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ミステリの祭典

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平均点:6.28点 書評数:254件

プロフィール| 書評

No.194 6点 殺人者と恐喝者
カーター・ディクスン
(2023/07/17 17:47登録)
カーにしてはめずらしく、2組のカップルがラブコメ風に描かれて、どちらの展開もなかなか楽しい。他にもH・Mの自伝の話など、楽しい話が取り込まれていて、全体的に読みやすくしあがっている。
それに、催眠術をつかった状況での事件発生の設定は、なかなかサスペンスもある。この辺はかなり好み。
ただ、メイン・トリックは、残念かな。まあ、カーにはこういったxx的なものも多いのだけど。
あの叙述については、それをメインに押し出しているようには読めないので、ファン向けの細かな拾いどころの1つと感じた。なので、フェア/アンフェアについても、重要ではないと思う。私の判断をいえばアンフェアだけど、同程度のアンフェアは、カーは、他作品でも多かった印象がある。個人的には、アンフェアでも全然問題ない。


No.193 5点 九人と死で十人だ
カーター・ディクスン
(2023/07/17 17:43登録)
戦時の状況が取り込まれ、カーにしてはめずらしくシリアス。そこに、カーらしい大胆な仕掛けがはいって、めずらしい読み心地だ。
とはいえ、その仕掛けも無理が大きい感じがして、私の琴線にはあまりかからず、指紋の謎にいたっては解決がすこしがっかりな感じがしたので、あまり高得点とはならず。


No.192 4点 かくして殺人へ
カーター・ディクスン
(2023/07/17 17:41登録)
やりたいことはわかった気がするが(犯人があれなことでしょうが)、そんなに面白いとは思えなかった。
シーンとしては、映画のセットでの硫酸殺かけのように面白いシーンもあるが、ときどき入れられる撮影シーンがチグハグであったり、第二の事件の付け足し感がいつも以上だったり、全体的には、どうにも失敗作の感が拭えない。
どこまで取材したかわからないが、当時(1940)の映画撮影の雰囲気を楽しむというのは珍味なので、見どころはそれくらいかな。


No.191 8点 世界でいちばん透きとおった物語
杉井光
(2023/07/12 00:08登録)
メインの趣向は、有名作のアレンジなので、それだけでは高い評価はしないが、その趣向の見せ方がうまい。類似の趣向は、あの人とか色々書いてたり、去年もあったりしたけど、見せ方では、これが一番では?
必然性に関する伏線も、きれいにはられていて、感心されられた。
個人的に、ラストページの「透きとおって」みえる言葉は好み。ベタだけど、これはいいなぁ。
他の人も書いているけど、できるだけ前情報無しで読んでほしい。短いのですぐ読めるしね。


No.190 8点 孔雀の羽根
カーター・ディクスン
(2023/07/09 01:42登録)
解決編で手がかり索引(xxページ参照)があることからもわかるように、謎解きに注力した作品。
実際、ストーリー展開も、冒頭の殺人以降、関係者の事件までの動向を少しずつ手繰っていくことに費やされて、ドタバタや怪奇趣味やラブコメ要素などのカー好みの展開は、極めて抑えられている。(カー・ファンと思われる評者にとりあげられることが少ない気がするのは、この辺が要因かも)
しかし、退屈なのかというと、そんなことはなく、カーにしては珍しく、捜査の道行きを楽しめる。その中で、「被害者が急に予定を変更したのは、何があったのか?」という点が強調されていたのは、最後に実に効果的に使われる。
(この辺は、好みが分かれるところなのだろう。本サイトでも、「事件の全容が明らかになる展開はサスペンスに満ちている」、「事件に発展性がなく、ひたすら登場人物の供述を聞くだけ」といった真逆の評があって、おもしろい。私は好評価するほうですね)
手がかり索引にある手がかりだが、クイーン的な「推理を紡ぐ元とする手がかり」ではなく、カーらしい「ほら、ここに書いてあったでしょ」といった手がかりだ。真相を知ってから読み返すと、「それがあったから事件が成立したんだ」と思わせる重要な状況説明で、「なるほど」と思わされた。
ネットで評をみてみると、メインのトリックがあまり評判が良くないようなのだが、わたしは、これ、完全に盲点で、解明シーンで「そうか!」と、驚き、かつ、腑に落ちた。ここが驚けないと高い評価はできないだろうが、そんなわけで私は高評価。


No.189 6点 ときどき旅に出るカフェ
近藤史恵
(2023/07/02 23:37登録)
”日本ではあまり知られていない世界のお菓子”を各話でフィーチャーしつつ、居心地のいいカフェを舞台に、カフェの女性オーナーと主人公の交流を軸に、ちょっとした日常の謎を盛り込んで出来上がり、といった職人技がひかる連作短編。うまいなぁ。
登場人物は絞っているが、そのかわりに、登場する人は実にくっきりと造形されている。とくにカフェのオーナーがいい。
まあ、ミステリ成分はほんの少しで、なくてもいいくらい。物語の「結」をつけるために、ちょっと取り入れているといった趣き。
残念なのは7話目から話の構成が変わること。6話目までは上記の通りの話が並ぶのだが、7話から10話は、カフェのオーナーのプライベートな話になっていって、謎の要素はほぼなし。最後まで6話目までのタッチがよかったな。
採点は、ミステリ成分の少なさから、こんなものにしておきます。採点以上に楽しんだけどね。


No.188 5点 禁じられた館
ミシェル・エルベ―ル&ウジェーヌ・ヴィル
(2023/07/02 01:33登録)
ネットの評判を読んで期待したほどではなかったなというのが、正直なところ。
まず、キャラクターは区別がつく程度の造形で、面白みはない。全体の展開も単調だ。まあただ、これはネットの評判にもあったので、期待していた点ではないのだけれど。
期待していた部分というと謎解きの部分なのだが、それもどうにも、いまひとつだった。メインの人間消失の謎はなかなかよいのだが、その後の質疑がよろしくない。各人物が、自身の主張をするだけで、根拠や他可能性を論じるディスカッションがあまりないのだ。そのため、いくつかの仮説が順々に提示されるだけで、盛り上がりに欠けるし、さらにその仮説のいくつかは、明らかに根拠薄弱に思えて、興趣を感じさせてくれなかった。最後の真相だけはなかなか好みだったが、それ以外はどうも……。
仮説の提示数が多いという点で共通するクリスチアナ・ブランドの諸作と比べると、かなり見劣りを感じる。個人的には、まったく傑作という気はしない。
あと、事件発生が地の文で語られてしまっているのが残念。このため、(クイーンの国名シリーズの初期などが典型と思うが)捜査の段取りを楽しむことや、少しずつ全体像が見えてくる面白さがない。これ、ミステリを読みすすめるためのフックとして、重要だと思うんだけどな。
とはいえ、読後に読書メーターを拾い読みしてみたが、気に入っている人も多くいて、謎解きミステリ内だけでも、好みのポイントは多種多様なのだと感じた。


No.187 6点 ローズマリーのあまき香り
島田荘司
(2023/06/18 22:31登録)
まあ、解決はだめですね。反則です。
でもね、そこまでは読ませるんですよね。謎の盛り上げはいいし、関係なさそうなエピソードも盛り込み、ファンタジー小説が挟まり、世界近代史から世界情勢まで取り込んで、解決になだれ込む。解決シーンも、映像を思い浮かべれば、実に映える。「アトポス」頃の大作を思い起こさせる、豪快な作品。
さすが豪腕、島田荘司です。70歳を超えて、いまだパワフル。それだけで、期待は満たされたかな。
でも、解決は期待しないでねー。


No.186 8点 アリスマ王の愛した魔物
小川一水
(2023/06/04 02:42登録)
はずれなし。ヴァラエティにとんだSF好短編集。
好きなのは「ろーどそうるず」と表題作「アリスマ王の愛した魔物」。
「ろーどそうるず」は、バイクに搭載されたAIの話。AIの1人称ですすむので、話を広げるのはむずかしいところだが、逆に、視点が絞られることで話の焦点も絞られ、コンパクトな好い話となっている。なける。
「アリスマ王の愛した魔物」は、どこからこんな発想をしたのかと思う、奇譚。計算に取り憑かれた王が、コンピューターらしきものまでつくってしまう、壮大な奇想。奇妙な世界観に、酩酊感を覚えました。
すいません、ミステリではまったくないですね。


No.185 8点 天冥の標Ⅱ 救世群
小川一水
(2023/06/04 02:12登録)
パンデミック小説なので、ミステリ読みでも、楽しめるはず。パンデミック小説として、抜群に面白い。
コロナ前に書かれた作品だが、コロナ時の対応を彷彿とさせる描写がおおく、的確にリサーチされていたんだなと驚く部分も多い。ただまあ、現実のコロナのときのほうが全然ぐたぐだで、作品内の政府の対処が理想に見えてしまう。”残念な現実”には、ため息しか出ない。
本作は、17巻になる壮大なSFシリーズの1作だが、本作だけ読めばSF要素はあまりないので、SFが好きでなくても問題なく読めるはず。それに、本作はシリーズ2作目だけれど、他作との繋がりはうすく、独立して楽しめるので、ぜひ読んでほしい。
(SF的振りが気になった人だけ、1作目からシリーズをよみすすめればよいので)
ただ、パンデミック小説なので、登場人物にはつらく厳しいシーンがある。そういうのが苦手な人にはお勧めしない。あとは、性的なシーンも少しある。これはシリーズ全体で”性”についてもアプローチしているからなのだが、本作だけ読むと、少し浮いて見えるかもしれない。


No.184 6点 そばかすのフィギュア
菅浩江
(2023/06/04 01:56登録)
初期作品ということで、どれも書き込みは深くない。1シチュエーション/1アイディア・ストーリーといった趣き。シチュエーションにきっちりはまる、シンプルなプロットで各編書き上げられている。
シンプルなため、「もっと書き込みが深くて、もっと登場人物に思い入れができれば、もっと面白いのに」と感じた。それでも楽しめるのは、シチュエーションが良いからだろう。シチュエーションのセンスの良さは、後に「博物館惑星」に結実するのだなぁと思う。
また、濃淡はあるけれど、どれも結びの部分に反転を準備しているから、ミステリ的な読み心地がある。連城三紀彦の普通小説よりの作品に近しい感触かな。ミステリ読みも楽しめる、かも。


No.183 7点 プレーグ・コートの殺人
カーター・ディクスン
(2023/05/31 00:42登録)
「死と奇術師」を読んだら、カーが読みたくなって、再読。昔読んだときの印象より少し下がった。
良い点と悪い点がはっきりした作品だった。
良い点からいうと、まずはなんといっても密室のメイントリック。「気付けるかよっ!」というところはあるので推理比べには向かないが、これは印象的だよ。やっぱり記憶に残る。プロットも、フェル博士登場で空気感が変わる「チェンジ・オブ・ペース」がいいし、登場してすぐにフェル博士が提示する事件の見方が、意外かつ説得力があって見事。
でも、悪い点もいろいろ目についた。まず、これは、作品そのもののせいではないが、降霊術というのが、いまひとつ。昔読んだときは、もっとドキドキできたのだけど、今はもうのれないなぁ。時代もあると思う。昔はテレビの心霊写真特集なんかを怖がれたけど、今ならもう「加工でしょ?」となってしまう。それと、犯人の経路の件と、あの人の立ち位置は、ちょっとずるいなぁと感じた。
全体的にいえば、雰囲気、トリックの妙、ゴタゴタした展開なども含めて、カーの特徴はよくでているので、代表作にふさわしいと思う。
他、H・Mにしては、コミカルなシーンがないなと考えたとき、ふと、昔どこかのネットで読んだ分析を思い出した。
内容はこんな感じだった。
”初期は、H・Mとフェル博士のキャラの描き分けは少なく、H・Mには怪奇な事件、フェル博士にはとらえどころのない事件をあてている。「三つの棺」から変わる。ここから、描き分けとして、H・Mはコミカルな言動が増え、フェル博士は落ち着いた言動が増える。事件もそれにあった割り振りがされる。”
”なるほど”と思ったのでおぼえている。


No.182 7点 死と奇術師
トム・ミード
(2023/05/13 17:42登録)
ほんとに日本の新本格みたい。
「謎と議論と解決」以外の要素はきわめてすくない。キャラクターはスケッチ以上には掘り下げられないし、ドラマ要素も簡素に描写されるだけ。それに対して、謎の改めは、「三つの棺」の密室分類を引用してしっかりと行う。いやぁ、楽しいなぁ。
密室の解答は、あっけないものだけど、それを実現するための状況設定はじつに面白い。解決編で手がかり索引(xxページ参照)があるのも楽しい。惜しむらくは、解決シーンの演出がもっと「見得を切る」ようになっていれば、そそられたのになぁと思う。
「謎解きよりもドラマ重視」のような人にはまったく楽しめないだろうけど、謎解きファンは一読の価値あり。次作も翻訳されてほしいなぁ。


No.181 6点 メアリー、メアリー
エド・マクベイン
(2023/05/13 17:40登録)
リーダビリティはすごく高い。 登場人物がみんな知っている事件の概要を、法廷シーンで小出しに知らされる構成がよい。少しずつ明かされる事件の状況に引っ張られて、ぐいぐい読まされてしまった。一気読み。
これは、一人称の語りに久しぶりに戻ったこともある。やっぱりこのシリーズは、三人称よりホープの一人称のほうがいい。
だけど、結末の付け方がなぁ。「あっち、と思わせて、こっち」という意図は感じたけど、成功している気はしない。そもそも「この結末はどうなのよ?」って話。
結末の残念感の減点より、終盤まで一気に読まされた加点を重視して、採点はおまけ。
マクベインの法廷物が他にあったら読みたいけど、あるのかな?


No.180 6点 たったひとつの、ねがい。
入間人間
(2023/05/13 17:39登録)
プロット、キャラクターとも、いかにもラノベで、仕掛けもわかりやすい。
ただ、1章はすごくいい。キャラクター描写も魅力的で、だからあの展開はいやな気分にさせられる。感情が動かされるのはすごいことなので、これで採点はおまけ。


No.179 5点 どんがらがん
アヴラム・デイヴィッドスン
(2023/05/13 17:34登録)
解説にあるとおり「変な小説」だった。
面白さのポイントがよくわからない話が多かった。賞をとっている作品が4つ、「EQMM第1席:物は証言できない」、「ヒューゴー賞:さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」、「MWA賞:ラホール駐屯地での出来事」、「世界幻想文学大賞:ナポリ」とあるので、世評も高いのだが、どこを評価されたのだろう。とくに「ナポリ」はわからなかった。これ、幻想文学か?
一番わかったのは「さあ、みんなで眠ろう」。これは切ないSFだった。
全体的に玄人好みなのかな? わからないが、気を引かれるところはある。いつか再読してみたら、ひょっとしたら楽しめるかもしれない。


No.178 5点 ディミトリオスの棺
エリック・アンブラー
(2023/05/13 17:28登録)
めずらしくスパイ小説の古典を読んでみた。
予想外に地道に人の証言をきいてまわる展開で、この読み心地は私立探偵小説だなと思った。印象に残るのは、プロットよりも、聞き込みで出会う人物の肖像や、主人公のディミトリオスの肖像だった。
プロットとしては、目を引くものはないが、それは本作を参考に作られた作品を多く目にしているからなのだろう。たぶん、きっと、小説よりも映画でたくさん。
興味深かったのはラストシーン。
事件は終わり、知人からもらった手紙を読む主人公。そこには国際情勢の記述があり、不穏な空気が感じられるのだが、語り手のミステリ作家は、次の小説の構想を練り始める。
「冒険から平穏な日常に帰るラスト」と読みとれるのだが、舞台が1930年代後半、第二次大戦前夜なので、「平穏な日常には戻れないのだ」という皮肉に見えてしまった。(書かれたのが1939年なので、書いた当時に作者が考えていた訳ではないが)


No.177 6点 十二人目の陪審員
B・M・ギル
(2023/04/23 20:58登録)
裁判を舞台にしたサスペンスで、CWAゴールドダガー受賞作。ゴールドダガーを受賞している割には、ネームバリュー低いな。
解説では、法廷物として2つのタイプをあげて(「弁護士や検事を主人公にした法廷闘争」と「陪審員たちの心理を描く」)、本作はどちらかというと後者と書いているが、どちらのタイプでもない気がした。
三人称/多視点で、複数の人物の心理に踏み込んで書いているが、その書き振りは「冷静な観察者の記述」といった感じのため、「弁護士や検事を主人公」としたヒーロー感や、「心理を描く」サスペンス感も薄味だ。乾いた文体で的確に物語られていき、味わいはハードボイルドが近い思う。
プロットとしては、ストーリーの途中に何個か捻りが加えられているが、選択肢が限られるために、予想がつく人も多いだろう。
ただ、終章の”ある出来事”は、かなり驚かされた。それでいて納得感があったのは、人物の設定/エピソードが伏線として機能していたからで、これはよくできていると思う。
かなり良作だと思うが、自分の琴線に触れる部分は少なかったので、採点はこのくらい。


No.176 5点 ドアのない家
トマス・スターリング
(2023/04/17 22:55登録)
1つの事件が、2つの視点から語られ、最後に合流する構成。こういう構成は好き。
このうちの1つは、34年ぶりにホテルから出たという「引きこもり女性」が視点人物なのが個性的なところ。こちらのパートは、他の人の書評でも書かれているが、アイリッシュに似た感じを受けた。
とくに前半で、都市の中をふらつくところは、アイリッシュに似ていると思う。その中でなかなか良かったのは、地下鉄内で主人公が心理的に追い詰められるところ。主人公の疑心暗鬼に共感できて、迫力がある。
もう1つのパートは、警察による事件の捜査だが、こちらはやや平凡な印象。
こちらの視点人物は警部だが、組織の活動がほとんど描かれないので、私立探偵小説のようだ。容疑者への聞き込みも1人でいって、その内容を質疑する相棒もいない。私生活の描写が多いのも、私立偵小説のイメージを強めている。
後半、飽きさせないが、展開は想定されるところかな。この辺は、やや残念だった。最後の犯人の行動は、(評価するわけではないが)驚いた。
作品の評価とは違うが、何人かの容疑者の動機に、第二次世界大戦が背景としてとりこまれていて、興味深かった。1950年の作品なので、当然まだ生々しい記憶としてあったのだ。今では想像することしかできないが、こういう動機がフィクションにあることが、現実感を付与する(そう作者/編集が判断する)時代だったのだな。


No.175 5点 悪魔の報酬
エラリイ・クイーン
(2023/04/17 22:51登録)
再読。昔読んだときは、結構面白かった印象だったが、今回でだいぶ評価が落ちた。主要2人の恋愛模様が、楽しめなかったのが大きい。(たぶん、昔は楽しめたから面白かったのだろう。この辺の感覚は変わってしまっているのだなあ)
2人の行き違いも、もっと話し合えばいいのにと思ってしまうし、キャラの書き込みが十分でないからなのか、心理に共感できない。視点人物が一定でないのも、キャラに寄り添えなかった要因だろう。
ミステリとしても、全体の構築性が乏しい。
まず、事件に対する議論がない。議論の前に、「なにがあったのか?」のデータが整うのが、かなり後半になってからなので、議論のしようがない。これは、読み終わってから考えると、状況がわかれば犯人がわかってしまうからだと思う。
犯人特定のスタイルはクイーンらしくて好きだが、シンプルな内容なので、状況がわかればエラリーの推理を事前にあてることができそうだ。そのため、ぎりぎりまでデータの提示を遅らせたのだと思う。ぎりぎりまでデータの提示を遅らせた理由も、途中から(彼らが話し合ったタイミングで)なくなっていると思うのだが、読み違えているかな?
よかった点の特記すべきは、犯人の心理状況の設定かな。これは面白い。 
そう考えると、映画化からのノベライズである「完全犯罪」(「エラリー・クイーンの事件簿2」所収)のほうが、よかった点はそのままで、より軽快に、よりコンパクトになっているので、面白いかもしれない。

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