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ミステリの祭典

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首つり判事

作家 ブルース・ハミルトン
出版日1959年07月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 6点 ◇・・
(2024/10/08 21:04登録)
痛烈な裁判批判を実にスマートな感覚の娯楽小説に仕立てている。
重苦しい救われない物語だが、社会正義をバックボーンとした筆力に惹きつけられる。巧妙なミスリードとどんでん返しが一層、興趣を盛り上げる。

No.2 6点 人並由真
(2020/04/10 15:10登録)
(ネタバレなし)
 第二次大戦が始まる数年前の英国。青年ハリイ・ゴズリングは、最高裁判事フランシス・ブリテンの判決によって、強盗殺人の罪科で死刑に処せられた。それから時が経ち、英国ノーフォーク州の田舎の村モクストンの老紳士ジョン・ウィロビーのもとに、アメリから来た謎の男ティールが訪ねてくる。ウィロビーはしばらく前から時々、村に滞在していたが、日頃から人付き合いを避け、一方で女癖が悪いと噂されていた。退屈な毎日を過ごすモクストンの住人たちは、近日中にウィロビーを訪問するといって村の宿「ソルジャー旅館」に宿泊したティールのことを「幽的(幽霊みたいな男)」と呼んで話の種にするが、いつのまにかそのティールは村から姿を消していた。やがて村では、ある事件が……。

 1948年の英国作品。しばらく前に「ミステリマガジン」でミステリ界の著名人を集めて「私のオールタイムポケミスベスト3」といった趣旨の企画を催した際に、誰かがマイベスト3の一本に選んでいた一冊。
 別の場でよさげな評判も聞いていたような気もするし、これはたぶん創元の旧クライムクラブ路線を思わせる、当時の新感覚作品で多かれ少なかれトリッキィな一編であろうと期待。昨夜、蔵書が見つかったので読んでみた。

 そうしたら、うーん、作品の形質に関してはものの見事にズバリ、旧クライムクラブ的な小粋な作品ではあった。ただしもちろん大ネタというか作品の主題は言えない(現時点でAmazonでひとつだけあるレビューは、本作を絶賛しながらもそのネタに思い切り触れてしまっているので注意だ)。
 あと、下のこうさんのレビューもちょっと危険(汗)。

 それで内容そのものは普通以上に十分面白かったのだが、私的にはかねてよりの期待が高すぎたためか、ぶっとんだものには行かなかったなあ、という贅沢な意味での物足りなさを覚えた。
 あとこの作品は最終的に(中略)ものなんだけど、その興趣を読み手に満喫させるためには少し筆が薄いように思えた。前述のAmazonのレビュー(くりかえすけれど、ネタバレされているので注意)でも別のある同趣向の具体的な作品名が比較例として挙げられているが、うん、正にその比較例の作品にはあった(中略)のような、物語の文芸を支える鮮烈なイメージ、シーンが希薄なのであった(個人的には、さらにこの思いが、某MWA賞の受賞作品にも及ぶ。この言い方ならまずネタバレにはならないだろう。うまくいけば全部読んでいる人には、通じるかもしれない?)。そういう弱点もあって、いまひとつこちらの心に響かない。
 そんな意味で、優秀作~傑作を期待したものの、佳作~秀作ランク。もちろん、悪い作品では決してないけれど。
 
 ちなみにこの作品、やはりどっかの場で読んだけれど、原書にはさらにもうひとつまた新たなエピローグが書き足された? 別バージョンがあるらしい。どうせならそっちがいつか翻訳されてから読もうかと一時期は待ちの構えでもいたが、「奇想天外の本棚」があっさりくたばってしまって、論創の旧作発掘もどうも緩慢な印象の昨今、そんな夢みたいな新訳いつ出るかわからないし、さっさと読了してしまった(笑・涙)。いや、クラシック発掘翻訳の関係者のみなさまのご苦労にはいつも敬意を覚えていますが(汗)。

 最後にこの作品のタイトルロール「首つり判事」とは、もちろん、物語の冒頭でハリイ青年に冷徹に極刑を下した判事フランシス・ブリテンのこと。しかしこの異名がプロローグで語られず、物語の半ばまで出てこない(ミステリの仕掛け的に特に意味があるわけでもない)。この辺は小説の演出がヘタだと思う。

No.1 8点 こう
(2008/05/31 00:28登録)
 無実の罪で殺された死刑囚が冒頭に登場し次の章で死刑にした判事の周りに浮浪者風の男が現れて、という構成の復讐物です。この浮浪者が誰か、ということについても事件の真相も当然最後に明かされますが論理的手がかりはなく本格作品ではありませんがスリラーとして楽しめました。
 作風としてバリンジャーの歯と爪やアルレーのわらの女を連想しました。(わらの女はそもそも復讐物ではないので少し違いますが)
 読者が論理的手がかりから真相を当てる読み物ではないですが一気に読ませるスリラーとしては非常に気に入りました。

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