の謀略ものには珍しく読後感が爽やか。


No.160 6点 逃げるアヒル
ポーラ・ゴズリング
(2024/04/02 21:45登録)
アクション主体の軽いサスペンスもの。シルベスター・スタローン主演で「コブラ」という映画にもなった作品。
普通のOLが、殺し屋の顔を偶然目撃してしまったために命を狙われ、腕利きの刑事と共に逃避行に出る。圧倒的に凄い敵がいたり、どこから来るか分からない相手を待ち構えて迎撃したりと、どの場面もスリリング。


No.159 6点 死者たちの礼拝
コリン・デクスター
(2024/03/12 19:52登録)
描写が曖昧で読んでいる時は、霧の中を歩いている感じ。教会で礼拝中の信者が殺され、礼拝を執り行っていた牧師も死んでしまうというのがメインの謎。
ここで使われるトリックはなかなか切れ味があるが、それ以前の部分が面白すぎてトリックの所在を見失ってしまう。この雰囲気が最高の持ち味。


No.158 7点 衣裳戸棚の女
ピーター・アントニイ
(2024/03/12 19:49登録)
純然たる密室ものだが、完全に施錠されたホテルの一室で男が射殺体で発見され、同じ部屋の衣装棚の中にはウェイトレスが閉じ込められている、という奇妙な状況が提示される。
かなり短い小説で、そのシンプルさが魅力の一つだが、トリックが突飛すぎて万人におすすめすることは出来ない。それほど独創的で、二度と使えない類のトリック。


No.157 8点 暗闇の薔薇
クリスチアナ・ブランド
(2024/02/22 20:50登録)
嵐の夜、車を走らせるヒロインの前で巨木が倒れ、行く手をふさがれてしまう。何者かに追われていると思しき彼女は、倒木の向こう側で同じように立ち往生している見知らぬ男性と、お互いの車を交換することで急場をしのぎ先を急ぐ。しかし、その交換した車の後部座席に死体が乗せられていたという、なんとも魅力的な謎で幕を開ける物語。
サスペンスフルな展開、畳みかけるようなツイスト、そして驚愕のラスト。縦横無尽に繰り出されるテクニックは、まさに本格の芸術と呼ぶに相応しい、比類なき美しさ。ヒロインの素晴らしい造形も名人ならでは。


No.156 6点 華やかな死体
佐賀潜
(2024/02/22 20:44登録)
法曹としての知見がよく生かされた法廷ミステリ。
大手食品会社社長の死体が花に埋もれて発見された。被害者の元秘書で、現在は後妻のマネービルの指南役をつとめている男に疑いがかかる。少壮検事の城戸は、十分な証拠固めをした上で起訴に持ち込んだつもりだったが、弁護側の意外な反撃にあって敗北を喫する。
刑事裁判の実態をリアルに描いた重厚な作品で、冤罪を生み出しやすい日本の法体系に対する批判も含まれている。


No.155 9点 推定無罪
スコット・トゥロー
(2024/02/22 20:39登録)
地方検事を選ぶ選挙戦のさなかに、美人検事補が自宅で全裸の絞殺死体となって発見された。事件を担当したラスティ・サビッチ首席検事補は、彼女に怨みを持つ変質者を洗うが、捜査は遅々として進まない。サビッチは実は彼女と愛人関係にあり、やがて容疑は次第にサビッチに向けられていく。
現職検事補の手による本書は、発表後一躍ベストセラーになった。圧倒的迫力の法廷シーン、意想外の結末に加え、司法制度への批判までも盛り込んだ法廷ものの傑作である。ハリソン・フォード主演で映画化もされている。


No.154 6点 ナポレオン狂
阿刀田高
(2024/01/30 19:50登録)
「来訪者」は、出産の時に病院で世話になった雑役のおばさんが、退院後もしばしば家にやってきて赤ん坊に異常な愛着を示すという話で、一見ありふれた話ながら、背筋が寒くなるようなスリルとサスペンスがある。
表題作の「ナポレオン狂」は、ナポレオンの遺品収集に執念を燃やす男に、自分はナポレオンの生まれ変わりだと信じ込んでいる男を紹介したところ、男たちはそのまま消息を絶ってしまったという話で、いかにもこの作家らしい奇妙な味が楽しめる。


No.153 6点 殺意の演奏
大谷羊太郎
(2024/01/30 19:45登録)
大学受験に失敗して芸能ショーの司会者になった細井道夫がアパートの自室でガス中毒死していた。彼はクイズを得意にしていたが、クイズとも暗号ともつかぬ遺書のようなものが残されていた。現場が完全な密室状態だったところから、警察は自殺として処理する。数年後、兄の志を継いでアナウンサーになった弟が、ひょんなところから疑惑を抱き、恋人や兄の親友だった男と共に真相解明に乗り出す。
トリックに凝りすぎてストーリーにやや渋滞が見られるものの、魅力的な謎、論理的な展開、意外な結末の三要素に、芸能界の内幕情報が加味されて、まさしく本格派の醍醐味を感じさせる。


No.152 6点 黒後家蜘蛛の会1
アイザック・アシモフ
(2024/01/10 18:55登録)
全て同じ形で書かれた短編で、舞台はいつも数学者や科学者などの専門家6人が集まる黒後家蜘蛛の会という食事会。彼らの楽しみは謎を持ち寄って、それを話題にすることだが、推理を闘わせた後で給仕のヘンリーが真相を言い当てて見せるというお約束のパターン。
当たりも外れもあるが、よくも同じ型で書き続けたものだと感心する。基本的にワンアイデアミステリだが、メンバーがスペシャリストで面白いから、彼らが蘊蓄を傾けて喋るのを聞くだけでも面白い。


No.151 7点 ウッドストック行最終バス
コリン・デクスター
(2024/01/10 18:49登録)
ヒッチハイクをしていた二人の娘が行方不明になり、一人が死体で発見され、もう一人は姿を消した。発端は地味だが、意表を突く結末が待っている。
語り口がユーモラスで、何より主人公のモース警部の行動が、本当に真剣にやっているのか、と思うほど面白おかしく書かれていてとても愉快。


No.150 6点 帽子から飛び出した死
クレイトン・ロースン
(2024/01/10 18:46登録)
探偵はマジシャンのグレイト・マーリニ。降霊術の最中に完全密室の部屋で人が殺されるという謎だが、その見せ方が上手い。密室談議や理系の人間なら一度は聞いたことがある数学の問題など、様々な蘊蓄が文中にたくさん出てくるのも楽しい。


No.149 7点 遮断地区
ミネット・ウォルターズ
(2023/12/20 19:27登録)
孤独な老人とシングルマザーと父親のいない子供たちばかりが暮らす例所得者向けの住宅団地で、家族の安全を願って始めたはずのデモは、いつの間にか制御不能な暴力行為へと変容し、悲惨な結末へと突き進む。一方、失踪した少女の行方を捜索するうちに、親の愛情に飢えた十歳の娘を中心とする歪んだ人間関係が浮き彫りになってくる。
刻々と変わる局面に目が釘付けになる緊迫した警察捜査小説であると同時に、血と暴力と狂熱に彩られたサスペンスフルな犯罪小説。


No.148 6点 夏の沈黙
ルネ・ナイト
(2023/12/20 19:23登録)
買った覚えのない本がヒロインの自宅にあり、そこにはヒロイン自身のことが書かれていたと、冒頭から不気味さが演出される。続く老人のパートも静かだが、実に不穏な空気感である。
以降、物語に緊張感を上げていくのだが、心憎いのは本に書かれていた内容や、老人の目的、そして過去に何が起きたかが、徐々にしか明らかにされない点だ。具体性がまだない序盤で、雰囲気だけで読者の心をつかみ、具体性を高める興味を持続させ、終盤に至って見事な逆転。キャラクターの心理も深いところまで抉り込んでいる。


No.147 8点 犯罪
フェルディナント・フォン・シーラッハ
(2023/12/20 19:17登録)
罪を犯す人が辿る11の数奇な運命を、語り手の弁護士が一歩引いたところから淡々と描き出す。
超現実的な出来事こそ起きないが、登場人物の心象風景はいずれも極めてシュールで、奇妙な味わいが濃縮されている。切り詰めた簡潔で禁欲句的な文体が、かえって豊かなエモーションを引き出しているのも上手い。


No.146 5点 ロルドの恐怖劇場
アンドレ・ド・ロルド
(2023/12/02 20:24登録)
二十世紀初頭、パリで人気を博した残酷演劇「グラン・ギニョール」の劇作家が手掛けた、戦慄と狂気と皮肉に満ちたショート・ショート集。
ひとつひとつの分量が短いぶん、残虐描写などはあっさりしたものだが、真正面から脳天を一撃されるような即物的ショックを伴う結末や、作中人物に対する容赦のない扱いは今読んでも十分に生々しい。
当時先端の医学が恐怖演出の道具立てとして活用されている点は、戦前の探偵小説を想起させる。どうして人は暗い話、残酷な話、厭な話からもカタルシスを見出すのか、ということも改めて考えたくなる一冊。


No.145 7点 ダック・コール
稲見一良
(2023/12/02 20:18登録)
他の村の狩場に入った男が数万羽に及ぶリョコウバトの飛来に遭遇、殺戮と狂乱の一夜を経験する「パッセンジャー」、言葉を発することの出来ないい少年の休園前夜の遊園地での冒険を木製の鴨の視点から描く「デコイとブンタ」など、野鳥を題材にした六編にブラッドベリ「刺青の男」から着想を得た外枠を付した連作短編集。
風景がリアリズムを超越する劇的な一瞬を詩情溢れる筆で現出。その刹那に突き動かされる情動を物語へと巧みに落とし込む。猛々しさと叙情性の共鳴がなんとも心地よい。鳥の象徴性や自然回帰といったテーマ性はファンタジーに近いといえる。しかしながら、生きることを見失いかけた時に読み返したくなる一冊であることに変わりはない。


No.144 6点 ミスター・メルセデス
スティーヴン・キング
(2023/12/02 20:10登録)
無差別大量殺人の犯人を捕まえられぬまま退職した老刑事ホッジズ。鬱々たる余生に入ろうとしていた彼の刑事魂に再び火をつけたのは、犯人からのあまりにも悪辣な挑戦状だった。
パソコンに詳しい高校生の助けを借りて犯人に迫るホッジズと、彼をじわじわと追い詰めて死に追いやろうとする犯人。両者の命懸けの頭脳戦は、互いの出方を予想し、時には大きく読み誤りながらクライマックスへと収斂してゆく。
卑劣な犯人像が帯びる生々しいリアリティと、そんな犯人に刺激されたホッジズが刑事として再生する心理の説得力が無類。


No.143 7点 靴に棲む老婆
エラリイ・クイーン
(2023/11/12 21:26登録)
ポッツの靴はアメリカの靴という宣伝で、巨万の富を築いた老婆には六人の子供があった。その子供たちのうち、三人は精神異常者で三人は正常。ところが、まともな方の三人の子供が次々と殺されるという事件が持ち上がり、エラリーは捜査に乗り出す。
全編、マザーグースの不気味な童話とともに事件が進行し、正気と狂気とが交錯した謎が深まってゆく。奇想天外な「靴」の宮殿にマザーグースと、お伽話のような道具立てが、ファンタスティックな雰囲気を醸し出している異色作。


No.142 8点 災厄の町
エラリイ・クイーン
(2023/11/12 21:21登録)
ニューイングランドの典型的な田舎町であるライツヴィルで彼を待っていたものは、ある悲劇的な事件だった。町の創立者ジェズリール・ライトの血を引くライト家の次女ノーラが、何者かによって砒素を盛られたのだ。しかも、その容疑者として彼女の夫が注目を浴びることになり、ライツヴィルの町は騒然となる。
クイーンの作風転換のきっかけとなった中期の代表作。謎解きよりも、架空都市ライツヴィルの風俗や、そこに住む人々の生活に筆を費やし、家庭悲劇を鮮やかに浮かび上がらせている。

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