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ミステリの祭典

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◇・・さんの登録情報
平均点:6.02点 書評数:195件

プロフィール| 書評

No.175 6点 仲のいい死体
結城昌治
(2024/09/19 20:04登録)
ブドウ畑から急に湧き出した温泉を巡り、権利を持つ美しい未亡人が注目を集める。しかし、その彼女が変死体で発見された。横には冴えない妻子持ちの中年巡査の遺体が。心中が偽装されたのは明らかだがその意図とは。
さすがに風俗描写は古いのは仕方ないが、都会の感覚を持つ郷原と、田舎流を貫く村民とで織りなす行き違いや誤解がユニーク。加えて死体を勝手に移動させてしまう関係者、捜査予算ばかり気になる上司、尋問下手で容疑者を怒らせるだけの同僚、発想が貧困な刑事たちなど内憂外患のなか、郷原が孤軍奮闘する姿が頼もしく、同時に楽しい。


No.174 4点 眠れない聖夜
ジーン・M・ダムズ
(2024/09/19 19:57登録)
夫の生前より二人で憧れてきたイギリスのシャーベリーの村に一人ドロシーは移り住む。よそ者の悲哀でクリスマスイヴに誰からも誘ってもらえず、一人で大聖堂の礼拝にのぞむが、帰り際に真っ暗な翼廊で、聖堂参事会員のビリングスの死体につまづいてしまう。恐ろしさ半分、だが夫の死からの再生のため、そして持ち前の反骨心でドロシーは殺人事件の解決に乗り出す。容疑者とされた若者を直観で、「真犯人じゃない」とするなど、だてに年をとっていないと変に感心させられたり、ナイト志願の警察署長との先の楽しみもある。だが、狭い田舎町の内情が、どろどろとした人間関係でいっぱいなのも定石通りで、誰もそこそこ見当ついてしまい、新味がないまま事件終結は残念だ。


No.173 5点 赤毛の男の妻
ビル・S・バリンジャー
(2024/08/28 21:27登録)
殺人を犯して逃亡する男女と、それを追う警官の心理と行動を扱ったサスペンス。
逃げる男女、赤毛の男とその妻。妻は男を愛する一心で絶望的な逃避行を続ける。しかし、全体的に平板であり、特に警官の章がつまらない。最後の2ページがドラマチックで、全体の印象を強めはするが、凡作の感はぬぐえない。


No.172 3点 キルトにくるまれた死体
キャサリン・ホール・ペイジ
(2024/08/28 21:20登録)
フェイスは、隣人ピックスの故郷サンペーレ島に別荘を建てることにし、ピックスに現場監督を頼む。島に到着早々、娘サマンサと共に現場に足を運んだピックスが発見したのは、キルトに包まれた死体だった。次いで、サマーキャンプ場では首を切り落とされたネズミの死体が並べられていた。
アメリカ版井戸端会議、キルト作りの集まりでの女性たちの表と裏、砂浜パーティーへの住民たちの思い入れ等は微笑ましく読める。だが、身辺雑事にかまかけておいて、悪の色付けは突然一変する。最後は強引な安手の劇に付き合わされた感じが残る


No.171 5点 死刑台のエレベーター
ノエル・カレフ
(2024/08/07 20:33登録)
アプレ社長が金銭上の動機から殺人をするが、数々の偶然が働いて、全く覚えのない事件によって死刑にされるという物語。
この筋自体に作者の皮肉な眼が感じられるし、筆致もそうである。面白いことは間違いないが、無理に凝った破局へもっていこうとするために、説得力に欠けるところがある。


No.170 6点 知りすぎた男
G・K・チェスタトン
(2024/08/07 20:29登録)
上流階級社会の中で起こる犯罪を、フィッシャーという名の人物が解決するのだが、彼自身政治家たちと深いつながりを持つ立場ゆえ、時に事件の真相や犯人をまるでキャッチ・アンド・リリースするように看過してしまう。
その様子を側で観察するワトソン役が政治記者であるところも皮肉が効いている。政治や文明批評でも知られるチェスタトンらしい作品。


No.169 7点 ローズマリーの赤ちゃん
アイラ・レヴィン
(2024/07/19 20:11登録)
ローズマリーという女性が妊娠したその日から、奇妙な現象が彼女の身辺で起こる。周りの人はそれを彼女のヒステリー、妄想だと思っているという点が面白い。その謎の正体は何かという関心が読者を引っ張っていく。
通常のホラーのように怖い実態は特に何も出てこないが妙に怖い。読み進めるにつれて、どんどん不安が大きくなる。そのサスペンスが抜群である。


No.168 5点 マハーラージャ殺し
H・R・F・キーティング
(2024/07/19 20:08登録)
舞台は大英帝国の支配下、藩主王国の王様が各地を支配していた1930年代のインド。
その王様の一人が、狩りの最中に銃の暴発で死亡してしまう。情景描写は実に異国情緒があってよいが、トリック的にはさほど大したことはない。


No.167 5点 処刑前夜
メアリー・W・ウォーカー
(2024/06/05 20:33登録)
ある豪邸で起こった殺人事件で、すでに逮捕されて死刑が求刑されている男が本当に真犯人なのか疑わしい証拠が出てきて、ヒロインの犯罪記者が真相を追う。
古典ハードボイルドに近いムードがあり、霧のかかった中を結末に向けて突き進む雰囲気が出ている。死刑執行までという限られた事件の中で進行するパターンで、どんでん返しもまずまずといったところ。


No.166 6点 蝶たちは今…
日下圭介
(2024/06/05 20:29登録)
第二十一回江戸川乱歩賞受賞作。
康雄は、急病で行けなくなった恋人和子の代わりに友人の拓也を誘って、飛騨路の旅に出た。途中のバスの中でバッグを取り違えてしまったことから、奇妙な事件に巻き込まれる。
バッグには、三年前に心中した娘から十七年前に事故死した男に宛てた一通の手紙が入っていた。過去の二つの事件を結び付ける鍵は果たしてどこに隠れているのか。
魅力的な謎の設定と起伏に富んだストーリー展開に加えて、歯切れのいい会話と文章に魅了された。


No.165 6点 花の棺
山村美紗
(2024/05/15 20:18登録)
名探偵キャサリン・ターナーの初登場作で、同時に京都ものの第一作でもある。キャサリンはアメリカ副大統領の娘。コロンビア大学在学中に父の随員として来日し、東流の小川麻衣子から華道の手ほどきを受けることになっていたが、園麻衣子が空也堂の境内で毒殺死体となって発見されたため、キャサリンは家元の跡目相続をめぐる不可解な連続殺人事件に巻き込まれていく。
日本の伝統文化の世界に若いアメリカ娘を配したキャスティングの面白さ、雪庭の茶室を使った密室と、死体を乗せたキャンピングトレーラーの消失というトリックの斬新さがいい。


No.164 7点 ずっとお城で暮らしてる
シャーリイ・ジャクスン
(2024/05/15 20:12登録)
自分の内なる狂気の世界こそ正常な世界であり、外部の日常世界は悪魔の徘徊する異世界だと信じている少女が主人公。
彼女は、両親と兄と叔母を殺害したと疑われている姉、現在のことには一切無関心で過去の世界に生きている叔父の二人と一緒に大きな館に住んでいる。そこに正常人の従兄弟チャールズがやって来た時から、惨劇が始まる。
狂人の観点から語られる閉じられた世界の恐怖。戦慄と優しさ、グロテスクと悲しみの入り混じった静かなホラー小説である。


No.163 4点 トミーノッカーズ
スティーヴン・キング
(2024/04/24 20:39登録)
メイン州の田舎町近辺の森林の地中に埋まっていた太古の宇宙船が発掘されることによって、街の人々に起こるグロテスクな精神的、肉体的な変化をブラック・ユーモアをたっぷりに描いている。
一説には放射能汚染の恐怖を語っているとも言われているが、基本的には自分ではない何か他のものに変容していくことの忌まわしさを、そして自分が変容していくことによって、図らずもしでかしてしまうことの恐ろしさを語っている。


No.162 5点 視線
石沢英太郎
(2024/04/24 20:34登録)
第三十回日本推理作家協会賞を受賞した表題作など6編を収録され、それぞれに切れとコクが楽しめる。
表題作は、銀行強盗にホールドアップを命じられた行員が、非常ベルを押そうとした隣席の同僚に視線を走らせたばかりに、その同僚が射殺される事件を扱っている。彼はなぜ視線を走らせたのか。
人間の心理の微妙さを一瞬のシーンに定着させて鮮やかな印象を残す。


No.161 6点 五十万年の死角
伴野朗
(2024/04/02 21:51登録)
太平洋戦争の開戦直後、日本軍は北京原人の化石骨を摂取すべく米国系医科大学の研究所を急襲したが、すでに持ち出されたあとだった。軍医部長の特命を受けて骨の探索に乗り出した主人公は、日本の特務機関、国民党の謀略組織、中国共産党の三つ巴の争奪戦に巻き込まれていく。
当時の大陸情勢を背景に、主人公の瑞々しい探究心と、ヒューマニズムを謳い上げた戦記サスペンスで、この種の謀略ものには珍しく読後感が爽やか。


No.160 6点 逃げるアヒル
ポーラ・ゴズリング
(2024/04/02 21:45登録)
アクション主体の軽いサスペンスもの。シルベスター・スタローン主演で「コブラ」という映画にもなった作品。
普通のOLが、殺し屋の顔を偶然目撃してしまったために命を狙われ、腕利きの刑事と共に逃避行に出る。圧倒的に凄い敵がいたり、どこから来るか分からない相手を待ち構えて迎撃したりと、どの場面もスリリング。


No.159 6点 死者たちの礼拝
コリン・デクスター
(2024/03/12 19:52登録)
描写が曖昧で読んでいる時は、霧の中を歩いている感じ。教会で礼拝中の信者が殺され、礼拝を執り行っていた牧師も死んでしまうというのがメインの謎。
ここで使われるトリックはなかなか切れ味があるが、それ以前の部分が面白すぎてトリックの所在を見失ってしまう。この雰囲気が最高の持ち味。


No.158 7点 衣裳戸棚の女
ピーター・アントニイ
(2024/03/12 19:49登録)
純然たる密室ものだが、完全に施錠されたホテルの一室で男が射殺体で発見され、同じ部屋の衣装棚の中にはウェイトレスが閉じ込められている、という奇妙な状況が提示される。
かなり短い小説で、そのシンプルさが魅力の一つだが、トリックが突飛すぎて万人におすすめすることは出来ない。それほど独創的で、二度と使えない類のトリック。


No.157 8点 暗闇の薔薇
クリスチアナ・ブランド
(2024/02/22 20:50登録)
嵐の夜、車を走らせるヒロインの前で巨木が倒れ、行く手をふさがれてしまう。何者かに追われていると思しき彼女は、倒木の向こう側で同じように立ち往生している見知らぬ男性と、お互いの車を交換することで急場をしのぎ先を急ぐ。しかし、その交換した車の後部座席に死体が乗せられていたという、なんとも魅力的な謎で幕を開ける物語。
サスペンスフルな展開、畳みかけるようなツイスト、そして驚愕のラスト。縦横無尽に繰り出されるテクニックは、まさに本格の芸術と呼ぶに相応しい、比類なき美しさ。ヒロインの素晴らしい造形も名人ならでは。


No.156 6点 華やかな死体
佐賀潜
(2024/02/22 20:44登録)
法曹としての知見がよく生かされた法廷ミステリ。
大手食品会社社長の死体が花に埋もれて発見された。被害者の元秘書で、現在は後妻のマネービルの指南役をつとめている男に疑いがかかる。少壮検事の城戸は、十分な証拠固めをした上で起訴に持ち込んだつもりだったが、弁護側の意外な反撃にあって敗北を喫する。
刑事裁判の実態をリアルに描いた重厚な作品で、冤罪を生み出しやすい日本の法体系に対する批判も含まれている。

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